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妖の花嫁
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◇◇◇
頬を膨らませながら、背の君に後ろから抱き着いた。
「妹?」
こちらを見る前に私だと気づいてくれたことに嬉しくなる。
「背の君」
下がっていた機嫌が、簡単に上向くのを感じながら、背の君の背中に頭を押し付ける。
「……ふふ」
背の君は小さく笑うと、抱き着いている私の手を柔らかくたたかれた。
「ほら、これでは抱きしめられない」
しぶしぶ抱き着く力をゆるめると、背の君はくるりと回転し、私と目を合わせられた。
穏やかなその瞳を、なによりも愛しいと思う。
愛しくて、切なくて。
その想いをわかってほしくて。
私は、はしたないとわかりつつもまた自分から抱き着いた。
背の君は、くすぐったそうにしながらも、私を抱きしめ返してくださる。
「……お慕いしているのです」
誰よりも。何よりも。
でも、きっと慕っているのは私ばかりだ。だって……。
「知っているとも」
ああ、ほら。
いつも、背の君はそうおっしゃる。
背の君はつれない。
でも、そんなところさえ、愛おしい。
愛おしいと、心が叫ぶ。
――恋とは、まるで呪いだ。
背の君が、私の頬に触れられた。
甘美な熱を感じながら、そっと、目を閉じる。
愛しい背の君の瞳が、どうか、私以外を映さないようにと願いながら。
◇◇◇
「……ん」
なにか、夢を見ていた気がする。
でも、夢の内容はさっぱり思い出せない。
「美冬」
穏やかな声が、私を呼んだ。
「……あ」
春美お姉様のものでも、お母様でもお父様でも、じいやでもない、その声の主は。
「雅楽様」
「ああ。おはよう、美冬」
私の髪を片手で梳きながら、旦那様は柔らかく私を見つめていた。
「っ!?」
間近で見る旦那様の優しい瞳に思わず体温が上がる。
何か……粗相はしてないかしら。
慌てて口元を隠しながら、おそるおそる旦那様を見つめ返すと、旦那様は微笑んだ。
「ふふ。あなたは、本当に愛らしいね」
「!?」
愛らしいなんて、小さい頃に亮平さんに言われて以来だわ。
「こんなに愛らしいあなたを放って仕事をしていたなんて。我が事ながら、愚かだな」
そうだわ、仕事……。先ほど、仕事があると出て行ったのよね。
旦那様は妖の王。
やるべきことは多いのだろうけれど……。
「雅楽様は……」
「うん?」
「お疲れではありませんか?」
私を喰らうつもりが今の所ないのだとして。
花嫁として迎える日も仕事をするなんて、よほどのことではないだろうか。
……というのは、私――人間の価値観かもしれないけれも。
「ありがとう、美冬。俺を心配してくれて」
「……いえ」
首を振る。
考えてみれば、花嫁として迎え入れられた私もしていたことは、寝てただけ。
人の価値観に当てはめれば私もおかしいどころか、花嫁失格だわ。
「でも、大丈夫。もう結界を張り終わったから」
「……結界、ですか?」
そうだよ、と頷いて、旦那様は私の髪を掬い、その先に口付けた。
「美冬がもっと寛げるように。この城全体の結界を張り直した。悪意あるものは近寄れない」
「ありがとうございます」
……ということは。
やはりあの白昼夢の銀葉は、私の夢だろう。
だって、旦那様は妖の王。
その結界を破れるとしたら、それ以上の存在になるはずだもの。
もし、そんな妖がいるなら、今頃王の座が明け渡されているだろうし。
旦那様の目元の金の刺青を確認してほっと息を吐く。
「美冬?」
「いいえ、……ところで、雅楽様」
「うん?」
私は、旦那様を見つめながら、首を傾げた。
「この世界の喰らわれない花嫁は、何をしたら良いのでしょうか」
頬を膨らませながら、背の君に後ろから抱き着いた。
「妹?」
こちらを見る前に私だと気づいてくれたことに嬉しくなる。
「背の君」
下がっていた機嫌が、簡単に上向くのを感じながら、背の君の背中に頭を押し付ける。
「……ふふ」
背の君は小さく笑うと、抱き着いている私の手を柔らかくたたかれた。
「ほら、これでは抱きしめられない」
しぶしぶ抱き着く力をゆるめると、背の君はくるりと回転し、私と目を合わせられた。
穏やかなその瞳を、なによりも愛しいと思う。
愛しくて、切なくて。
その想いをわかってほしくて。
私は、はしたないとわかりつつもまた自分から抱き着いた。
背の君は、くすぐったそうにしながらも、私を抱きしめ返してくださる。
「……お慕いしているのです」
誰よりも。何よりも。
でも、きっと慕っているのは私ばかりだ。だって……。
「知っているとも」
ああ、ほら。
いつも、背の君はそうおっしゃる。
背の君はつれない。
でも、そんなところさえ、愛おしい。
愛おしいと、心が叫ぶ。
――恋とは、まるで呪いだ。
背の君が、私の頬に触れられた。
甘美な熱を感じながら、そっと、目を閉じる。
愛しい背の君の瞳が、どうか、私以外を映さないようにと願いながら。
◇◇◇
「……ん」
なにか、夢を見ていた気がする。
でも、夢の内容はさっぱり思い出せない。
「美冬」
穏やかな声が、私を呼んだ。
「……あ」
春美お姉様のものでも、お母様でもお父様でも、じいやでもない、その声の主は。
「雅楽様」
「ああ。おはよう、美冬」
私の髪を片手で梳きながら、旦那様は柔らかく私を見つめていた。
「っ!?」
間近で見る旦那様の優しい瞳に思わず体温が上がる。
何か……粗相はしてないかしら。
慌てて口元を隠しながら、おそるおそる旦那様を見つめ返すと、旦那様は微笑んだ。
「ふふ。あなたは、本当に愛らしいね」
「!?」
愛らしいなんて、小さい頃に亮平さんに言われて以来だわ。
「こんなに愛らしいあなたを放って仕事をしていたなんて。我が事ながら、愚かだな」
そうだわ、仕事……。先ほど、仕事があると出て行ったのよね。
旦那様は妖の王。
やるべきことは多いのだろうけれど……。
「雅楽様は……」
「うん?」
「お疲れではありませんか?」
私を喰らうつもりが今の所ないのだとして。
花嫁として迎える日も仕事をするなんて、よほどのことではないだろうか。
……というのは、私――人間の価値観かもしれないけれも。
「ありがとう、美冬。俺を心配してくれて」
「……いえ」
首を振る。
考えてみれば、花嫁として迎え入れられた私もしていたことは、寝てただけ。
人の価値観に当てはめれば私もおかしいどころか、花嫁失格だわ。
「でも、大丈夫。もう結界を張り終わったから」
「……結界、ですか?」
そうだよ、と頷いて、旦那様は私の髪を掬い、その先に口付けた。
「美冬がもっと寛げるように。この城全体の結界を張り直した。悪意あるものは近寄れない」
「ありがとうございます」
……ということは。
やはりあの白昼夢の銀葉は、私の夢だろう。
だって、旦那様は妖の王。
その結界を破れるとしたら、それ以上の存在になるはずだもの。
もし、そんな妖がいるなら、今頃王の座が明け渡されているだろうし。
旦那様の目元の金の刺青を確認してほっと息を吐く。
「美冬?」
「いいえ、……ところで、雅楽様」
「うん?」
私は、旦那様を見つめながら、首を傾げた。
「この世界の喰らわれない花嫁は、何をしたら良いのでしょうか」
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