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29.目覚め(香奈)
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元喫茶店であった宮本家の広い駐車場に引き出された金色のモンキー[メッキー]が午後の陽光を反射してキラキラと輝く。
「おお、眩しいのだ。キラキラなのだ!」
一緒に出てきた咲良ちゃんが歓声を上げる。
「うん。本当に綺麗になったな。これが初代ゴールドメッキモンキー本来の輝きなんやな」
しみじみとしている佑樹。ずっと薄暗い室内で整備してたから実際にこうして外に出してみるまでこんなに綺麗になってることに気づけなかったんだろう。あたしもそうだから。
「…………」
あたしは感慨無量で、最初ここで見たときとはまるで別物のように生まれ変わった[メッキー]に見惚れていた。
最初に出会った時、[メッキー]は埃まみれで汚くてボロボロで、沙羅姉さんの[もんちー]ほどの魅力を感じなかったのは否定しない。正直なところ雨の中で捨てられて震えている子猫を見つけた時のような、ほっとけない感の方が強かったように思う。
でも、実際に自分の手で修理を進めていくうちに、あたしの中の[メッキー]への想いは変化していった。
馬鹿な子ほど可愛いって言葉もあるけど、それに近いかもしれない。苦労させられ、手がかかった分、あたしは[メッキー]のことをより大切に思うようになった。佑樹と一緒にあたしが自分の手で直してきた[メッキー]に対する愛着は、今ではまるで我が子に対するもののようで、思わずぎゅっと抱きしめて頬ずりしたくなる。
磨き上げられて金色に輝く燃料タンクやハンドルやホイール。さびを落として再塗装したフレーム。冷却フィンのついた空冷式の4サイクルエンジン。沙羅姉さんの匠の業により綺麗にリペアされた革張りのシート。
今や最初の可哀想な姿じゃない。本来の美しさを取り戻し優雅に佇む限定車。黄金色のゴールドではなくやや赤みがかったゴールドだからか、こんなにキラキラなのに下品さはなく、高貴さと落ち着きを感じる。
自分で整備した部品の一つ一つに思い入れがあって、そのすべてがたまらなく愛しくて。
あ、なんか涙出てきた。
「ふふ。嬉しいよなー? 香奈ちゃんが自分の手で直したんやで」
佑樹の言葉に目一杯うなずく。
「……うん。なんか今、うまく言葉にならへんのやけど、もうとにかく嬉しい」
「そやな。俺も一緒にやってきたから分かるで、その気持ち。達成感すごいよな」
「どうしよ? なんかいてもたってもいられないってゆうか、何言ってるのか自分でもよく分からへんのやけど、どうしよ?」
ドキドキとワクワクとウルウルが一緒くたになったようなこの気持ちはなんだろう。
「うん。まぁとりあえず、エンジンかけてみよか? 実際に乗って走ってみる前にキャブとか色々調整せなかんしな」
「そ、そうやんね」
あたしは、[メッキー]に近づき、シートを優しく撫でてから、それをまたいで立ち、ハンドルを握った。イグニッションキーを差し込んで右にカチッと回せば、青のニュートラルランプが点灯する。燃料コックを開き、これでいつでもエンジンをかけられる状態になった。
こうしてみて思うのは、教習用の400ccのバイクに比べるとモンキーは本当に小さくて軽い。こんなに小さくてあたしをちゃんと乗せて走れるのかなってちょっと心配になるくらい。もちろん大丈夫なことは分かっとるけど。
あたしは、キックペダルに右足の靴の土踏まずを乗せ、佑樹を見た。彼はあたしの目をまっすぐに見て小さくうなずく。
「車体が軽いから両手でハンドルはしっかり握ってぇな。キックペダルは躊躇しないで一気に踏み込むんやで。何回か踏み込めばキャブから送り出された気化ガスがシリンダーに充填して点火するから」
彼のアドバイスにしっかりうなずき返し、あたしはキックペダルを思い切り踏み込んだ。
──スコンスコン……
──スコンスコン……
──ドルンッ! ドッドッドッドッドッ……
三回目のキックでぶるっと[メッキー]が震え、眠りから目覚め、力強くアイドリングを始める。排気量が響子さんのゴリラより大きい分エンジンの音も大きい。
オーバーホールされたエンジンは心地よい振動を生み出し、その脈動がハンドルを握り締めたあたしの手のひらに伝わってくる。
エンジン始動直後にマフラーから排出されていた白い排気ガスもすぐに透明になり、ガソリンの燃える匂いがあたりに漂い始める。
「うん。アイドリングの回転数はちょうどいい感じやな。ちょっとエンジン吹かしてみて」
あたしが右手のアクセルをひねると、[メッキー]は素直に反応して回転を上げたり下げたりする。
──ヴォン!! ヴォンヴォン!!
どうしよう。嬉しい! めっちゃ嬉しい! [メッキー]があたしのアクセル操作にちゃんと反応しとる。夢っちゃうよな? 本当やんな?
「ゆ、佑樹君!」
あたしが興奮を抑えきれずに叫ぶと、佑樹が満面の笑みで何度か手を打ち鳴らす。
「やったな。完璧やん」
「香奈姉、すごいのだ! 本当にあのボロボロのモンキーを直しちゃったのだ」
その言葉が耳に届いた瞬間、あのスクラップも同然だった[メッキー]が確かに直ったんだって実感がこみ上げてきて、もうどうしようもなく嬉しくて、涙で視界が霞んでしまった。
正直、[メッキー]が本当に直ったかは半信半疑だった。今までもそうだったけど、一箇所直したら次の問題が出てきて、それを解決したら次の問題が明らかになって……の繰り返しだったから、今回もなんだかんだで問題が発生するかなと半ば覚悟してたけど、今回は本当に大丈夫そうだ。
力強くアイドリングを続ける[メッキー]はまるであたしに「まだ乗らんの?」と問いかけているようで、あたしは泣きながら笑ってしまった。
こんなに嬉しいことって今まで経験したことがない。陸上で日本新記録を出したときの喜びや達成感も、今のこの喜びと達成感に比べれば影をひそめてしまう。あたしにとって、今この瞬間こそが、人生で一番嬉しい瞬間だった。
【作者コメント】
作者も最近故障していた自分のモンキーを直したんですが、元々50ccだったエンジンをこの機会に75ccに変更しまして。動かなくなっていた愛車を一通り修理して再起動してエンジンが無事に動いた瞬間は感慨深いものがありましたね。そんな感動が伝わればいいなと思います。楽しんでいただけましたら応援いただけると嬉しいです。
「おお、眩しいのだ。キラキラなのだ!」
一緒に出てきた咲良ちゃんが歓声を上げる。
「うん。本当に綺麗になったな。これが初代ゴールドメッキモンキー本来の輝きなんやな」
しみじみとしている佑樹。ずっと薄暗い室内で整備してたから実際にこうして外に出してみるまでこんなに綺麗になってることに気づけなかったんだろう。あたしもそうだから。
「…………」
あたしは感慨無量で、最初ここで見たときとはまるで別物のように生まれ変わった[メッキー]に見惚れていた。
最初に出会った時、[メッキー]は埃まみれで汚くてボロボロで、沙羅姉さんの[もんちー]ほどの魅力を感じなかったのは否定しない。正直なところ雨の中で捨てられて震えている子猫を見つけた時のような、ほっとけない感の方が強かったように思う。
でも、実際に自分の手で修理を進めていくうちに、あたしの中の[メッキー]への想いは変化していった。
馬鹿な子ほど可愛いって言葉もあるけど、それに近いかもしれない。苦労させられ、手がかかった分、あたしは[メッキー]のことをより大切に思うようになった。佑樹と一緒にあたしが自分の手で直してきた[メッキー]に対する愛着は、今ではまるで我が子に対するもののようで、思わずぎゅっと抱きしめて頬ずりしたくなる。
磨き上げられて金色に輝く燃料タンクやハンドルやホイール。さびを落として再塗装したフレーム。冷却フィンのついた空冷式の4サイクルエンジン。沙羅姉さんの匠の業により綺麗にリペアされた革張りのシート。
今や最初の可哀想な姿じゃない。本来の美しさを取り戻し優雅に佇む限定車。黄金色のゴールドではなくやや赤みがかったゴールドだからか、こんなにキラキラなのに下品さはなく、高貴さと落ち着きを感じる。
自分で整備した部品の一つ一つに思い入れがあって、そのすべてがたまらなく愛しくて。
あ、なんか涙出てきた。
「ふふ。嬉しいよなー? 香奈ちゃんが自分の手で直したんやで」
佑樹の言葉に目一杯うなずく。
「……うん。なんか今、うまく言葉にならへんのやけど、もうとにかく嬉しい」
「そやな。俺も一緒にやってきたから分かるで、その気持ち。達成感すごいよな」
「どうしよ? なんかいてもたってもいられないってゆうか、何言ってるのか自分でもよく分からへんのやけど、どうしよ?」
ドキドキとワクワクとウルウルが一緒くたになったようなこの気持ちはなんだろう。
「うん。まぁとりあえず、エンジンかけてみよか? 実際に乗って走ってみる前にキャブとか色々調整せなかんしな」
「そ、そうやんね」
あたしは、[メッキー]に近づき、シートを優しく撫でてから、それをまたいで立ち、ハンドルを握った。イグニッションキーを差し込んで右にカチッと回せば、青のニュートラルランプが点灯する。燃料コックを開き、これでいつでもエンジンをかけられる状態になった。
こうしてみて思うのは、教習用の400ccのバイクに比べるとモンキーは本当に小さくて軽い。こんなに小さくてあたしをちゃんと乗せて走れるのかなってちょっと心配になるくらい。もちろん大丈夫なことは分かっとるけど。
あたしは、キックペダルに右足の靴の土踏まずを乗せ、佑樹を見た。彼はあたしの目をまっすぐに見て小さくうなずく。
「車体が軽いから両手でハンドルはしっかり握ってぇな。キックペダルは躊躇しないで一気に踏み込むんやで。何回か踏み込めばキャブから送り出された気化ガスがシリンダーに充填して点火するから」
彼のアドバイスにしっかりうなずき返し、あたしはキックペダルを思い切り踏み込んだ。
──スコンスコン……
──スコンスコン……
──ドルンッ! ドッドッドッドッドッ……
三回目のキックでぶるっと[メッキー]が震え、眠りから目覚め、力強くアイドリングを始める。排気量が響子さんのゴリラより大きい分エンジンの音も大きい。
オーバーホールされたエンジンは心地よい振動を生み出し、その脈動がハンドルを握り締めたあたしの手のひらに伝わってくる。
エンジン始動直後にマフラーから排出されていた白い排気ガスもすぐに透明になり、ガソリンの燃える匂いがあたりに漂い始める。
「うん。アイドリングの回転数はちょうどいい感じやな。ちょっとエンジン吹かしてみて」
あたしが右手のアクセルをひねると、[メッキー]は素直に反応して回転を上げたり下げたりする。
──ヴォン!! ヴォンヴォン!!
どうしよう。嬉しい! めっちゃ嬉しい! [メッキー]があたしのアクセル操作にちゃんと反応しとる。夢っちゃうよな? 本当やんな?
「ゆ、佑樹君!」
あたしが興奮を抑えきれずに叫ぶと、佑樹が満面の笑みで何度か手を打ち鳴らす。
「やったな。完璧やん」
「香奈姉、すごいのだ! 本当にあのボロボロのモンキーを直しちゃったのだ」
その言葉が耳に届いた瞬間、あのスクラップも同然だった[メッキー]が確かに直ったんだって実感がこみ上げてきて、もうどうしようもなく嬉しくて、涙で視界が霞んでしまった。
正直、[メッキー]が本当に直ったかは半信半疑だった。今までもそうだったけど、一箇所直したら次の問題が出てきて、それを解決したら次の問題が明らかになって……の繰り返しだったから、今回もなんだかんだで問題が発生するかなと半ば覚悟してたけど、今回は本当に大丈夫そうだ。
力強くアイドリングを続ける[メッキー]はまるであたしに「まだ乗らんの?」と問いかけているようで、あたしは泣きながら笑ってしまった。
こんなに嬉しいことって今まで経験したことがない。陸上で日本新記録を出したときの喜びや達成感も、今のこの喜びと達成感に比べれば影をひそめてしまう。あたしにとって、今この瞬間こそが、人生で一番嬉しい瞬間だった。
【作者コメント】
作者も最近故障していた自分のモンキーを直したんですが、元々50ccだったエンジンをこの機会に75ccに変更しまして。動かなくなっていた愛車を一通り修理して再起動してエンジンが無事に動いた瞬間は感慨深いものがありましたね。そんな感動が伝わればいいなと思います。楽しんでいただけましたら応援いただけると嬉しいです。
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※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
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