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まっすぐに視線を中央に向ける。

天帝と天后が既に玉座に着いていた。
今到着したのだろう。

すでに到着していた3人が、膝をつき敬礼の姿勢を取る。

私も素早く三人の横に並んで敬礼を行う。

「面をあげよ。楽にせよ」

天帝が四人に視線を送る。

私たちは敬礼を終え、起立した。

「急に呼び出して悪かった。成人の儀以来だな」
ありきたりな社交辞令。

天帝は、良く言えば気のよいおじさん。
あまりに無害すぎて、妻である天后をもう少し何とかして欲しいものだ、といつも思う。

私のイメージはいつもそんな感じだ。

「アーレイはまた一段と綺麗なったかしら。ねぇ?そうそう。マーリは元気?」

天帝に目配せしながら会話を続ける。
美貌の天后。慈悲深い天后。

イメージ作り、ご苦労様ですっ!と悪態つきながら、燐とした冷ややかな微笑みを見せる天后を見上げた。

「天后、いつもお気遣いありがとうございます。母はお陰様で息災です。」

お前が言うな!と心の中で突っ込みを入れつつ、すぐに笑顔で切り替えした。

「それは良かったわ。東では疫病が多発しているらしいわね。アーレイも大変ね」

きたーーーーー!
直球に見えて変化球?
ほー。もう疫病のこと突っ込む?
ほー。四回目の話はさっき聞いたばかりなのに。
やっぱり、あなたが黒幕ですか?
それとも、盾に間者でも送った?

ーーなーんて聞けるはずもなく、小心者らしく無難な返しをする私。

「ご心配おかけして申し訳ありません。現在現場に人を派遣しております。戻りましたら早急に対応致します」

天帝と天后が頷く。

そして、天后が天帝に何やら囁くと、天帝が今日の本題を切り出した。

「先日、君達が成人を迎えたからもうすぐだろうと思っていたのだが……」

天帝の表示が妙に穏やかだ。
私はぐっと息を飲む。

「今朝、君達に関する縁者石のお告げが出た。今からここに縁者石を写すから、君達自身で内容を把握して欲しい」

私の頭が一瞬で真っ白になった。

ええーっ!
うそっ!
いきなり縁者石??
来たーーーっ!

まるで先ほどの回想が予告であるかのような展開。

(私の未来が決まる瞬間だよね?)

ごくり、と思わず唾を飲み込む。

しばらくすると、天帝の執務官が手際よく壁に縁者石を写し出した。

「読み上げます」

静寂が鋭く突き刺さる。

私は見たいような見たくないような、不思議な感覚に陥っていた。直視するのが怖かった。

「ここに次なる婚姻を示す 」
執務官の声だけが響き渡る。

「新郎 医薬之神 ジーエン。戦之神 リンセイ。魔界 第二王子 ウエイ。新婦 大地之女神 アーレイ。結婚の儀は次に定めるーーー」
執務官の読み上げが続く。

(ちょ、ちょ、ちょっとー!新郎が三人ってどういうこと??)

余りの驚きにその後の執務官の声が全く入ってこない。

私はちらっと横を見ると、まるで何事もなかったかのような無表情でいる三人。

ーーーなんで??私だけ?みんな驚かないの?

霊伝すべきか?
いや、今じゃなさそう。
と一人で突っ込みを入れる。
どういうことぉーー??

「ーーーという附帯条件がある故、各自尽力願います。」

(ふ、附帯条件?え?聞き逃したーっ)

私は一人焦る。
どうしよう。
見逃した!
聞き逃した!

「後程、霊伝書でも各国宛に内容を送ります。以上です」

執務官は一礼すると後にした。
ふー。良かった。
で、ぽっかーんとしてるの、私だけ?
何で?
みんなは普通?
私は一人おどおどしてしまう。

「おめでとう。君たちはいろいろ話があるだろう。我々は失礼しようか」

天帝が任務は終わった、とばかりに天后の手を取り立ち上がる。

「結婚式が久々華やかになりそうね」

「そうだな」

二人が玉座から立ち上がり歩き始める。

直後に天后がふと振り返りそっと僅かに口元を動かした。

(え?何?)

違和感を感じた私に、いきなり背筋がビクッとする。再度天后に目をやろうとしてもそこに姿はなかった。

(あれは、何だった?牽制?)

考えようとした瞬間、叫び声が聞こえた。

「アーレイ、伏せろぉ!」

直後に、ウエイが魔術で私とジーエンを保護するための防御壁を発動させる。

「二人は門まで急げ!」

何が起こったか全く分からなかった。

「リンセイ、しばらく耐えてくれ」

ウエイがそう言うと同時に無数の槍がアーレイ目掛けて降りそいできた。

「や、槍っ?!」

リンセイは剣が使えないため、霊術を使い空中で槍を一本ずつ弾き飛ばしていく。それを逃れた槍を下で構えるウエイが弾く。

(本当に槍が降ってくるって!私、預言者?!)

「とにかく、ジーエン、アーレイを頼んだ!」

ジーエンは、アーレイの手を取り姿勢を低くしたまま天界門を目指す。

「ーーーどうりで、警備兵が少なかった訳だ」

ジーエンはそう結論つけた。

「アーレイ、急ぐぞ」

私は頷きながら足を動かした。

ジーエンに手を引かれ、つんのめりそうになりながらひたすら前を急ぐ。

「えっと。二人、大丈夫だよね?」

私はちょこちょこ振り返りながらジーエンに欲しい答えを促す。

「アイツらなら大丈夫」

欲しかった答えに安堵する。

天堂を抜け、階段を駆け降りる。

騒ぎを聞き付けた警備兵がようやく数人駆けつけた。

その間をひたすら駆け抜ける。

「あと少しだ!」

先ほど門番がいた場所まであと少し。

そこまでの距離がとてつもなく長く感じる。

門番に伝えようとしたその時だった。

「あんたなんか死んじゃえ!」
ーーーそれはとても聞き慣れた低くて恐ろしい声だった。

その女が振り下ろしたナイフがまるで静止画の如くハッキリと見て取れた。

「ーーアーレイっっ!」

ジーエンの叫び声が遠くで聞こえたような気がした。

ムーパがほぼ同時に女目掛けて飛びかかった。

(ナイフまで出てきたよ、やっぱり伏魔殿……)

私はゆっくりと意識を失った。
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