お飾りの妻役、喜んで拝命いたします!

夕立悠理

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朝食会

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「食事の間で、殿下がお待ちです」
 最後に髪を結いあげてくれたアビーは、いってらっしゃいませ、と私を送り出した。
「ありがとう」
 ……あら?
「ちょっと待って、アビー」
「いかがなさいましたか、リリーシャ様?」
「いえ、今信じられない言葉が聞こえたものだから……」
 旦那様が何ですって?
「信じられないこと、にございますか?」
 アビーは、首をかしげて、ああ、と頷いた。
「食事は朝と夕は共に取られるおつもりみたいですよ」
「……そうなのね」

 旦那様の国宝級のお顔が見られるなんてラッキー! ……って、そうなんだけど。
 普通、初夜に愛さない宣言をした旦那様って、食事の一つも一緒にとらずに必要最低限しか、関わらないものではないかしら。
 うーん、もしかしたら、旦那様は朝食会や夕食会で釘を刺し続けるおつもりかしら。
 私は、君を愛せないって。

 まぁ、いっか。
 このまま自室で考えてもしかたない。
 実際に食事の間につけばわかるでしょう。

「じゃあ、アビー。行ってくるわ」
「はい。いってらっしゃいませ」

 第二王子と第二王子妃たる私に与えられた食事の間では、やはり、というか、お綺麗な顔をした旦那様が座っていた。
「おはようございます。ゼン殿下、お待たせいたしました」
「……ああ」
 旦那様は、こちらにちらりと視線を動かすと、頷いた。
 もう、旦那様ってば、朝が弱いのかしら。ずいぶんと、硬い表情だわ。でも、そんなお顔も素敵! 好き! 世界で二番目に!!!!

 心の中では非常に荒ぶりつつ、実際は優雅に礼をして、席に座る。
「君の侍女から聞いたと思うが……」
 旦那様は私をじっと見つめながら、言った。
「食事はなるべく一緒に取りたいと思う。昼食は、お互い政務などが忙しく時間が合わないことも多いだろうから一緒に食べないが、朝と夕は基本的には毎日一緒だ」
 へぇー、ほんとうにアビーの言っていた通りだわ。
「……かしこまりました」
 ……ということは、この整ったお顔を少なくとも一日に二度は見られる機会があるってことよね!!!

 嬉しい、ハッピーすぎるわ!!! してよかった、この政略結婚。

 心の中で盛大にガッツポーズを決めながら、微笑む。

「ああ。それから、その……昨夜はすまなかった」
「え?」
 あら? あらあらあらあら?
 まさか、旦那様ってば、謝られるの? 少し落ち込んだようなその表情ももちろん、素敵です!

「だが、私は、君を心から愛せることはないと思う。私の胸の中に、今でも焼き付いて離れないひとがいるから。政略的とはいえ婚姻を結んでおきながら、このようなこと、心からすまなく思う」
「あ、頭をあげてください!」
 第二王子とは、簡単に人に頭を下げていい立場ではないし、それに――旦那様の麗しいお顔が見えません! それは困るー!!!

「……本当に、すまない。妻としては扱えないかもしれないが、それでも家族として、また、戦友としてできるだけ君のことは尊重したいと思っている」
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