【世にも奇妙なログイン:葬と千怨の除霊記】

異灯(IT-o)

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霊体10×01葬:『起源の神社と、血塗られた十円玉』

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 降りしきる雨の音。


 千怨が降り立ったのは、昭和の終わりを思わせる、湿り気を帯びた古びた神社だった。

 社殿の隅、膝を抱えて震えている一人の少年がいる。幼き日の実兼 葬(じつかね そう)だ。

 その周囲には、不気味なほど大量の「文字」が浮かんでいた。



「……あ、ああ……。聞こえる……。みんなの『死にたい』が、全部聞こえてくる……」



 少年・葬は、生まれながらにして人の負の感情――現代で言うところの「バグ」を受信してしまう特異体質だった。



 周囲の大人たちの愚痴、嫉妬、絶望。それらがすべて彼の脳内にダイレクトに「ログイン」してくる。彼のOSは、子供の身には余るほどの膨大な悪意でオーバーフロー寸前だった。



「……気持ち悪い。消えたい。……僕が、全部消してあげなきゃ」



 幼い葬の手には、一枚の、まだ新しい十円玉が握られていた。



 彼は神社の境内の地面に、拙い手つきで「コックリさん」の文字盤を描く。

 だが、彼が呼び出そうとしていたのは、狐の霊などではない。

 自分の中に流れ込んでくる「すべての悪意」を、この銅貨という小さな記憶媒体(ストレージ)に閉じ込め、そのまま自分ごと破棄(デリート)すること。

 それが、葬の考え出した「最初のデバッグ」だった。



「おい、クソガキ。……そんな悲しいコードの書き方、誰に教わった?」



 静寂を破ったのは、場違いなほど鋭く、低い「男」の声。


 現代から時空を越えてログインした、スーパーメンズの千怨だ。


 幼い葬が驚いて顔を上げる。その瞳は、絶望で完全に白濁していた。


「……おじさん、誰? ……邪魔しないで。僕がこれに全部閉じ込めて、死ななきゃいけないんだ。そうじゃないと、この『お祈り』の声が止まらないんだ……!」

 葬が十円玉を鳥居の柱に叩きつけようとした瞬間、その手首を千怨が強く掴む。

「『お祈り』だと? ……笑わせるな。そんなのはただのノイズだ。……葬、よく聞け。お前は消えるためにその力を手に入れたんじゃない。……俺という未来を、予約するために生まれたんだよ」

 千怨が触れた瞬間、少年の十円玉から、これまで溜め込まれた数十人分の怨念が黒いムカデとなって溢れ出し、千怨の腕を焼き、肉を裂く。

 だが、千怨は一切顔色を変えず、その血まみれの腕で、幼い葬を力強く抱きしめた。

「……。十円玉は、お前を殺すためのゴミ箱じゃない。……いつか俺と出会うまでの、一時的な『キャッシュ(一時保存)』にしておけ。……いいか、葬。お前の管理者は、未来のお前でも神様でもない。……この、俺だ」


 千怨の流した血が、葬の十円玉に触れる。



 青銅の表面に、千怨の「生の執着」が強制的に上書き(オーバーライド)され、真っ黒だった硬貨が、一瞬だけ黄金色に輝いた。



 その瞬間、現代の作業部屋で横たわっていた葬の身体が、大きく跳ねた。

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