ブラッティーメアリー

燐火

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第一章

お泊まりします!

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「──あっ……重要なことを聞くのを忘れていたわ……」 
私は急に気づき、ニコリに向かって言った。ニコリは首を傾げ、少し不安そうに問いかける。 
「な、なんでしょう…?」 
「アリバイよ! ニコリ、あなたは昨日の深夜一時頃、何をしていたの?」

ニコリは昨日のことを思い出しながら話す。

 「私は……各部屋の見回りをして、鍵をかけていました。メアリーさんも先程見たとおり、この屋敷にはたくさんの部屋があります。でも、毎日全て使うわけではなく、誰もいない部屋も多いんです。だから私たち使用人は、毎週交代で部屋の鍵を閉めているんです。その後はこの使用人室に戻り、ニゲラくんとお茶を飲みながら軽く会話して、それぞれの部屋へと戻りました。それが深夜の二時過ぎです」

 ニコリは淡々たんたんと答えるが、その目には少しの不安も見え隠れしていた。 

「……そうなのね。鍵閉めを行っていた時は一人か……その時に、ウィルさんの部屋には行かなかったの?」 

「はい……。ウィルさんは就寝前に自ら鍵を閉めるんです。私たち使用人がワインを運んだり、クレスさんが話に行ったりと、何かとウィル様の部屋には出入りが多いので、手間をかけさせないようにという、気遣いをしてくださってるんです……」

「そうなのね……ありがとう。ニコリはアリバイを証明できる人がいなく、クレスさんとニゲラは同じ厨房にいた……か……」

 私は言いながら、ニゲラの方を見る。

「ふぅ、待たせたわね。次にニゲラのアリバイを聞きたいのだけど、いいかしら?」 
私がニゲラにそう言うと、彼は少し不安そうに答えた。 

「はい、いいですよ。お役に立てるか分かりませんが」 
「じゃあ、まずは……昨日の深夜一時頃、何をしていたか教えてくれるかしら?」 

私がそう聞いた瞬間、使用人室の扉がコンコンと鳴った。誰かが訪ねてきたようだ。
 扉が開き、そこに立っていたのはチックさんだった。 

「警察の捜査は終わったぞ。凶器は見つからなかった。署に戻って遺品整理をするが、メアリー、お前はどうするんだ?」
 チックさんは私を見て声をかけた。 

「んー、そうね。ここにお泊まりします!」 私がそう言うと、チックさんは少し驚いたように笑った。 

「そうか、わかった。あまり迷惑かけるなよ?」 
「──親じゃないんだから……まぁ、明日までには事件を解決するわよ。警察の出番はもうないでしょう?」
 私はそう言って、チックさんを笑わせた。 「ハッハッハ! そうだといいな。じゃあ、われら警察はお暇するかな。ハハッ!」 

そう言いながら、チックさんと警官たちはウィード家を後にした。 
「ふぅ……さて、というわけで、今日はお世話になるわよ」 

私はサラッと告げると、ニコリが少し心配そうに言った。 
「え、えっと……私たちは構いませんが、ナナアトロさんがなんて言うか……」 

「大丈夫よ。この館の夫婦への聞き込みもしていないし、館の捜査も十分にしていないもの。それに泊めてもらう代わりに、明日には犯人を暴くと言えばいいでしょう? そ・れ・に!」 

「それに?」
 ニゲラが聞き返す。 

「クレスの料理を食べてみたいもの! こんな大きな屋敷の料理人が作る料理、絶対に美味しいに決まってる!」 
私はキラキラと輝かせた目でクレスを見た。 
「お、おい……あまり期待するなよ?」 
「わ、わかったわ!」 

その後、ナナアトロさんがどこにいるか尋ねると、ニコリが教えてくれた。 

「ナナアトロさんなら書斎にいらっしゃいます。最初に警察の方から事情聴取をされてからずっと……」 
「なら、行くわよ。今日一日泊めてもらうもの。事情聴取は後でにして、まずは挨拶を済ませるわ」 
私がそう言うと、ニゲラが案内をしてくれることになった。

 「──相変わらず広いわね……後でニコリに案内してもらおうかしら……」 

私はつぶやきながら、ニゲラと一緒に屋敷を歩いた。 

「姉さんに案内させるのはやめた方がいいですよ。意外と方向音痴ですから……」

 ニゲラが少し冗談を言うと、私は笑いながら答える。 

「あら、そう? 私ほどじゃないと思うけどね……あっ……そういえばニゲラ?」
 「はい、なんでしょう?」
 「あなた、さっきからニコリのこと『姉さん』って呼んでるけど、姉弟なの?」

 私がずっと疑問に思っていたことを聞くと、ニゲラは少し驚きながらも答えてくれた。

 「いえ、僕が勝手にそう呼んでるだけです。僕と姉さんは同じ孤児院からここに来たんです。言い方を変えれば、ナナアトロさんが僕たちに住む場所を与えてくれたんです。」

 「そうだったのね……」 
てっきり、姉弟だとばかり思ってたわ……。
さっきの嫌そうな感じは、仲が良くて歳が近い子のあんな話を聞いてたからか……。
それに、同じ孤児院出身なら尚更……よね……。

その後、私たちは階段を上り、書斎の前に到着した。 
「書斎は二階なのね……」 
私が確認すると、ニゲラは答えた。 

「はい。このお屋敷は三階建てで、書斎は二階にあります。詳しくはまた僕が案内しますよ」
 そのまま、ニゲラは書斎の扉をノックして、
「ナナアトロさん、入りますよ」と言って扉を開けた。

中には、乱暴そうな印象の男と、その隣に優しげな女性が座って本を読んでいた。
おそらく、この二人がナナアトロさんとモリスさんだろう。

「何の用だ?夕食までに呼ぶなと言ったはずだが?」
ナナアトロさんはニゲラにそう言った後、私に気づき、
「その隣の赤い服の女は誰だ?」と尋ねた。

「──私はメアリー・メア、探偵です。単刀直入に言いますが、今日一日こちらに泊めていただけませんか?無償ではないことをお約束します。泊めていただければ、十分に捜査を行えますし、明日にはウィルさんを殺した犯人を暴きます。」

私がそう言うと、隣に座っていたモリスさんが
「本当に、ウィルを殺した犯人を明日までに暴いてくれるのですか?」と尋ねてきた。
私は即座に答えた。
「はい、必ず。ですが、一つお願いがあります。」

「お願いだと?」
ナナアトロさんが私に向かって言った。
「私を泊めてくれる部屋として、ウィルさんの部屋を使わせてください。いつでも捜査できるし、事件の再現も可能です。事件解決には最適な場所ですから」

それを聞いたナナアトロさんは少し黙り込み、
「分かった。今日、お前をウィルの部屋に泊めよう。ただし、明日までに犯人を見つけろ。必ずだ」と言った。

「ありがとうございます。必ず見つけます。それと、夕食後でも構いませんので、もう一度事情聴取を受けていただければありがたいです。警察からはすでに受けていることは承知していますが、再度受けていただければ、犯人を突き止めるための大きな手がかりになるはずです。ご協力をお願いします。」

と最後に言って、私は書斎を後にした。
書斎を出た後、ニゲラが出てきたので、
「今から屋敷を案内してもらえるかしら?どの部屋がどこにあるか分からないと捜査ができないから」と頼んだ。

私とニゲラは三時間かけて屋敷を一周し、ニゲラは使用人室へ、私は被害者の部屋へ行った。
そして私は一人で屋敷の間取りの整理を行った。

主に一階には使用人室やニゲラやニコリ、クレスなどの使用人たちの部屋や被害者の部屋。

二階には書斎や厨房、ダイニングルーム、シャワールームなんかの生活に欠かせない部屋。

三階にはナナアトロさんの部屋やモリスさんの部屋。

そして、謎の空き部屋。誰かがいた形跡はあるけど誰かわからない場所があったわね……
後でナナアトロさんに聞いてみようかしら。

と、こんなふうに主な部屋分けされてたわね。
今は深く考えるのをやめてクレスが作る料理を楽しみにしましょう。

────あっ……厨房一応見ておきましょう。

そう思い私はクレスが今現在料理を作っている厨房へと足を運んだ。
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