1 / 73
プロローグ
しおりを挟む
「申込ございませんが、お名前がないようです」
対応してくれた事務員が本当に申し訳なさそうに頭を下げる。背後では並んでいる生徒や従者などが何事かと噂話をしているようだった。
私は、15才の春になったので王都にある貴族学院に入学するため朝から事務局を訪ねていた。
このキール国 五大侯爵家の長女であり、嫡子であるはずのリリアーヌ・フォンデンベルグの名前が入学者リストに何故かなかった。
学生(侍女や侍従)が列をなしていることもあり、私は入学するため手続きをどうしたら良いかだけ確認し、その場を後にした。
(あざとい……!あの継母イザベラ……!)
久しぶりにメイド服以外の洋服に袖を通せたかと思ったら、この仕打ち。
(確かに入学書類には目を通したし、入学許可書もあるし。こうして制服も着てるし……)
どんな手を使ったかは不明だが、継母の嫌がらせもどんどんエスカレートしている。
私は仕方ないので自宅に戻ることにした。もちろん馬車もないし、表向きは侍女もいないため一人で徒歩で帰る外なかった。
10才の夏に実の母親が病気で他界。
確か13才の春に突如、父が愛人とその子供を家に連れてきた。愛人は見るからに色目を使うタイプで、どうやって父に取り入ったかは一目瞭然だったし、更に驚いたのは愛人の子供が私と同じ年齢だったことだった。推測するに、母が妊娠してから囲い始めたのだろう。一応貴族の出らしいが、勘当されて除籍されたそうで、その当時は平民だった。
愛人の子供はエリアルといい、私が母譲りの貴族特有の金髪碧眼で見る人に冷たい印象を与えるのに対して、エリアルは父譲りの茶色の髪に茶色の瞳。愛らしい表情で誰にでも愛された。
私からすると、エリアルは本当に悪魔だった。
私から父を奪い、家を奪い、物を奪い、婚約者も奪ったのに、まだ私の存在が疎ましいらしい。
そして、滑稽なことに、誰も気がついてないのか?頭がお花畑なのか?
父は入婿にすぎず、今は私が成人するまでの単なる侯爵当主代行に過ぎないことをわかっていない様子。
(父の子供だからって、婿さえもらえば侯爵当主になれると思ってる?)
侯爵家の血を引く母の子供である私以外に正当な跡継ぎはいないのに。
父は領主代行で不在にしがつのため、早くから使用人棟に私を追いやり、記憶の中からまるで侯爵家嫡子はいなかったようにしたいのだろうか?
(それにしても、今回のは想定外!まだまだ修行が足りないな、私……)
母が他界してからは想定外の連続で、だいぶメンタルが強くなったはずなんだけど。こうなったら少し早いがプランBを遂行しなくては。
自分の人生をこれ以上犠牲になんて出来るわけないじゃない!
母は賢かった。
愛人の存在を恐らく知っていて、触れなかった。
そして、こうなる予感があったからか、お金と別宅をこっそり残してくれた。
『いい? 私のリリアーヌ。誰かは貴方を幸せにしてくれないの。だから、自分で幸せになるのよ』
そう。
だから、私は虐げられた令嬢を卒業する。
全てを奪い返し、追放してやる!
後ろ楯なんかもちろん、ない。
だから。
『私は、自分で後ろ楯を作りますっ!』
対応してくれた事務員が本当に申し訳なさそうに頭を下げる。背後では並んでいる生徒や従者などが何事かと噂話をしているようだった。
私は、15才の春になったので王都にある貴族学院に入学するため朝から事務局を訪ねていた。
このキール国 五大侯爵家の長女であり、嫡子であるはずのリリアーヌ・フォンデンベルグの名前が入学者リストに何故かなかった。
学生(侍女や侍従)が列をなしていることもあり、私は入学するため手続きをどうしたら良いかだけ確認し、その場を後にした。
(あざとい……!あの継母イザベラ……!)
久しぶりにメイド服以外の洋服に袖を通せたかと思ったら、この仕打ち。
(確かに入学書類には目を通したし、入学許可書もあるし。こうして制服も着てるし……)
どんな手を使ったかは不明だが、継母の嫌がらせもどんどんエスカレートしている。
私は仕方ないので自宅に戻ることにした。もちろん馬車もないし、表向きは侍女もいないため一人で徒歩で帰る外なかった。
10才の夏に実の母親が病気で他界。
確か13才の春に突如、父が愛人とその子供を家に連れてきた。愛人は見るからに色目を使うタイプで、どうやって父に取り入ったかは一目瞭然だったし、更に驚いたのは愛人の子供が私と同じ年齢だったことだった。推測するに、母が妊娠してから囲い始めたのだろう。一応貴族の出らしいが、勘当されて除籍されたそうで、その当時は平民だった。
愛人の子供はエリアルといい、私が母譲りの貴族特有の金髪碧眼で見る人に冷たい印象を与えるのに対して、エリアルは父譲りの茶色の髪に茶色の瞳。愛らしい表情で誰にでも愛された。
私からすると、エリアルは本当に悪魔だった。
私から父を奪い、家を奪い、物を奪い、婚約者も奪ったのに、まだ私の存在が疎ましいらしい。
そして、滑稽なことに、誰も気がついてないのか?頭がお花畑なのか?
父は入婿にすぎず、今は私が成人するまでの単なる侯爵当主代行に過ぎないことをわかっていない様子。
(父の子供だからって、婿さえもらえば侯爵当主になれると思ってる?)
侯爵家の血を引く母の子供である私以外に正当な跡継ぎはいないのに。
父は領主代行で不在にしがつのため、早くから使用人棟に私を追いやり、記憶の中からまるで侯爵家嫡子はいなかったようにしたいのだろうか?
(それにしても、今回のは想定外!まだまだ修行が足りないな、私……)
母が他界してからは想定外の連続で、だいぶメンタルが強くなったはずなんだけど。こうなったら少し早いがプランBを遂行しなくては。
自分の人生をこれ以上犠牲になんて出来るわけないじゃない!
母は賢かった。
愛人の存在を恐らく知っていて、触れなかった。
そして、こうなる予感があったからか、お金と別宅をこっそり残してくれた。
『いい? 私のリリアーヌ。誰かは貴方を幸せにしてくれないの。だから、自分で幸せになるのよ』
そう。
だから、私は虐げられた令嬢を卒業する。
全てを奪い返し、追放してやる!
後ろ楯なんかもちろん、ない。
だから。
『私は、自分で後ろ楯を作りますっ!』
127
あなたにおすすめの小説
「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。
海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。
アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。
しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。
「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」
聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。
※本編は全7話で完結します。
※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる