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ソーンフィールド家からの解放
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イライアスはすっとヘンリエッタの手を取って掲げた。
「さすがにその言い訳は通らない。こんな見える場所にまで、虐待の痕跡があるのだから」
バートがさっと顔色を変えて、言い訳をした。
「そ、それはこの女が自分でやったんだ、俺たちを陥れるための、自作自演だ……!」
下種を見るのにふさわしい軽蔑の目で、イライアスはバートをみやった。
「手だけではない。とうてい自分でつけられないような場所にも、あざがあったが」
それを聞いて、ヘンリエッタはびくんと反応した。
(嘘……お尻のあざ、み、見られて……?)
なさけなさとはずかしさでうつむくヘンリエッタだったが、イライアスは意に介さず続ける。
「というわけで、彼女の身柄は、陛下のしもべたるこの私が保護・監督を行っている。あなたがたにはもう、かかわりのない事だ。お引き取り願いたい」
しかし、3人は動かない。悔し気ににらみつけるニックが最後のあがきで言う。
「ふん! ケチな宰相様だ! 貢物にしっかり手をだしておきながら、駄賃も払う気がないなんてな!」
バートもじっとヘンリエッタを見ていた。そのまなざしは今まで見た中で一番醜く恐ろしかった。
「覚えていろ……クズの淫売の分際で、俺をコケにしやがって」
ヘンリエッタを守るかのように、その前にイライアスが出る。
「驚きを禁じ得ないな。そのような言葉を耳にするのは、この私にしても初めてだ。都の貴族の方々というのは、もっと高貴な言葉を使うものと思っていたが――それは田舎者の先入観にすぎなかったようだ」
ちらりと3人をみやって、わずかに冷たい笑みを口の端に浮かべる。
痛烈な皮肉に、3人はぐっと身体をこわばらせ、言葉をひっこめた。
それを見て、すっと冷たい笑みを納め、低い声でイライアスは告げた。
「さて、もう一度言う。お引き取り願いたい。三度目はないぞ」
すごすごとソーンフィールド家の者たちが出ていき、ヘンリエッタは書斎を出てあたりを見回した。
「レイズ……! レイズさん、大丈夫……!?」
するとイライアスが言った。
「平気だ。彼女は念のために、助けを呼ぶ使いに走らせた。が、もうその必要もないな」
イライアスは外に待機していた御者に、彼女を呼びもどしてくるよう告げた。
その冷静な横顔を見ながら、ヘンリエッタのひざはへなへなとくずれた。
(怖かった……あ、あ、でも、よかった……)
安堵と怖さ、そして、イライアスに対しての申し訳なさで、頭の中はいっぱいだ。
「どうした」
ふと振り向いたイライアスの顔は、相変わらず平静でなんの表情もないように見える。しかしヘンリエッタはただただ頭を下げた。
「ありがとうございます、イライアス様。ほんとうに、なんて……なんてお礼を言ったらいいのか……」
ヘンリエッタを助けてくれただけではない。あの恐ろしい家族から守って、縁まで切ってくれたのだ。
「私では、きっと、一生かかってもできないような事を、していただいて……」
自分だけではない。奴隷売買禁止法だけでも、いったいどれほどの人たちが、イライアスによって助けられたんだろう。そう思ったヘンリエッタは、感謝と尊敬の気持ちがあふれて、床にひれ伏したいような気持ちだった。
どうすれば、この人に報いる事ができるだろう。ヘンリエッタは考えて、深く頭を下げた。
「イライアス様は、お優しくて、ご立派な方です……! この御恩に報いたいと思います。私のできるかぎり、精一杯お仕えしたいです。どうぞこれからも、使用人としてお使いください……!」
しかしイライアスの表情は変わらなかった。どころか――わずかに陰った。その眉間にはわずかながらいら立ちのような影が感じとれた。
ヘンリエッタはよく考えもせず口にしたことを後悔した。
(な、なにを言ってるの、私は……! 私ごときがお仕えしますといったって、邪魔なだけかもしれないのに……!)
固まって冷や汗を流すヘンリエッタに、イライアスは背を向けて言った。
「私は優しくなど……ない。今後そのような事は一切口にするな」
「さすがにその言い訳は通らない。こんな見える場所にまで、虐待の痕跡があるのだから」
バートがさっと顔色を変えて、言い訳をした。
「そ、それはこの女が自分でやったんだ、俺たちを陥れるための、自作自演だ……!」
下種を見るのにふさわしい軽蔑の目で、イライアスはバートをみやった。
「手だけではない。とうてい自分でつけられないような場所にも、あざがあったが」
それを聞いて、ヘンリエッタはびくんと反応した。
(嘘……お尻のあざ、み、見られて……?)
なさけなさとはずかしさでうつむくヘンリエッタだったが、イライアスは意に介さず続ける。
「というわけで、彼女の身柄は、陛下のしもべたるこの私が保護・監督を行っている。あなたがたにはもう、かかわりのない事だ。お引き取り願いたい」
しかし、3人は動かない。悔し気ににらみつけるニックが最後のあがきで言う。
「ふん! ケチな宰相様だ! 貢物にしっかり手をだしておきながら、駄賃も払う気がないなんてな!」
バートもじっとヘンリエッタを見ていた。そのまなざしは今まで見た中で一番醜く恐ろしかった。
「覚えていろ……クズの淫売の分際で、俺をコケにしやがって」
ヘンリエッタを守るかのように、その前にイライアスが出る。
「驚きを禁じ得ないな。そのような言葉を耳にするのは、この私にしても初めてだ。都の貴族の方々というのは、もっと高貴な言葉を使うものと思っていたが――それは田舎者の先入観にすぎなかったようだ」
ちらりと3人をみやって、わずかに冷たい笑みを口の端に浮かべる。
痛烈な皮肉に、3人はぐっと身体をこわばらせ、言葉をひっこめた。
それを見て、すっと冷たい笑みを納め、低い声でイライアスは告げた。
「さて、もう一度言う。お引き取り願いたい。三度目はないぞ」
すごすごとソーンフィールド家の者たちが出ていき、ヘンリエッタは書斎を出てあたりを見回した。
「レイズ……! レイズさん、大丈夫……!?」
するとイライアスが言った。
「平気だ。彼女は念のために、助けを呼ぶ使いに走らせた。が、もうその必要もないな」
イライアスは外に待機していた御者に、彼女を呼びもどしてくるよう告げた。
その冷静な横顔を見ながら、ヘンリエッタのひざはへなへなとくずれた。
(怖かった……あ、あ、でも、よかった……)
安堵と怖さ、そして、イライアスに対しての申し訳なさで、頭の中はいっぱいだ。
「どうした」
ふと振り向いたイライアスの顔は、相変わらず平静でなんの表情もないように見える。しかしヘンリエッタはただただ頭を下げた。
「ありがとうございます、イライアス様。ほんとうに、なんて……なんてお礼を言ったらいいのか……」
ヘンリエッタを助けてくれただけではない。あの恐ろしい家族から守って、縁まで切ってくれたのだ。
「私では、きっと、一生かかってもできないような事を、していただいて……」
自分だけではない。奴隷売買禁止法だけでも、いったいどれほどの人たちが、イライアスによって助けられたんだろう。そう思ったヘンリエッタは、感謝と尊敬の気持ちがあふれて、床にひれ伏したいような気持ちだった。
どうすれば、この人に報いる事ができるだろう。ヘンリエッタは考えて、深く頭を下げた。
「イライアス様は、お優しくて、ご立派な方です……! この御恩に報いたいと思います。私のできるかぎり、精一杯お仕えしたいです。どうぞこれからも、使用人としてお使いください……!」
しかしイライアスの表情は変わらなかった。どころか――わずかに陰った。その眉間にはわずかながらいら立ちのような影が感じとれた。
ヘンリエッタはよく考えもせず口にしたことを後悔した。
(な、なにを言ってるの、私は……! 私ごときがお仕えしますといったって、邪魔なだけかもしれないのに……!)
固まって冷や汗を流すヘンリエッタに、イライアスは背を向けて言った。
「私は優しくなど……ない。今後そのような事は一切口にするな」
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