特別になれなかった私が、最愛のあなたの寵妃になるまで

夕立悠理

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甘い言葉と密かな決意

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アンドリューに想いを告げられて、数日後。
「……夜会?」
「ああ、急ですまないが、夜会に出席してもらいたいんだ。俺の婚約者として」

 恒例の朝の挨拶を行ったあと、アンドリューは、意外な提案をして来た。
 アンドリューに婚約者ができたという噂は、一気に広がり、どこかの国のお姫様だとか、はたまた、深窓のご令嬢だとか、とにかく収拾がつかなくなっているらしい。

 「本当は、結婚まで貴女を、人前にさらす気はなかったのだが……」
アンドリューがため息をつく。
「確かに、私まだまだこの国イーデンの作法を何も知りません」
作法を教えてくれる教師をつけてもらってまだ数日だ。サンサカとあまり違いはないものの、まだ王弟殿下の婚約者として人前に出るには、不安が残る。

 「いや、そうじゃない」
私が頷いていると、すぐにアンドリューは否定した。
「貴女の作法はほぼ完璧だと、教師から聞いている。だから、そうではなくて、……貴女を大勢の男の前に晒すのが嫌だったんだ」

 そういって、横を向いた、アンドリューの目尻は、赤い。つられて、私の頬も熱くなる。

 「アンドリュー様」
けれど、アンドリューを安心させたくて、その手をとる。
「私の命と、人生はすべて、貴方のものです」

 「けれど、心は違うだろう。もしかしたら、貴方の心を誰かに奪われてしまうかもしれないだろう」

 そういうアンドリューの瞳は本気だった。本気で私の心を心配している。けれど、アンドリューは、私の容姿を好ましく思ってくれているようだけれども、元婚約者は、妹に靡いたのだし、特段美しいわけではないはずだ。だから、そもそも私に興味をもつ男性がいるとは思えない。

 そのことを要約して、アンドリューに伝える。

 「貴女は、貴女が想うよりずっと、魅力的だ!」
「……ありがとうございます」
なぜか、アンドリューは少し怒りぎみだ。そして、大きな右手で私の頬を撫でる。

 「貴女の魅力に気づかなかった愚かな元婚約者なんて、早く忘れてしまえばいいのに。それでも、貴女の心の大事な部分にいるのだから、妬ましいな」
「心の、大事な部分?」
「ああ。気付かなかったか? その元婚約者の話をするとき、貴女は本当に苦しそうだった」

 そうかもしれない。彼は私の初恋の人だったから。

 アンドリューと見つめあう。この金の瞳に私だけが今映っているように、マルクスの緑の瞳にも私だけが映っていたときもあったのだ。

 そんなことをぼんやりと思っていると、アンドリューは、咳払いをした。

 「……話が脱線してしまったな。夜会は、5日後に行われる。そのためのドレスを用意させたんだ」

 そういって、アンドリューが、使用人たちに持ってこさせたのは、赤色のドレスだった。アンドリューの髪の色と同じだ。
「貴女には、これを着て出席してほしい」
「わかりました」

 ドレスを受けとる。赤だけれど、そんなに派手な赤ではないので、私でも着られそうだった。アンドリューに、夜会の詳細を聞いてから、自室に戻る。




 自室に入ると、なんだか力が抜けて、へたりこんでしまった。

 アンドリューは、あの告白以来、何かにつけては甘い言葉を言ってくるので、そんな言葉に耐性がない私は、なんというか、とても照れてしまう。

 少なくとも、私がアンドリューを恋愛対象として、見てしまっていることは確実だった。
 「……でも、だめ」
私がアンドリューを特別にしてしまったら、アンドリューにとっての、特別が私でなくなったとき、立ち直れない。だから、アンドリューに、私の中身も見てもらえるように、頑張るのだ。

 まずは、そう。夜会から。
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