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空回り
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その後、特に失敗することもなく、夜会を無事終えることができた。そのことに、安堵する。結局、まだアンドリューに私の中身を好きになって貰えなかったことは、問題だ。それどころか、より一層アンドリューの特別になりたいと、夜会を終えて思ってしまっている。
このままでは、アンドリューが私にとっての特別になってしまう。それは、だめだ。先に、アンドリューに私自身を好きになって貰わないと、私の容姿が変わってしまったなどの理由でアンドリューから嫌われたとき、立ち直れない。
ベッドに、転がりながら考える。そもそも、中身を好きになってもらうって、どうしたらいいんだろう。私は、特に美しい内面を持っているわけではないし、特に優しい人間でもない。
もしかして、だからだめなのかもしれない。明日から、心が美しい人になれるように、頑張ろう。それに、この国の教養や作法にももっと、詳しくなろう。そう心に決めて、眠った。
「おはようございます、ラニーニャ」
「おさようございます、セリーヌ様」
ラニーニャにいつものように支度を整えるのを手伝って貰いながら、尋ねてみる。
「ねえ、ラニーニャ。心の美しい人になるには、どうしたらいいでしょうか?」
「心配なさらずとも、セリーヌ様は、既に美しい心をお持ちだと思いますよ」
間髪入れずに、そう答えたラニーニャは、優しく微笑んだ。
ラニーニャも、まだ出会って間もないというのに、私に甘い。それは、とても嬉しいことなのだけれど、今は困る。
「ありがとうございます、ラニーニャ。だったら、容姿とは関係なく内面を見てもらうには、どうしたら──」
そう聞きかけて、はっとする。
「ラニーニャ、用意して貰いたいものがあるのですが……」
名前を名乗って、アンドリューの部屋のドアをノックすると、いつものように、扉がひとりでに開いた。その中に入り、朝の挨拶をする。
「アンドリュー様、おはようございます」
「ああ、おはよ──げほっ、ごほっ!」
私の姿を見たアンドリューは、盛大にむせた。
「大丈夫ですか、アンドリュー様!」
駆け寄ると、更にアンドリューは、むせる。なので、その背中をさすっていると、アンドリューが青い顔をして、私に尋ねてきた。
「俺は、貴女を傷つけるような真似をしてしまったのだろうか?」
首をかしげる。アンドリューに傷つけられた覚えはない。それどころか、アンドリューに好かれたいと思っている。
「だったら、怪我でもしたのか?」
アンドリューは、心配そうに私の手を握る。手を握られて、頬に熱が集まるのを感じながら首を振ると、アンドリューは、更に尋ねた。
「では、──その仮面は、どうしたんだ?」
そう、私はラニーニャにお願いして顔全体を覆う仮面をつけていた。
隠していても仕方がないので、アンドリューに仮面をつけた経緯を説明する。
すると、なぜかアンドリューの顔は真っ赤になった。
「なぜ、貴女は、そう……可愛いことをするんだ」
? 可愛いどころか、仮面はなるべく突飛なものを選んだつもりだったのだけれど。
私が不思議に思っていると、アンドリューは、私を真っ直ぐ見つめた。
「せ、セリーヌ。よく、聞いてくれ。確かに、俺は貴女に一目惚れをしたが、以前もいった通り、貴女をもっと知りたいと思っている」
「はい」
「貴女がそう望むなら、仮面をずっとつけていても構わない。でも、貴女のいろんな表情が見えないのは、寂しい」
そう言われては、外すしかない。ゆっくりと、仮面をとると、アンドリューは、嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
その笑顔が眩しくて、頬に更に熱が集まるのを感じる。心なしか、心臓がうるさい。
「どうした?」
「いえ、何でもありません!」
退出の言葉もそうそうに、アンドリューの部屋を出て、自室に戻る。
私を好きになってもらおうと思ったのに、まさか、返り討ちにあうとは思わなかった。
──とりあえず、今日の授業を頑張ろう。
このままでは、アンドリューが私にとっての特別になってしまう。それは、だめだ。先に、アンドリューに私自身を好きになって貰わないと、私の容姿が変わってしまったなどの理由でアンドリューから嫌われたとき、立ち直れない。
ベッドに、転がりながら考える。そもそも、中身を好きになってもらうって、どうしたらいいんだろう。私は、特に美しい内面を持っているわけではないし、特に優しい人間でもない。
もしかして、だからだめなのかもしれない。明日から、心が美しい人になれるように、頑張ろう。それに、この国の教養や作法にももっと、詳しくなろう。そう心に決めて、眠った。
「おはようございます、ラニーニャ」
「おさようございます、セリーヌ様」
ラニーニャにいつものように支度を整えるのを手伝って貰いながら、尋ねてみる。
「ねえ、ラニーニャ。心の美しい人になるには、どうしたらいいでしょうか?」
「心配なさらずとも、セリーヌ様は、既に美しい心をお持ちだと思いますよ」
間髪入れずに、そう答えたラニーニャは、優しく微笑んだ。
ラニーニャも、まだ出会って間もないというのに、私に甘い。それは、とても嬉しいことなのだけれど、今は困る。
「ありがとうございます、ラニーニャ。だったら、容姿とは関係なく内面を見てもらうには、どうしたら──」
そう聞きかけて、はっとする。
「ラニーニャ、用意して貰いたいものがあるのですが……」
名前を名乗って、アンドリューの部屋のドアをノックすると、いつものように、扉がひとりでに開いた。その中に入り、朝の挨拶をする。
「アンドリュー様、おはようございます」
「ああ、おはよ──げほっ、ごほっ!」
私の姿を見たアンドリューは、盛大にむせた。
「大丈夫ですか、アンドリュー様!」
駆け寄ると、更にアンドリューは、むせる。なので、その背中をさすっていると、アンドリューが青い顔をして、私に尋ねてきた。
「俺は、貴女を傷つけるような真似をしてしまったのだろうか?」
首をかしげる。アンドリューに傷つけられた覚えはない。それどころか、アンドリューに好かれたいと思っている。
「だったら、怪我でもしたのか?」
アンドリューは、心配そうに私の手を握る。手を握られて、頬に熱が集まるのを感じながら首を振ると、アンドリューは、更に尋ねた。
「では、──その仮面は、どうしたんだ?」
そう、私はラニーニャにお願いして顔全体を覆う仮面をつけていた。
隠していても仕方がないので、アンドリューに仮面をつけた経緯を説明する。
すると、なぜかアンドリューの顔は真っ赤になった。
「なぜ、貴女は、そう……可愛いことをするんだ」
? 可愛いどころか、仮面はなるべく突飛なものを選んだつもりだったのだけれど。
私が不思議に思っていると、アンドリューは、私を真っ直ぐ見つめた。
「せ、セリーヌ。よく、聞いてくれ。確かに、俺は貴女に一目惚れをしたが、以前もいった通り、貴女をもっと知りたいと思っている」
「はい」
「貴女がそう望むなら、仮面をずっとつけていても構わない。でも、貴女のいろんな表情が見えないのは、寂しい」
そう言われては、外すしかない。ゆっくりと、仮面をとると、アンドリューは、嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
その笑顔が眩しくて、頬に更に熱が集まるのを感じる。心なしか、心臓がうるさい。
「どうした?」
「いえ、何でもありません!」
退出の言葉もそうそうに、アンドリューの部屋を出て、自室に戻る。
私を好きになってもらおうと思ったのに、まさか、返り討ちにあうとは思わなかった。
──とりあえず、今日の授業を頑張ろう。
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