50 / 57
踊り子の服3 完成品
しおりを挟む二週間後。
最高の職人たちにデザインから作らせた、世界一の「傑作」が、ついに完成した。
俺はリオンを寝室に呼ぶと、届いたばかりの巨大な桐の箱を、彼の目の前でゆっくりと開帳した。
しゃらん、と。中から軽やかな金属の擦れる音が響く。
「わあー! いいね!」
俺は、その出来栄えに感嘆の声を上げた。
箱の中身は宝石箱のようだった。
黒い革の光沢。大小様々なルビーと、金の鎖と鈴の輝き。そして、血のように赤い布地。
それらが整然と並べられている。
「すっごいエッチじゃん!」
だが、俺の可愛い犬は、その箱の中身をまだ理解できていないようだった。ただ困惑した顔で、革と、鎖と、薄い布の塊を見つめている。
その初心な反応がたまらなく可愛い。
「リオン! 早く! 着て見せて!」
「はあ……?」
彼は、その一つひとつのパーツをまじまじと見つめた。
「……これ、服なのか?」
「服だよ! お前のために作った立派な衣装!」
「どうやって着るんだ、これ……?」
「もー! しょうがないな! 俺が手伝ってあげるから! 脱いで脱いで!」
俺がそう命じると、ようやく観念したらしい。
あいつは深くため息をつき、俺の前で、静かに服を脱ぎ始める。
あらわになったその裸体に、俺は改めて喉を鳴らした。
引き締まった硬い筋肉。その上に、あのジャラジャラとした金のチェーンとルビーが乗るのだ。
吐息に合わせて腹が動くたび、金属が触れ合い、チリチリとかすかな音を立てるだろう。
(いいな!)
待ちきれない。
傷一つないその完璧なキャンバスの上に、俺は一つ、また一つとパーツを組み上げていった。
柔らかな黒革を首の後ろから回し、胸の突起を優しく覆い、背中で紐を引き締める。キツめに締めるとリオンがかすかに吐息を漏らす。
肩を露出させたまま、二の腕から手首までを覆うのは、ふわりと柔らかく膨らんだ袖だ。透ける赤が、腕の筋肉の陰影を艶めかしく浮き上がらせる。
「ふわふわ。可愛いねぇ」
俺はリオンの腰に手を回した。
腰骨の出っ張り。そこに黒革のベルトを引っかける。ギリギリの際どさ。動けばさらに下へずり落ちそうな、危ういバランス。
俺は指先でそのラインをなぞり、リオンの肌がぴくりと反応するのを楽しんだ。
そこから垂れるのは、血のように赤いシルクと、透き通るシフォンの腰布。
歩くたびに太ももと、そのもっと奥があらわになる、天才的なデザインだ。
「パンツは自分で履く?」
黒の繊細なレースのパンティをつまみ上げると、リオンは小さく舌打ちをして、それを俺からひったくった。
胸元の大振りな金細工の中央には、大粒のルビーが暗く妖しく光る。そこから伸びる細い金のチェーンが、あばらに沿ってひたりと揺れる。右の太ももを締め付ける金のリング。手首と足首の装飾には、小さな丸いプレートと鈴が、ぐるりと隙間なく取り付けられている。
目元から下を隠す緻密なチェーンベールで、細かな表情は分からない。
あいつが身じろぎするたびに、あちこちで揺れる鎖と鈴が、しゃら……しゃら……と、音を奏でた。
「はい。これで最後」
俺は、金の細工とルビーが散りばめられた、精巧な頭飾りを手に取った。
あいつの前に立ち、そのシルクのような黒髪の上に、そっと、それを乗せてやる。
額に垂れるルビーの赤。
漆黒の闇の中に、星屑が零れ落ちたかのようだった。
「……うわー、すごい、綺麗……」
俺の口から、思わず本音がこぼれた。
まっすぐ俺を見つめる瞳。
それは、どこか遠い異国の神殿に仕える、年若い男娼のようでもあり。
あるいは、これから祭壇に捧げられる、美しい生贄のようでもあった。
「ほら、動くとこが見たいな! 鏡の前来て! こっち向いて! くるっと回って!」
あいつは鏡に映る自分の姿に息を呑んだ。
恥辱に耳まで赤く染め、かすかに震えながらも、命令通りにゆっくりと、その場で回ってみせる。
ふわりと赤い布が舞い、太ももに嵌められたリングまでがあらわになる。
その静かな動きに合わせて、しゃらり、と。鈴が切ない音を立てた。
「いいね! すっごい、良い!」
俺はそのあまりにも美しく、そして扇情的な光景を、どうしても記録したくなった。
ポケットからスマートフォンを取り出す。
「写真撮っていい?」
あいつは、答えない。
ただ、上気した真っ赤な顔で、涙の膜が張ったその黒い瞳で、俺のことを強く、強く睨みつけていた。
羞恥と、怒りと、それでも逆らえない諦めがないまぜになった、美しい瞳。
ああ、その顔。その目だ。
(最高)
俺はあいつの返事も待たずに、パチリ、とシャッターを切る。
俺の「リオンコレクション」に、新しく最高の一枚が加わった瞬間だった。
黒い革のハーネスが、首筋と、胸を、きつく、締め付ける。
呼吸をするたびに、光沢のある革が肋骨にかすかに食い込み、俺が誰の所有物であるかを身体に刻み込んでくるようだ。
肌の上を、しゃらり、と、冷たい金の鎖が滑る。
胸の中心で、大粒のルビーが、俺の体温を吸って、ぬるりと、光った。その重みと感触は、まるで心臓に何かを突きつけられているような、奇妙な焦燥感を煽った。
腰に巻かれたのは、もはや、スカートとすら呼べない、ただの、薄い飾り布。
透ける赤色の布の奥で、脚の筋肉の陰影と、あのふざけたレースの下着が、ちらちらと見え隠れする。
それは何も隠さず、むしろその向こう側を、いやらしく、強調しているだけだった。
「隠す」ためではなく、「剥く」ために存在する衣服。
しゃら……。
かすかに身じろぎしただけで、付けられた無数の鈴が鳴く。
動けない。
「ねえ。このベール、最高だね」
主人は上機嫌で俺の顔に手を伸ばす。
ルシアンの指先が、俺の頬にかかる鎖を弾いた。チリ、と高い音が鳴る。
「眼がしっかり見えるから。……知ってる? 睨んでるお前って、すっごいセクシーなの」
顎を掴まれて、上向かされる。熱を帯びた頬を柔らかな鎖が滑り落ちる。
ベールが鼻から左右に割れて俺の口元があらわになった。
「キスもしやすい。……最高」
俺が何か言う間もなく、唇が塞がれた。
しゃら、と耳に鎖が流れる音。
唇を割り開き、主人の熱い舌がねじ込まれてくる。
「んぅ……!」
逃げ場はない。
口内をあまさず蹂躙される。ねっとりと絡みつく舌先が、上顎をなぞり、逃げ惑う俺の舌を捕らえて吸い上げる。
「ふ、ぁ……んッ!」
息ができない。
酸素を求めてあえぐ吐息さえも、全て主人に飲み干されていく。
苦しい。
苦しくて思わず主人の胸を叩くと、しゃん!と手首の鈴が鳴る。
ルシアンは俺の唇を舐めあげて、笑う。
「ふふ、可愛い音」
この鈴は、俺の必死の抵抗を、まるで主人を誘う可憐な合図か何かのように、変換してしまうのだ。
「ねえ、リオン。ここもすごいよ。ほら」
楽しそうな主人の手が、逃げようとする俺の身体を押さえつけ、むき出しの腰のあたりを這う。
赤い腰布。その深いスリットに、ルシアンの指が滑り込んだ。
「っ……!」
布をまくる必要すらない。
「分かる? ここ、邪魔なものが何にもないんだ」
太ももの内側。一番敏感で、柔らかい皮膚に、主人の熱い掌が直接吸い付く。
布越しではない、生々しい感触。
びくりと俺の腰が跳ね、しゃん、と腰の鈴が鳴った。
「いちいち脱がせなくていいし、こうやって触りながら……布越しにお前の肌が見えるの、たまんない」
主人の指が、太ももに食い込む金のリングをなぞり、そこからさらに奥、黒いレースの下着へと侵入してくる。
俺がびくびくと震えるたびに、身体中に取り付けられた、鈴とプレートが、しゃん、と鳴る。
「また鳴った。可愛い。正直で」
肌を這う冷たい金属と、身体をなぞる熱い指先。
「ぁ……っ、やめ……!」
「こらこら、ダメだよ」
身体をまさぐる手を掴んで、無理やりに身をよじると、耳元で楽しげなルシアンの声がした。
「暴れないの。高いんだよ? この服」
俺はぴたりと硬直した。
ふんだんに使われた、金細工と、輝くルビー。真っ赤なシルク。緻密な刺繍。繊細なレース。
指先が冷たくなる。
そうだ。この服は、高い。
「ねぇ。すごい良いこと思いついた」
ルシアンは心底楽しそうに笑った。
「この服を壊さないようにさ。よーく注意しながら、お前をめっちゃくちゃにするの。すっごい、スリルあると思わない?」
俺の乱れた呼吸に合わせて、胸元の金細工がチリ、チリ、とかすかなリズムを刻んだ。
「お前も、気をつけてね? 破らないように! チェーンもビーズも、千切っちゃダメだよ」
ルシアンは愉悦に喉の奥を鳴らして、俺の手を引き、ベッドへ導く。
「さて。はじめよっか?」
それはあまりにも、悪魔的な、ゲームの始まりだった。
■あとがき■
リオンは根っからの庶民。悲しいことに。
読んでいただきありがとうございました!
※次回更新予定は1/23(金) 20:00 です。
第50話が、この話で良かったのか…?
―――――次回予告―――――
「あっ、危ない危ない」
ルシアンがわざとらしく警告する。
「今、チェーンが切れそうだったよ? もっと優しく動かないと」
地獄のような時間の始まりだった。
第50話『踊り子の服4 使い心地 * 』
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる