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そして翌日の朝になった。
韓媛は準備を終えて、大泊瀬皇子が乗ってきた馬で一緒に、彼の住んでいる遠飛鳥宮に向かう事にした。
韓媛も一応馬には乗れる。それは彼女の父親の円が、娘にもしもの事が会った時に、馬に乗れたら直ぐに逃げられると思ったからだ。
「では、お父様。行って参ります」
韓媛は馬に乗ったまま、見送りに来ていた父親にそう言った。
父親の彼からしたら、大事な娘が他の男と一緒に馬に乗って出かけるなんて、心配以外の何ものでもなかった。もし彼女の母親がまだ生きていたら、かなり激怒していた事だろう。
韓媛はそんな円の不安など、全く理解出来ていなかった。
だが、彼女の後ろにいる大泊瀬皇子だけは、そんな円の心配がひしひしと伝わって来ていた。
(大事な1人娘を、今こうやって連れていこうとしている。円も、さすがにこれは心配するだろう)
「じゃあ、韓媛を少し借りる。昨日も言ったが、彼女は責任を持ってここに送り届けるから、安心しろ」
それは娘が、何事もなく無事に帰ってきた時の場合だけだと、葛城円は心の中で思った。
「はい、大泊瀬皇子。娘のことをくれぐれも宜しくお願いします」
葛城円は皇子にそう言った。
それから大泊瀬皇子は、馬を走らせて自身の宮へと向かっていった。
そんな2人を、葛城円は姿が見えなくなるまで見送った。
(まぁ、大泊瀬皇子があの約束を守ってくれるのなら、大丈夫だとは思うが)
「しかし、葛城円がこうもあっさり、お前を宮に行かせる事を許すとわな……」
大泊瀬皇子は、馬を走らせながら韓媛にそう言った。
彼の脳裏に先程の葛城円の顔が浮かぶ。あれはかなり自分の娘の事を心配している感じだった。
「え、皇子。何故そう思われるのですか?」
韓媛はどうして彼がそんな事を思うのか、少し疑問に思った。
彼女は元々、それなりにしっかりはしている。だが自身の危機的な事に関しては、余り分かっていないのだろう。
「あのな韓媛。自分の娘がこんな他の男と一緒に出かけるとなると、普通の親なら当然心配する」
そんな彼の言葉を聞いて、韓媛は思わず「ハッ」とした。そしてやっと彼女は事の重大さに気が付いた。
(それで昨日、お父様は少し悲しそうな表情をしていたのね)
とは言っても、木梨軽皇子と軽大娘皇女を助けるためには他に方法がない。なので彼女は、次回からは気を付ける事にした。
「大泊瀬皇子、本当にすみません。私もうっかりしてました」
韓媛はひとまず素直に謝る事にした。
まさか彼からこんな注意を受けるとは、夢にも思わなかった。
「こんな事、お前に言いたくはないが、俺だって1人の男だ。その事をしっかりと理解しろ」
大泊瀬皇子は、そう言って少しため息をついた。
今の2人は馬に乗っているので距離がとても近い。そのため、皇子が少しため息をするだけで、彼の息を直に感じる。
それに2人の体は、今とても密着している状態だ。すると彼の固くてたくましい体が、背中越しに嫌でも伝わってくる。
(どうして今まで、その事に気が付かなかったのかしら。皇子はもうすっかり1人の男性だわ)
韓媛はそう思うと、少し恥ずかしくなってきた。
急に無口になった韓媛を見て、大泊瀬皇子は心配になり、彼女を安心させるために言った。
「とりあえず、俺はお前を無理やりどうこうしようとは思ってないから、安心しろ。それに葛城円にも、責任をもってお前を送り届けると言っている」
(それはつまり、皇子から見れば私はそう言う対象ではないって事なのね)
「はい、分かりました」
韓媛はそう思うと、何故か少しだけチクリと、胸の痛みを感じた。
それから大泊瀬皇子は尚もを馬を走らせた。だがその間も、韓媛は余り言葉を発する事はしなかった。
そんな彼女を見て、大泊瀬皇子は先程の自分の発言を聞いて、本人がそれなりに反省したのだろうと理解する。
だが今は、このまま大人しくしてもらう方が助かると思い、そこには特に触れない事にした。
それからしばらくして、ようやく2人は遠飛鳥宮に辿りついた。
韓媛は準備を終えて、大泊瀬皇子が乗ってきた馬で一緒に、彼の住んでいる遠飛鳥宮に向かう事にした。
韓媛も一応馬には乗れる。それは彼女の父親の円が、娘にもしもの事が会った時に、馬に乗れたら直ぐに逃げられると思ったからだ。
「では、お父様。行って参ります」
韓媛は馬に乗ったまま、見送りに来ていた父親にそう言った。
父親の彼からしたら、大事な娘が他の男と一緒に馬に乗って出かけるなんて、心配以外の何ものでもなかった。もし彼女の母親がまだ生きていたら、かなり激怒していた事だろう。
韓媛はそんな円の不安など、全く理解出来ていなかった。
だが、彼女の後ろにいる大泊瀬皇子だけは、そんな円の心配がひしひしと伝わって来ていた。
(大事な1人娘を、今こうやって連れていこうとしている。円も、さすがにこれは心配するだろう)
「じゃあ、韓媛を少し借りる。昨日も言ったが、彼女は責任を持ってここに送り届けるから、安心しろ」
それは娘が、何事もなく無事に帰ってきた時の場合だけだと、葛城円は心の中で思った。
「はい、大泊瀬皇子。娘のことをくれぐれも宜しくお願いします」
葛城円は皇子にそう言った。
それから大泊瀬皇子は、馬を走らせて自身の宮へと向かっていった。
そんな2人を、葛城円は姿が見えなくなるまで見送った。
(まぁ、大泊瀬皇子があの約束を守ってくれるのなら、大丈夫だとは思うが)
「しかし、葛城円がこうもあっさり、お前を宮に行かせる事を許すとわな……」
大泊瀬皇子は、馬を走らせながら韓媛にそう言った。
彼の脳裏に先程の葛城円の顔が浮かぶ。あれはかなり自分の娘の事を心配している感じだった。
「え、皇子。何故そう思われるのですか?」
韓媛はどうして彼がそんな事を思うのか、少し疑問に思った。
彼女は元々、それなりにしっかりはしている。だが自身の危機的な事に関しては、余り分かっていないのだろう。
「あのな韓媛。自分の娘がこんな他の男と一緒に出かけるとなると、普通の親なら当然心配する」
そんな彼の言葉を聞いて、韓媛は思わず「ハッ」とした。そしてやっと彼女は事の重大さに気が付いた。
(それで昨日、お父様は少し悲しそうな表情をしていたのね)
とは言っても、木梨軽皇子と軽大娘皇女を助けるためには他に方法がない。なので彼女は、次回からは気を付ける事にした。
「大泊瀬皇子、本当にすみません。私もうっかりしてました」
韓媛はひとまず素直に謝る事にした。
まさか彼からこんな注意を受けるとは、夢にも思わなかった。
「こんな事、お前に言いたくはないが、俺だって1人の男だ。その事をしっかりと理解しろ」
大泊瀬皇子は、そう言って少しため息をついた。
今の2人は馬に乗っているので距離がとても近い。そのため、皇子が少しため息をするだけで、彼の息を直に感じる。
それに2人の体は、今とても密着している状態だ。すると彼の固くてたくましい体が、背中越しに嫌でも伝わってくる。
(どうして今まで、その事に気が付かなかったのかしら。皇子はもうすっかり1人の男性だわ)
韓媛はそう思うと、少し恥ずかしくなってきた。
急に無口になった韓媛を見て、大泊瀬皇子は心配になり、彼女を安心させるために言った。
「とりあえず、俺はお前を無理やりどうこうしようとは思ってないから、安心しろ。それに葛城円にも、責任をもってお前を送り届けると言っている」
(それはつまり、皇子から見れば私はそう言う対象ではないって事なのね)
「はい、分かりました」
韓媛はそう思うと、何故か少しだけチクリと、胸の痛みを感じた。
それから大泊瀬皇子は尚もを馬を走らせた。だがその間も、韓媛は余り言葉を発する事はしなかった。
そんな彼女を見て、大泊瀬皇子は先程の自分の発言を聞いて、本人がそれなりに反省したのだろうと理解する。
だが今は、このまま大人しくしてもらう方が助かると思い、そこには特に触れない事にした。
それからしばらくして、ようやく2人は遠飛鳥宮に辿りついた。
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