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第六章
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六
それからも少し議論して、今のところ推測できるのはここまで、という結論に達した。
「意外と、細かいところまで想像できるもんだな」
倉持くんは、メモに書いた文言を指でなぞる。
「結論はこうね。正志さんは、夢のことを親に話してみるべきだわ」
「そうだな。木下さんは、むしろ正志さんの親が顔見知りのはずだ」
もちろんそれは、妄想とも推理ともつかない私たちの思考が正しければ、の話だが──。
「なあ優実ちゃん。もうひとつ付け加えたいことがあるんだ」
不意に真顔で言われた。
「朝市や産直はどういう機関が主催するのか、って話の補足なんだけどさ。農協ってこともありうるよな。木下さんは農協職員だったかも知れない」
「そう……ね」
やはり気付いたか。心の中で嘆息した。
あの時──。
(農協職員かな。三十代くらいの……)
高柳くんは確かにそう言っていた。それは倉持くんにも聞こえていたはずだ。
なんということだ。一秒である。たった一秒で、彼はこの結論に到達していたのだ。
さっき私が言葉を切った理由は、これである。倉持くんは普段から彼に対抗意識を抱いている。私たちがやっとたどり着いた結論に、彼が一瞬でゴールしたと気付いたらどんな気分だろう。そう思ったから私は口ごもったのだ。
案の定、倉持くんはしばし憮然とした面持ちだった。だが間もなく膝をぱんと叩いてこちらを見た。
「うん、これは嬉しいことだ。優実ちゃんの優しさを見た」
何やら前向きに考えようとしているらしい。だが意味は全く不明だ。
「わけが分からないわ」
「俺を気遣ってくれたんだろ? それは望外の喜びだ」
彼は私に熱いまなざしを向けてきた。そこまで優しい感情を持ったつもりはないが、確かにそうとも言えるか。それをポジティヴな心の拠り所にされるのも正直少し困るが、彼はいつものごとく暴走した。胸の前で手を交差させて恍惚とした表情になる。
「ううん嬉しいね。テーマが夢なだけに」
「だからわけが分からないわ」
「まるで夢みたいだ、って言うじゃないか。幸せなときはさ」
そのままではないか。もう少しひねりを利かせてほしい。
「その言葉そっくり返すわ。女の言動なんて真に受けるもんじゃないわよ、テーマが夢なだけに」
「うん? そのこころは」
「ゆめゆめ信じるなかれ、よ」
「おお。優実ちゃんも冗談を言うようになったんだな」彼は素直に驚いていた。「ちょっとひねりが足りないけど」
「ひとこと余計よ」
貴方に言われたくない──そう言いかけてやめた。言ったらますます喜びそうだ。
それからも少し議論して、今のところ推測できるのはここまで、という結論に達した。
「意外と、細かいところまで想像できるもんだな」
倉持くんは、メモに書いた文言を指でなぞる。
「結論はこうね。正志さんは、夢のことを親に話してみるべきだわ」
「そうだな。木下さんは、むしろ正志さんの親が顔見知りのはずだ」
もちろんそれは、妄想とも推理ともつかない私たちの思考が正しければ、の話だが──。
「なあ優実ちゃん。もうひとつ付け加えたいことがあるんだ」
不意に真顔で言われた。
「朝市や産直はどういう機関が主催するのか、って話の補足なんだけどさ。農協ってこともありうるよな。木下さんは農協職員だったかも知れない」
「そう……ね」
やはり気付いたか。心の中で嘆息した。
あの時──。
(農協職員かな。三十代くらいの……)
高柳くんは確かにそう言っていた。それは倉持くんにも聞こえていたはずだ。
なんということだ。一秒である。たった一秒で、彼はこの結論に到達していたのだ。
さっき私が言葉を切った理由は、これである。倉持くんは普段から彼に対抗意識を抱いている。私たちがやっとたどり着いた結論に、彼が一瞬でゴールしたと気付いたらどんな気分だろう。そう思ったから私は口ごもったのだ。
案の定、倉持くんはしばし憮然とした面持ちだった。だが間もなく膝をぱんと叩いてこちらを見た。
「うん、これは嬉しいことだ。優実ちゃんの優しさを見た」
何やら前向きに考えようとしているらしい。だが意味は全く不明だ。
「わけが分からないわ」
「俺を気遣ってくれたんだろ? それは望外の喜びだ」
彼は私に熱いまなざしを向けてきた。そこまで優しい感情を持ったつもりはないが、確かにそうとも言えるか。それをポジティヴな心の拠り所にされるのも正直少し困るが、彼はいつものごとく暴走した。胸の前で手を交差させて恍惚とした表情になる。
「ううん嬉しいね。テーマが夢なだけに」
「だからわけが分からないわ」
「まるで夢みたいだ、って言うじゃないか。幸せなときはさ」
そのままではないか。もう少しひねりを利かせてほしい。
「その言葉そっくり返すわ。女の言動なんて真に受けるもんじゃないわよ、テーマが夢なだけに」
「うん? そのこころは」
「ゆめゆめ信じるなかれ、よ」
「おお。優実ちゃんも冗談を言うようになったんだな」彼は素直に驚いていた。「ちょっとひねりが足りないけど」
「ひとこと余計よ」
貴方に言われたくない──そう言いかけてやめた。言ったらますます喜びそうだ。
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