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過去の話
「……セレス」
お父様は、真剣な顔をして、私を見つめていた。
思わず、ごくりと喉を鳴らす。
「お前に、お兄さんができるぞー!!!」
「やったぁ!!!」
私の母は、私を産んだ時に亡くなっている。
だから……、この公爵家には跡取りが必要だ。うすうす心の中でそう気づいていた私は、もしかしたら、新しいお母さんができるのかな、と思っていたけれど。
お母さま一筋なお父様は、新しい妻を迎えるようなことはしなかった。
「……彼が、これからお前の兄になるキルシュだ」
「……初めまして」
黒髪に青い瞳をした美しい少年は、荒んだ目をしていた。
なんでだろう? うちに来るの嫌だったのかな?
――なんて、のんきなことを考えていた私は、あとで知ったのだけれど。お兄様は本当の両親を事故で亡くしたばかりだった。それで、我が家に引き取られたのだ。
「初めまして、キルシュお兄様!!」
今日はお兄様が来た、素敵な日。だから、たくさんの美味しい料理が私たちを待っている。
お兄様はなぜか悲しそうな眼をしているけれど、せっかくなら、この家の生活を楽しんでほしい。
そう思って、私は、様々な場所にお兄様を連れまわした。
ダイニングで美味しい料理の中でも特にお気に入りのクッキーを勝手にお兄様の口にいれたり、公爵邸のテラスで踊って見せたり、お気に入りの木の上で、歌を聞かせたり。
とにかく、お兄様に笑ってほしくて、変顔したり、様々なことを試したけれど、効果はいまひとつだった。
だから、私は、お兄様に聞いたのだ。
「キルシュお兄様は、何がすき?」
「……父様と母様」
小さな声で呟かれた言葉に、首をかしげる。
お父様はさっき会ったとして、お母さまには、お兄様あったことあるのかしら。
お母さまの絵は見せたけれど……。
「なんで、僕が、こんな家に……」
「!」
はっとした。そっか。お兄様は何も自然に生えてきたわけじゃない。お兄様の家族がいたんだ。
お兄様の言葉で、そのことにようやく気付いた幼い私は、木から降りて、お兄様の隣に座った。
「キルシュお兄様」
お兄様は、泣き出しそうな顔をしていた。
「ごめんなさい、知らなかったの」
実際には、このときも家族がなくなっていることも知らなかったわけだけども。何らかの事情があるのは、察することができた。
「お兄様……」
「なに?」
「セレスね、毎日お兄様にお歌を聞かせてあげる! それからね、毎日頭を撫でてあげる! それからね、それから……」
幼い頭で精いっぱい、お兄様が笑ってくれることを考えた。でも……、あんまりいい案は思い浮かばなかった。
「ずっと、お兄様と一緒にいる」
「なんだよ、それ……馬鹿じゃないの。君は、父様でも母様でもないのに、一緒にいられても嬉しくなんか……」
お兄様が俯いた。
「セレスは、お兄様が一緒にいてくれたら嬉しいよ」
そういって、お兄様の手をぎゅっと握る。振り払われはしなかったお兄様の手は、温かい。
「セレスはお兄様のお父様でも、お母様でもないけれど。一緒にお兄様がいて、楽しいなって、思ってもらえるよう頑張るね」
お父様は、真剣な顔をして、私を見つめていた。
思わず、ごくりと喉を鳴らす。
「お前に、お兄さんができるぞー!!!」
「やったぁ!!!」
私の母は、私を産んだ時に亡くなっている。
だから……、この公爵家には跡取りが必要だ。うすうす心の中でそう気づいていた私は、もしかしたら、新しいお母さんができるのかな、と思っていたけれど。
お母さま一筋なお父様は、新しい妻を迎えるようなことはしなかった。
「……彼が、これからお前の兄になるキルシュだ」
「……初めまして」
黒髪に青い瞳をした美しい少年は、荒んだ目をしていた。
なんでだろう? うちに来るの嫌だったのかな?
――なんて、のんきなことを考えていた私は、あとで知ったのだけれど。お兄様は本当の両親を事故で亡くしたばかりだった。それで、我が家に引き取られたのだ。
「初めまして、キルシュお兄様!!」
今日はお兄様が来た、素敵な日。だから、たくさんの美味しい料理が私たちを待っている。
お兄様はなぜか悲しそうな眼をしているけれど、せっかくなら、この家の生活を楽しんでほしい。
そう思って、私は、様々な場所にお兄様を連れまわした。
ダイニングで美味しい料理の中でも特にお気に入りのクッキーを勝手にお兄様の口にいれたり、公爵邸のテラスで踊って見せたり、お気に入りの木の上で、歌を聞かせたり。
とにかく、お兄様に笑ってほしくて、変顔したり、様々なことを試したけれど、効果はいまひとつだった。
だから、私は、お兄様に聞いたのだ。
「キルシュお兄様は、何がすき?」
「……父様と母様」
小さな声で呟かれた言葉に、首をかしげる。
お父様はさっき会ったとして、お母さまには、お兄様あったことあるのかしら。
お母さまの絵は見せたけれど……。
「なんで、僕が、こんな家に……」
「!」
はっとした。そっか。お兄様は何も自然に生えてきたわけじゃない。お兄様の家族がいたんだ。
お兄様の言葉で、そのことにようやく気付いた幼い私は、木から降りて、お兄様の隣に座った。
「キルシュお兄様」
お兄様は、泣き出しそうな顔をしていた。
「ごめんなさい、知らなかったの」
実際には、このときも家族がなくなっていることも知らなかったわけだけども。何らかの事情があるのは、察することができた。
「お兄様……」
「なに?」
「セレスね、毎日お兄様にお歌を聞かせてあげる! それからね、毎日頭を撫でてあげる! それからね、それから……」
幼い頭で精いっぱい、お兄様が笑ってくれることを考えた。でも……、あんまりいい案は思い浮かばなかった。
「ずっと、お兄様と一緒にいる」
「なんだよ、それ……馬鹿じゃないの。君は、父様でも母様でもないのに、一緒にいられても嬉しくなんか……」
お兄様が俯いた。
「セレスは、お兄様が一緒にいてくれたら嬉しいよ」
そういって、お兄様の手をぎゅっと握る。振り払われはしなかったお兄様の手は、温かい。
「セレスはお兄様のお父様でも、お母様でもないけれど。一緒にお兄様がいて、楽しいなって、思ってもらえるよう頑張るね」
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