浮気しまくってるのに婚約破棄されないんですが

小鳥遊 沙織

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「あっ、やだぁ、だめ、」


悲しみ、苦しみ、虚しさ、寂しさ、羞恥、後悔。そんな感情で心がぐちゃぐちゃになるのに、暴虐とも言える快楽がそれを食い潰す。ルイスの熱いそれが私の中を這いずりまわる。目の前の男が嫌いでたまらないのに、身体から溢れる蜜は今までのどんなセックスよりも多い。「やだ、やだ」と口だけの否定を譫言のように繰り返す。私はもしかしてマゾヒストだったのだろうか、そう思うほど心と身体の乖離は激しい。
ルイスは何も言わず、じっと私の目を見続ける。特に塗れた目。いつもの冷たい目。
やがて「、うっ」と短くこぼし私の中で果てたときには、私はぼろぼろと涙をこぼしていた。
粘性のある液体が股を伝う感覚が気持ち悪い。胎に溜まったものが熱くって、力の入らない体を胎児みたいに丸めてお腹を抱え込んだ。

「エミリア」

名前を呼ばれた。迷子みたいな、孤独な子どものような、寂しさと不安でいっぱいに揺れる声だった。ゆっくりと伸びてきた冷たい手のひらが頬を包んで、凪いだ瞳が私の顔を覗き込んでいる。

ああ、この人も戸惑っていたのかもしれない。お互いが初めての婚約だった。自分の中の特殊すぎる性癖と、私への情と、立場と、いろんなものがせめぎあって。
私も歩み寄らなかった。知ろうともせず避けていた。

「……俺はおまえを手放したいわけじゃない」

触れるだけのキスをされる。最中には一度も交わされなかったそれは、勢い余って歯と歯がぶつかって少し痛い。さっきまでの強引さとのギャップにおかしくなって声を出して笑った。

少しずつ。これから少しずつ夫婦になっていこう、と思った。私たちはお互いのことを知らなさすぎる。

夫婦。私にこんな目を向けてくるこの男となら、もしかしたらなれるのかもしれない。

「ふふ、まずはキスから始めましょうか、

ルイスは一瞬きょとりと目を瞬かせ、すぐに目を細めて

「さて、式はいつ挙げようか」

と言った。


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