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第1獣

怪獣1-3

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 蘭と秀人がボランティア作業にいそしんでいる頃。北海道東部にあり、なおかつ二本の市の中で最東に位置する、北海道根室市。そこの航空自衛隊根室分屯地第26警戒隊では、恒常業務を行っていた。
 一か月前の怪獣出現により、大勢の殉職者を出した陸、海、空自衛隊は再編成の真っ只中にあった。しかし、自衛隊としての恒常業務も並行して行わなくてはならなかった。
 航空自衛隊の警戒隊は、北部航空警戒管制団は根室、稚内、網走、えりもなどに存在、北部防衛区域、北海道から東北北部地域の領空や周辺区域を対空警戒レーダーで監視。領空侵犯の恐れのある国籍不明機を発見したら、戦闘航空団へ緊急連絡を行い、スクランブル発進した自衛隊戦闘機の地上要撃管制という誘導を行うのが、主な任務である。第26警戒隊は稚内の第18警戒隊、奥尻島の第29警戒隊と同じ部隊が配置されていた。
 それは東京都横田基地に所在している、航空総隊直轄の部隊、作戦情報隊隷下の電波情報収集群であり、根室には第2収集隊が配置されている。防衛省特別機関の一つである情報本部隷下の東千歳通信所。これは情報本部直下のシギント部隊と呼ばれる、通信や電磁波などを傍受した諜報部隊で、陸海空混成隊員で運用する部隊だ。
 この二つの部隊は怪獣騒ぎとは、さほど関係なく、日本国周辺の情報収集活動に努めていた。怪獣騒ぎがあったからこそ、普段より活発に情報収集を行っている。東日本大震災の時にロシア軍機の領空侵犯や、中国海軍の艦艇による尖閣諸島を領海侵犯が相次いで発生し、今回も同じことが起こるのではないかと、気が気でないのだ。
 最近では少し落ち着きを取り戻してたものの、怪獣の出現で、北方領土に配備されている、ロシア軍の動きが活発になり、その情報収集に努めていた。
「ダメです、新しい暗号を使っていて全く解読できません……」
「一体、何を企んでいるんだ! ロシアめ!」
 シギント隊員達と第2収集隊はロシア軍の動きに不気味なものを感じ、日々上がってくる報告を読みながら、頭をを抱えていた。
 北方領土に配備されているロシア軍は、国後島にある活火山爺爺岳に集結しているようであった。しかも不可解なことに、戦車や火砲などの重装備は一切動いておらず、歩兵や軍用トラック、装甲車や輸送用ヘリコプターなどの軽部隊だけが動いて、集結している。
「この動きは何を意味するのか……」
 第2収集隊隊長は、北方領土を見ながら一人呟いた。
 軍事クーデター、ロシア軍の新兵器の実験……。様々な意見が出たもの、結論を出すには至らず現在に至っている。
「あの島で、何が起きているのか?」
 近くて遠い、北方領土を見ながらまた呟く。かつての日本領の北方四島は、今はロシア領になり、日本で一番遠い場所になっている。
 もし羽があって、空を飛ぶことが出来るのであれば、今すぐにでも確認することが出来るが……。と、子供が考えるような妄想をして、少し恥ずかしくなった。
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