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そうちゃんの夢
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そこで、全員とりあえず耳を澄ませた。
中の話し声が、漏れ聞こえてくる。
「鹿野社長……本当にすみませんでしたぁ、この前の会議の件のこと」
三輪が潤んだ目で蒼汰を見つめている。
対する蒼汰の顔は、こちらに背を向けていて見えない。
「話というのは、それだけですか」
「えっと、それでその、申し訳なく思っていますので、どうか許していただきたいなって……」
「許すも何も、すでにそちらの鈴木さんにこの件は報告してありますので。彼の指示に従ってくれれば、私は何も言うことはありませ――」
その言葉を遮って、三輪が蒼汰ににじり寄った。
「そんな……私、部長にじゃなくて、鹿野社長に悪い事したなって思ってて……直接、謝りたかったんですぅ……」
その声が、わざとらしい涙声になる。
「だからどうか、私のこと、許していただけますかぁ……? なんでもしますから……」
する、と三輪が上着を抜ぐ。ぱさっ、とそれが落ちる音がした。
(えっ、三輪さん)
へぇ、と田中がリアクションして、部長も眉をひそめた。
もちろん詩音も、戸惑った。
中に入って、彼女を止めるべきだろうか? それとも蒼汰の反応を見守るべきか。
――そりゃあ、蒼汰が彼女に手を出したりするなんて、思えないが……。
(ううう、わかってても、こういうのってそわそわするな)
ギャラリーが固唾をのんでいると、蒼汰の冷静な声がした。
「なんのつもりですか?」
「なんのって……もう、わからないふり、しないでください……」
さらに距離を詰める三輪。
すると蒼汰の声が、少しからかうような調子に代わった。
「もしかして、私を誘惑、なさっているんでしょうか」
「もう、社長ったら……」
距離が短くなっていく中――蒼汰が三輪の方へと手を伸ばした。
(えっ……そうちゃん?)
まさか、と詩音は目を見開いた
それを見て、亮がひそひそ、得意げに言う。
「な? 言ったろ? 社長にとって、お前も三輪も同じなんだよ」
そんなこと、そうちゃんがするはずない。
皆が注目する中――蒼汰は屈んで、伸ばした手で上着を拾って、差し出した。
「落ちましたよ? 三輪さん、でしたっけ」
「――!!」
亮の顔がひきつる。田中は冷めた顔、部長はわかっていたかのような、やれやれという顔をしていた。
「それだけのお話なら、失礼しますね」
三輪は目を見開いたが、すぐに蒼汰に取りすがった。
「ま、待ってください、鹿野社長」
はぁ、と蒼汰はため息をついた。
「うちのマンションの住所、笠原さんに教えたのはあなたですね」
「えっ……そ、そんな事してませんよぉ? だ、第一私がどうやって佐倉さんの引越し先なんて」
蒼汰は落ち着き払ってスマホを取り出した。
「うちのマンションのエントランスの、防犯カメラに写っていたものです。これはあなたですね?」
「っ……!」
「佐倉さんは、引っ越し先をまだ公にしていません。にもかかわらず、この画像の翌日、笠原さんにマンションの前で待ち伏せされた」
蒼汰の声が、冷たくひそめられる。
「……彼女が止めるから、警察沙汰を控えているんですよ? いい加減、我々を放っておいてくれませんか」
詩音でもぞっとするような、ひやりとした声だった。
しかし三輪は、あきらめなかった。
「でっ、でもっ、佐倉先輩は、まだ亮くんが好き、なんですよ? 亮くんだってそうです! 鹿野社長は、ふ、ふたりの邪魔をしているんですよ……っ」
「邪魔?」
「そ、そうです。でも私なら……鹿野社長と付き合ったら、絶対他の人なんて見ません! 佐倉先輩とは違います。 私、社長の事が……!」
三輪がじいっと蒼汰を見上げた。
亮のような男がぐらりとくるような、うるうるとした目に、可憐な表情だった。
しかし、蒼汰はその目を覗き込み――冷たい笑みを漏らした。
「あなたは、佐倉さんの厄介ファンかなにかなんですか?」
「え?」
予想外の言葉に、三輪がとまどう。
「笠原さんの次は、私? 次々と佐倉さんの付き合った男を奪っているじゃないですか」
「ち、ちがいま……」
「でも、ありがとうございます。あなたには感謝していますよ」
三輪が眉をひそめる。
「は……え? 前も言ってましたよね? それ……どういうことなんですか」
「言葉通りの意味ですよ」
蒼汰は冷静な笑みを浮かべたまま、淡々と続けた。
「私と佐倉さんの関係について、あなた方が誤解しているようですから、言いますけど……」
にこ、と蒼汰は笑みを深めた。
「私は小さいころからずっと、佐倉さんを追いかけていました。地元で会社を設立したのは、彼女のためなんです」
「は、はぁ……? し、知り合いだったんですか? 二人とも……」
「そうですよ。聞いていませんか? 私たち、幼馴染だったんです」
「え……」
蒼汰は祈るように目を閉じ、胸に手を当てて語りだした。
「佐倉さんは、私のあこがれの存在でした。彼女はデザイナーになるという夢をかなえるため東京へ……。おいて行かれたと思った私は、ずいぶん落ち込みました。でも、めそめそしていてもしょうがないと気を取り直して、考えたんです。地元に彼女のしたい仕事がないんなら、作ればいいんだ、って」
もはや、三輪の顔から媚びも笑みも消えて、ただただ困惑しているようだった。
が、蒼汰は気にせず語り続けた。
「運よく起こした会社は成功して、私は朝暘社に仕事を依頼しました。期待していなかったとは言いませんが、佐倉さんがデザイン担当になってくれた時は、きっとこうなる運命だったんだと、舞い上がりました。けど――佐倉さんはすでに、婚約者がいた」
蒼汰は悲し気に微笑んだ。
「それなら仕方ない、と僕は身を引こうと思ったんです。彼女が幸せなら、それでいいと思っていましたから」
その切ない微笑みに――後ろの田中も部長も、なぜか深く感じ入ったように蒼汰の話を聞いていた。
「へぇ~、すごい、ドラマみたいっすね」
「知り合いと聞いてはいたが……こんなことがあるんだなぁ……」
一方詩音は、蒼汰の発言に驚いていた。
(そうちゃん……シュガードロップ設立には、おじいちゃんたちのためだけじゃなかった、ってこと……?)
新幹線での別れ際、言っていた言葉がよみがえる。
『僕が会社を作ったのは、しーちゃんのためなんだよ』
――蒼汰は、詩音の夢をかなえるために、ずっと動いてくれていたのか。
もっと昔の、小さい蒼汰の声もよみがえる。
『いつか、うちのしずく屋のいちご大福の絵も、描いてよ!』
おせんべいの広告――あんな子供の時に語った、夢物語のような話だったのに。
(シュガードロップを立ち上げた動機のひとつが……私だった、なんて……)
詩音が内心胸を熱くしているのとは逆に、亮は信じられないといった顔をしていた。
「う、うそだろ……あの社長が、そんな……」
詩音はすっと冷めた気持ちで彼を見上げた。すると笠原は苦しまぎれに詩音につっかかってきた。
「な、なんで説明しなかったんだよ! そういう仲だって……!」
詩音はため息をついた。
「そっちが決めつけてきたんでしょう。私が騙されて、遊ばれてるって……それに」
詩音はマスクの下で、ちょっと辟易としながら言った。
「あんな人と……いきなり、結婚を前提にして真剣交際してます、なんてまぁ、たしかにいかにも嘘みたいだし、言わなかったんだけど」
ちょっと唇がほどける、マスクの下だからいいか。
「義理堅いというか、愛が重いというか……小さいころから、そうちゃんは一途すぎるタイプで」
「そ、そうちゃん⁉」
驚く亮に、詩音はため息をついてみせた。
「だから彼が浮気とか、ありえないんだよ」
そして詩音は、亮にはっきりと言った。
「そういうわけだから、あなたとの復縁は、何があっても無理です。社長が許さないし、私は彼の事が好きだし。わかった?」
すると亮の顔が、怒りにぐっと歪んだ。
「こ、この――っ」
詩音は思わず身構えたが、それでも強気に見返した。
「もとはといえば! 亮の浮気のせいでしょ。あなたは三輪さんを選んだんだから、彼女とちゃんと向き合う責任があるよ」
厳しいが冷静な詩音の言葉に、亮はぐっ、と唇を噛んだ。
詩音はさらにダメ押しした。
「これ以上私を追いかけるんなら――さすがの鹿野社長も、手段選ばなくなってくると思うよ、だって……」
こんな事を言うのは口はばったいが、亮にあきらめてもらうため。
詩音は頬が赤くなるのをこらえて、言い放った。
「だって……私のために、会社作っちゃうくらいの人なんだから」
すると亮は、うぐ、とうめいたあと――肩を落とした。
「………わかったよ」
よし、やっと認めたな。
扉の向こうでは、蒼汰がまだ、三輪に対して説明を続けていた。
「あとはあなたもご存じの通り、笠原さんとのトラブルにより家がなくて困っていた佐倉さんを助けるため、家へと招きました。そしてそこから――正式に交際することになりました」
そこで蒼汰は、三輪に向き直った。
「どうですか? これで納得してもらいましたか」
今度は彼が、彼女の方に一歩踏み出した。
「ある意味で、あなたには感謝していますよ、三輪さん。だけど――
佐倉さんに対してこれまでしたこと、今しようとしたことも――私は忘れませんし、許していませんよ」
すると蒼汰は、おもむろに詩音たちのいるドアの方を振り向いた。
「ねぇ、鈴木さん」
呼ばれた鈴木部長はびくっと肩を震わせた。
(え? どういうこと? なんで部長がここにいるって知って――)
しかし部長は潔くドアを開けて入っていった。
「まったくこんな事が――ウチの社員どもが、ご迷惑を――重ね重ね申し訳ない」
蒼汰は無表情で言った。
「いえ、鈴木さんが頭を下げる必要はありませんよ」
そして三輪と、その向こうにいる笠原を見た。
「っ、ち、違います鈴木部長、私はただっ……謝罪、したくて」
中の話し声が、漏れ聞こえてくる。
「鹿野社長……本当にすみませんでしたぁ、この前の会議の件のこと」
三輪が潤んだ目で蒼汰を見つめている。
対する蒼汰の顔は、こちらに背を向けていて見えない。
「話というのは、それだけですか」
「えっと、それでその、申し訳なく思っていますので、どうか許していただきたいなって……」
「許すも何も、すでにそちらの鈴木さんにこの件は報告してありますので。彼の指示に従ってくれれば、私は何も言うことはありませ――」
その言葉を遮って、三輪が蒼汰ににじり寄った。
「そんな……私、部長にじゃなくて、鹿野社長に悪い事したなって思ってて……直接、謝りたかったんですぅ……」
その声が、わざとらしい涙声になる。
「だからどうか、私のこと、許していただけますかぁ……? なんでもしますから……」
する、と三輪が上着を抜ぐ。ぱさっ、とそれが落ちる音がした。
(えっ、三輪さん)
へぇ、と田中がリアクションして、部長も眉をひそめた。
もちろん詩音も、戸惑った。
中に入って、彼女を止めるべきだろうか? それとも蒼汰の反応を見守るべきか。
――そりゃあ、蒼汰が彼女に手を出したりするなんて、思えないが……。
(ううう、わかってても、こういうのってそわそわするな)
ギャラリーが固唾をのんでいると、蒼汰の冷静な声がした。
「なんのつもりですか?」
「なんのって……もう、わからないふり、しないでください……」
さらに距離を詰める三輪。
すると蒼汰の声が、少しからかうような調子に代わった。
「もしかして、私を誘惑、なさっているんでしょうか」
「もう、社長ったら……」
距離が短くなっていく中――蒼汰が三輪の方へと手を伸ばした。
(えっ……そうちゃん?)
まさか、と詩音は目を見開いた
それを見て、亮がひそひそ、得意げに言う。
「な? 言ったろ? 社長にとって、お前も三輪も同じなんだよ」
そんなこと、そうちゃんがするはずない。
皆が注目する中――蒼汰は屈んで、伸ばした手で上着を拾って、差し出した。
「落ちましたよ? 三輪さん、でしたっけ」
「――!!」
亮の顔がひきつる。田中は冷めた顔、部長はわかっていたかのような、やれやれという顔をしていた。
「それだけのお話なら、失礼しますね」
三輪は目を見開いたが、すぐに蒼汰に取りすがった。
「ま、待ってください、鹿野社長」
はぁ、と蒼汰はため息をついた。
「うちのマンションの住所、笠原さんに教えたのはあなたですね」
「えっ……そ、そんな事してませんよぉ? だ、第一私がどうやって佐倉さんの引越し先なんて」
蒼汰は落ち着き払ってスマホを取り出した。
「うちのマンションのエントランスの、防犯カメラに写っていたものです。これはあなたですね?」
「っ……!」
「佐倉さんは、引っ越し先をまだ公にしていません。にもかかわらず、この画像の翌日、笠原さんにマンションの前で待ち伏せされた」
蒼汰の声が、冷たくひそめられる。
「……彼女が止めるから、警察沙汰を控えているんですよ? いい加減、我々を放っておいてくれませんか」
詩音でもぞっとするような、ひやりとした声だった。
しかし三輪は、あきらめなかった。
「でっ、でもっ、佐倉先輩は、まだ亮くんが好き、なんですよ? 亮くんだってそうです! 鹿野社長は、ふ、ふたりの邪魔をしているんですよ……っ」
「邪魔?」
「そ、そうです。でも私なら……鹿野社長と付き合ったら、絶対他の人なんて見ません! 佐倉先輩とは違います。 私、社長の事が……!」
三輪がじいっと蒼汰を見上げた。
亮のような男がぐらりとくるような、うるうるとした目に、可憐な表情だった。
しかし、蒼汰はその目を覗き込み――冷たい笑みを漏らした。
「あなたは、佐倉さんの厄介ファンかなにかなんですか?」
「え?」
予想外の言葉に、三輪がとまどう。
「笠原さんの次は、私? 次々と佐倉さんの付き合った男を奪っているじゃないですか」
「ち、ちがいま……」
「でも、ありがとうございます。あなたには感謝していますよ」
三輪が眉をひそめる。
「は……え? 前も言ってましたよね? それ……どういうことなんですか」
「言葉通りの意味ですよ」
蒼汰は冷静な笑みを浮かべたまま、淡々と続けた。
「私と佐倉さんの関係について、あなた方が誤解しているようですから、言いますけど……」
にこ、と蒼汰は笑みを深めた。
「私は小さいころからずっと、佐倉さんを追いかけていました。地元で会社を設立したのは、彼女のためなんです」
「は、はぁ……? し、知り合いだったんですか? 二人とも……」
「そうですよ。聞いていませんか? 私たち、幼馴染だったんです」
「え……」
蒼汰は祈るように目を閉じ、胸に手を当てて語りだした。
「佐倉さんは、私のあこがれの存在でした。彼女はデザイナーになるという夢をかなえるため東京へ……。おいて行かれたと思った私は、ずいぶん落ち込みました。でも、めそめそしていてもしょうがないと気を取り直して、考えたんです。地元に彼女のしたい仕事がないんなら、作ればいいんだ、って」
もはや、三輪の顔から媚びも笑みも消えて、ただただ困惑しているようだった。
が、蒼汰は気にせず語り続けた。
「運よく起こした会社は成功して、私は朝暘社に仕事を依頼しました。期待していなかったとは言いませんが、佐倉さんがデザイン担当になってくれた時は、きっとこうなる運命だったんだと、舞い上がりました。けど――佐倉さんはすでに、婚約者がいた」
蒼汰は悲し気に微笑んだ。
「それなら仕方ない、と僕は身を引こうと思ったんです。彼女が幸せなら、それでいいと思っていましたから」
その切ない微笑みに――後ろの田中も部長も、なぜか深く感じ入ったように蒼汰の話を聞いていた。
「へぇ~、すごい、ドラマみたいっすね」
「知り合いと聞いてはいたが……こんなことがあるんだなぁ……」
一方詩音は、蒼汰の発言に驚いていた。
(そうちゃん……シュガードロップ設立には、おじいちゃんたちのためだけじゃなかった、ってこと……?)
新幹線での別れ際、言っていた言葉がよみがえる。
『僕が会社を作ったのは、しーちゃんのためなんだよ』
――蒼汰は、詩音の夢をかなえるために、ずっと動いてくれていたのか。
もっと昔の、小さい蒼汰の声もよみがえる。
『いつか、うちのしずく屋のいちご大福の絵も、描いてよ!』
おせんべいの広告――あんな子供の時に語った、夢物語のような話だったのに。
(シュガードロップを立ち上げた動機のひとつが……私だった、なんて……)
詩音が内心胸を熱くしているのとは逆に、亮は信じられないといった顔をしていた。
「う、うそだろ……あの社長が、そんな……」
詩音はすっと冷めた気持ちで彼を見上げた。すると笠原は苦しまぎれに詩音につっかかってきた。
「な、なんで説明しなかったんだよ! そういう仲だって……!」
詩音はため息をついた。
「そっちが決めつけてきたんでしょう。私が騙されて、遊ばれてるって……それに」
詩音はマスクの下で、ちょっと辟易としながら言った。
「あんな人と……いきなり、結婚を前提にして真剣交際してます、なんてまぁ、たしかにいかにも嘘みたいだし、言わなかったんだけど」
ちょっと唇がほどける、マスクの下だからいいか。
「義理堅いというか、愛が重いというか……小さいころから、そうちゃんは一途すぎるタイプで」
「そ、そうちゃん⁉」
驚く亮に、詩音はため息をついてみせた。
「だから彼が浮気とか、ありえないんだよ」
そして詩音は、亮にはっきりと言った。
「そういうわけだから、あなたとの復縁は、何があっても無理です。社長が許さないし、私は彼の事が好きだし。わかった?」
すると亮の顔が、怒りにぐっと歪んだ。
「こ、この――っ」
詩音は思わず身構えたが、それでも強気に見返した。
「もとはといえば! 亮の浮気のせいでしょ。あなたは三輪さんを選んだんだから、彼女とちゃんと向き合う責任があるよ」
厳しいが冷静な詩音の言葉に、亮はぐっ、と唇を噛んだ。
詩音はさらにダメ押しした。
「これ以上私を追いかけるんなら――さすがの鹿野社長も、手段選ばなくなってくると思うよ、だって……」
こんな事を言うのは口はばったいが、亮にあきらめてもらうため。
詩音は頬が赤くなるのをこらえて、言い放った。
「だって……私のために、会社作っちゃうくらいの人なんだから」
すると亮は、うぐ、とうめいたあと――肩を落とした。
「………わかったよ」
よし、やっと認めたな。
扉の向こうでは、蒼汰がまだ、三輪に対して説明を続けていた。
「あとはあなたもご存じの通り、笠原さんとのトラブルにより家がなくて困っていた佐倉さんを助けるため、家へと招きました。そしてそこから――正式に交際することになりました」
そこで蒼汰は、三輪に向き直った。
「どうですか? これで納得してもらいましたか」
今度は彼が、彼女の方に一歩踏み出した。
「ある意味で、あなたには感謝していますよ、三輪さん。だけど――
佐倉さんに対してこれまでしたこと、今しようとしたことも――私は忘れませんし、許していませんよ」
すると蒼汰は、おもむろに詩音たちのいるドアの方を振り向いた。
「ねぇ、鈴木さん」
呼ばれた鈴木部長はびくっと肩を震わせた。
(え? どういうこと? なんで部長がここにいるって知って――)
しかし部長は潔くドアを開けて入っていった。
「まったくこんな事が――ウチの社員どもが、ご迷惑を――重ね重ね申し訳ない」
蒼汰は無表情で言った。
「いえ、鈴木さんが頭を下げる必要はありませんよ」
そして三輪と、その向こうにいる笠原を見た。
「っ、ち、違います鈴木部長、私はただっ……謝罪、したくて」
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