10 / 60
第一部 高嶺の蝶
アイスの罠
しおりを挟む
が、数日後。予想もしなかった方法で彼はモーションをかけてきた。
いつもどおり午前帰宅をし、さあこれから寝るぞという時にそれはきた。
まずは電話だった。
(何・・・?客?いや、知らない番号だ。無視無視・・・)
とにかく早く寝たい玲奈は、それを無視した。だが次にはラインが来た。
「おい、葦原玲奈。起きてんだろ」
スマホの画面に表示されたメッセージを見て玲奈は仰天した。これは、仕事用のスマホなのだ。なので玲奈を本名で呼ぶ相手は、まずいない。
あわてて確認すると、相手はまったく知らない人物だった。が、玲奈はぴんときた。
(もしかして、あいつか)
ならなおさら無視だ。キャバ嬢「レナ」のラインで「葦原玲奈」が返事をするわけにはいかない。
「返事しろよ」
「全部わかってんだぞ、こっちは」
「痛い目にあわせるぞ」
無視を決めこんでいると、だんだんメッセージは脅迫的になっていった。
玲奈はなおも無視を続けようとした。が・・・
「これ以上無視するんなら」
「明日お前の学校に乗り込んでやる」
「痛い目にあわせるぞ、お前もあのメガネも」
学のことか。その一文が決定打となって、玲奈は迂闊にも既読をつけてしまった。その瞬間、電話がかかってきた。
(くそ、この野郎)
負けない、と念じてから玲奈は電話に出た。
「やっと出たな、葦原玲奈」
「・・・どちら様ですか」
「わかってるくせに白々しいな」
「かける相手を、お間違いでは」
そういって玲奈は切ろうとした。
「おい、待て。俺は全部知ってんだぞ。お前が都立高なのも、エンジェルフィールで働いてんのも」
(なんで…!?)
玲奈の手はじっとり汗ばんだ。口は渇いてからからだ。
それは一番知られてはいけない、玲奈の秘密なのに。
「店にお前が未成年って、ばらしてやろうか?あ、それとも高校に電話したほうがいいな?せっかく勉強して入った進学校、退学になっちゃうなぁ。あはは」
れだけは困る。それだけは。どうすればこの状況を回避できる?
玲奈は拳を握り締めた。
「何が目的」
相手はわが意を得たりとばかりの声で言った。
「明日、台場駅に、夜12時。かならず一人でこい」
「え、ちょっと待っ・・・」
玲奈が抗議する前に、電話は切れた。
(どうしよう・・・)
こんな時、玲奈には相談できる相手など一人もいない。唯一頼れそうなのは一之瀬だが、面倒ごとを抱えた玲奈を彼がどこまでかばってくれるかわからない。最悪、見捨てられるかもしれないビジネスライクな関係だ。
(それは困る・・・)
今はまだ、彼の庇護を失いたくなかった。受験が成功するまでは。
とすれば、今回のことは自分ひとりでなんとか切り抜けるしかない。
(…策を練ろう)
玲奈は寝るのを保留し、じっと頭をめぐらせた。
ゲスだが、いい方法が一つ頭に浮かんだ。
(よし、これでいこう)
彼の指定した場所で、玲奈は彼と向き合っていた。
高級そうなソファーに座り、ローテーブルに足を投げ出す彼の後ろは、ガラス張りの窓だ。地上32階。
その高さに、玲奈は肌がざわざわした。この辺は夜景がまぶしい。ビルの明かりが幾千とまたたき、その向こうはまっくらな海だ。
「よく来たな」
彼はにやりと笑った。
「なんのご用でしょうか」
玲奈は控えめに答えた。
「それは何だ?」
彼、海江田ハヤトは、玲奈の手にあるピンクの紙袋を指差した。
「これ?つまらないものですが・・・どうぞ」
それは玲奈が徹底的に計算をして持ってきたものだった。
総理大臣の息子など、ネットでさがせばすぐに本名がわかる。加えて高校も知っている。少し検索すれば、まんまと本人のインスタのアカウントを見つけることができた。
彼がネットリテラシーの低いおばかさんであったことに感謝しつつ、玲奈は彼の好物を突き止めた。
「アイスか!気が利くな」
彼は嬉しそうに中身を取り出した。新宿の駅前の新しい店のもので、ガラスの瓶にヴァニラ、モカ、チョコレートのアイスが層になってつめられている。人気の店で、たとえ知らなかったとしてもアイス好きが拒否できるものではない。彼がチョコレート系が好きなこともチェック済みだ。
「ええ。溶ける前にどうぞ」
彼べリべりと包装をはがし、アイスを口にした。
「ふーん。俺がアイス好きって知ってるのか?」
玲奈は楚々と首を振った。
「いいえ。知りませんでした。これを選んだのはたまたま、今流行りの店だったので・・・」
「そうか。お前へんなヤツだなぁ。自分を脅した相手に、好物を持っていくなんて」
その相手の持ってきたものを何の疑いもなく口にしているのを見て、玲奈は内心ほくそ笑んだ。無邪気なお坊ちゃんだ。苦労などしたことがないのだろう。
騙しやすくていいや。
「他人の家にいくのに、手土産なしでは失礼でしょう・・・」
目を伏せてそういう玲奈の目の前で、彼は意識を失って倒れた。
いつもどおり午前帰宅をし、さあこれから寝るぞという時にそれはきた。
まずは電話だった。
(何・・・?客?いや、知らない番号だ。無視無視・・・)
とにかく早く寝たい玲奈は、それを無視した。だが次にはラインが来た。
「おい、葦原玲奈。起きてんだろ」
スマホの画面に表示されたメッセージを見て玲奈は仰天した。これは、仕事用のスマホなのだ。なので玲奈を本名で呼ぶ相手は、まずいない。
あわてて確認すると、相手はまったく知らない人物だった。が、玲奈はぴんときた。
(もしかして、あいつか)
ならなおさら無視だ。キャバ嬢「レナ」のラインで「葦原玲奈」が返事をするわけにはいかない。
「返事しろよ」
「全部わかってんだぞ、こっちは」
「痛い目にあわせるぞ」
無視を決めこんでいると、だんだんメッセージは脅迫的になっていった。
玲奈はなおも無視を続けようとした。が・・・
「これ以上無視するんなら」
「明日お前の学校に乗り込んでやる」
「痛い目にあわせるぞ、お前もあのメガネも」
学のことか。その一文が決定打となって、玲奈は迂闊にも既読をつけてしまった。その瞬間、電話がかかってきた。
(くそ、この野郎)
負けない、と念じてから玲奈は電話に出た。
「やっと出たな、葦原玲奈」
「・・・どちら様ですか」
「わかってるくせに白々しいな」
「かける相手を、お間違いでは」
そういって玲奈は切ろうとした。
「おい、待て。俺は全部知ってんだぞ。お前が都立高なのも、エンジェルフィールで働いてんのも」
(なんで…!?)
玲奈の手はじっとり汗ばんだ。口は渇いてからからだ。
それは一番知られてはいけない、玲奈の秘密なのに。
「店にお前が未成年って、ばらしてやろうか?あ、それとも高校に電話したほうがいいな?せっかく勉強して入った進学校、退学になっちゃうなぁ。あはは」
れだけは困る。それだけは。どうすればこの状況を回避できる?
玲奈は拳を握り締めた。
「何が目的」
相手はわが意を得たりとばかりの声で言った。
「明日、台場駅に、夜12時。かならず一人でこい」
「え、ちょっと待っ・・・」
玲奈が抗議する前に、電話は切れた。
(どうしよう・・・)
こんな時、玲奈には相談できる相手など一人もいない。唯一頼れそうなのは一之瀬だが、面倒ごとを抱えた玲奈を彼がどこまでかばってくれるかわからない。最悪、見捨てられるかもしれないビジネスライクな関係だ。
(それは困る・・・)
今はまだ、彼の庇護を失いたくなかった。受験が成功するまでは。
とすれば、今回のことは自分ひとりでなんとか切り抜けるしかない。
(…策を練ろう)
玲奈は寝るのを保留し、じっと頭をめぐらせた。
ゲスだが、いい方法が一つ頭に浮かんだ。
(よし、これでいこう)
彼の指定した場所で、玲奈は彼と向き合っていた。
高級そうなソファーに座り、ローテーブルに足を投げ出す彼の後ろは、ガラス張りの窓だ。地上32階。
その高さに、玲奈は肌がざわざわした。この辺は夜景がまぶしい。ビルの明かりが幾千とまたたき、その向こうはまっくらな海だ。
「よく来たな」
彼はにやりと笑った。
「なんのご用でしょうか」
玲奈は控えめに答えた。
「それは何だ?」
彼、海江田ハヤトは、玲奈の手にあるピンクの紙袋を指差した。
「これ?つまらないものですが・・・どうぞ」
それは玲奈が徹底的に計算をして持ってきたものだった。
総理大臣の息子など、ネットでさがせばすぐに本名がわかる。加えて高校も知っている。少し検索すれば、まんまと本人のインスタのアカウントを見つけることができた。
彼がネットリテラシーの低いおばかさんであったことに感謝しつつ、玲奈は彼の好物を突き止めた。
「アイスか!気が利くな」
彼は嬉しそうに中身を取り出した。新宿の駅前の新しい店のもので、ガラスの瓶にヴァニラ、モカ、チョコレートのアイスが層になってつめられている。人気の店で、たとえ知らなかったとしてもアイス好きが拒否できるものではない。彼がチョコレート系が好きなこともチェック済みだ。
「ええ。溶ける前にどうぞ」
彼べリべりと包装をはがし、アイスを口にした。
「ふーん。俺がアイス好きって知ってるのか?」
玲奈は楚々と首を振った。
「いいえ。知りませんでした。これを選んだのはたまたま、今流行りの店だったので・・・」
「そうか。お前へんなヤツだなぁ。自分を脅した相手に、好物を持っていくなんて」
その相手の持ってきたものを何の疑いもなく口にしているのを見て、玲奈は内心ほくそ笑んだ。無邪気なお坊ちゃんだ。苦労などしたことがないのだろう。
騙しやすくていいや。
「他人の家にいくのに、手土産なしでは失礼でしょう・・・」
目を伏せてそういう玲奈の目の前で、彼は意識を失って倒れた。
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる