間違えられた番様は、消えました。

夕立悠理

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二章 私が消えたあと

ハロルド 1-1話

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「ーー離れていても、あなたを思わない日はないわ。愛しいアレクへ ミルフィアより」 

 ミルフィアから届いた手紙を読みあげ終わり、大切に箱に入れる。

 貴族学園に通って、もうすぐ三年が経とうとしていた。
 つまり、もうすぐ卒業だ。

 この3年間、毎日ミルフィアに手紙を書いた。
 その一通一通に対して、ミルフィアは丁寧に返事をくれた。

 その三年分の恋文は、すべて保管していた。
 私に魔法の素養はないから、少し魔法に詳しい同級生に、箱に保護魔法をかけてもらったのだ。

 これで劣化することはない。

「また、3年だな……」

 ミルフィアとは入れ違いになる。

 また、手紙を書くし、ミルフィアに飛んで会いに行く。幸い、学園内はひらけた場所が多い。
 
 ーーだから大丈夫。

 そう思うのに。

 不安が消えないのは、ミルフィアが好きすぎるからかもしれない。

 私のお転婆姫は、太陽の女神も負けを認めて裸足で逃げ出すばかりの美しさに成長した。

 その見た目に引き寄せられる男が後をたたないのも心配だがーー真摯に物事に取り組むその姿勢に惚れたと言い出す男もいたのがもっと心配だ。


 そういった輩は、私の地位ーーたとえ王族であろうと、関係ないと突撃してくる。

 もちろんミルフィアが靡くはずないと知っている。

 でも、胸の中に浮かぶ、嫉妬心は誤魔化しようもなかった。



 私だって、手紙じゃなくて、ミルフィアと直接話したいのに!



 ……ミルフィア、愛しい君。


 私がその名を呼ぶと、嬉しそうに頬を赤らめる可愛い君。

「ーーか」
「……?」


 今、誰かの声が聞こえた気がした。

 ……気のせいか。

 室内には私以外誰もいない。


「ーーいか!」

 ……いや。
 聞き間違いじゃない。

 確かに誰かの声がする。


「ーー陛下!!」

 陛下?
 貴族学園に父上はいらっしゃっていないが。

「ーーハロルド陛下!!!!」


「!? ……っ、あーー」

 ハロルド、その名は。
 私はーー。


◇◇◇


「陛下、陛下!!!」

 体を何度もゆすられ、目を覚ます。
 どうやら、過去ーー前世のことを夢見ていたらしい。

 大切な私の番ーーミルフィアとの過去のことを。

「陛下、ご無事ですか……?」

 私の自室で、側近たちが心配そうに私を取り囲んでいた。

 心臓が早鐘のように打っている。
 側近の目尻の小さな皺一つ一つまで見える。
 ーーこの、感覚は。

 手を見ると、いつものひとのそれではない。
 
 ひととは違う、竜の手だった。

 直前のことを思い出そうと、記憶を手繰り寄せようとすると、頭がずきりと傷んだ。

「……何があった」

 私の今のこの姿。
 決して、意図したものではない。
 意図せず、竜王たる私が、竜になる時。

 それはーー。


「わかりません」


 側近たちが首を振る。
「エルマ嬢とのご歓談中、陛下が急にお倒れになりました。特段変わったことはなかったかと」

 エルマ。愛しいミルフィアの生まれ変わり。
 ……? なぜだ。
 エルマのことを考えても多幸感を覚えない。

「……他に、変わったことは?」

「……それは」

 側近の一人が言いづらそうに、目を伏せた。

「……魔術師団長が、姿を消しました」

 
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