特別になれなかった私が、最愛のあなたの寵妃になるまで

夕立悠理

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夜会の始まり

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「おかしくないでしょうか?」
鏡の前に立って、確認する。アンドリューから贈られた赤いドレスは、流石王弟殿下用に仕立てられたものだけあって、ドレスにも宝石がふんだんに使われていた。

「大丈夫です、とってもよくお似合いですよ」
ラニーニャは、大きく頷いてくれたけれど、ドレスに着られていないか心配になる。

 アンドリューは、私の見た目を好ましく思ってくれているようだけれども、ドレスに着られているようでは、幻滅されてしまうかもしれない。

 いや、私の中身を見てもらうと決めたのだ。むしろ、幻滅されるくらいのほうが、丁度いいのかもしれない。

 頭の中が、だんだん混乱してきたけれど、とりあえず、気持ちを切り替える。重要なのは、服装ではなく、今日の夜会での私の立ち振舞いだ。

 まずは、そう。マナー違反は絶対だめ。礼儀作法の教師から、習ったことはきっちりと守ろう。

 ただ、この国や、サンサカについての情勢について、私は巫女候補として、過ごした二年間があるため、明るくない。その辺りの話題を振られたら、笑ってごまかすしかないけれど。

 右腕を見る。ドレスの袖で丁度隠れているけれど、そこには、巫女の力を封じる腕輪があった。

 アンドリューとの話し合いで私が、巫女候補であったことは隠すことにしている。

 サンサカの巫女候補は、そもそもサンサカの神殿と巫女候補本人しか知らない。

 あとは、この腕輪が巫女の力を封じるものだと知っている人はわかるはずだが、そんな人はそう多くないだろう。

 そのようなことを考えていると、扉がノックされた。
「セリーヌ様、王弟殿下がいらっしゃいました」
「今いきます、と伝えてください」

 さて。もう一度だけ、鏡を確認したら。準備は全て整った。





 差し出された、アンドリューの手をとると、アンドリューは、目を見開いた。
「……どうか、されましたか?」
やはり、ドレスに着られているのだろうか。不安になってアンドリューに尋ねると、いや、と首を振った。

 「あまりに、貴女にドレスが似合っていたので、驚いたんだ」
それから、アンドリューは耳元で囁いた。
「とても、綺麗だ」
「ありがとう、ございます」
耳まで熱が集まるのを感じながら、お礼を言うと、アンドリューは嬉しそうに笑った。

「アンドリュー様?」
「俺の色を貴女が身に纏ってる。それが、この上なく嬉しいんだ」

 「っ!」
だめだ。あまりの甘さにくらくらしそう。でも、今日は、私ばかりが照れていてはいけない。

 「アンドリュー様も、とても、素敵です。そんな貴方にエスコートしていただけることを嬉しく思います」
贔屓目なしに、今夜のアンドリューは一段と格好良かった。後ろに髪を撫で付けているおかげで、蜂蜜のような金の瞳がいつもよりよく見える。黒い燕尾服はアンドリューにとてもよく似合っていた。

 私が、そう言うと、今度はアンドリューが目尻を赤くした。

 私たちがお互いに照れあっていると、ジェフが駆けてきた。
「アンドリュー様、そろそろお時間ですよ」
「あ、ああ。今いく」
不思議そうな顔をしたジェフに、急かされるようにして、夜会が行われるホールへ行く。

 ついに、夜会の始まりだ。
  
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