56 / 57
【ハッピーバレンタイン】お誕生日ケーキ *
しおりを挟むその日、屋敷は朝からどこか浮足立っていた。
使用人たちがいつもより豪華な花の飾り付けをしたり、厨房から特別な料理の匂いが漂ってきたりする。
(ああ、そうか)
今日はこの家の主人の誕生日なのだ。
俺は他人事のようにそれを認識していた。
だが、当の主役であるルシアンはパーティーの準備などには一切興味を示さなかった。彼は俺の手を引くと、二人きりで寝室に篭もってしまう。
「ねぇリオン、今日俺の誕生日なんだよね」
ベッドに腰掛けた彼は期待に満ちた金色の瞳で俺を見上げた。
「だからさ、お前から最高のプレゼントが欲しいな」
「……プレゼント?」
高価な時計か、それともどこかの骨董品か。そもそもこいつ、欲しいプレゼントなんかあるのか? 自分で何でも買えるのに? だいたい俺に金なんか無いぞ。俺が内心でそう考えていると、ルシアンはとびきりの笑顔で答えた。
「ケーキが食べたいな! 誕生日ケーキ」
その言葉の意味を俺が理解するより早く、彼はどこからか用意していた銀色のワゴンを押してきた。
その上には、山のように泡立てられた真っ白な生クリーム、艶やかに光るチョコレートソースのポット、そして宝石のように輝く真っ赤な苺やベリー類が、まるでプロの作業場のように美しく並べられている。
「じゃーん! 実はもう準備してあるんだよね」
ああ。なるほど。手料理か。
「……ケーキのスポンジなんか焼いたことないぞ、俺」
(パンケーキなら、こいつに教えられて焼けるようになったが、本格的なケーキの生地なんて作り方が分からんぞ。レシピを調べるところからか?)
主人の誕生日のために、新しい「仕事」を命じられたのだと、俺は真剣に段取りを考えていた。
すると、ルシアンは一瞬きょとんとした後、耐えきれないといった様子で腹を抱えて大笑いし始めた。
「あはははは! 違うよ、リオン! お前、ほんっと可愛いな!」
彼は、笑いすぎて滲んだ涙を指で拭うと、俺に言った。
「ケーキのスポンジは、お前だよ」
その言葉に、俺は完全に思考が停止した。
「……は?」
間の抜けた声しか出てこない。
ルシアンは、そんな俺の反応に満足げに頷くと、無邪気に続けた。
「だから、ベッドに横になって、服脱いでくれる? 」
俺はようやく、奴の意図を理解した。
「……本気か?」
俺の口から、呆れ果てた声が漏れた。
「もちろん本気だよ! だって俺の誕生日なんだから!」
彼は、何の悪びれもなく、最高の笑顔で言い放つ。
その純粋すぎる狂気を前に、俺は抵抗が無意味であることを悟った。
大きく、これみよがしにため息をついてから、言われるがままに服を脱ぎ、ベッドに横たわる。
「ちゃんと仰向けでね! 俺の方を見てて。お前がどんな顔するか、見たいんだから」
ルシアンは、パティシエが使うようなゴムベラを手に取ると、ボウルから真っ白な生クリームをたっぷりとすくい上げた。
「じゃあ、世界で一番おいしいケーキを作るから! まずはお化粧しないと」
ひんやりとした、甘ったるい感触が、俺の胸の上にどさりと落ちる。そして、ルシアンがそれをゆっくりと塗り広げ始めた。
「…………ッ!」
屈辱的だ。馬鹿げている。なのに、なんだ、これは。
彼の指が、クリームを伸ばすために俺の肌の上を滑る。その手つきは、まるでマッサージのようで、ねっとりと、どこまでも丁寧だ。
クリームの冷たさと、それを塗り広げる主人の手の温かさ、そして滑らかな感触。
その奇妙なコントラストが、俺の調教されきった身体に、意図せずして微かな快感を引き起こした。
「……ぅ……く……」
肌が粟立ち、呼吸が知らず知らずのうちに浅くなる。
その変化を、この男が見逃すはずはなかった。
「あれ? リオン、もしかして気持ちいいの? クリーム塗られてるだけなのに。ほんと可愛いねぇ」
彼は、俺の反応を面白がり、さらにゆっくりと、愛撫するようにデコレーションを続けていく。
「胸のここには、真っ赤な苺を飾ろっかな」 「あ、そうだ! チョコペンでお前の可愛いお腹に『Happy Birthday 俺!』って書いちゃおっと!」
彼は、楽しそうに鼻歌を歌いながら、俺の身体にクリームを塗り広げていく。
俺の身体はもはや人間ではなく、ただの「物」、ケーキの「土台」として扱われていた。
全身が、甘い生クリームの匂いに包まれ、俺自身の肌の匂いが上書きされていく。
彼はチョコレートソースで線を描き、ブルーベリーを飾り、銀色のアラザンをキラキラと散らす。
俺は、自分の身体が芸術品のように、あるいはただの食材のように作り変えられていく様を、全て見せつけられていた。
やがてデコレーションを終えたルシアンは、少し離れた場所から自分の「作品」を眺め、満足げに手を叩いた。
「できた! 世界で一つだけ、俺の特製ケーキ!」
そして、彼は俺のすぐそばに顔を寄せる。
「それじゃあ、いただきまーす!」
ルシアンは、まず俺の胸に飾られた苺を、クリームごとぱくりと食べた。その唇が、俺の素肌に直接触れる。
「……つっ!」
チョコレートで肌に描かれた文字を、その熱い舌で、なぞるように消していく。
「……ん、ぅ……は、ぁ……ッ!」
その行為は、単純な愛撫よりも、遥かに官能的に感じられた。
「んー、甘くておいしい。でも、ちょっとだけしょっぱい味がする」
彼は、俺の耳元で囁いた。
「リオンの味だね。最高の隠し味だよ」
俺は、彼の恍惚とした顔を間近で見ながら、「食べられて」いた。ありえないほどの屈辱と、クリームを塗られた時から続く甘い痺れ。身体を舐められる直接的な愛撫。
その抗いがたい快感と、甘いクリームの匂いと味が混じり合い、思考が完全に麻痺していく。
「……ぁ、ああ……ッ! ん、ぅう……!」
ルシアンの「食事」は、徐々に激しさを増し、単なる味見から、俺の身体そのものを貪る行為へと変わっていった。
「……や、……やめ……!……ん、ぅううううッ……!」
すべてを食べ尽くし、生クリームとチョコレートでべとべとになった俺を、ルシアンは満足げに抱きしめた。
「ごちそうさま!」
「今までで、一番おいしい誕生日ケーキだったよ。ありがと、リオン!」
俺は、彼の腕の中で、言い返す言葉もなく。
ただ、戸惑いから始まったこの異常な行為が、結局はいつものように、主人の快楽と俺の服従に行き着いたことを、蕩けた思考の中で受け入れるしかなかった。
■あとがき■
シーツがベッタベタになり後始末は大変だったが、ルシアン様大満足。
リオンにその後一日冷たくされたが、それも含めて、ルシアン様大満足。
読んでいただきありがとうございました!
バレンタインは何しても良い日だって聞いて…
まあそしたらお誕生日の話になってたし、バレンタイン過ぎてたんですけれども…
ルシアン様ハッピーバースデー!!!(やけくそ)
0
あなたにおすすめの小説
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる