16 / 60
第一部 高嶺の蝶
はぐれものふたりの
しおりを挟む
昼休み。最近は暑くなってきたのでさすがの玲奈も自席に座って昼食をとる。メニューはいつも代わり映えしない。コンビニの紅茶と、栄養ゼリーだ。
これらをごくごく飲みながら、参考書を片手に昼休みはあっという間に過ぎる。が、その日は違った。
「葦原さん」
「ん、なに?」
隣の席の学が声をかけてきたので、玲奈は参考書から目を上げた。
「ちょっと教えてほしいんだけど・・・」
学がそういってきたので玲奈は驚いた。
「いいよ、なに?」
「この設定なんだけど」
学はそういってスマホを取り出した。が、その目が急にぎゅっと細められた。怒っている顔だ。
「どうしたの?・・・ああ」
振り返ると、クラスメイトが悪意のある目でこちらを見て笑っていた。玲奈はちらりとそれを見てから立ち上がった。
「いこ。他んとこでお昼でも食べながら話そ」
暑い季節が近づいてきているので、広い屋上には誰もいない。玲奈と学は壁際の影になっているところを選んで座った。
「あ、そんなことね。ここを・・そうそう、こうすれば大丈夫」
玲奈はラインの通知の設定をオフにしてあげた。
「これで画面にトークは出ないよ」
「そうか、設定ページか・・・助かった」
「誰かに見られると困るの?」
「ああ・・親がな」
「そっか」
彼もきっとわけありだろう。玲奈は深くは聞かず、ゼリーをちゅーっと吸った。
「あっついね・・・夏休み、三上くんはやっぱり夏期講習?」
「まぁ、そうだな。葦原さんは」
「うーん、バイトで忙しいかな」
「バイト?そんな事してて大丈夫なのか」
「・・・時間を見つけて勉強するしかないね」
そういって玲奈は笑った。彼も、玲奈の事情を察した。
「そうか・・・悪い。無神経なこと言った」
「別にいいよ。そんなん」
夏の入道雲の上に、飛行機雲の白い線がのびている。
「夏って感じだね・・・でも今年の夏休みは、クラスのみんな夏休みらしいことなしだろうね」
進学校たるこの学校の3年生の夏休みは、みんな勉強漬けだろうから。そう思うと玲奈はわけもなくほっとした
孤独な夏の夜。夏祭りの音も、花火の音を聞こえると訳もなく辛くなった。みんな楽しんでいるのに、自分はそこにいけない。世界からはじかれたような気持ちになる。
だけど今年は、少なくともこの学校の3年生全員楽しみはお預けだ。そう思うといくらか辛さも緩和される。今年は一番平和な夏休みかもしれなかった。
一方、学の見解はもっと悲惨だった。
「夏らしいことって、なんだ?」
「え、いくらでもあるじゃん?プールとか、花火とか、カキ氷とか・・・」
「・・・よくわからないな。どれも経験がない」
「そうなの?!」
「学校の水泳以外プールで泳いだことはない。花火も近くで見たことはないし、カキ氷も食べたことがない」
「えー!?」
さすがの玲奈も驚いた。だが学はクールに言った。
「俺は、施設育ちだから」
「え」
「今の両親に引きとられたのは、小学校高学年だ」
そこで玲奈は、理解した。なぜ彼に同じ孤独を感じるのか。
「私も、似たようなもんだよ。家族はいなくて。いろんな所転々として、今は親戚に面倒みてもらってる」
それを聞いて、学は少し微笑んだ。少しだけ。
「そうか・・・」
「でも高校でたら、一人暮らししたくてさ。だから国立狙ってるんだ・・・自力で通うには、私立は高いからさ。学くんは?」
「一人暮らしか・・・考えたことなかった」
母からの支配は、高校を出ようが大学を出ようがずっと続くのだと思っていた。が、そういう可能性もあるのかと思うとふと学の心は日が差したように明るくなった。
「三上くんも私と同じで国立狙いでしょ?頑張ればギリ、親の援助なしでも一人暮らしできないかな?」
親の援助なしで。そう考えると学の気持ちは軽くなった。戒められた鎖をほどかれて、羽が生えたように。だが。
「資金がいるな・・・」
玲奈は笑っていった。
「うちら2人でルームシェアする?東京ってどこも家賃高いからね」
「ルームシェアか、いいな・・」
学はそうつぶやいた。が、あの母が許すはずはないとは思った。
「・・・無事大学に合格できるといいね、お互いに」
「そうだな・・・」
そういって、2人とも夏の空をなんとはなしに見上げた。
おおきな入道雲と飛行機雲が、まぶしかった。
これらをごくごく飲みながら、参考書を片手に昼休みはあっという間に過ぎる。が、その日は違った。
「葦原さん」
「ん、なに?」
隣の席の学が声をかけてきたので、玲奈は参考書から目を上げた。
「ちょっと教えてほしいんだけど・・・」
学がそういってきたので玲奈は驚いた。
「いいよ、なに?」
「この設定なんだけど」
学はそういってスマホを取り出した。が、その目が急にぎゅっと細められた。怒っている顔だ。
「どうしたの?・・・ああ」
振り返ると、クラスメイトが悪意のある目でこちらを見て笑っていた。玲奈はちらりとそれを見てから立ち上がった。
「いこ。他んとこでお昼でも食べながら話そ」
暑い季節が近づいてきているので、広い屋上には誰もいない。玲奈と学は壁際の影になっているところを選んで座った。
「あ、そんなことね。ここを・・そうそう、こうすれば大丈夫」
玲奈はラインの通知の設定をオフにしてあげた。
「これで画面にトークは出ないよ」
「そうか、設定ページか・・・助かった」
「誰かに見られると困るの?」
「ああ・・親がな」
「そっか」
彼もきっとわけありだろう。玲奈は深くは聞かず、ゼリーをちゅーっと吸った。
「あっついね・・・夏休み、三上くんはやっぱり夏期講習?」
「まぁ、そうだな。葦原さんは」
「うーん、バイトで忙しいかな」
「バイト?そんな事してて大丈夫なのか」
「・・・時間を見つけて勉強するしかないね」
そういって玲奈は笑った。彼も、玲奈の事情を察した。
「そうか・・・悪い。無神経なこと言った」
「別にいいよ。そんなん」
夏の入道雲の上に、飛行機雲の白い線がのびている。
「夏って感じだね・・・でも今年の夏休みは、クラスのみんな夏休みらしいことなしだろうね」
進学校たるこの学校の3年生の夏休みは、みんな勉強漬けだろうから。そう思うと玲奈はわけもなくほっとした
孤独な夏の夜。夏祭りの音も、花火の音を聞こえると訳もなく辛くなった。みんな楽しんでいるのに、自分はそこにいけない。世界からはじかれたような気持ちになる。
だけど今年は、少なくともこの学校の3年生全員楽しみはお預けだ。そう思うといくらか辛さも緩和される。今年は一番平和な夏休みかもしれなかった。
一方、学の見解はもっと悲惨だった。
「夏らしいことって、なんだ?」
「え、いくらでもあるじゃん?プールとか、花火とか、カキ氷とか・・・」
「・・・よくわからないな。どれも経験がない」
「そうなの?!」
「学校の水泳以外プールで泳いだことはない。花火も近くで見たことはないし、カキ氷も食べたことがない」
「えー!?」
さすがの玲奈も驚いた。だが学はクールに言った。
「俺は、施設育ちだから」
「え」
「今の両親に引きとられたのは、小学校高学年だ」
そこで玲奈は、理解した。なぜ彼に同じ孤独を感じるのか。
「私も、似たようなもんだよ。家族はいなくて。いろんな所転々として、今は親戚に面倒みてもらってる」
それを聞いて、学は少し微笑んだ。少しだけ。
「そうか・・・」
「でも高校でたら、一人暮らししたくてさ。だから国立狙ってるんだ・・・自力で通うには、私立は高いからさ。学くんは?」
「一人暮らしか・・・考えたことなかった」
母からの支配は、高校を出ようが大学を出ようがずっと続くのだと思っていた。が、そういう可能性もあるのかと思うとふと学の心は日が差したように明るくなった。
「三上くんも私と同じで国立狙いでしょ?頑張ればギリ、親の援助なしでも一人暮らしできないかな?」
親の援助なしで。そう考えると学の気持ちは軽くなった。戒められた鎖をほどかれて、羽が生えたように。だが。
「資金がいるな・・・」
玲奈は笑っていった。
「うちら2人でルームシェアする?東京ってどこも家賃高いからね」
「ルームシェアか、いいな・・」
学はそうつぶやいた。が、あの母が許すはずはないとは思った。
「・・・無事大学に合格できるといいね、お互いに」
「そうだな・・・」
そういって、2人とも夏の空をなんとはなしに見上げた。
おおきな入道雲と飛行機雲が、まぶしかった。
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる