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家出した少女は自由を手に入れ 再び囚われることを望みました短編読み切り

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住宅街の一角に
ひときわ目を引く広い屋敷があった

屋敷の庭には
主の一人娘が
何か退屈そうに空を見上げていた


(この塀の向こうには
  どんな世界が広がっているんだろ……)

私の名前は凛音(リンネ)
私は生まれてこの方
病弱故外に出ることは出来ず
専属の医者をつけるほどの
箱入り娘として大事に育てられていた

屋敷の塀は自分の背を追い越すほどの高さ
門だってソレは同じ
厚い絶壁の扉で塞がれている
だから空以外は何も見えなかった

(何か聞こえないかな……)

音もたてず
じっと耳を澄ましていると
向こうから車の走ってくる音が聞こえてくる

お父様が外出するときに乗る車と
  同じ音だから多分アレも車ね

自動車は急ブレーキをかけると
ドアを開け足音を響かせる
そして地面に何か荷物のようなものを置いた

一体何を置いたんでしょう……
  ガサってなったような

車が去った音がした後
遅れて鳴き声のようなものが聞こえていた

「にゃあぁ…にゃあぁ…」

にゃあ?って……
  もしかして!

私は慌てて部屋に戻り
動物図鑑を手にして
ページを開いた

「あの鳴き声……きっと猫だわ」

再び庭へと戻ってくると
まだ猫の声は聞こえる

何か
おかしい…
もしかして
助けを求めているのかも


気になった私は
両親の言いつけを破り
門の外へと出ることにした

元々信頼されていたから
監視もゆるくお手伝いさんたちの
目も行届いていない……

内カギになっているだけの門を開き
外の景色を初めて目にする

「わあぁ……」

凄い…
屋敷とは違って
不思議なものが
道のあらゆる所にたっている

どこまでも遠くへ続く街並み
そして生まれて初めて見る猫を見つけた

その猫は白い毛並みで
段ボール箱に入れられている

箱には貼り紙に
“拾ってやってください”と
だけ書かれていた

「もしかして捨て猫なの…?」

「にゃぁ……」

元気がないみたい……
当たり前…ですよね

捨てられたんですもんね…

捨てられたことを理解していなくても
飼い主の方が
目の前に居なくなったら
辛いですよね……

「お腹……好いてないですか?
  私が何か食べれそうなもの
持ってきてあげますね!」

その場の勢いで
私は猫に冷蔵庫の中から持ってきた
牛乳を器の中にいれ猫に与えた

猫はすぐに
器へと顔を近づけ牛乳を飲みだした


「よかった……
  気に入ってくれたみたいで♪」


嬉しくなった私は
いつまでも猫を見つめていた

「一緒に暮らせたらいいのに…」

そしてすっかり
内緒で屋敷の外に出ていたことも
忘れていた……

「一体屋敷の外で
何をしているんだ…?
  凛音」


「おっお父様!」

気が付くと私の後ろには
お父様が立っていた


「お嬢様~!」
ソコへお手伝いさんが慌てた表情で
屋敷の外に出てきた

私とお父様を見つけ
お手伝いさんは青ざめる

「だっ旦那さま!」


「言いつけも守らず
  誰が来るかもわからない危ない道端で
  何処から来たのかもわからない
   捨て猫を触るなんて……
何のためにお前を大事に育てているか
  わからないのか!

お前の病気が悪化しないためなんだぞ」


「言いつけを破ったことは
謝ります…すみませんでした

…でも
  この猫は捨てられていたんですよ!
可哀そうだと思わないんですか
病原菌みたいに言わないでください!」

「旦那様!
全て私の責任でございます

お嬢様が外に出られてるとも
気づかず…
本当に申し訳ござません!」


「お前は黙っていろ
  この件は全て凛音がいけないんだ
ふっ…わざわざ牛乳を飲ませたのか

……いくら可愛げがあっても
不憫に思えても中途半端な情けは
この生き物を不幸にするだけだ
仮に一生分の愛情を与えるとしても
 私はこの猫を家には迎え入れたくはない」


「どうしてですか……お父様」

「深い愛情を与える人間は
決まって心にスキマを持っている
愛しい者を亡くしたもの
愛そうと思った者が出来ず
愛情を持て余している者
そんな者は
この猫を猫としては愛さないからだ」


「でも世の中お父様が言う
そんな人間ばかりじゃないと私は思います
……それともお父様は
その枠の中に入る人間なのですか?」

「今は違う
お前と私と母親がいる
幸せな家庭だからな

でもいつか猫を猫として愛さない日が来た時
その猫は猫以外の何かになるんだ
そんなもの……見たくないだろ?」

「そんな童話みたいな作り話
  信じません!
  ……私だってこうして外に出ていても
お父様がお帰りになるまで何事も無かったんです!
 これからは外出をさせてください!」

「ダメだ…それはできない」

「なら勝手に出ていきます!
  そのほうが今よりも健康になるわ!」

「家出か…猫がネコとして愛されないように
仮に家を出たお前が私たちに愛されないまま
私たちを忘れてしまえば
 お前もオマエ以外の存在に変わるだろう……」

「これは仮じゃないです!」

私はお父様から少しずつ離れていく

でもお父様は動じることなく
……

「さよなら私の娘よ……」

門へと入って行った

っ!
……お父様

私は
なりふり構わず
そのまま夜の街へと
駆けて行った


私が消えてから
三週間後

屋敷の前に置き去りだった
段ボールの中に薄汚れた少年が一人
座り込んでいた

「……」

すると屋敷の門が開き
一人の髪の白い少女が出てきた
彼女は猫のような耳と
長い尻尾を生やしていた

「ではお気をつけて
  ……凛音お嬢様」

「はいっ行って参ります♪」

お手伝いさんに見送られると
彼女はこちらへと進んで歩いてくる

そして無人だった段ボールに
少年が入っているのを見つけた

気さくにも少女は
汚れてうずくまっている少年に
手を差し伸べた


「ねぇ……アナタ
  私と一緒に暮らさない?

実はね……私もホントは捨てられていたの
でもこの屋敷の女の子が
私に優しくしてくれた
そしてお父様が
家に帰ってこなくなったその子の代わりに
大事に育ててくれたんだ
私はその子の形見だって……言ってた
後悔してるんだって
外には出せない分
猫ぐらい飼ってあげればよかったって…」

しんみりとした空気が流れると
少年が口を開きかすれた声で応えた
「……ぼくも…そういう事
  憶えてる気がす……る

むか…し
こんなような……やしき
の近くで…捨て猫に牛乳を
あげて……」


「……!」

何かを悟った
少女は途端に涙を流した

「あなた…まさか!

……ほんとうに?」


彼の額にそっと手をやり
前髪をあげ確認すると
捨てられた日に出会った
あの少女と同じ顔をしていた

間違いないと
彼女は少年に抱き着く
「会いたかった……

おかえりなさい
凛音ちゃん!」

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