王子様、あなたの妃にはなりません!

小達出みかん

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第二部 新婚生活の騒動

その淑女ふしだらにつき(2)

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「リリー、昨日はすまない」

「聞きましたわ。これから視察ですって?」

「そうだ…昨日の今日で…って、誰に聞いたんだ?」

「ご丁寧に、カリーナさんご本人が来て今説明してくれましたわ」

「なんだって、この部屋に?」

「そう、何の断りもなく。おかげで私すっぴんを見られてしまいましたわ」

 ルセルの目が吊り上がった。

「なんて無礼な!余もまだ見ておらぬというのに!!」

「さすがに不作法がすぎますわ。ま、后様の大事なお客様ですから我慢しましたけれど」

「余もまだ見ておらぬというのに!不愉快だ!まったく、まだ余も見ておらぬのだぞ…」

 何回も同じことを繰り返す彼に、ささくれだっていたリリーの心は少し和んだ。

「そ、そんなに怒らなくても」

「まったく、ここ最近で一番腹が立ったぞ」

 ルセルはリリーの顎をつかんでキスをした。そのまま強く抱きしめられる。

「また数日会えない…だから」

「今?」

 そうだ、するなら今しかない。リリーもルセルの背に手をまわした。最初であったときより少し大きく、硬くなった背に。

「いいですよ、ルセル様…」

 が、もちろんその時ドアがノックされた。
「ルセル様―ぁ!こちらですか?」

 ルセルはちッと舌打ちした。

「なんだあの女は!図々しいにもほどがあるぞ」

 半ば予測していたリリーは肩をすくめた。

「まぁ、しょうがありませんわ」

「いいや、出るな。無視すればいい。余は昨日からずっと我慢してたのだぞ。もう限界だ」

「まぁ、もう我慢できないと…?」

 ルセルはこくんとうなずいた。

「リリー様!いらっしゃらないの?開けますわよ!」

とりあえず彼女から逃れねば。リリーはクローゼットを開け、そこへルセルを手招きした。
隠れると同時に、扉が開いた。

「あら、リリー様?おかしいわね…先ほどルセル様も入っていくのを見たのだけれど…」

 彼女はいぶかしがりながら部屋を歩きまわっている。ルセルはぶつぶつ文句を言った。

「この部屋は余しか出入りを許していないのに!まったくなんて女だ…」

「しーっ、ルセル様」

 リリーはそっとルセルの耳元でささやいた。ぴくんとルセルの肩がうごいた。

「せっかくですわ、じっとしてて…」

 前より少したくましくなった彼の体は、敏感さは変わらないままだ。リリーはそうっとルセルの足の間に手を伸ばした。

「だ…ダメだ、こんなところで…」

「あら…新鮮ですわ、久々にそのセリフ、聞きました」

「な…茶化すなよ、あっ…」
「すごい。もうこんな硬くなって」

「んっ…や、やめっ…余は…余はちゃんと」

「ちゃんと?」

「リリーに入れたいのだっ…だから…手を、手を止め…あっ…」

 声が聞こえたのか、足音がこちらに向かってきた。

「しーっ」

 そういいながらも、リリーは手を緩めなかった。本当にルセルの体は素直だ。スポンジのようにリリーの与える刺激を吸収して、反応する。

(なんだかここも、前より少し成長してるような??)

「っ…ふ…っ」

 たぶん歯を食いしばっているのだろう。暗闇のなか、抑えた息遣いが熱くリリーの耳元に聞こえた。リリーはそうっと鍵穴を覗いて外を確認した。あきらめのか、カリーナは背を向けて出ていくところだった。涼しい顔でリリーは告げた。

「ルセル様、もう大丈夫ですわ、でましょう」

「っ…リリー、お前というやつは…!」

 出た瞬間、ルセルはリリーを床に押し倒した。

「止めろといったのに!もう容赦しないからな」

 ルセルの手がリリーのスカートを手早くたくし上げた。リリーはされるがままに足を広げた。もう時間がないだろう、だからその前に。

「いいです、容赦しないで。私を思いきりやっつけてください、ルセル様」

 少し前まで自分の意のままだった彼に、今はこうして支配されている。いや、自分からお腹を開いて服従している。それはぞくぞくする快感があった。

「言ったなぁ!」

 ショーツのリボンをほどくのももどかしく、ルセルはそれをはぎ取り中に自分のものを押し入れた。

「は…っ…あっ、きつい…っ」

 まだ入り口があまり濡れていないせいだろう。だけれど体の奥はもう熱かった。そう、ルセルとなら、なぜか痛みも気持ちいいのだ。それはリリーにとっても初めての感覚だった。

「ルセル様…もっと」

 硬く熱いルセルの一部。ぶつかり合うお互いの体温。リリーはそれを感じながら頭の芯がぼうっとしたようになった。

(ああ…化粧室の床で、ドアに鍵もかけずこんなこと…。でも、止めたくない…気持ちいい…)

「あっ…リリーっ…もう、もういくっ…!」
 
 本当に我慢の限界だったルセルは、すぐにいってしまった。はぁはぁ息をつく彼を、つながったままリリーは抱きしめた。

「ああ、服が邪魔…ルセル様と裸で抱き合いたい」

 ルセルはふいを突かれたような顔をしたが、次の瞬間破顔した。

「まったくリリーは、そんなこと言うな」

「あら…本心を言ってはだめですか?」

「…もう一回したくなるではないか」

(してください。出発する前に、全部ルセルさまの、私の中に)

 と、思ったが、さすがに言えなかった。

「はぁ…本当に、何度やっても、リリーのことはわかりきらない」

 おでこに軽いキスをして、ルセルはリリーから体を放した。

「帰ってきたら、また研究させてもらおう」

 リリーは笑いながらルセルの衣服を整えた。
「すっぴんの研究はなしですよ。あと視察の間は…気を付けてくださいね。信じていますけど」

「そうだな。どんな姑息な手を使ってくるかわからないからな…」

 リリーはベルトをきゅっとしめて言った。

「これをまた解くのは私ですからね。他の人が触らないように、念じておきますわ」




 ルセルが留守にしている間、どうせ城に居ても后やあの父にチクチクいじめられるだけだ。リリーも行動を起こすことにした。

「はぁぁ、一人で出かけるなんてひさしぶり」

 馬車に揺られながら、リリーは一人息をついた。この間スノウが無事第一子を出産したという手紙があった。ルセルもいないことだし、お祝いを言いに行くという名目でこの機に数日里帰りをする事にしたのだ。
…と、いうのは建前で、本当の行き先はフェルロイ公爵領―アンバーの屋敷だ。

「いきなり訪ねてごめんなさい…相談があって」
 
 夜中にたどり着いた私を、驚くでもなくアンバーは出迎えた。ちょうど宴の最中だったらしく、つややかな濡れ羽色の夜会服を身にまとっている。

「いいや、そろそろ君がくるころかなと思っていたよ。おいで、2人でゆっくり話そう」
 
 ネズミを前にした黒猫のように、彼女の目がキラリと光った。アンバーは屋敷のそこかしこにある隠し扉を開き、リリーを自室の一つへ案内した。重い天鵞絨のカーテンを開くと蠱惑するようなミルラが香った。2人にとっては懐かしい場所だ…。

(この際どうなってもいい…あの后と父に太刀打ちできれば)

 この部屋はすべて深い深紅の調度品で統一されている。見事なレッドオークのテーブルセットの上にはクリスタルの瓶が置かれていた。

「急ぎの旅で妃殿下もお疲れだろう、ほら」

 アンバーは華奢なカットグラスにその琥珀色の液体を注ぎ、リリーに差し出した。

「やめてください、そんな呼び方」

 受け取りながら、私はグラスを口にした。ぴりっとした口触りのあとに深く甘い香りが広がる。上等のウイスキーだ。

「おや、前のようにリリーと呼んでいいのかい?」

「いいにきまってますわ。アンバー」

 彼女は今日は、珊瑚色の輝く紅を差していた。その唇が笑みを形作る。

「とっても嬉しいよ、リリー。また君がこうして来てくれたということが」

「だって…私がこうして頼れるのは、アンバーしかいないんですもの」
 
 うつむいた私を見て、アンバーはふふと笑った。

「聞いているよ、君の窮状は。あの后様は君の御父上を餌に君を陥れようとしているんだろう」

「ご存じでしたか。さすがです」

「大丈夫、知っているのは私くらいのものさ。モーゼット伯の耳にもまだ届いていないだろうよ。で、彼はいくらくらいふっかけてきたんだい」

「1000ミラです」

「ふうん。ずいぶん足元みられたものだね。まぁわたくしならそのくらい、すぐ都合をつけてあげられるけど」

 アンバーは試すように私を見た。

「それはできません。いったん彼のいいなりにお金を渡してしまえば、きっとどんどん要求がエスカレートして、もっと困ったことになる…」

「その通りだよ、リリー。あの男はギャンブル狂いだ。ああいう手合いと約束をしてはいけないと私は教えたね」

「そうですわ。ちゃんと覚えていますよ、アンバーの授業。でもご存じの通り、彼は私の弱みを握ってますから。彼が父と皆に吹聴されれば、ただでさえ悪い私の立場はかなり厳しいことになる。そして后様はそれを望んでいる」

「八方ふさがりだね。で、リリーはどうするつもりだい?」

「…大本を断てないかと考えていました」

「ふむ。大本とは?」

「彼の借金した相手になら、あの男も言うなりになるはず。だからその相手を知りたくて。アンバーなら、そういったお金の流れには詳しいかなと思って」

「たしかに私は金貸し業もしているからね。1000ミラを、あの子爵にギャンブルで、ね…。うん。たしかに数人、心当たりがあるね」

「本当ですか?」

 私の顔が輝いた。彼女はにっこり笑った。

「ああ、調べてあげよう。ただ少し日数がかかるから、ここで待っててはもらえないかな?」

 いいながら、アンバーは私の顎をそっと持ち上げた。私はうなづいて目を閉じた。

「ええ、もちろんです」

「君は今でも、私が好きかい。打算を抜きにして」

 めずらしく真剣な口調に、私は目を開けた。アメジストの目がまっすぐ私を見つめている。彼女に嘘やごまかしは通用しない。

「今の私を作ったのは、あなた。そして私を真に理解してくれるのは、あなただけ。怖いところもあるけど…あなたを理解できるのも、また私くらいではないかしら。と思っています。僭越ながら」

 そう言い切ると、彼女は大笑いした。

「ははは!まったくーまったくリリー、君は私を飽きさせないよ。可愛い生徒だ。私の手元から去ってしまったのがつくづく残念だよ」

 彼女は私の髪をなでた。

「でもだからこそ、つながりが切れないようにぎゅっと握っておかないとね。しっかり君の父上の弱みを調べ上げてあげよう」

「ありがとう、アンバー…」

 好きだの、愛してるだのと彼女は一切口にしない。またリリーがそう口にすれば彼女はたちどころに興ざめするだろう。彼女は言葉よりも、いつも現実的な行動をする。それは彼女なりの愛情表現なのだった。
 ある意味で、リリー以上に不器用なところのある女性なのだ。
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