14 / 57
2号とリオン
しおりを挟む俺は何か面白い「遊び」でも仕掛けようと、屋敷の中をリオンを探して歩いていた。
だがあいつは、いつもいるはずの書斎にも、寝室にも、シアタールームにもいなかった。
(どこ行ったんだ?)
俺は少しだけ、面白くない気分になった。俺の犬が、俺の知らないところで、何をしているのか。
その時リビングの方から何か人の声がするのに気が付いた。
低い、囁くような声。来客の予定はないはずだ。
俺は猫のように音もなく、そっとリビングのドアの隙間から、中の様子を覗き込んだ。
そして俺は信じられない光景を目にすることになる。
リオンがいた。
あいつは床に行儀よく膝を抱えて座り込み、テーブルの上に置かれた金魚鉢をじっと見つめていた。
そして、その金魚鉢に向かって、話しかけている。
その声は、俺や、他の部下たちと話す時の、あの、ぶっきらぼうな響きではなかった。
もっと素直で静かで、そしてどこか疲れたような、穏やかな声だった。
「……今日の昼飯、また甘いもんだった。フルーツサンド。あいつ、俺が甘いもの好きだと思い込んでるらしい。……まあ、別に、嫌いじゃねえけど」
「……庭の、薔薇が咲いてたぞ。白いやつだ。……お前の、ヒレみたいで、綺麗だった」
俺は息を呑んだ。
俺以外に、話し相手が、いないから。
だから、金魚に、話しかけているのか。
俺が「リオン2号」と名付けた、ただの金魚に、一日の報告を。
……なにそれ。
健気すぎて、哀れで、そして。
最高に、可愛いじゃん。
屋敷の使用人たちは、むやみにリオンに話しかけない。やりとりは最小限。下手なことをして俺の怒りを買う事態を恐れるためだ。
リオンはこの屋敷では腫れ物のように扱われている。それを俺は知っていた。その状況は、あいつを俺に依存させるためには、とても好都合だったから。
それによってこいつは、こんなにも孤独で、そして、こんなにも可愛らしい生き物になってしまったのだ。
俺はその光景に、腹の底から、どうしようもないほどの愛おしさが込み上げてくるのを感じた。
あいつに気づかれないように、そっとその場を離れる。
この秘密の光景を邪魔するのは、あまりにも、もったいない。
俺は書斎に戻ると、ソファに身を沈め、込み上げてくる笑いを必死でこらえた。
ああ、なんて、可愛いんだろう。俺の犬は。
俺がいないところでは、金魚に、話しかけちゃうんだ。
俺は決めた。
この事実は、もちろん、あいつには教えてやらない。
これは俺だけの新しい秘密。
いつかあいつをどうしようもなくからかってやりたくなった時のために、大切に、大切にしまっておこう。
■あとがき■
2号は妙に人懐っこい。誰かしら人間が来るとすいっと近づいてくる。
自分の顔を見ると寄ってきてくれるので、リオンは2号が好き。
読んでいただきありがとうございました!
※次回更新予定は11/21(金) 20:00 です。
いよいよ寒くなってきました。ペットの皆様も暖かくしてお過ごしください。
―――――次回予告―――――
「せっかく可愛い声してるのに」
第12話『声 * 』
0
あなたにおすすめの小説
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる