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2人の聖女編 〜ガリレア聖教会と2人目の聖女〜
313.おっさん、事情を知る
翌日9時、俺達は王宮の会議室に集まり、ロマのためにリアムが教皇になるよう協力する計画を伝えた。
突然の全員招集に、ウイル以外の騎士達は黒幕の件で進展があったのかと、険しい表情をしていたのだが、ロマのためという話をすると、全員が喜んで協力すると申し出た。
1人、ウイルだけは翔平がそう行動を起こすように仕向けたという負い目があり、チラリと主であるユリアと目を合わせたが、ユリアはそんなウィルの気持ちも行動も理解しており、ただニコリと微笑んでいた。
「ロマの個人的な問題に巻き込むことになり申し訳ない」
ギルバートが恐縮しながら謝罪し、全員に向かって頭を下げた。
「ギルバート、頭を上げてくれ」
レイブンが優しい口調で言うと、立ち上がってギルバートのそばに行く。
「ワシらはロマにもギルバートにも、いつも助けられている。それこそ先祖代々な。
個人的なことと言うが、2人の行動はいつだって結果的に国のためになっている」
「そうですよ。たまには我々にも助けさせてください」
サイファーも笑い、ギルバートは感謝します、と破顔した。
ロマのために動くと決めたが、教会選抜にはあくまでも不介入を貫き通すことになる。
教会側から鑑定魔法陣の使用許可を得られたが、まだ日程は決まっていない。本来であれば、ロマを仲介役に近日中に測定に向かう予定であった。
だが、事情が変わったため、建前上は臣従儀礼式典を理由に、レイブン直々に聖教会へ依頼する形に変更した。
公国側の都合ということもあり、ロマではなくレイブン自らが教会側に依頼することで、断れないようにするためだ。
いくらお互いに不干渉という立場であっても、一国の王からの申し出を断ることは沽券に関わる。かなり強引な方法ではあるが、これでカーターと王国聖女の到着時に偶然居合わせるという構図が整う。
計画は至って簡単だ。
翔平が王国聖女よりも遥かに強大な力を持つと示すだけだ。
これこそが本物の聖女だと見せつける。
王国聖女が聖女の力を示すパフォーマンスが何なのかはわからないが、とにかく公国聖女との力量の違いを見せつけて比較させる。
王国聖女が魔力測定するなら翔平も。これは元々そのために行くのだから何も問題はない。
翔平はおそらく彼女自身も魔力総量が多いとは思っているが、それでも自分には敵わないという確信があった。あっても100万にも満たないだろうと予測していた。
王国聖女がヒールを使うなら翔平もヒールを。何かトリックがあるのかどうかは、実際に彼女のヒールを見ればわかるはずだ。
治療する怪我人をどこから連れてくるのかということになるが、医療研究チームの研究の一環として治療すると、カレーリアの治癒師ギルドにも話を通しておけば問題はない。
カーターが自分が連れて来た王国聖女の邪魔をされて黙り込めば良いのだが、ここで喧嘩を売ってくれれば儲け物だ。
公国の聖女に対して暴言を吐いたり、何らかの行動を、実力行使なんてしてくれれば、すぐに騎士が対応することになる。
聖教会にも聖騎士という教会を守る部隊は存在しており、カーターも自分の司教区の聖騎士を引き連れてくるだろうが、例え教会内であっても、そこはサンドラーク公国であり、公国の法律が優先される。さらに翔平の護衛騎士達は聖騎士など取るに足らない遥か上位の存在である。
もし騎士達が動くようなことになれば、カーターは選抜選挙の前に候補からも脱落することになるだろう。
そしてこの計画を遂行するには、ユリアの黒騎士が必要不可欠だった。
「カーターの目的は教皇になることで間違いないな」
「こちらとしては、カーターと聖王国の関係も慎重に考えなければね。
王国聖女に関しては聖王国としても何らかの形で援助を行っているはずだ」
サイファーとダリアが顔を見合わせて頷き合う。
俺は外交問題も関係してくるのか、とそれに関しては出来ることはないし、口をはさむべきではないと黙り込んだ。
「ユリア。現時点でわかっている王国聖女のことを教えてくれ」
アランが、一昨日は王国聖女について明言を避けたユリアに尋ねる。
「今現在は集めた情報の裏付け作業を行っています」
ユリアがまだ正確ではないと言った上で話し始めた。
「王国聖女らしき人物がカーター大司教の周囲に現れたのは、今から5年ほど前の話です。目撃情報から、戦争が終わる直前と見られます」
「最近の話じゃないのか」
アランが驚いて聞き返した。
「そのようなんです。ですので、その5年前の人物が王国聖女なのか確認してからと思いまして」
ユリアが素性をはっきりと言わなかったのはそれが1番の理由らしい。
王国聖女は20代前半の女性ということだったから、10代後半からカーターのそばにいたことになる。
もしかしたら、15、6歳の時からということも考えられ、俺はそんな子供の時分からなら親は?と考えてしまった。
だが、ガリレア聖教会は孤児院を運営しているし、もしかすると彼女も孤児かもしれないと思った。
「今はその人物が王国聖女なのかどうかの確認と合わせて、カーター大司教が管理する司教区の教会関係者の身元。そしてお金の流れについても探らせていますわ」
お金と言った所で、目線をサイファーとダリアに向けたのがわかり、おそらく聖王国との関係を金の動きから追っているんだと思った。
「王国聖女の噂が発生したのは、間違いなくショーヘイ兄様の後であることは間違いありません。
ですが…」
ユリアが苦笑し、関係があるかどうかはわかりませんが、と前置きを入れた。
「聖王国には、怪我や病気を治す、かなり高度な治癒魔法を使う治癒師の存在が噂されています。
しかもそれは1人ではなく複数人」
「そんな治癒師がいるなら治癒師ギルドが放っておかんだろう」
レイブンが当然のことを言う。
「はい。なのでギルドの登録者に関しても探らせています」
「そんな噂があるならこっちにも聞こえてきそうなものよね」
エミリアが首をかしげる。
「もしかして、その噂の治癒師が今回の王国聖女ってことなのかしら」
「わからないんです。
その話は大昔…それこそ数百年前から存在しているようで、今になってという話ではないんです。しかも、その話をしたのは100人中1人とかその程度で、さらにお年をめした方達だそうで……」
「伝説の聖女、じゃなくて、伝説の治癒師、みたいな?」
ジャニスが笑いながら冗談ように言う。
「その通りです」
だが、ユリアは至って真面目に答えた。
「情報が少なすぎて関係があるかどうかはわからないということだな?」
「はい。もう少し時間をください」
ユリアは人員を追加して探らせていると言った。
彼女はおそらく現時点で集まった情報から導き出せる可能性を一つ一つ拾い上げて調査の指示を出しているのだろう。
関係がないと思われる噂や情報も、関係無しという確証が得られるまでは深く探っている。
聖王国に潜入している黒騎士達はおそらく数十人という人数ではなく、数百人の規模だと思った。
「あと10日あまりでどこまで王国聖女のことを掴めるかはわかりませんが、今後は情報の真偽を問わず入り次第共有しますわ」
ユリアがニコリと笑い締め括る。
「ショーヘイ、またお前の力を借りることになるな」
アランが自虐的に笑う。
「俺もロマ様のために何かしたいんだ。それで俺の力が役に立つならなんだってするさ」
「偽聖女にショーヘイさんの力を見せつけてやってください」
キースが怒ったように言い、俺は笑う。
まだ偽物だと確証が得られたわけではないが、キースの中では俺の名誉が傷つけられたと思っているらしく、王国聖女に対してかなり憤っていた。
確かに王国聖女が本物で俺が偽物であると噂されている。カーターに同行している数人の司教や司祭、従者、聖騎士達はその噂を信じているはずだ。カーターがそう仕向けているだろう。
「ショーへーちゃんは正真正銘の聖女様だもの。魔力測定の結果を見せるだけでも向こうは黙り込むんじゃないかしら」
ジャニスがその時のカーターや王国聖女の顔が楽しみね、とニヤニヤしていた。
こうして全員が協力して動くことが決定し、後はロマへ決定事項を伝えるだけになった。
ロマへはギルバートとロイ、そしてレイブンから伝えてもらうことになった。
大勢でロマに話すよりも、盟友であり長年共に過ごしてきたギルバートと息子同然のロイ。そして、王族を代表してレイブンが適任だということになった。
それぞれ席を立ち上がり、1時間ほどの打ち合わせが終わる。
王宮会議室を出る時、俺はロイとディーに声をかけたが、2人とも何故か神妙な顔をしており、何かを考えているようだった。
「どうかしたのか?」
「いや……」
ロイが自分でもわからないとでも言うように首をかしげる。
ロイもディーも、ユリアの話を聞いて何かを思い出しかけていた。だが、それが何なのかがわからない。何かが出そうで出ない。何かが引っかかっている。そんな気持ち悪さが2人の頭の中にある。
「何かあったような気がするんだけどよ…それが何だったか…」
「ユリアちゃんの話で思い出したってこと?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかも…」
2人ともう~んと何に引っかかっているのかを必死に考えている。
「物忘れにはまだ早いですよ」
そんなロイとディーにギルバートが揶揄いを含めて笑う。
「思い出せないなら、きっと大したことじゃないのよ」
オリヴィエも笑った。
だが、2人は頭の中でチカチカと何かが点滅しているような引っかかりにずっと頭を悩ませていた。
結局思い出せないままのようで、2人はそのまま仕事へ向かう。
俺は今日の護衛担当であるフィンと共に瑠璃宮に戻った。
その日の夜、夕食前にディーだけが戻り、ロイはロマと話すために王宮に残った。
「で、思い出せたのか?」
夕食を食べながらディーに確認する。
「いえ…何に引っかかったのかすら曖昧になってきましたよ」
ディーが時間が経つにつれて引っかかり自体も忘れてしまいそうだと苦笑した。
「まあそのうち思い出すんじゃないか?」
「そうだといいんですけど、こういうのってなんか気持ち悪いですよね」
「それな。わかる」
俺も似たようなことは何度も経験しているし、わからないまま終わることもあれば、唐突に思い出すこともあった。決まってそういう時は「なんだ。こんなことか」と思う方が多かったのだが、たまに「あの時思い出していれば」と後悔することもあった。
それ以降は別の話題になって夕食を済ませてリヴィングに戻り、2人で夕食後のまったり時間を過ごした。
ソファーでディーに膝枕をしてやりながら、俺は治癒魔法の本を読んでいて、ふとユリアの話を思い出した。
「そういえば、ユリアちゃんが言ってた伝説の治癒師の話さ」
「ん?」
ディーは突然俺に話しかけられてとぼけた声を出した。
どうやらうつらうつらしていたようで、俺は本を置くとディーの顔を覗き込む。
「何ですか?キスしてくれるんですか?」
「違うわw」
笑いながら答えるとディーは膝枕から起き上がり、そのまま俺を抱き寄せて唇を重ねてきた。
「だから違うってww」
チュッチュッと啄むようにキスしてくるディーに小さく抵抗しつつ笑う。
「伝説の治癒師はさ、怪我だけじゃなくて病気も治すって言ってたじゃん」
「ああ、そんなこと言ってましたね」
ディーは逃げようとする俺を追いかけるように両手を伸ばしてきた。
「俺は病気は治したことないなって思ってさ。
そもそもヒールって病気も治せるもんなのか?」
俺は今読んでいた本には載っていなかったと言った。
「治せる人もいます」
「ディーは出来ない?」
「出来ませんね。怪我専門です」
「ロマ様は出来たはずですが、それこそ病気の治療はかなり高度ですから、習得には数十年かかると言われていますよ。
公国にも数人いるくらいですし、全ての病気を治せるわけでもありません」
「へえ…」
だから俺が読んでいた治癒魔法の初歩の本には載っていないのかと納得した。
今度病気治療の本を借りてこようと思う。
「病気の治療は、元々毒物の治療から派生したものなんです」
「毒…」
「ええ。私も概要しか知りませんが、結局は体内に入り込んだ異物を取り除くという治療なんです。
ほら、フォートリアでショーヘイも…」
「ああ!あれか!」
俺はロイの自称婚約者であるマチルダに盛られたマケイラの毒を思い出した。
体内に入り込んだマケイラの種子を自分の力で破壊していく解毒方法。
マケイラの場合は摂取した本人自らが解毒をするしか方法がないが、確かに毒は異物でありそれを除去するという治療は、病気の種類によっては同じだと思った。
ウィルス性の病気の場合、ウィルスという異物を除去すればいいわけだ、と納得する。
ただし、異物だと判別できるかどうかが
鍵になる。
マケイラは明らかに異物だとわかったが、ウィルスは果たして判別できるのだろうか。だから習得までに数十年かかるのかと思うのと同時に、がん細胞のように本人の遺伝子変異によって起こる病気は判別するのは非常に困難だと思った。
治療出来る病気と出来ない病気の差はそこにあるんだろうと考える。
「ショーヘイ」
ムニムニと無意識で唇を触って考えていると、ディーに肩を揺さぶられてハッとした。
「あ、ああ、ごめん、何?」
「また入り込んで…」
ディーが何度も呼んだんですよと笑う。
「思い出しましたよ」
「え?何?」
まだ思考が病気の治療に引きずられてディーの言葉に反応出来なかった。
ますますディーが笑い、キュッと俺を抱き寄せる。
「本当にショーヘイは可愛いですね。そんな所も大好きですよ」
抱き寄せられて頭をよしよしと撫でられながら可愛いと言われて顔を赤くする。
「ロイが帰ってきたら話しますね」
思い出してスッキリしたのかディーが満面の笑顔で言った。
9時近くになってロイがギルバートとロマと共に瑠璃宮に帰ってきた。
「ただいま~」
ロイは明るい声で言い、ギルバートはニコニコと俺を抱きしめようとするが、ディーが素早くギルバートから俺を守る。
そしてロマは少し目が赤くなっていた。
泣いたとわかるその目を見て、俺はロマの手を取るとニコリと微笑んだ。
リヴィングに通してお茶を淹れ、それぞれの前に置いた。
「ショーヘイ…ありがとう……」
ロマの目に涙が溜まり、落ちる前にハンカチで目元を覆う。
「計画を進めてもいいんですね?」
俺はギルバートに尋ねると、笑顔で頷いてくれる。
「最初は頑なに拒みましたけどね」
「全くよお、少しは俺達を頼れよな」
ギルバートとロイに言われ、ロマは涙を拭うと顔を上げて笑った。
「仕方ないだろ。リアムの件は本当に個人的なことなんだ。
こんなことに国を、ショーヘイを巻き込むことなんて出来ないよ」
「だから言っただろ。もうリアム大司教だけの問題じゃないって」
ロイが別の理由を持ち出してロマが負い目を感じないように微笑む。
「そうですよ。カーターが教皇になれば、おそらく大きな問題が起こります。それを未然に防がねば」
ギルバートも再び諭すように言う。
「ロマ様、何も気にすることなんてありませんよ。
俺も、みんな貴方が必要なんです。大好きなんです。貴方が思い悩んでいるなら、手を差し伸べて当然です。
ロマ様だって、俺達の誰かが悩んでいたら、きっとそうするでしょう?」
俺も笑顔で言うと、ロマは嬉しそうに笑った。
「ありがとう……。さっきレイブンとロイには話したけどね。
ショーヘイとディーゼルにも教えておくよ」
ロマがもう一度涙を拭うと俺とディーを見つめた。
「リアムは……あたしの子孫なんだ」
その事実にはっきりと驚いた。
800年以上生きているロマにも、昔伴侶がいて、子供もいた。
ギルバートにも、騎士団長であるミネルヴァが子孫にあたる。当然、彼女にも血を引いた子孫がいて当然だった。
「出会った時にすぐに気付いたよ。亡くなった伴侶にとても瓜二つでね」
ロマの目が遠い昔の記憶を辿るように細められた。
「系譜を調べてみて、十数代後の子孫であることがわかったんだ。
あたしも長く生きているから、今となっては何処に子孫がいるのかもわからないから気にもしていなかったんだけど……」
ロマが優しく微笑み、リアムを思い出しているようだった。
「リアムは本当にあの人とそっくりで。声も同じで……。あたしは数百年も前の記憶が鮮明に蘇ったんだ」
ロマは愛した人との幸せな記憶が蘇ったと涙を流した。
「ロマの気持ちは良くわかりますよ。私もショーヘイ君に出会って、忘れてしまっていたシュウとの思い出が蘇りましたから」
ギルバートがロマの背中を慰めるように撫でる。
俺はそんな理由があったのかと、心がじーんと熱くなった。
「リアム大司教はそのことをご存知なんですか?」
そう尋ねると、ロマはゆっくりと首を横に振った。
「話していないよ。今更祖先ですなんてね、血を引いているとはいえ、何代も前の話で身内とは言えないほど遠いから」
ロマは教えることでもないと笑う。
「リアムを助けたいと思うことは、ただの自己満足だってわかっただろ?
個人的にあの人に似たあの子に辛い思いをしてほしくない、ただそれだけなんだ」
自虐的に笑い、こんな理由でごめんね、とまた謝る。
「こんな理由なんて言わないでください。とても大切なことですよ。
自分の血を受け継いだ人が危機的状況にあるなら助けようと思って当然です」
「そうだぞ、ロマ。それにリアム大司教は教皇になるに相応しいと俺は思う」
「全くです。あんな清廉潔白な人は今時珍しいですよ」
俺に続いてロイもディーもリアムを持ち上げる。
「頑固者で困ることもあるけどね」
清廉潔白過ぎて融通が効かないとロマが笑い、ロイもディーも声に出して笑った。
「ロマ、我々には本物の聖女様がついています。
大丈夫ですよ。ショーヘイ君に頼りましょう」
ギルバートは、ね?と俺に同意を求め、俺もはいと頷いた。
「ありがとう、ありがとう」
ロマは両手でハンカチを握って目元を覆う。
俺はニコリと微笑みながら、ロマに頼られるということが本当に嬉しくて仕方がなかった。
突然の全員招集に、ウイル以外の騎士達は黒幕の件で進展があったのかと、険しい表情をしていたのだが、ロマのためという話をすると、全員が喜んで協力すると申し出た。
1人、ウイルだけは翔平がそう行動を起こすように仕向けたという負い目があり、チラリと主であるユリアと目を合わせたが、ユリアはそんなウィルの気持ちも行動も理解しており、ただニコリと微笑んでいた。
「ロマの個人的な問題に巻き込むことになり申し訳ない」
ギルバートが恐縮しながら謝罪し、全員に向かって頭を下げた。
「ギルバート、頭を上げてくれ」
レイブンが優しい口調で言うと、立ち上がってギルバートのそばに行く。
「ワシらはロマにもギルバートにも、いつも助けられている。それこそ先祖代々な。
個人的なことと言うが、2人の行動はいつだって結果的に国のためになっている」
「そうですよ。たまには我々にも助けさせてください」
サイファーも笑い、ギルバートは感謝します、と破顔した。
ロマのために動くと決めたが、教会選抜にはあくまでも不介入を貫き通すことになる。
教会側から鑑定魔法陣の使用許可を得られたが、まだ日程は決まっていない。本来であれば、ロマを仲介役に近日中に測定に向かう予定であった。
だが、事情が変わったため、建前上は臣従儀礼式典を理由に、レイブン直々に聖教会へ依頼する形に変更した。
公国側の都合ということもあり、ロマではなくレイブン自らが教会側に依頼することで、断れないようにするためだ。
いくらお互いに不干渉という立場であっても、一国の王からの申し出を断ることは沽券に関わる。かなり強引な方法ではあるが、これでカーターと王国聖女の到着時に偶然居合わせるという構図が整う。
計画は至って簡単だ。
翔平が王国聖女よりも遥かに強大な力を持つと示すだけだ。
これこそが本物の聖女だと見せつける。
王国聖女が聖女の力を示すパフォーマンスが何なのかはわからないが、とにかく公国聖女との力量の違いを見せつけて比較させる。
王国聖女が魔力測定するなら翔平も。これは元々そのために行くのだから何も問題はない。
翔平はおそらく彼女自身も魔力総量が多いとは思っているが、それでも自分には敵わないという確信があった。あっても100万にも満たないだろうと予測していた。
王国聖女がヒールを使うなら翔平もヒールを。何かトリックがあるのかどうかは、実際に彼女のヒールを見ればわかるはずだ。
治療する怪我人をどこから連れてくるのかということになるが、医療研究チームの研究の一環として治療すると、カレーリアの治癒師ギルドにも話を通しておけば問題はない。
カーターが自分が連れて来た王国聖女の邪魔をされて黙り込めば良いのだが、ここで喧嘩を売ってくれれば儲け物だ。
公国の聖女に対して暴言を吐いたり、何らかの行動を、実力行使なんてしてくれれば、すぐに騎士が対応することになる。
聖教会にも聖騎士という教会を守る部隊は存在しており、カーターも自分の司教区の聖騎士を引き連れてくるだろうが、例え教会内であっても、そこはサンドラーク公国であり、公国の法律が優先される。さらに翔平の護衛騎士達は聖騎士など取るに足らない遥か上位の存在である。
もし騎士達が動くようなことになれば、カーターは選抜選挙の前に候補からも脱落することになるだろう。
そしてこの計画を遂行するには、ユリアの黒騎士が必要不可欠だった。
「カーターの目的は教皇になることで間違いないな」
「こちらとしては、カーターと聖王国の関係も慎重に考えなければね。
王国聖女に関しては聖王国としても何らかの形で援助を行っているはずだ」
サイファーとダリアが顔を見合わせて頷き合う。
俺は外交問題も関係してくるのか、とそれに関しては出来ることはないし、口をはさむべきではないと黙り込んだ。
「ユリア。現時点でわかっている王国聖女のことを教えてくれ」
アランが、一昨日は王国聖女について明言を避けたユリアに尋ねる。
「今現在は集めた情報の裏付け作業を行っています」
ユリアがまだ正確ではないと言った上で話し始めた。
「王国聖女らしき人物がカーター大司教の周囲に現れたのは、今から5年ほど前の話です。目撃情報から、戦争が終わる直前と見られます」
「最近の話じゃないのか」
アランが驚いて聞き返した。
「そのようなんです。ですので、その5年前の人物が王国聖女なのか確認してからと思いまして」
ユリアが素性をはっきりと言わなかったのはそれが1番の理由らしい。
王国聖女は20代前半の女性ということだったから、10代後半からカーターのそばにいたことになる。
もしかしたら、15、6歳の時からということも考えられ、俺はそんな子供の時分からなら親は?と考えてしまった。
だが、ガリレア聖教会は孤児院を運営しているし、もしかすると彼女も孤児かもしれないと思った。
「今はその人物が王国聖女なのかどうかの確認と合わせて、カーター大司教が管理する司教区の教会関係者の身元。そしてお金の流れについても探らせていますわ」
お金と言った所で、目線をサイファーとダリアに向けたのがわかり、おそらく聖王国との関係を金の動きから追っているんだと思った。
「王国聖女の噂が発生したのは、間違いなくショーヘイ兄様の後であることは間違いありません。
ですが…」
ユリアが苦笑し、関係があるかどうかはわかりませんが、と前置きを入れた。
「聖王国には、怪我や病気を治す、かなり高度な治癒魔法を使う治癒師の存在が噂されています。
しかもそれは1人ではなく複数人」
「そんな治癒師がいるなら治癒師ギルドが放っておかんだろう」
レイブンが当然のことを言う。
「はい。なのでギルドの登録者に関しても探らせています」
「そんな噂があるならこっちにも聞こえてきそうなものよね」
エミリアが首をかしげる。
「もしかして、その噂の治癒師が今回の王国聖女ってことなのかしら」
「わからないんです。
その話は大昔…それこそ数百年前から存在しているようで、今になってという話ではないんです。しかも、その話をしたのは100人中1人とかその程度で、さらにお年をめした方達だそうで……」
「伝説の聖女、じゃなくて、伝説の治癒師、みたいな?」
ジャニスが笑いながら冗談ように言う。
「その通りです」
だが、ユリアは至って真面目に答えた。
「情報が少なすぎて関係があるかどうかはわからないということだな?」
「はい。もう少し時間をください」
ユリアは人員を追加して探らせていると言った。
彼女はおそらく現時点で集まった情報から導き出せる可能性を一つ一つ拾い上げて調査の指示を出しているのだろう。
関係がないと思われる噂や情報も、関係無しという確証が得られるまでは深く探っている。
聖王国に潜入している黒騎士達はおそらく数十人という人数ではなく、数百人の規模だと思った。
「あと10日あまりでどこまで王国聖女のことを掴めるかはわかりませんが、今後は情報の真偽を問わず入り次第共有しますわ」
ユリアがニコリと笑い締め括る。
「ショーヘイ、またお前の力を借りることになるな」
アランが自虐的に笑う。
「俺もロマ様のために何かしたいんだ。それで俺の力が役に立つならなんだってするさ」
「偽聖女にショーヘイさんの力を見せつけてやってください」
キースが怒ったように言い、俺は笑う。
まだ偽物だと確証が得られたわけではないが、キースの中では俺の名誉が傷つけられたと思っているらしく、王国聖女に対してかなり憤っていた。
確かに王国聖女が本物で俺が偽物であると噂されている。カーターに同行している数人の司教や司祭、従者、聖騎士達はその噂を信じているはずだ。カーターがそう仕向けているだろう。
「ショーへーちゃんは正真正銘の聖女様だもの。魔力測定の結果を見せるだけでも向こうは黙り込むんじゃないかしら」
ジャニスがその時のカーターや王国聖女の顔が楽しみね、とニヤニヤしていた。
こうして全員が協力して動くことが決定し、後はロマへ決定事項を伝えるだけになった。
ロマへはギルバートとロイ、そしてレイブンから伝えてもらうことになった。
大勢でロマに話すよりも、盟友であり長年共に過ごしてきたギルバートと息子同然のロイ。そして、王族を代表してレイブンが適任だということになった。
それぞれ席を立ち上がり、1時間ほどの打ち合わせが終わる。
王宮会議室を出る時、俺はロイとディーに声をかけたが、2人とも何故か神妙な顔をしており、何かを考えているようだった。
「どうかしたのか?」
「いや……」
ロイが自分でもわからないとでも言うように首をかしげる。
ロイもディーも、ユリアの話を聞いて何かを思い出しかけていた。だが、それが何なのかがわからない。何かが出そうで出ない。何かが引っかかっている。そんな気持ち悪さが2人の頭の中にある。
「何かあったような気がするんだけどよ…それが何だったか…」
「ユリアちゃんの話で思い出したってこと?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかも…」
2人ともう~んと何に引っかかっているのかを必死に考えている。
「物忘れにはまだ早いですよ」
そんなロイとディーにギルバートが揶揄いを含めて笑う。
「思い出せないなら、きっと大したことじゃないのよ」
オリヴィエも笑った。
だが、2人は頭の中でチカチカと何かが点滅しているような引っかかりにずっと頭を悩ませていた。
結局思い出せないままのようで、2人はそのまま仕事へ向かう。
俺は今日の護衛担当であるフィンと共に瑠璃宮に戻った。
その日の夜、夕食前にディーだけが戻り、ロイはロマと話すために王宮に残った。
「で、思い出せたのか?」
夕食を食べながらディーに確認する。
「いえ…何に引っかかったのかすら曖昧になってきましたよ」
ディーが時間が経つにつれて引っかかり自体も忘れてしまいそうだと苦笑した。
「まあそのうち思い出すんじゃないか?」
「そうだといいんですけど、こういうのってなんか気持ち悪いですよね」
「それな。わかる」
俺も似たようなことは何度も経験しているし、わからないまま終わることもあれば、唐突に思い出すこともあった。決まってそういう時は「なんだ。こんなことか」と思う方が多かったのだが、たまに「あの時思い出していれば」と後悔することもあった。
それ以降は別の話題になって夕食を済ませてリヴィングに戻り、2人で夕食後のまったり時間を過ごした。
ソファーでディーに膝枕をしてやりながら、俺は治癒魔法の本を読んでいて、ふとユリアの話を思い出した。
「そういえば、ユリアちゃんが言ってた伝説の治癒師の話さ」
「ん?」
ディーは突然俺に話しかけられてとぼけた声を出した。
どうやらうつらうつらしていたようで、俺は本を置くとディーの顔を覗き込む。
「何ですか?キスしてくれるんですか?」
「違うわw」
笑いながら答えるとディーは膝枕から起き上がり、そのまま俺を抱き寄せて唇を重ねてきた。
「だから違うってww」
チュッチュッと啄むようにキスしてくるディーに小さく抵抗しつつ笑う。
「伝説の治癒師はさ、怪我だけじゃなくて病気も治すって言ってたじゃん」
「ああ、そんなこと言ってましたね」
ディーは逃げようとする俺を追いかけるように両手を伸ばしてきた。
「俺は病気は治したことないなって思ってさ。
そもそもヒールって病気も治せるもんなのか?」
俺は今読んでいた本には載っていなかったと言った。
「治せる人もいます」
「ディーは出来ない?」
「出来ませんね。怪我専門です」
「ロマ様は出来たはずですが、それこそ病気の治療はかなり高度ですから、習得には数十年かかると言われていますよ。
公国にも数人いるくらいですし、全ての病気を治せるわけでもありません」
「へえ…」
だから俺が読んでいた治癒魔法の初歩の本には載っていないのかと納得した。
今度病気治療の本を借りてこようと思う。
「病気の治療は、元々毒物の治療から派生したものなんです」
「毒…」
「ええ。私も概要しか知りませんが、結局は体内に入り込んだ異物を取り除くという治療なんです。
ほら、フォートリアでショーヘイも…」
「ああ!あれか!」
俺はロイの自称婚約者であるマチルダに盛られたマケイラの毒を思い出した。
体内に入り込んだマケイラの種子を自分の力で破壊していく解毒方法。
マケイラの場合は摂取した本人自らが解毒をするしか方法がないが、確かに毒は異物でありそれを除去するという治療は、病気の種類によっては同じだと思った。
ウィルス性の病気の場合、ウィルスという異物を除去すればいいわけだ、と納得する。
ただし、異物だと判別できるかどうかが
鍵になる。
マケイラは明らかに異物だとわかったが、ウィルスは果たして判別できるのだろうか。だから習得までに数十年かかるのかと思うのと同時に、がん細胞のように本人の遺伝子変異によって起こる病気は判別するのは非常に困難だと思った。
治療出来る病気と出来ない病気の差はそこにあるんだろうと考える。
「ショーヘイ」
ムニムニと無意識で唇を触って考えていると、ディーに肩を揺さぶられてハッとした。
「あ、ああ、ごめん、何?」
「また入り込んで…」
ディーが何度も呼んだんですよと笑う。
「思い出しましたよ」
「え?何?」
まだ思考が病気の治療に引きずられてディーの言葉に反応出来なかった。
ますますディーが笑い、キュッと俺を抱き寄せる。
「本当にショーヘイは可愛いですね。そんな所も大好きですよ」
抱き寄せられて頭をよしよしと撫でられながら可愛いと言われて顔を赤くする。
「ロイが帰ってきたら話しますね」
思い出してスッキリしたのかディーが満面の笑顔で言った。
9時近くになってロイがギルバートとロマと共に瑠璃宮に帰ってきた。
「ただいま~」
ロイは明るい声で言い、ギルバートはニコニコと俺を抱きしめようとするが、ディーが素早くギルバートから俺を守る。
そしてロマは少し目が赤くなっていた。
泣いたとわかるその目を見て、俺はロマの手を取るとニコリと微笑んだ。
リヴィングに通してお茶を淹れ、それぞれの前に置いた。
「ショーヘイ…ありがとう……」
ロマの目に涙が溜まり、落ちる前にハンカチで目元を覆う。
「計画を進めてもいいんですね?」
俺はギルバートに尋ねると、笑顔で頷いてくれる。
「最初は頑なに拒みましたけどね」
「全くよお、少しは俺達を頼れよな」
ギルバートとロイに言われ、ロマは涙を拭うと顔を上げて笑った。
「仕方ないだろ。リアムの件は本当に個人的なことなんだ。
こんなことに国を、ショーヘイを巻き込むことなんて出来ないよ」
「だから言っただろ。もうリアム大司教だけの問題じゃないって」
ロイが別の理由を持ち出してロマが負い目を感じないように微笑む。
「そうですよ。カーターが教皇になれば、おそらく大きな問題が起こります。それを未然に防がねば」
ギルバートも再び諭すように言う。
「ロマ様、何も気にすることなんてありませんよ。
俺も、みんな貴方が必要なんです。大好きなんです。貴方が思い悩んでいるなら、手を差し伸べて当然です。
ロマ様だって、俺達の誰かが悩んでいたら、きっとそうするでしょう?」
俺も笑顔で言うと、ロマは嬉しそうに笑った。
「ありがとう……。さっきレイブンとロイには話したけどね。
ショーヘイとディーゼルにも教えておくよ」
ロマがもう一度涙を拭うと俺とディーを見つめた。
「リアムは……あたしの子孫なんだ」
その事実にはっきりと驚いた。
800年以上生きているロマにも、昔伴侶がいて、子供もいた。
ギルバートにも、騎士団長であるミネルヴァが子孫にあたる。当然、彼女にも血を引いた子孫がいて当然だった。
「出会った時にすぐに気付いたよ。亡くなった伴侶にとても瓜二つでね」
ロマの目が遠い昔の記憶を辿るように細められた。
「系譜を調べてみて、十数代後の子孫であることがわかったんだ。
あたしも長く生きているから、今となっては何処に子孫がいるのかもわからないから気にもしていなかったんだけど……」
ロマが優しく微笑み、リアムを思い出しているようだった。
「リアムは本当にあの人とそっくりで。声も同じで……。あたしは数百年も前の記憶が鮮明に蘇ったんだ」
ロマは愛した人との幸せな記憶が蘇ったと涙を流した。
「ロマの気持ちは良くわかりますよ。私もショーヘイ君に出会って、忘れてしまっていたシュウとの思い出が蘇りましたから」
ギルバートがロマの背中を慰めるように撫でる。
俺はそんな理由があったのかと、心がじーんと熱くなった。
「リアム大司教はそのことをご存知なんですか?」
そう尋ねると、ロマはゆっくりと首を横に振った。
「話していないよ。今更祖先ですなんてね、血を引いているとはいえ、何代も前の話で身内とは言えないほど遠いから」
ロマは教えることでもないと笑う。
「リアムを助けたいと思うことは、ただの自己満足だってわかっただろ?
個人的にあの人に似たあの子に辛い思いをしてほしくない、ただそれだけなんだ」
自虐的に笑い、こんな理由でごめんね、とまた謝る。
「こんな理由なんて言わないでください。とても大切なことですよ。
自分の血を受け継いだ人が危機的状況にあるなら助けようと思って当然です」
「そうだぞ、ロマ。それにリアム大司教は教皇になるに相応しいと俺は思う」
「全くです。あんな清廉潔白な人は今時珍しいですよ」
俺に続いてロイもディーもリアムを持ち上げる。
「頑固者で困ることもあるけどね」
清廉潔白過ぎて融通が効かないとロマが笑い、ロイもディーも声に出して笑った。
「ロマ、我々には本物の聖女様がついています。
大丈夫ですよ。ショーヘイ君に頼りましょう」
ギルバートは、ね?と俺に同意を求め、俺もはいと頷いた。
「ありがとう、ありがとう」
ロマは両手でハンカチを握って目元を覆う。
俺はニコリと微笑みながら、ロマに頼られるということが本当に嬉しくて仕方がなかった。
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