イケニエアゲハ~執着の檻に囲われて~

小達出みかん

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第一部 高嶺の蝶

お金で買われた甘い時間

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シャワーで体を洗うハヤトは、ときどき玲奈のほうを確認しては、はにかんだ笑みを浮かべた。


(ほんと、変なヤツだな・・・。あんな脅迫してきたと思ったら、これだし)


 玲奈は電車で絡んできたときのハヤトを思い出していた。まさしく半グレチンピラ。


 そんな彼と、こんな関係になろうとは。


(変な契約・・・とはいえお金はもらってるわけだし、なにかしらサービスしたほうがいいか)


 玲奈はキッチンへ向かい、冷蔵庫からミネラルウォーターを出した。


「れ、玲奈、玲奈っ・・・!」


 すると血相を変えたハヤトがタオル一枚で追ってきた。


「な、なに・・・?もう上がったの?」


「うん・・・玲奈、帰ったかと思って」


「ちがうよ」


「上がるまであそこにいるって、言ったじゃん・・」


 ハヤトはすねて口を尖らせた。玲奈はグラスに注いだ水を差し出した。


「はい。お風呂上りは喉かわくでしょ」


 ハヤトは両手でそれを受け取ったが、また玲奈に返した。


「玲奈・・・飲ませて」


「なに?口うつしで?」


 玲奈が強めにそう聞くと、ハヤトはこくんとうなずいた。


「やったことないから上手くできるかわかんないよ?」


 そういい、玲奈は冷たい水を口に含んだ。湯上りのハヤトの肌は熱く水を含んでいて、やわらかい。強くおしたらその指の形のままにへこんでしまいそうな、柔肌だ。


「んっ・・・」


 先ほどより熱い唇に、玲奈は口を合わせた。相手の口に水を送り込もうと口を動かしたが、水はこぼれて2人の間に滴った。


「ん・・・やっぱり上手くいかないよ。自分で飲んだほうが早い。ほら」


 ハヤトはグラスを受けとり笑った。


「ふふ・・・頑張る玲奈の顔、可愛かった」


「なに?目開けてたの?やめてよね」


「へへ・・・」


 玲奈が顔をしかめても、ハヤトは嬉しそうだった。


「玲奈・・・もっかいキスして」


 玲奈は少し肩をすくめたあと、ハヤトの頤に手をかけ唇を重ねた。触れ合うだけの、軽いキスだ。


「じゃあ・・・おやすみ」


 そういって体を離した玲奈の手を、ハヤトはぎゅっとつかんだ。


「もう少し・・・一緒にいてよ」


 その手が熱い。玲奈は仕方なく、手をつないだままリビングへと戻った。


「ベッドはどこ?」


「ん・・・こっちの部屋」


 玲奈はそのベッドにハヤトを寝かせた。


「玲奈も・・・来て?」


 玲奈はちょっと迷ったが、ベッドに腰掛けた。


「大きなベッドだね」


「だろ?2人寝たって場所が余る。ほら」


 ハヤトが手招きした。


「私、外から来たままだからあんま綺麗じゃないよ」


 他人を自分のベッドに入れるのに抵抗のある玲奈はそういった。


「いいよ、そんなの。俺の横にきてよ」


 玲奈は誘われるままにハヤトの隣にもぐりこんだ。石鹸の匂いが鼻をくすぐった。


(あ・・・眠い)


 気を許すと寝てしまいそうだ。玲奈は眠気を振り払うために口を開いた。


「ハヤトくんは・・・なんで電車で私に怒ったの?」


 ハヤトは口ごもった。本当の理由はさすがにいえない。


「それは・・・と、都立の生徒だから」


「はい?」


「むかつくんだよ、いい学校のやつらって」


 玲奈は笑った。


「なに?ハヤトくんの学校のほうがよっぽどいい学校じゃん」


「・・・そうか?」


「そうだよ。場所もよくて校舎も新しくて教師も一流で・・・お金持ちで選ばれた人しか入れない学校じゃん。庶民からしたら別世界だよ」


「・・・つまりバカ校っていいたいんだろ」


 ハヤトはむっと膨れた。


「そんな言ってないじゃん。それに私のとこだって特別いい場所じゃない」


「はっ。偏差値65なのに?」


「そんなの関係ない・・・案外みんな普通だよ。青春してて、普通に幸せな高校生ってかんじ・・・私はそれが息苦しい」


「・・・そうなのか」


 玲奈は布団の中で微笑んだ。


「ほら、こんな生活してるからね」


 ハヤトは玲奈の頬に手をのばした。


「なぁ・・・なんであんな場所で働いてるんだ?借金?男?」


「うん・・・そんなもん」


 適当に答えた玲奈に対して、ハヤトはいいつのった。


「やっぱり・・・男のためか?」


「うーん、ひみつ」


 玲奈はきゅっとハヤトの頬をつねった。

 それは、甘い痛みだった。

「なんだよ・・・俺には言いたくないってか」


「言ったら私が惨めになる」


 そういう玲奈に、さすがにハヤトもそれ以上聞けなかった。

 ハヤトが寝たら、帰ろう。そう思いながら、玲奈は再びハヤトにキスをした。
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