【マフィア×元軍人】 狂犬を躾けたら、ピカピカの可愛い「愛犬」になったでしょ?

あすぱら

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踊り子の服2 リオンの感想

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 主人は、高名だという二人の老職人と共に書斎へと消えていった。
 俺は「入っちゃダメだよ!」という理不尽な命令により、書斎から追い出されている。
 まだ整理したい書類が山ほどあったのに。
(……どうするかな)
 書類整理も要点まとめもスケジュールの調整も、客人のもてなしも、主人の暇つぶしも。今日はできない。
 久々に手持ち無沙汰だ。
 主人は中でどんな悪巧みをしているのか。書斎の分厚いドアの向こう側からは、何の音も聞こえはしない。
 広いリビングは静かだった。
 聞こえてくるのは、壁にかかった大きな振り子時計の規則正しい音だけ。
 俺は、その退屈な静寂の中で、テーブルに置かれた一つのガラスの器に視線を向けた。
 俺の唯一の「親友」がいる、その場所へ。
 ​俺は静かに金魚鉢へと歩み寄った。
 その前に、ゆっくりとしゃがみ込む。
 鉢の中ではリオン2号が、俺の気配に気づいたのか、ひらひらと尾びれを揺らしながらこちらへと寄ってきた。
 その小さな黒い瞳を見つめて。俺は誰にも聞かせるつもりもない、小さな声で、愚痴をこぼした。
​「……おい、2号」
「……」
「あいつ、ルカ。また馬鹿なことを始めたんだぞ」
 ​2号はただ、ぱくぱくと口を動かしている。
​「今度はなんだ、『踊り子の服』だそうだ。映画で見たのが欲しくなったとか、そんなくだらない理由で」
「また高い金を使って、ろくでもないものを作らせている。……お前何匹分になるんだろうな。お前一匹の方が、よっぽど、いいのに……」
 ​俺は深く、ため息をついた。
​「まあ、どうせその馬鹿げた服を着せられるのは、俺なんだけどな」
「……お前はいいよな。ずっと、裸でいられて」
 ​俺のそのあまりにも情けない愚痴に、2号は答えるでもなく、ただ静かに水の中でたゆたっている。
 それでよかった。
 ただこうして、聞いてくれるだけでいい。
 彼は、この狂った屋敷の中で、俺が唯一本音をこぼせる相手なのだから。
 やがて書斎の扉が開く音がするまで。ずっとそうして、俺はたった一人の親友と、静かな対話を続けていた。



 数日後。屋敷の衣装部屋には、ピンと張り詰めた空気が漂っていた。
 部屋の中央、一段高い台座の上に立たされているのはリオンだ。
​「少し、胸回りが浮きますね。息を吐いてください」
 ​デザイナーがリオンの背中に回り込み、仮縫いの黒革を容赦なく締め上げる。
 リオンの口から、苦悶とも艶めいた吐息ともつかない低い音が漏れた。
「動かないでください」
「……はい」
 リオンは、これから自分があの映画の踊り子と同じような衣装を着せられるのだと、ぼんやりとそう思っていた。
 映画の中の踊り子は、防御の弱そうな上半身に、ふわりとしたズボンを履いていたはずだ。
​(……まあ、あのズボンなら、動きやすそうではあるか)
 ​そんな、どこか見当違いの感想を抱きながら、リオンはされるがままになっていた。
​「失礼」
 今度は宝飾職人が、リオンの腹部に冷たい指を這わせた。
「ここから、こう……」
 独り言をつぶやきながら、職人の節くれ立った指先が、リオンの腹直筋の溝をなぞり、さらに下、腰骨の出っ張りへと滑り降りる。
 くすぐったさと、生理的な嫌悪感、そして羞恥。戦場で傷の手当てを受けるのとは訳が違う。
 しかしこれも「仕事」だ。
​「ルシアン様、太ももの装飾ですが」
 デザイナーがリオンの太ももに、掌でぺたりと触れる。リオンの肩がびくりと跳ねた。
「この位置でいかがでしょう? あまり上すぎると、動きに支障が出ますが」
「ああ、いいよ。そこなら座った時にちょうど、隙間から見えるだろうし」
 ルシアンは他人事のように答える。
​「では、寸法を」
 デザイナーはメジャーを太ももの付け根、一番太く、柔らかい部分へと回した。
 内股の敏感な皮膚に、他人の指が食い込む。
「ッ……!」
 リオンがわずかにのけぞった。
「動かないでくださいね」
 職人の叱責は冷淡だ。そこにあるのはただ完璧な作品を作ろうとする職人のプライド。
「はい……」
 他人の仕事の邪魔をしてはいけない。しかし、そんな内側に触れられるのは……
(……だいたい、太ももの装飾ってなんだ……?)
 あのゆったりした裾絞りのズボンを作るのに、太ももをメジャーで測る必要があるのだろうか。
「さあ、次は後ろから失礼しますよ。お尻のラインを確認します」
 なぜ尻のラインを。
(……金持ちの作る服って、そういうもんなのか?)
 リオンの今までの人生において、高額の衣服を特注した経験などない。
「……はい」
 彼はただ、これもまた主人に与えられた新しい「仕事」なのだと、そう自分に言い聞かせ、職人たちが寄ってたかって自分の身体をまさぐる屈辱的な採寸の時間を、無表情のまま耐え続けていた。

 彼が、最終的に、自分がどのような倒錯の極みのような衣装を着せられることになるのか、その全貌に気づくのは、まだもう少し先の話である。



■あとがき■
リオンはちょっと天然なところがある。


読んでいただきありがとうございました!

※次回更新予定は1/21(水) 20:00 です。
作者は執筆がとっても楽しいです、この『踊り子の服』編。


―――――次回予告―――――

箱の中身は宝石箱のようだった。
黒い革の光沢。大小様々なルビーと、金の鎖と鈴の輝き。そして、血のように赤い布地。
それらが整然と並べられている。
「すっごいエッチじゃん!」

第48話『踊り子の服3 完成品』
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