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第四章
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四
少し切り口を変えてみよう。
「ねえ。『いつも』という言葉を、貴方はどう思う」
「いつもは、いつもだろ」
「だけど『いつも似ている』というのも変な言い方よ。顔や身体的な特徴が似ているだけなら、こんな言い方はしないわ」
「どういう意味だい」
「私には鼻があるけれど、『いつも』鼻があるとは言わないわよね。鼻がある、と言えば充分よ。『いつも』は、当たり前のことに対しては使わない言葉。少なくとも、人間に鼻があるのと同じくらいに当たり前のことには」
意表をつく指摘だったらしく、なるほどと倉持くんは頷いた。
「『いつも』は、不自然な事柄の持続に対してくっつくわけだな。この場合何が不自然なんだろう。二人が似ているのはどの部分だ? 顔か声か仕種か」
「声とか仕種はないわね。これは端的に、顔よ」
「なんでだ」
「似ているのが声とか仕種なら『君は○○さんに似ている』では言葉足らずだわ。君は声が似てるとか、仕種が似てるとか、そう言わないと。似てるとだけ言われたら、普通の人は自分の顔を触るわ」
「ふん確かに。だが二人は『いつも』似ているわけだから、普段の当たり前の顔が似ているわけでもない」
「となると、特定の表情が似ているのね」
「いいぞ、進展してる」
倉持くんは静かに身を乗り出す。
「ここで『ましてや雪の中ならなおさら』が手がかりになる。雪の中の表情ってなんだ」
「そうね……」
想像してみた。私たち東北の人間は雪なら見慣れている。だが雪の中で際立つ表情とは何か。
「眩しい場合かしら。雪の照り返しがきついときの」
「それはあるな。寒い表情、ってのも考えにくいし。──するとこういう意味か。正志さんと木下さんの顔は普段そこそこ似ている。眩しい顔はもっと似ている──。しかし二人の眩しい顔が似ているのか、どちらか片方が眩しそうにすることで似てくるのか、それは分からないな」
「これは木下さんが眩しそうにすると、似てくるんだと思う」
「なんでだ?」
「例えば貴方が女の子の顔を賞賛するとき『ヘプバーンは君にそっくりだぜ』とは言わないでしょう。『君はヘプバーンにそっくりだぜ』と言うはず」
「ハードル高いな……。だがそれは異議ありだ」
「なにが?」
問うと、彼はわざわざ立ち上がり一回転して私を指差した。
「──俺が讃えるのは君だけだ」
「そういうのいいから」
イラッとする。私の瞳に殺気を見たか、彼は椅子に座り直すと慌てて弁解した。
「分かってる、分かってるよ。──つまりこういうことだな? 話の中心になっているのはあくまでも『君』つまり正志さんの表情だ」
その通りだ。少女は、正志さんの眩しそうな顔を見て「あっこの表情だとますます木下さんと似てる」と思ったのだろう。
「すると木下さんは、いつも眩しそうな表情なのか」
「そうとは限らないわ。それに近い表情なのかも。笑顔とか」
「え?」
「眩しい顔と笑顔は似てるわ」
思いも寄らない説だったようだ。彼は誰かのふたつの表情を思い浮かべて、頭の中でしばし比較していた。
「……確かにそうだな、言われてみると。しかも優実ちゃん、さっき職業集団って言ってたよな。もしかして営業用スマイルか?」
はっとして私を見つめてきた。思いがけず仮説が補強されていく。
少し切り口を変えてみよう。
「ねえ。『いつも』という言葉を、貴方はどう思う」
「いつもは、いつもだろ」
「だけど『いつも似ている』というのも変な言い方よ。顔や身体的な特徴が似ているだけなら、こんな言い方はしないわ」
「どういう意味だい」
「私には鼻があるけれど、『いつも』鼻があるとは言わないわよね。鼻がある、と言えば充分よ。『いつも』は、当たり前のことに対しては使わない言葉。少なくとも、人間に鼻があるのと同じくらいに当たり前のことには」
意表をつく指摘だったらしく、なるほどと倉持くんは頷いた。
「『いつも』は、不自然な事柄の持続に対してくっつくわけだな。この場合何が不自然なんだろう。二人が似ているのはどの部分だ? 顔か声か仕種か」
「声とか仕種はないわね。これは端的に、顔よ」
「なんでだ」
「似ているのが声とか仕種なら『君は○○さんに似ている』では言葉足らずだわ。君は声が似てるとか、仕種が似てるとか、そう言わないと。似てるとだけ言われたら、普通の人は自分の顔を触るわ」
「ふん確かに。だが二人は『いつも』似ているわけだから、普段の当たり前の顔が似ているわけでもない」
「となると、特定の表情が似ているのね」
「いいぞ、進展してる」
倉持くんは静かに身を乗り出す。
「ここで『ましてや雪の中ならなおさら』が手がかりになる。雪の中の表情ってなんだ」
「そうね……」
想像してみた。私たち東北の人間は雪なら見慣れている。だが雪の中で際立つ表情とは何か。
「眩しい場合かしら。雪の照り返しがきついときの」
「それはあるな。寒い表情、ってのも考えにくいし。──するとこういう意味か。正志さんと木下さんの顔は普段そこそこ似ている。眩しい顔はもっと似ている──。しかし二人の眩しい顔が似ているのか、どちらか片方が眩しそうにすることで似てくるのか、それは分からないな」
「これは木下さんが眩しそうにすると、似てくるんだと思う」
「なんでだ?」
「例えば貴方が女の子の顔を賞賛するとき『ヘプバーンは君にそっくりだぜ』とは言わないでしょう。『君はヘプバーンにそっくりだぜ』と言うはず」
「ハードル高いな……。だがそれは異議ありだ」
「なにが?」
問うと、彼はわざわざ立ち上がり一回転して私を指差した。
「──俺が讃えるのは君だけだ」
「そういうのいいから」
イラッとする。私の瞳に殺気を見たか、彼は椅子に座り直すと慌てて弁解した。
「分かってる、分かってるよ。──つまりこういうことだな? 話の中心になっているのはあくまでも『君』つまり正志さんの表情だ」
その通りだ。少女は、正志さんの眩しそうな顔を見て「あっこの表情だとますます木下さんと似てる」と思ったのだろう。
「すると木下さんは、いつも眩しそうな表情なのか」
「そうとは限らないわ。それに近い表情なのかも。笑顔とか」
「え?」
「眩しい顔と笑顔は似てるわ」
思いも寄らない説だったようだ。彼は誰かのふたつの表情を思い浮かべて、頭の中でしばし比較していた。
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はっとして私を見つめてきた。思いがけず仮説が補強されていく。
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