れすとあ ─モンキーガール、風になる─

海凪ととかる

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30.道化の響子(佑樹)

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 しばらくアイドリングをして様子見してみたが、[メッキー]のエンジンの調子はすこぶる良い。整備段階でシリンダーに付着していたオイルが燃えることにより、最初だけ白煙がマフラーから出ていたが、すぐに排気が透明になったから問題なし。
 試しに一度エンジンを停め、しばらく待ってから再始動してみたら今度は最初から排気は透明だった。

 ちなみに、エンジンをかける度に白煙が出る場合、これは『オイル下がり』という現象でシリンダーヘッドのバルブの密封が上手くいっておらず、エンジンが停止している間にシリンダー内にオイルが漏れてしまっている状態。
 逆にエンジンをかけてしばらく回しているうちに次第に排気に白煙が混じり始めることがあり、これは『オイル上がり』といってピストンが摩耗してしまっていてオイルがピストンの隙間からシリンダーに漏れてしまうのが原因だ。

 『オイル上がり』も『オイル下がり』も基本的に長く使っている古いエンジンで起きる計年劣化の症状であり、正常なエンジンの場合はエンジンをかけた直後も、走っている間も排気は透明だ。
 もし香奈の[メッキー]のような、シリンダーヘッドもシリンダー本体もピストンも新品に換えた直後のエンジンでそのような症状が出る場合、初期不良か取り付けの甘さが原因として考えられるが、そういう不具合はなさそうなので安心した。キャブレターのセッティングも今のところ必要なさそうだし、エンジンの各部分からのオイル漏れもなさそうだ。
 と、なれば……いよいよ実際に乗っての試運転だ。


 僕も自分の[しるばー]を駐車場に出し、ハーフヘルメットを被った。

 香奈もまた、今まさに初乗りのための準備をしている。腕捲りしていたワークシャツの袖を伸ばし、手首できっちりボタンを留め、着け慣れないヘルメットの顎紐の調整に四苦八苦している。
 ちなみにヘルメットはこの日のために香奈が購入して用意してあったジェットヘルだ。

 さすがにポニーテールのままではヘルメットは被れないから、解いて下ろした髪が肩の辺りで跳ねている。
 せっかく似合っとったのになー。ポニテ用のメットってどっかにないもんかね?

──トトトトトト……ドルンッ……トットットット……

 僕がそんな愚にもつかないことを考えていたちょうどその時、響子さんのゴリラが戻ってきて駐車場に入ってくる。僕の[シルバー]の横に停めてエンジンを切り、フルフェイスのヘルメットを外す。

「ぷっはぁ。戻ったよー」

「うん。お帰り。どうやった?」

 訊いてみれば満面の笑みでグッとサムズアップの響子さん。


「もう最高だったよー! 分かりやすくエンジンの調子もよくなったし、パワーにもすごく余裕ができて、気を抜くとスピード出しすぎそうになるね」

「そうなんよな。本来のポテンシャルさえ引き出せれば意外とノーマル50ccでも普通に60km/hとか出るんよな。坂道を登るトルクも上がるし。ただノーマルやと原付の制限速度30km/hっちゅう法律の壁があるんやけどな」

「う、そうだね。スピード違反にならないように気を付けるよ。……いっそ私もちょっと排気量上げて原付二種で再登録するのもありかな」

「まあそれもありやで。響子さんのゴリラの場合、普通に動いてる実働車やでシリンダー部分だけを換えるライトボアアップっていうお手軽な方法もあるしな。……まあそれはまたの機会やな。今から香奈ちゃんのモンキー初乗りやし」

「なるほど。ライトボアアップか、それも検討してみるよ。……で、それがかなっちのモンキーなんだね。うわぁ、可愛いなあ!」
 
 ゴリラのシートから立ち上がった響子さんが歓声を上げながら香奈の[メッキー]のそばに寄っていく。

「へぇー、これが初代ゴールドメッキ仕様かぁ。写真とかでは見たことあったけど本物は初めて見るよ! さっき中で見た時はまさかこれがかなっちのモンキーだとは思わなかったなぁ。金ぴかなのに全然下品じゃなくて、めっちゃデザインのバランスいいよね」

「う、うん。すごくええ感じ……かな」
 
 [メッキー]を褒められた香奈がちょっと困惑気味に照れ笑いする。

「ふむふむ。やっぱりモンキーは可愛いなぁ。女の子が乗るんだとやっぱりゴリラよりモンキーの方が合ってるね」

「あ、でも、響子先輩のゴリラやってモンキーとおんなじ大きさなのにモンキーにはないワイルドさがカッコええし、先輩の雰囲気にもぴったりやし」

「相棒のことをそう言ってもらえると嬉しいな。でも、このモンキーだってかなっちの雰囲気とマッチしてるよ。かなっちみたいに可愛いし」
 
 香奈が目を白黒させながら両手をぶんぶん振って否定する。

「……か、かわいくないしっ。あたしなんて全然っ」

「ん~? 祐樹~、カノジョこんなこと言ってるよ~? かなっちって普通に可愛いよね?」
 
 響子さんが悪戯っぽく僕に振ってくる。
 えぇ!? ここでこっちに振るとかマジか?
 
 にやにや笑う響子さんと、真っ赤になって上目遣いに僕を睨みつけている香奈の二対の視線に顔が火照ってくるのを感じながら、僕はちょっと視線を外して答えた。

「……うん。まあ普通に可愛いと思うで」

「あう……」
 
 香奈が茹でだこのようになってうつむく。そんな香奈の反応を見て、何故か火付け役の響子さんがぷうっと頬を膨らませる。

「むうー。あたしって道化? なんか間違えた気がするぞ」
 
 なにを指して間違えたと言っているのかはわからないが、僕は心の中で突っこんだ。
 響子さんよ、今回に限らず、あなたの発言は大抵どこか間違っとる。









【作者コメント】

 作者のモンキーもちょっとオイル上がりがあるんですよね。これについては自分の整備ミスでおそらく交換したピストンリングの位置が悪かったんだろうなーと一応心当たりもあります。ただ、該当箇所を再調整しようと思うとまずマフラーとキャブを外し、クランクケースを外し、シリンダーヘッドとシリンダーを外さないといけないのでかなり大掛かりになってしまって大変なんですよねー。めんどいなーという気持ちもあり、時間もなかなか作れないですし、ついついズルズルと現状のまま乗ってしまっています。
 さて、今回の話はどうでしたか? 楽しんでいただけたら引き続き応援いただけると嬉しいです。
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