最後の断罪者

広畝 K

文字の大きさ
4 / 7

4

しおりを挟む
 【ゴルゴタの監獄・地下処刑場】


 貴方が実験施設への隠し道をそれほど労苦もなく発見できたのは、地下処刑場に籠もった血の臭いを流すような、微かな空気の動きが生じていることに気がついたためだ。

 処刑場の最奥に位置する壁面にて、岩盤に極めて近い暗色に塗られた分厚い金属の板戸が、隠された通路の存在を匂わせている。それは先の怪物による話が、全くの出鱈目でないことを示唆しているのであろう。

 金属の板戸は重く固く閉ざされており、黒曜の加護を得ている貴方であっても、片手で開けるには容易でない重量を擁している。
 貴方は左手に持っていたカンテラを慎重に床へ置くと、両手でもって取っ掛かりに指を置き、横に引くようにして力を入れてゆく。

 板戸は岩盤を引き摺るようにして、少しずつだが確かに開いていく。と同時に、黴と薬品の饐えたような、冷やりとした異質の空気がこちらに流れ込んでくるのを貴方は感じる。

 板戸が完全に開かれたその先には、滑らかな岩盤の空洞など最早なかった。
 研磨されている硬質な白石によって覆われた旧き遺跡が広がっており、その中心には同質の石材によって新たに組み上げられたのだろう無骨な高層建造物が亡霊の様に建っている。

 採光用の窓硝子も見られぬその高層建造物は、地上の監獄に建っている収監塔群と同様の、円柱状の塔である。しかし地上に乱立している監獄塔よりも、こちらの方が牢獄という形容に相応しいように思われる。

 どうやらその塔こそが、怪物の言っていた実験施設なのだろう。
 生きた人の気配こそ感じられないものの、背筋を微かに震わせる得体の知れない寒気を塔の中より感じるからだ。それは怪物の放つ圧威の類に酷似している様にも思われ、処刑場や遺跡群に似合わぬ異質がある。

 貴方は床に置いておいたカンテラを再び左手に持つと、光量を僅かに絞りつつ、実験施設の塔へと向かって歩みを確かに進めた。


 【打ち棄てられた実験施設】


 貴方が実験施設の内部に足を踏み入れると、水が腐敗したかの如き臭いと空気に迎えられた。鼻孔を鋭く刺す臭いと混ざった異様の空気は、貴方の身体を生温かな倦怠と寒気に蝕み、奈落の底へと引き摺り込んでくるかのような、思考を鈍らせる感覚を引き起こしてくる。

 とても不快で、そして酷く異質な、危機本能を刺激する臭いだ。
 その様な空気が入り口から既に感じられるということは、施設全体にこの空気が満ちていると考えて良い。

 脳髄に物理的な反応を直接与えてくるかのような、奇怪な雰囲気が漂っている。怪物と対峙している圧にも似た緊迫が強く張り詰めており、貴方の警戒心を嫌でも引き上げてゆく。

 とはいえ、実験施設そのものに然程の異常は見られない。が、打ち棄てられたのは遠い昔のことなのだろう。ブーツの底がはっきりとした痕跡を残すほどに、塵や埃といった白灰色の粒子が厚く深く積もっている。

 施設内の照明は当然灯っておらず、貴方の持つカンテラのみが唯一の光源だ。
 貴方は自らの持つその明かりを支えとして、施設内の探索を開始する。


 【打ち棄てられた実験施設・一階】


 施設入り口の扉を開くと、そこは僅かに広い小ホールとなっていた。
 百人ほども収容できそうな、天井の低い空間である。
 幾つもある長椅子と、受付らしき台が幾つも並んでいることから察するに、元は人々の集まる何かしらの施設だったのだろう。

 そこには実験施設という名称に付随する、やや病的な響きを持たせるものなどは見受けられない。殺風景な、寂れた空間が広がるだけだ。

 そして、やはり微細な空気の流れが依然としてある。
 脳髄を刺激する空気に入り混じって薄く、貴方の嗅ぎ慣れぬ異臭が漂っている。
 他の臭いに紛れるほどの薄い何か、その根源にこそ、怪物の告げた何事かがあるに違いない。
 貴方が教会に抱いた微かな疑念を、抱いた理想を砕く非情の現実を、確固とする何かしらの物証が。

 小ホールの奥へと続く暗がりを見遣ると、小さな廊下となっている。
 石造りのこぢんまりとした通路で、貴方一人がやっと通れるほどの狭いものだ。

 ――旧き時代の人間は、現在の人間よりもずっと小さな生き物だった、か……。

 司祭より聞いたことを貴方は思い出しつつ、もし事実だとするなら、この施設は一体いつの時代から建てられ、そして何の目的を達成するために建てられたのか、と貴方は僅かに興味を抱く。

 しかしいずれにしろ、それは遥かに遠い過去の話だ。

 現在、多くの人々から忘れ去られていることから考慮するに、成果は得られずに終わったのだろう。その過程で如何なる結果を獲得し、廃棄されるに至ったかは、窺うことすらできないけれども。

 粛々と通路を進み、途中に部屋も分かれ道も見つけられなかった貴方は、一本の道を順調に歩いてゆく。

 しかし通路の最奥にて、二階へ通じているのだろう上り階段の空間を前にして、貴方はその歩みを止めた。カンテラを前へと翳し、俄かに戦闘の態勢を取る。

 カンテラの暖色が照らし出す光の先に、薄い影が差していたためだ。

 注意して影を見遣れば、それは異形の怪物であった。
 否、正確には、その死体であった。

 上流階級の婦人が被る鍔付き帽子のような形状の大きな頭を有しており、されどその頭部を支える上下半身は細く、そして矮小である。体毛は無く、着衣を纏わぬ全身の肌色は抜けたように白く朧気で、生気といったものが欠片も感じられない。

 確実に、死んでいる。

 それだけならば、貴方は何の関心も注意も、その死体に示さなかっただろう。が、観察するに当たって、その死体が最近になって現れたものであろうことに気がついた貴方は、腰の後ろに掛けている革鞘から鋸鉈を抜いて提げ、いつでも戦闘を開始できる態勢に入った。

 ――ここは、未だに使われているのか。

 遥かな昔に廃棄された施設であろうことは、人の気配が微塵も感じられない点を考慮するに、確かな事実ではあるのだろう。
 しかし、人間以外の者が棲み着き、利用していることを、貴方の足元に転がっている怪物の死体が明確に示している。

 なぜなら、その肉体には塵も埃も積もってはおらず、死んでから間もないことを窺わせるに十分な状態であったがゆえに。


 【打ち棄てられた実験施設・二階】


 硬質な足音を立てて何十段という階段を慎重に上った貴方は、継いで警戒を怠ることなく、臭いと空気の流れを読みながら廊下の奥へと進んでゆく。

 一階の通路とは一転して、二階の廊下は幅も天井も貴方が警戒して歩くに十分な広さがある。加えて、床には塵や埃といった天然の消音装置が積もっていない。
 定期的に清掃されているのか、或いは二階のフロア全体が一階とは異なる設計であるのか、空気中の塵や埃を主食としている怪物でもいるのか、想像も及ばぬことではある。ゆえに楽観できる状況でなく、用心するに越したことはない。

 カンテラを床に置いた貴方は、周囲に注意を払いながら自身の装備を確認する。
 右手には鋸鉈がある。機構は滑らかに作動し、鋸剣にも鉈にもなる。見れば血の拭い残しがあったため、貴方は布を当てて拭い取り、軽く油を差した。応急用途の手入れ道具は嵩張らないのが特徴であるため、貴方は常に所持している。
 ベルトの左腰には短銃が差してある。安全装置は外されており、手に取ればすぐにでも発砲が可能だ。洗礼弾は六発詰められ、予備の弾も幾つか胸ポケットの内に入っている。
 突如の戦闘が開始されても、即刻の対応が可能だ。

 貴方は装備の確認を手早く終えた後、現状の把握を続行する。
 一階の通路と比べて広い廊下を歩く貴方は無意識の内に眉を寄せる。
 頭の芯に響く薬品の臭い、それにも劣らぬ死の臭いが、強まってきていることを知覚しているためだ。

 この階は一階と違って塵と埃に埋もれていない。
 恐らくは、施設の機能が稼働し続けていると考えるのが妥当だろう。
 とすれば、現在も尚、人の目の届かぬ深き暗所にて、冒涜と退廃、そして罪業を積み重ねる実験を続けている者があるのだろうと思われた。

 もし、その推測が裏表の無い純然たる事実であるなら、貴方は黒曜教会に属する断罪者として、罪深き者どもを粛正しなければならない。そしてそれは、貴方自身の行動原理とも完全に一致している筈だ。

 貴方は深く息を吐きだすと、一層に気を引き締めて廊下の先へと歩を進める。
 そうして進むうちに、臭いがより強く、濃くなってきた。小さな響きで方向こそ分からないが、叫びのような音も微かに耳朶を叩いてくる。腐臭に獣臭、薬品臭、そして饐えた血の臭いが微かに理性を揺らしている。

 大分嗅ぎ慣れてきたとはいえ、あまり気分の良くなるものではない。
 というのも、貴方をはじめとする断罪者たちは、血の臭いに酔いを覚えてしまうからだ。

 それは黒曜たる神の加護による副作用と言って良い。
 神の加護たる黒き血は、白き血には無い身体強化の作用が強く働く。特に優れた作用を発揮した者は、断罪者として怪物討伐の専門家となることが多い。

 貴方も、そうした断罪者の一人であることは前にも述べた。

 自然、怪物討伐の担い手である断罪者たちは、その他にも手荒い任務を請け負うことが多い。討伐対象の血を流し、返り血を浴び、自身の血すらも流してのける。ゆえに血の臭いとは親しくなりがちだ。

 そしてそうした血の臭いはやがて日常の習慣として、貴方たち断罪者の闘争欲を刺激するようになっていった。
 血の臭いがあるところには闘争がある。闘争による勝利は他者の血を流出させ、その生臭い温かさは自身の生を肯定する。生と死の狭間に揺蕩う緊張と、流される血の温かき安らぎ、そして得られる絶対の肯定は、解放と快楽にも似た強い心地を貴方たちに与えるのだ。
 束の間ではあるが、非情極まる現実を忘却の彼方に落とし込んでくれるのだ。

 尤も、血に酔い痴れた断罪者驕りとは慢心を覚えて警戒を怠る様になり、残らず命を散らすことにもなるのだけれども。 

 広き廊下の曲がり角、その突き当たりの一角に金属質の扉があった。
 人が一人通れるほどの扉である。それはつまり、貴方たち現代の人間に合わせた作りであるということであり、相当に古い施設でありながらも、明らかに近現代の技術が組み込まれているということでもある。

 しかしそのような考察は、今のところどうでも良い。技術が如何に流用されようとも、貴方の任務には関係のないことであるのだから。

 貴方は音を立てぬよう慎重に手を掛け、扉を開けようと試みる。
 しかし扉は押しても引いても開くことなく、どうやら鍵が掛かっているらしい。
 扉の厚さは然程でもなく、先の処刑場と隠し道とを隔たせていた分厚い金属板とは比すべくもない薄板に過ぎない。

 その程度なら力で無理矢理こじ開けられると判断した貴方は、そのまま無造作に右足を上げ、扉を強く蹴りつけた。

 扉はブーツの底面を中心にして一気に凹み、軋みを上げて変形し、蝶番を派手に弾き飛ばしながら部屋の中へと吹き飛んだ。甲高く耳障りな悲鳴を響かせながら、単なる金属の塊と成り果てた扉の残骸が部屋の中でのたうち回る。

 悲鳴の響く間に部屋へと踏み入ろうとした貴方は、しかし僅かに動きを止めた。

 部屋中に、滑り気を帯びた苔がびっしりと生えていたからだ。それらはいずれも淡い白色の光を発して、部屋全体を仄かに照らし出している。

 しかしまあ、それは良いのだ。些細なことだと貴方は捨て置く。

 それよりも貴方が驚き、捨て置けないと判断したのは、部屋の中央にて両手足を拘束され、磔にされている怪物がいたことだ。そして、動けないように雁字搦めに拘束されている怪物に対して、粛々と実験を続けている別個の怪物の姿を視認した事実にある。

 怪物を拘束している怪物は、階下で見つけた死体と同系統の存在だと思われる。頭部が綿菓子のように異様に膨れ上がった異形の怪物だ。上下半身は細く、そして長い。手足もまた、それに準じた木の根のように細長い。

 拘束されている怪物に関しては、貴方が今までに断罪してきた大型獣性の特徴を有する普遍的な異形だ。が、その状態は極めて悪く、無力な実験動物の様を呈している。手足を動かすための関節は鉄製杭によって的確に打ち貫かれ、白濁の血塊に塗れた肉体は手術台に張り付けられているのである。

 磔にされているだけであったなら、貴方もまだ驚かなかっただろう。
 しかしあろうことか、磔にされた怪物は全身の毛皮が綺麗に剥ぎ取られており、筋と肉と臓とを腑分けされ、全身に行き渡っている血管さえも丁寧に顕わにされているのである。

 白く瑞々しい肉の脂が虹色に煌めく光沢を帯び、小刻みに規則正しく脈打つ血管の鼓動は、極限にまで切り開かれた状態であっても、怪物が確かに生きていることを証明しているものではあった。

 尤も、その頭蓋はバラバラに分解され、眼球も舌も脳髄さえも、頭部を構成している部位は全て薄緑色の溶液に満ちた硝子製の保管瓶にきっちりと収められていたのであるが。

 一個の生命が無機質な構成部品の集合体に過ぎぬことを思わせる異様な光景は、流石の貴方といえども不快な気分を押し殺しきれず、足を止めざるを得ないほどに悍ましく、忌々しさを感じさせるものであった。

 しかし、怪物が怪物を解剖しているというその状況は、遊びで行われているような稚拙さを感じさせず、明らかに、明確な達成目標に向けて試みられていることが窺い知れる。

 加えてそれらの実験は、恐らく黒曜教会の上層部が関わっているだろうことを、処刑場にて伝えられた彼女の言葉と、その身から流れ出た黒き血の光景とともに、貴方に思い起こさせるのだ。

「ああ……足りない、足りない……。血の情報が……全く足りない……。やはり、黒き血液が、それも新鮮な状態のサンプルが必要なのではないか……? 罪業などという、定かならぬ概念が肉体に直接的な影響を与える筈がないのだから……」

 膨張した頭部を押さえて唸るその怪物もまた、処刑場で断罪した彼女のように、人間の言葉を使っている。或いはこの怪物にも理知があり、言葉の通じる可能性があるのだろう。

 尤も、今は実験に関する思考に深く耽っているらしく、扉を蹴破り侵入してきた貴方にさえ気付いてはいない。

 貴方は右手に提げた鋸鉈を一旦腰の後ろへと仕舞い、その怪物に声を掛けた。
 二度では気づかず、三度目になってようやく、その膨張した頭を持った怪物は、貴方という存在に気がついたようである。

「これはこれは、断罪者様。このような狭苦しい場所にお見えになるとは珍しい。いえいえ、分かっておりますとも。研究の件でございますね。しかし、ご覧の通りです。あまり捗々しくはありません。どの部署も、未だに明確な成果を上げることができていないようです。そこで提案があるのですが、断罪者様。貴方様の肉体に流れる黒き血を、一滴で構いません。どうか、私たちに融通して頂けませんか?」

 頭部を斜めに傾げる小さな仕草は、その声変わりしていない者に特有する甲高い声音は、どうにも人間らしい幼さと無邪気さとを感じさせる。が、しかしその言葉の内容は到底、貴方に許容できるものではない。

 貴方が否定の言葉を返すと、彼は悲しそうに頭を震わせ、その肩をも震わせた。

「……そうですか、それは、とても残念です。しかし、もしも気が変わりましたのなら、いつでも黒き血を融通して下さいませ。いつでも、歓迎しておりますので」

 貴方は頷き、部屋を出るように足を運ぶと、一つの問いを彼に投げ掛けた。
 彼は手にした紙束を見ながら、軽く、何気のない応えを貴方に返す。

「……ああ、僕の血液は白いままでございます、断罪者様。僕たち『星詠み』は、神などと呼ばれて驕っている悍ましき生物を、信仰してはいないものですから」

 貴方は右手に提げた鋸鉈から白い血液が垂れることも気にせず、拭いすらせず、二階の廊下を静かに進んでゆく。そして扉を見つけては無造作に蹴破り、部屋の中に押し入ってゆく。

 怪物の行っている実験内容に対して、貴方は興味を持っていない。貴方がここで重要視しているのは、この怪物たちに実験の命令を下しているのが何者であるのかといった情報であり、その何者が誰であるのかを示してくれる物的証拠であった。
 
 無論、そのような機密がそう易々と見つかるはずもないことを貴方は百も承知である。が、しかし万に一の可能性があることも否定はできない。

 それに、幾ら人類に仇為す怪物といえども、他者の手で好き勝手に弄られて良い筈がない。ましてや怪物は、元は善良たる人間なのだ。この世界に生み出された、尊い命の輝きなのだ。それを、実験と称して冒涜的に穢すも同然の所業を、貴方は見過ごせないでいた。

 ゆえにここでも、貴方は断罪を執行する。
 人として、生物としての道を外れた悍ましき所業に対する深き罪業を断ち切り、心身を侵される苦痛と屈辱からの救済を願うがゆえに。

 二階は実験施設の中枢であるらしく、幾つもの部屋にて人道を外れた怪物どもが他の怪物に対して実験を試行し、貴方には到底理解の及び得ぬ思想と理想を以て、確たる成果を追い求めていた。

 怪物たちの追い求めている成果は、遂に貴方には理解し得なかった。
 が、しかし。断罪の途中で発見したその手紙は、貴方に対して少なからぬ衝撃を与えたのである。

『――(中略)此度の成果によって、黒曜の神による血の加護は人外と化した化物どもにすら、人を人足らしめんとする人間性を与えることが証明されたと判ずる。怪物と化した者たちにさえ理知を取り戻させ、人間と共存できる可能性を提示したのである。罪業に溺れた者すら引き上げ、救済を可能とする奇跡の術が、合理的に実践されたのだ。神の加護というものは、如何に人間の努力を無為にするものか。しかし、たとえ神があるべき道を示そうとも、怪物と共存するなど、愚かな人々が許そうはずもない。理性があり、知性があると分かろうとも、人々は自身と異なる形の生命体を共存者として、認めることなどできないのだ。黒曜の慈悲が罪業深き異形に与えられることを、あろうことか、黒曜の信仰者こそが許さないのである。もしこの事実を広めてしまえば、想像するまでもなく、秩序を崩壊させない火災が生じ、その勢いは留まることを知らず、世界を焼き尽くす事態にまで発展しよう。結局のところ、人々は自らの信ずる同胞と、それ以下の弱者にしか生存を許さないのだ。神の恩寵を自分のものとして独占することに恥じないのである。そのような唾棄すべき思考から脱却するには、神より離れて人間それ自体の進化を促してゆくより他にない。かつて、白き血を持つ人間は、黒き血の人間によって導かれていたと聞く。ならば黒き血の人間もまた、新たな血を持つ人間によって導かれるべきではないか。忌憚なき意見を疾く求めたく思う。親愛なるサンソン神父へ――』

 文書の最後に出てきたサンソンという名は、貴方の上司である司祭のファミリーネームと一致する。まさか同一人物ではないだろうが、しかし血縁者である可能性は極めて高い。

 そして司祭がこの実験施設に関係しているのであれば、彼を含めた教会の上層部もまた、この実験施設内で行われている非人道的な所業を黙認しているということに相成るだろう。


 人間の生を守るための黒曜教会が人の道から外れた所業を認可し、それどころか推奨さえしているという疑惑。抱いた疑惑の一端たる実験施設。その施設内部にて発見した知人宛てと思われる手紙。

 これら一連の事実は貴方に、今まで信頼してきたものが足元から崩れ去ってゆくような寂寥を感じさせた。肉体的にも眩暈、頭熱、動悸など、急激な心痛からくる疲労が全身に圧し掛かってくるようにも思える。

 冷静ではない。落ち着いていられる筈もない。熱に浮かされた貴方は黒曜の神によって掲げられた理念を体現していない教会に対し、心の奥から煮え滾った不快の念が生ずるのを止め得ることができない。自身の生き方と黒曜の理念を蔑ろにする教会に対して、減じていた愛着が底を突いて抉っていく。

 とはいえ、すぐに教会の所属から脱するというわけにもいかない。
 表向きには教会はまだ人々を救う唯一の巨大な機関であり、その影響力は近隣の周辺諸国だけでなく、他の大陸の諸国家にまで及んでいるからだ。

 ゆえに今の貴方にできることは、表向きは教会に属したままで、教会の理念に則った活動を続けることである。秘するようにして、自身の信じられる道を拓いて進んでゆくことだけである。そしてその行動様式は、これまで歩んできた道のりと大した変わりはない。

 怪物と化した存在の罪業を断罪し、そして人間として歩んできた生の道と誇りを救済していく。模範的な断罪者としての使命を忠実に護る活動こそが、現状にて、貴方が取り得る最善の手段であろう。
 断罪者としての活動こそが黒曜の理念に則っていることに加えて、現在の貴方を形作っている原点であったことは、貴方にとって少なくない救いであろう。

 誰が否定しようとも、己が理念を貴方は棄てることができない。例えその相手が上司たる司祭であろうとも、教会の上層部であろうとも、黒曜の神であろうとも、貴方は貴方の歩みたい道を信じて進み続けてゆくだけだ。

 貴方は二階にある部屋の全てに踏み入り、怪物を残らず断罪した。
 残るはこれより上の階、濃密な死臭が漂い下りてくる、三階への段を上っていくだけである。


 【打ち棄てられた実験施設・三階】


 三階はこれまでのフロアとは違って、茫洋とした闇の満ちる空間が広がっているだけだ。天井は見えぬ程に高く、幾十本もの大支柱が立ち並び、その広大な空間をどっしりと支えている。

 そしてその大支柱を支えるように、或いは柱に集まるように、数え切れ得ぬ数の死体が山のように積まれて捨てられ、乱雑に重なり合っている。
 割合としては白骨が多数を占めているが、しかし積み重ねられている死体の数は百や千では利かぬほどであるゆえ、抑えきれない濃厚な腐敗と死の臭いが階層中に満ち溢れている。視界に薄っすらと、得体の知れぬ灰白き靄を揺蕩わせる程に。

 死体は怪物ばかりではなく、人間も多く含まれている。人間が異形と化しかけている死体も、一部だけが異形に変異している死体も、信仰者と異端者の区別さえも無しに、それこそ掃いて捨てる程に溢れている。

 ここは恐らく、地上に出すことのできない死体を廃棄・処理するための処分場であるのだろう。現に今も貴方の耳には死体を形なき灰へと還す断罪の刃が、死体を刻む欺瞞の救済が聞こえているのだ。

 そう、ここには貴方以外の断罪者が存在している。
 同職とはいえ、むしろ同職であるからこそ、貴方は警戒を怠ることができない。

 断罪者という連中は、人間だった怪物を討伐する者たちである。
 ゆえに、大なり小なりその精神には、異常を来しているものだ。
 常軌を逸して、平常ならぬ感性を持っている者が極めて多い。
 血の臭いに噎せ、死の色に嘔吐き、それらに常に彩られ、曝され続けるという重い業を負う断罪者は、人間の良心を棄てなければ務まらぬと言われるほどに因果で難儀な役割だ。しかし、そうした役割の者たちがいるからこそ、多くの人々の生活が平穏と安寧に保たれている。

 誰かが幸せを掴む代わりに、誰かが相応の罪業を背負い込むのが世の常だ。背に負い込んだ罪業を神へと捧げ、黒き血の加護を与えられ、人々に仇為す怪物を断罪する力とする。それら止まらぬ一巡の連鎖こそ、断罪者にすら断ち切れぬ、世界の抱きし罪業なのだろう。

 貴方は右手に提げた得物を構えつつ、慎重に一歩、また一歩と、断罪の刃が振るわれる音の元に向かって、ゆっくりと歩を進めてゆく。
 恐らくは中央付近の大支柱の陰が音の元だ。貴方が外側から回り込んで覗き見ると同時に、一際大きな破砕の音がくぐもって響き、一つの死体がまた灰塵に還っていった。

 刃を振り下ろした姿勢のままで、その断罪者は静かに呟く。

「……同業の者か」

 その声は低く、そして酷く掠れていた。長年に渡って何物をも飲まず、食わずに生きてきたのだろう。長身ではあるが痩身で、そのシルエットは薄黒き断罪装束も相まって、さながら朽ちかけつつある案山子のようだ。猫背に曲がったその背には、黒蒼の光沢を帯びた巨大な鞘が、鈍い光を放っている。

「未だ、こんなにも罪業に溢れ、塗れているというのに……どうやら神は俺のことを、やはり好いてはいないらしい……」

 自嘲するように呟いた彼は、緩慢な動作で貴方の方へと向き直る。石の床に突き立てた大剣をそのままに置き、貴方を上から静かに見下ろしてくる。

 恐ろしい程の圧威だ、と貴方は彼の実力を感じ取る。

 その佇まいに隙こそ見えるが、迂闊に攻めることはできない。それは敢えて隙を晒し、攻撃してきたところを返り討ちにする断罪者の基本的な戦闘態勢だ。同業の相手に対して油断せずに臨戦状態を保っている辺り、かなりの手練れと見て良い。

 しかも、戦闘を意識している様子が微塵も無い。己が理想的なまでの臨戦態勢を維持していると自覚すらしていないからこそ、目の前の断罪者は歴戦の強者であると判断できるのだ。

 尋常ではないほどの場数を踏み、修羅場を抜けているのだろう。
 そうとしか思われぬ程の佇まいは、貴方に畏怖の気を僅かに抱かせる。

 まず間違いなく、目の前の彼は熟練の域に達している断罪者だ。手の平で支えとしている大剣にも余分な力を加えておらず、かといって力を抜きすぎてもいない、程良い加減の力を保っている。男の油断が見えぬ佇まいは恐らく、無意識的なものだ。貴方の持つ潜在的な戦意に対して、肉体が反応しているものと思われる。

 貴方は彼には敵わぬと、自然にそう受け入れられた。それほどまでに技量と経験が、それらに裏打ちされた戦闘への認識が隔絶している。相手が自身よりも格上であると認めなければならない。確かに自身で認めなければ、それより上の力量には到達できぬと、貴方は理解しているためだ。

 密かに戦慄している貴方を余所に、男はぽつりぽつりと言葉を零す。

「長く罪業を断ち切っていると、周囲の罪業が見えるようになってくる。白き血を与え、黒き血を与えた神の罪業が……それらを知らぬ内に受け入れ、背負い続ける人間の罪業が、な。我ら断罪者はこの世の、あらゆる罪業を絶ち切らねばならぬ。罪業の因果を、後世へ継がせることなく、しかし戒めの標を残さなければならぬ。断罪者とは、そうあるべきだろう?」

 彼が乾いた咳を発すると同時に、貴方は自身の水袋を投げ渡した。彼は渡された水袋の水をもって喉を潤し、幾らか光の戻った瞳で、貴方の瞳を眺め入る。

「貴殿は、良き断罪者だ。罪業に抱き締められ、飲み込まれようと、決して歩みを止めることなき強さを持っている。しかし、悲しいかな。その強さこそが、お前を未曾有の怪物へと堕するのだ。血に溺れ、罪業に蝕まれ、そして腐り落ちるのだ。そうなる前に、せめてもの、慈悲だ。俺が、お前の持つ罪業を絶ち切ってやろう。怪物へと変じ、苦痛を抱き続ける前にな……」

 目の前の断罪者は大剣をゆっくりと床石から引き抜くと、そのまま両手に持って構えを取り、貴方への敵対を宣告した。


 【罪業に抱かれし断罪者――ヘクトール】


 敵対の宣告をされたと同時、貴方は左手のカンテラを敵に投擲し、後ろに大きく二歩三歩と短い跳躍を繰り返し、距離の確保を優先させた。

 敵の得物は大剣であり、貴方の得物である鋸鉈よりリーチが長く、そして大きな力を込めやすい。しかしその分、振り切るためには少なくない隙が生じる。そこが付け入りどころとなる。

 ただしそれは、敵が並の人間であればの話だ。

 いずれにしても、貴方は戦闘態勢に入るために、邪魔なカンテラを投げ捨てた。敵に向かって投げたのは、明るい光による瞬間的な目眩ましを期待してのものでもあったが、あまり期待はできないことも理解していた。

 現に貴方の視線の先には大剣を正眼に構え、悠々とした足取りで歩み寄ってくる敵の姿がある。彼我の距離は既に五メートル程に縮まり、いつ接近戦に移行してもおかしくはない間合いだ。

 貴方は鋸鉈を右手で構えつつ、敵の初動を注視する。

 大剣という、長剣とは異なる重量武器に位置するそれの初動は遅く、攻撃方法は限られているからだ。前に突き、横に払い、縦に斬るという三通りが基本である。
 いずれの方法で攻撃するにせよ、上肢の大きな動きが必要となる。初動を確りと視認することができれば、その他の取り得る可能性も考慮できれば、後手であっても対応は可能だ。

 そうと構えて足をゆっくりと震わせる貴方に、敵は僅かに目を細めた。手並みを拝見するとでも言うかのように、彼我の距離が開いているまま、大剣を左の腰部に溜めるよう構え、身を低くし、両膝を曲げて足に力を溜めてゆく。

 その戦意は目に映るほどに高まり、容易には防ぎ得ない一撃を放ってくることが予測された。空気が極限にまで張り詰め、金属質に紛う高音が鳴り響く。聴覚には届かず、戦闘に身を置く者にしか分からない第六感に響く音だ。

 ――受けきれない……!

 貴方がそう判断を下したところで、斬撃が来た。

 彼我の距離を一歩で詰め切った跳躍力を殺さず活かし、敵は手に持つ大剣に力を移して、力を込めた大刃を振るう。全身の躍動した力が乗ったその一撃は、紛れもなく必殺の攻撃だ。如何なる物でも断ち切り、粉砕することができるだろう。

 貴方は防ぎの鋸鉈ごと切断される己の未来を垣間見て、敵の動きに合わせて身を屈め、一歩大きく横へと跳んだ。跳躍の刹那、下げた頭のすぐ上を剣閃の煌めきが通過する。明らかに、貴方の動きよりも遥かな速度で放たれた大剣の刃は、しかし空振りに終わったのだ。

「……上手いな」

 落ち着いている男の声音が、冷や汗の流れる貴方の耳へと染み入るように響く。次いで、血脈による激しい鼓動の音が、貴方の鼓膜を大きく打つ。

 身を屈めて避けた大剣の軌跡は、貴方が後背に置いていた大支柱を歯牙に掛けることなく、あっさりと通過していたのだ。
 攻防の結果として貴方は命をなんとか拾い、大支柱には鮮やかな線が刻まれた。実に細く、髪一本すら通らぬ切り傷である。大支柱の芯にまで達していよう剣閃の軌跡からは、敵の振るう大剣の攻撃力が粉砕よりも切断に特化していることが見て取れる。

 力が刃の先一点のみではなく、剣全体に均等に行き渡っているからこその切断痕であろう。直径二メートルを超える大支柱を苦もなく断ち切るには、剣身の鋭さはもちろん、想像もできぬほどの技量が必要となる。それらを持ったこの敵は、紛うことなき達人だ。

 その痩身のどこにそれを為せるだけの力があるのか、貴方は少しも理解できぬがしかし、現実の結果から逃避しない程度には、貴方は動揺していない。圧倒的とも言える実力差があるのは間違いないが、されど極々微かな勝ち筋が、確かに貴方には見えているからだ。

 腕や足の一本、二本は失うことになるかも知れぬ。が、それでも命を失うよりは余程に良い。とはいえそれでも、勝利としては随分と分の悪いものになると貴方は判じている。

 貴方は腰のベルトから短銃を引き抜くと、左手に収めて引き金に指を置く。無いよりはマシといった程度の牽制ではあるが、僅かでも勝率と回避率が上がることは確かである。ならば、使わぬ道理はない。

 短銃にも与えられている黒曜の加護は、何も対怪物に限定されたものではない。
 それは例え相手が怪物であろうと、致命傷を与えられるほどに火力が強化されている特別製の代物という意味合いが強い。

 ゆえに当然、怪物よりも下位に属している人間に、例え断罪者に対してであろうとも、有効でない筈がないのである。

 貴方が短銃を取り出すところを見た敵は大剣を盾のように構えると、頭を下げて身を低くし、右に左に細かく跳躍を刻んで狙いを定めさせぬよう動きつつ、されど確実に貴方へと迫ってゆく。

 貴方は彼我の間合いを調整しながら、手足を狙って射撃する。牽制が主目的とはいえ、狙いと推測をつけて撃ってはいるのだが、これがやはり命中しない。

 貴方もそうだが敵もまた、暗所に対する視力の低下がそれほどでもないらしい。小さな銃弾の軌跡を読み切り、足と剣との捌きによって確実に銃弾を回避しているのだ。

 が、この状況も貴方はある程度予測し、そして予定していたことである。
 貴方の狙いは大剣による溜め攻撃を阻止することであり、それでいて敵を自身に近づけさせることでもあったからだ。

 重量武器は至近の距離においては攻撃に移る際の隙が余りにも大きい。如何なる所作にも隙が生じ、阻止することが容易である。
 その点と比するに、貴方の得物である鋸鉈は大剣より隙が小さく、至近で振るうに不安はない。短銃も十分に有用だ。

 ゆえに貴方は機を見定め、彼我の間合いが遠すぎず、かと言って近すぎず、敵にとって最も攻撃し難い地点を見極める。や否や、守勢から攻勢の動きへと速やかに反転・移行した。

 しかし敵も然るもので、この状況に至ることを当然の如く想定している。

 敵は貴方の突撃に合わせて一歩退いて留まり、体勢を半身に構え置き、体裁きの勢いを上乗せし、大剣を的確に突き込んだのだ。
 先ほどの溜めが無い分、威力も速さも数段階は落ちている。が、しかしそれでも勢いの乗った重量武器による刺突である。当たれば致命とは届かぬまでも、しかし戦闘に支障の出る程度には、相応以上の傷を負うに違いない。

 貴方は突き出された大剣の刃を咄嗟に転がることで避けた。受け身を取り即座に立ち上がると、周囲を視認もせぬまま反射的に、右手を強く振り抜く。

 音も無く接近していた敵の首元に向かうは、鋸鉈の峰である鋭き刃の連なりだ。防御困難な鋸刃による即応の一撃を、敵は見てから屈むだけで回避してみせたが、次いで放たれる銃弾の連射からは、流石に逃れる術を持ち得なかった。

 貴方が連打した銃弾は敵の肉体に食い込んだ瞬間に炸裂して破砕の爆光を放ち、装束の破片と灼けた肉片を辺りに飛び散らせる。銃弾の手応えを得た貴方は転がるように飛び退り、間合いをとって僅かな休息を取った。

 敵に傷を与えはしたが、さりとて貴方も無傷で済んだわけではない。
 銃撃の最中に、敵は突き出していた大剣を怯むことなく片手の膂力のみで力任せに振り抜き、貴方の右側面から薙ぎ払わんとする重撃を放っていたためだ。

 貴方は身体の芯に響くような衝撃によって軽々と吹き飛び、石の床に幾度も打ちつけられ、されど三・四回ほど受け身を取りつつ転がると、転がる勢いをそのまま削らず立ち上がる。

 ふらつく身体に喝を入れ、各部位に意識を遣り、怪我の有無を確認する。
 どうやら右腕が折れたらしい。肋骨も何本かやられている。右半身の腹部回りにおける内臓も幾らか衝撃の影響を受けているか、口の中がいやに鉄臭い。それでも許容の範囲内だ、と貴方は微かに安堵する。黒曜の血による加護があるため、この程度の怪我なら僅かな時間で治癒するためだ。

 そしてそれは、同じ断罪者である敵にも適用される。ゆえに、できるだけ早めに決定的な傷を与えなければならない。そして、その足掛かりとなる勝ち筋は貴方には既に見えている。少なくとも今はまだ、慌てて動くべきではない。

 その上、運の良いことに敵は大剣の腹で貴方を打った。斬るという選択も取れた筈だが、銃撃を受けて攻撃の余裕が無かったからか。或いは別の理由があったか。前者の理由もさることながら、もし後者に主軸があるなら、無理矢理にでも彼我の間合いを開けておきたかったのだろうと推察できる。

 貴方の銃に込めてある銃弾は炸裂弾だ。ゆえに当たれば、否が応にも少なくない衝撃を引き起こす。その衝撃によって生じる反応を、問答無用の間隙を、回避したかったのではないか。

 或いは、我武者羅による咄嗟の反応ということも十分に有り得るだろう。
 もし敵が冷静だったなら、やはり大剣の腹で打つことはなかっただろうからだ。
 その場で大剣の刃を走らせ、貴方を斬っていればそこで終いであったのは相手も分かっているに違いないのだ。例え黒曜の血の加護を受けている断罪者であろうとも、上半身と下半身が別たれれば致命傷は免れないのであるから。

 反撃に必死でそこまで頭が回らなかった可能性も僅かに考えられるが、否だ。
 貴方は楽観的な推測を即座に棄却し、思考する。

 敵の様子を見るに、そもそも此度の戦闘に対する意識の根本が、完全に異なっているのだと貴方は悟ったからだ。敵は貴方に追撃を仕掛けようとせず、銃弾による裂傷を治癒させようともせず、黒き血を全身から流しながらも、何が愉しいのか、肩を震わせ笑っていたのである。

「お前は大した断罪者だ。黒曜の理念に共感し、自身もそうあろうと努めている。だが、それはお前が臆病だからだ。しかし、その臆病を克服しようともしている、本当に、良き断罪者だ。人間は、そうあらねばならない。常に目的をもって前進を志し、さらなる道の先へと歩みを進めるべきなのだ」

 敵は口の端から流れる血の塊を手の甲で雑に拭うと、懐から小瓶を取り出した。
 黒き液体の満ちているそれを、敵は頭上で握って割った。飛散し、指間から滴るその黒き血を不味そうに、不快げに嚥下する。

 右手に提げていた大剣を地に突き立て、喘ぐように声を漏らす。

「断罪者よ、罪業に抱かれることを真から理解するが良い。白き血も、黒き血も、深き罪業の前には些細なものだ。お前は自身の底知れぬ罪業を目の当たりにして、それでも先へと繋げられるか?」

 男は虚ろに語り終えると同時に、その口腔から大量の血液を吐き出した。
 それは紛うことなき、黒き血である。
 男は黒き血を吐き終えても背を丸めたまま、苦しそうに息を漏らす。喉を枯らして咳き込み続け、遂には咳き込みに抗えぬまま、喉から猛き咆哮をも吐き出した。やがてその激しい咆哮は、獣性を含んだ荒々しき鳴き声へと変化を遂げる。痩身の肉体と、断罪の証たる黒装束は急激に膨張する筋肉で押し上げられ、破れ弾けて、ぞろりと揃った黒蒼の毛並みを輝かせる。

 頭部はさながら、狼の如き凛々しくも雄々しい獣と化していた。
 その蒼き瞳に理知など無く、誇りさえも無く、完全に怪物と化したことを貴方に見せつける。四つ足となって声を上げ続ける黒蒼の巨狼は、間もなく貴方を視界に入れ、爪牙を突き立てるべき獲物と見做し、攻撃してくることだろう。

 ここから先は人間同士の決闘ではなく、怪物と人間による生存闘争だ。
 聖職者であった怪物は、一般のそれよりも遥かに強いと伝え聞く。
 断罪者とはいえ、聖職者に違いはない。ゆえに強さは、貴方が今までに経験してきたそれとは全く異なる領域だろう。

 貴方は目の前の現実に衝撃を受けて思考を緩く巡らせながらも、その身は確かな危機を感知し、再びの死闘に備えた即応の態勢を整えていた。


 【罪業に抱かれし怪物――ヘクトール】


 かつて断罪者であった黒蒼の巨狼は、もはや人間だった頃の記憶を消失しているらしい。 自身の相棒であった大剣などには目もくれず、足下にいる貴方に対して視線を向ける。

 その瞳に映る蒼色には理知の色など無く、獣性と攻撃性に満ちた暴力の色があるだけだ。

 不意に、巨狼の頭が貴方に向かって振り下ろされた。
 体高三メートルを超える高さからの、急激な振り下ろしである。
 一口で噛み殺す気を悟った貴方は、それを大きく後方に跳んで回避し、がちりと響いた牙の音を聞きながら、目の前の巨狼に向かって銃弾を二発、間をも置かずに撃ち放った。

 狙いはもちろん、巨狼の蒼き眼球だ。この薄暗い、目に見える死臭の漂う廟堂の中にて視界が利かなくなるというのは、地形把握の面において無視できない影響を与えるだろう。
 
しかし貴方の目論見は、敢え無く潰えることとなる。

 銃弾は確かに命中し、火薬による炸裂を巨狼の目に浴びせたのだが、しかし見たところそれほどのダメージを与えられず、精々、咄嗟に瞑られた目蓋の表面が僅かに焦げた程度であった。目蓋に秘された眼球までは、炸裂が届いていないようにも思われる。

 とはいえ、炸裂の衝撃は与えられたのだろう。巨狼は低い呻きを発するとともにその場から素早く跳び退いた。強靭な脚力による跳躍を見せ、恐らく彼我の間には二十メートル程の距離が保たれる。

 すなわちその二十メートルが、巨狼の攻撃における間合いであるということだ。脅威という他にないが、さりとてその間合いを以てこの場から逃走するという思考が脳裏に過ぎる程度には、大きな間隔でもある。

 貴方は巨狼が眼球への刺激に戸惑っている様を見計らい、近場の大支柱の根本に移動した。巨狼の死角に立ち、積まれている死体の山の中へとその身を潜ませる。 狼という動物は視覚よりも嗅覚の方が、ずっと鋭い感知能力を持っているという話を貴方は思い出したからである。

 死体に紛れることで死肉と腐敗の臭いを纏い、少しでも巨狼の嗅覚を誤魔化しておきたいという貴方の目論見があった。巨狼による把握を上手く潜り抜け、探索による隙を誘い、攻撃の糸口へと通すためだ。

 けれどもやはり、付け焼き刃の策など、所詮は付け焼き刃であるらしい。

 巨狼は全身の毛を逆立て、強靭なる四肢の筋肉に力を蓄えながら貴方の居場所を睨んでいる。どう見ても体当たりをする準備態勢であり、ゆえにこそ貴方の位置を把握していると判ぜられる。

 貴方が咄嗟に別の大支柱の裏側へと身を跳躍させると同時に、巨狼は突撃した。一瞬で彼我の間合いを詰め、死体の山を吹き飛ばし、大支柱に命中する。地鳴りと錯覚する程の振動と衝撃が廟堂の空気を激しく軋ませる。

 大支柱から石片が幾つも溢れて落ちるものの、しかし大支柱は巨狼の一撃に耐え切ったらしい。中心部に致命的な亀裂を走らせつつも、されど確かに立っているのだ。もう一度、同じ箇所に攻撃を受ければ倒壊は免れないだろうが、しかし二度も巨狼がそんな過ちを犯すとは思えない。

 なぜなら巨狼は大支柱に激突した衝撃によるものか、明らかに精彩を欠いた動きを見せているためだ。間が抜けていると言えばそうだが、しかし逆に考えるなら、その程度のダメージしか巨狼に与えられていないとも言える。

 とはいえ、それは隙には違いない。

 貴方はその貴重な隙を逃さぬよう、巨狼の下へと疾駆する。
 大支柱に頭を預けるようにぐったりともたれかかっていた巨狼は、貴方の接近を即座に感知する。鼻がぴくりと反応し、巨狼の目蓋が開かれる。鋭い視線が貴方に向けられ、巨狼は重い威圧を漏らす。

 ――だが鈍い。

 巨狼が立ち上がるよりも早く、貴方は胴体部の横を走り抜けて後背に回り込み、両手に構えたその鋸鉈を力の限り振り抜いた。

 低きから高きに至る巨狼の絶叫は、貴方の一撃が有効であったことを示す何よりの証だ。そして実際、その右足首からは、止めどない量の黒き血が噴き出し、石の床を黒く染め上げ、血溜まりを作り上げている。

 巨狼の右足首に深い裂傷を負わせた鋸鉈は、今や貴方の身の丈ほどもある大型の刃物となっていた。そしてそれは、これまでに振るわれてきた鋸鉈とは些か形状が異なっている。

 それは鋸と鉈の両方に内蔵されている機構をフルに稼働させた、対大型怪物用の決戦兵器である。鉈の分厚い刃を力点の中心に据え、鋸剣を鉈部の支えとしているその兵器は、刃身の長さだけで一メートルにも及ぶ。
 力点における重量が増していることから、持ち手もまた両手で扱えるように伸長できるよう整えられている。ちなみに、大型怪物用兵器の重量は断罪者であっても上手く扱える者がいない程の難点があり、貴方のみが使いこなせるという特別製の代物であった。

 ともあれ大刃物の一撃は、見事に巨狼の足首に対して断裂の傷を刻み込んだ。
 たとえ巨狼が回復力に優れた黒き血を有しているとはいえ、深く刻まれた裂傷を完全に回復するには多少の時間が必要となるだろう。
 貴方としては足首を切り飛ばす程の力を込めたつもりだった。が、この結果でも十分に過ぎると判断する。
 なにしろ相手は炸裂弾がまともに通じなかった強大無比な怪物だ。対大型怪物用の重量武器という貴方の切り札でも、巨大過ぎる狼の怪物に致命の傷を与えられるかは未知数だったというのが正直なところであった。

 ゆえに戦果としては、望外というべきである。巨狼を怯ませ、叫びを上げさせ、僅かとはいえ、硬直時間を生み出すことに成功したのであるから。
 そして攻撃が通じた以上、立ち止まっている暇はない。敵が硬直している絶好の隙を使い、貴方はさらなる攻撃を試みる。狙うは巨狼の、もう片方の後ろ足首だ。できるなら、左足首の裏側にある腱をも断ち切ることが望ましい。

 それさえこなせば巨狼の後ろ足のどちらも使用不能に陥らせ、その機動を大きく減退させることが可能となるためだ。
 貴方は右足首に向かって再び大刃物を打ち込むと、重量武器を降り抜いた反動を活かして身体を大きく跳ね飛ばすように移動させ、自身の肉体を巨狼の左足首へと至らせた。

 巨狼の右足首に打ち込んだ刃は移動の際に抜けており、再び振るうに問題ない。

 武器の重心移動と貴方の体重移動は計算通りに申し分もなく行われた。このままいけば巨狼の左足首に、大きな傷痕を残せるだろう。
 そう確信して大刃物を振り抜いた貴方は、しかし、巨狼の左足首に刃身が届こうその寸前、唐突に攻撃を遮られると同時に、全身を酷く強打した。

 巨狼により、左足首から引き剥がされるように殴り飛ばされたのである。

 貴方は全身から力を抜きつつ石の床を転がされ、殴打による衝撃を逃がしながら死体の山へと突っ込んだ。不意を打たれた結果となったが、なによりも、左足首を削れなかったことが痛い。加えて、唐突に邪魔をしてきた攻撃はなんだったのか、不明瞭なのが気にかかる。

 ――なるほど。

 しかし幸いにして、死体の重なり合って滑り落ちる隙間から、貴方は自身を殴り飛ばした物の正体を見ることができた。

 それは、巨狼が盛んに振り立てている巨大な尾である。
 距離を開けると然程に大きなものとは思えないが、しかし貴方を打ち払う分には十分に巨大で、相応の威力もあるのだろう。

 口腔に溜まった血液を吐き捨てながら、貴方は自身の状態を診断する。
 軽く動かしてみるに、四肢の骨に異常はほぼ無い。罅は入っているかも知れないが、折れていないなら許容範囲だ。しかし酷い打撲傷になっているらしく、動かす度に鉄釘で刺されるような痛みが神経を苛む。

 総合して判断するに、全身に走る痛みを無視すれば、戦闘行動に支障は無いといったところだ。が、貴方は厄介なことになったと歯噛みする。肉体が思う通りに動かせるのは不幸中の幸いだが、しかしなにより不運であるのは、手元にあるべき武装が無いことであった。

 巨狼に傷を与えられる唯一の武器を、先の尾撃で手放してしまったらしい。

 手元に残る武器といえば、巨狼相手には牽制にもならぬ短銃くらいのものだ。
 すぐに大刃物を回収せねばと辺りを見渡す貴方はしかし、巨狼の凄絶たる睥睨の視線とかち合った。

 寒気を感じるほどに濃厚で冷たい殺気は、思わず貴方を立ち上がらせ、無意識に戦闘姿勢を取らせる。けれども、そのような構えなど怪物に対して意味など無く、やはり得物が無いのではどうしようもない。

 否、攻撃手段としては、まだ身近に残されてはいるのだ。短銃ではなく、更には巨狼に対しても有効であろう得物が、である。


 それは貴方の前方、五歩程の位置に転がっている長大な剣だ。
 つい先ほど、敵が得物としていた黒蒼の大剣である。
 その幅広く鋭い刃であるなら、巨狼の硬皮を容易く切り裂き、密度の高い繊維をも滑らかに断ち切ることさえ可能であろう。
 しかし、同時に懸念がある。

 ――自身に、それが可能であるか?

 大剣は力を込めて振り回せばそれで良い、などという大雑把な武器ではない。否、大剣だけではなく、どのような武器であっても取り扱うためのコツを把握することが肝要である。

 武器を自身の肉体の一部と同化し、思い通りに扱えなければ、その武器の真価を発揮することはできないのだ。そんな基本は、取り扱いが難しいとされる大刃物を扱っている貴方もまた、よく理解していることである。

 けれども今は、そんなことを言っていられるような時間は無い。
 巨狼が先よりも精彩を欠いてはいるものの、貴方に対して攻撃の態勢を取りつつあるためだ。後ろ足首に負った断裂のことなど些事であるとでも言うかのように、巨狼の戦意と殺意は高く、目に視えるほどの圧威が空間を歪ませている。

 こと現在の状況において、貴方に選択肢など与えられていない。

 ――殺らなければ、殺られる。

 そのシンプルな思考の一致が、貴方と巨狼を全く同時に跳躍させた。

 交錯は一瞬、されど一手の決着には至らない。
 この跳躍において優勢を得たのは巨狼である。強靭なその脚力は依然、凄まじいものがある。後ろの右足首に怪我を負っていようとも、早々に失われる程度の強さではない。

 ゆえに貴方が大剣を拾うよりも早く、移動の速度を攻撃へと転じられたのだ。
 が、しかしその肝心の攻撃に精密性が欠けていたのは、やはり貴方の刻んだ断裂による後ろ足の影響があったためだろう。

 巨狼の振るった前足による爪撃は貴方の脇腹を骨ごと抉り取りながらも、しかし完全に抉り殺すことはできず、致命傷にさえ至らせなかったのであるから。

 とはいえ、半身の肋骨を根刮ぎ持っていく程の攻撃は、黒き血の加護を得ている断罪者の貴方であっても厳しかった。反射的に血反吐を吐き出した貴方は、腹部に集まる熱源が夥しいほどに流出してゆくことを朦朧とした意識の片隅で捉えつつ、千切れた装束をその身に手早く締めるように巻きつけ、応急の止血を試みる。

 黒き血による加護がなければ、とっくに死んでいる状態だ。
 けれども貴方は、神の加護を得ている断罪者である。常人であれば動けず、死に瀕している状態であろうとも、そのまますぐに死にはしない。黒き血液がその身に流れてさえいれば、ある程度の行動は可能である。

 貴方は左手で装束の内ポケットに仕舞っていた輸血袋を一つ取り出すと、破かずそのまま口へと含んで噛み潰し、一気に奥へと飲み込んだ。飲んだのは、黒曜の神から与えられる純正の黒き血である。黒き血は貴方の身体に浸透し、熱を冷まして傷を塞ぎ、乾きを癒やしながら欠損を補充してゆく。頭熱を冷やして精神の昂りを鎮め、冷静な思考と判断を取り戻させる。

 気づけば貴方の右手には、既に黒蒼の大剣が握られていた。大剣もまた黒き血に応えるように、その刃に渡る夜色を鈍く煌めかせる。

 貴方が剣を構えるより早く、二度目の交錯が行われた。
 巨狼の顎が極限まで開かれ、貴方がそれに正面から立ち向かう。どちらが疾く、相手に攻撃を届かせるかの衝突である。

 一瞬をも満たさぬ刹那の狭間にて、遂に互いの命運が決した。大量の黒き血飛沫が舞い、両者の視線が相手を見据える。その場に血濡れぬところなど無く、巨狼も貴方も血に塗れ、血に溺れ、決着による温かな余韻に浸っていた。が、それもまた僅かな時のことである。

 余韻から醒め、先に床へと膝を突いたのは貴方だった。

 全身の筋肉が痺れたように力が入らず、痙攣を起こして激しく震えている。痛みは無い。感覚すらない。立ち上がることもままならず、立て膝でさえ漸くといった有様である。

 断罪装束は血に塗れ、血に浸って濡れきっており、破損の箇所も分かり得ない。貴方の右腕は巨狼によって噛み千切られ、肘から先が完全に喪われている。当然、その手に握られていた大剣も、手元には無い。

 貴方は精魂尽き果てて、視界も思うように定まらず、大量の出血によって意識が完全に像を成していなかった。もし巨狼が意識を十全に保っていたのなら、貴方は既に噛み殺されていただろう。

 そう、巨狼は貴方の一撃によってその意識を喪っていた。
 息の根を完全に絶ち斬られていた。

 貴方の右腕は黒蒼の大剣に導かれ、その鋭き大刃を振るっていたのだ。
 巨狼の噛みつきに合わせて口内に刃先を突き立て、貫き穿ち、生体の最重要部である脳幹に届かせ、その機能を完全に粉砕せしめていたのである。

 朧ながらも思い返すに、巨狼はその最期の瞬間、噛撃を中断して大剣を本能的に回避することも可能だったのではないか、そのように貴方は回顧する。

 もし回避ができなかったとするなら、しなかったと考えるのであれば。
 巨狼は最期に、確かにその理性を取り戻し、大剣によって自死することを選んだに違いない、と。

 とはいえ、いずれにせよ、それは既に過ぎ去った時間への感傷だ。
 貴方は呼吸を整えて意識を取り戻すと、巨狼の抱えていた昏き罪業が綺麗に絶ち斬られていることを確認した。

 ――救済完了《REQUIEMED》――

 黒蒼の大剣により、同じ毛色を持つ巨狼は確かに、長きに渡って積み重ねてきた罪業から解放されたのだ。

 どうか、安らかにあれ。

 貴方は彼の澱んだ瞳を思い出し、胸中にてその死を祝福した。
 その身に白き血が流れようと、黒き血が流れようとも、等しくそれらは神による束縛である。そしてこの世に生きている限り、その束縛からは逃れ得ぬと理解してしまったがゆえに。


 『原初の人間』

 かつての人間は理知なき四つ足の獣であり、素裸で楽園を歩いていた。
 それを見かねた白き蛇神は、人間に叡智を与えたという。
 曰く、知性。
 曰く、誇り。
 曰く、罪業。
 人間は蛇神によって無知を知り、恥を知り、罪業を抱えて、楽園から逃れた。
 蛇神の与えた叡智は、人間を罪業渦巻く地上の獄へと堕したのだ。
 叡智を返上し、罪業を失えば、人間は再び楽園の生活に相応しい身分となろう。
 尤も、楽園に戻る資格など、神さえ持ち得てはいないのだけれど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

前世を越えてみせましょう

あんど もあ
ファンタジー
私には前世で殺された記憶がある。異世界転生し、前世とはまるで違う貴族令嬢として生きて来たのだが、前世を彷彿とさせる状況を見た私は……。

忖度令嬢、忖度やめて最強になる

ハートリオ
恋愛
エクアは13才の伯爵令嬢。 5才年上の婚約者アーテル侯爵令息とは上手くいっていない。 週末のお茶会を頑張ろうとは思うもののアーテルの態度はいつも上の空。 そんなある週末、エクアは自分が裏切られていることを知り―― 忖度ばかりして来たエクアは忖度をやめ、思いをぶちまける。 そんなエクアをキラキラした瞳で見る人がいた。 中世風異世界でのお話です。 2話ずつ投稿していきたいですが途切れたらネット環境まごついていると思ってください。

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...