イケニエアゲハ~執着の檻に囲われて~

小達出みかん

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第一部 高嶺の蝶

いけない夏の楽しみ方

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今日の放課後はハヤトに使わなくてはならない。

ああ、せっかくの休みなのに。だが、お金のためにそうすると決めたのは他ならない自分だ。

・・・それに彼をいじめるのは、それなりにストレス解消になる。

なので玲奈はぐちぐち考えるのをやめてタクシーで六本木駅に向かった。


「今タクシー乗った」


 玲奈がラインすると、すぐに既読がついて返信が帰ってきた。


「わかった。下まで迎えいくから」


 ふうと玲奈はため息をついた。

 玲奈は窓から道路を走る車達をながめた。ふだんめったにタクシーなど使わない。だから珍しい光景だ。


(東京は本当に、人がおおいな・・・)


 黒塗りのハイヤーやセダンタイプの高級車、大型車ばかりが、4車線の道路をゆうゆうと走っている。


 どの車も決して飛ばしはしない。そんなことができるほど空いてはいないからだ。

 江東区方面に向かうにつれ、高架線や道路に埋もれるように乱立する個人商店や戸建は姿を消し、堂々とした大きいビルに広々とした道が目に映る。


(そろそろだな)


 道路わきの車寄せからタクシーを降りたら、ちょうど目の前にハヤトが立っていた。


「出迎えなんて珍しいじゃん、どうしたの」


ハヤトは楽しいいたずらを思いついた子どものような顔で言った。


「今日はプールに入ろうと思って」


「え」


 いきなりそう言い出したハヤトについて、玲奈は巨大なビルの立ち並ぶ道を数分歩き巨大なショッピングモールに足を踏み入れた。


「ほら、お前水着なんて持ってないだろ」


「そうだけど、どこのプールにいくの」


「どこって上だよ」


 屋上にプールか・・・金持ちは違うな、と玲奈は心の中で首を振った。


「な、な、どれがいい?」


 夏もたけなわ、モールの大広場では水着がずらりとならんで買いに来る人を待っている。


「別に、なんでもいいけど・・・」


 ハヤトはわかりやすく真っ赤な三角のビキニを手に取った。さくらんぼ柄だ。


「これとかどう」


「・・・・布少ない。やだ」


「じゃあこっちは」


 またわかりやすい、黒のハイレグ、胸が深く開いたホルターネック。サイドはシースルーになっている。


「・・・・キメすぎてて、いや」


「じゃあどれならいいんだよ!」


 むっとしたハヤトに、玲奈は適当に目に付いた水着を手に取った。上下分かれていて、上はキャミソール、下はショートパンツになっている。


「これがいい、安いし」


 布が多いほうが安いとはいかがなものなのか。そう思いながらも玲奈はそれをハヤトに差し出した。


「そんなの、服と同じじゃん!だめだめ!」


「え~・・・じゃあどんなのならいいの」


「もっとかわいいか、えろいやつ」


 基準がわからない、と思いながら玲奈はまた適当に白い水着を手にとった。


「じゃあこれ。」


 下のパンツは少々小さいが、上はビキニタイプではなく、調節可能なバンドゥにパフスリーブがついている。これなら胸はしっかり隠れるだろう。


「わかった。それならいいや」








 屋上のプールとやらは細長い空間に細長いプールがライトアップされていて、片側の一面ガラスから海とビル群が一望できた。


「どう?良い眺めだろ」


「そうだね」


 玲奈は気のない返事をしてプールサイドにずらりと並んだイスに腰掛けた。合成レザーで、やわらかい。


 ハヤトは腰掛けた彼女をじっと目に焼き付けた。


(似合ってる・・・・・かわいい)


 細い肩と腰をフリルが彩り、手足はすらりと伸びている。ハヤトはくらっとめまいがしそうになった。

 なぜ女というのは、こうもたくさんの姿を持っているのだろうか。

 いつもの冷たい艶やかさはなりを潜めて、白いフリルにつつまれた彼女の華奢な肩は、触るのをためらわれるくらい、無垢な少女のものに見えた。


「・・・入れよ、一緒に泳ごう」


「私、泳げないんだよね」


「へーぇ」


 ハヤトがにんまりと笑った。


「じゃあなおさら、泳ぎ教えてやるよ」


「・・・・ほんとをいうと、水はちょっと苦手」


「お前にも苦手とかあるんだ。何で?」


(・・・水泳の授業で、クラスメイトに沈められたことあるから)


 とはさすがにいえない。そしてさらにほんとをいうと水だけでなく高いところろも苦手だ。理由は同じようなことで。


「だって息できないじゃん」


「は?なにそれ。冗談?」


「まさか」


 怖い気持ちを振り払うように玲奈はイスから立ち上がった。


「でもそうだね、せっかく来たんだし。足くらいは入ってみる」


 玲奈はプールサイドに腰かけ、足だけ差し入れた。


「・・・つめた」


「暑いからちょうどいいだろ」


「そうだね」


 ザバリとハヤトが水から上がり、玲奈の隣に腰掛けた。怜奈を見るその表情は、甘えたいような拗ねたような、その中間の表情だった。

 何をしてほしいかわかっている、だが玲奈からは言わない。ちらっとハヤトと目を合わせると、彼は観念してねだった。


「・・・・・キスして」


「いいよ」


玲奈は彼のあごをつかんでそっとくちびるをあわせた。


「んっ・・・ん・・・」


 うすくて柔らかい唇だ。ハヤトは素直に玲奈の舌も唾液も受け入れるようになっていた。されるがままに舌をからませるうちに、ハヤトの体は熱くなった。


「あ・・・・あ・・・れ、玲奈・・・」


「なに?」


「し・・・した・・い」


「したい?何を?」


「れ、玲奈としたい」


 玲奈は意地悪にふっと身体を放した。


「いやだよ。人くるかもじゃん、迷惑だよ」


「大丈夫・・・ひと、こないように・・・この時間、おさえさせた」
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