【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島

文字の大きさ
193 / 253
Chapter12 - Side:Other - D

189 > 決戦の日−08(不倫の慰謝料)

しおりを挟む
 


「遅いですよ、大石森先生」
「すみません、まさかこんな時間帯にここまで混んでるとは思わなくて」

「まぁ、良いです。こちらにお掛けになって」

 志弦はそう言って、自分の隣にある1人掛けソファを示した。

「もうだいぶ話し込んでしまいましたわ」
「? 何のお話ですか?」

 大石森がぐるりと回り込んでソファに向かうのを横目で見ながら

「こちら、の話です」

 志弦が、テーブルの上にあるパンフレットを示す。

「あぁ……隆さんの…………」

 どうやらこの弁護士も事情は全て承知のようだ。

〝この人が、この会社の、この女性ひとの弁護士……〟

 池宮や汐見のようながっちりした体型ではない。
 スラッとした細長い体躯に、来ている濃紺のスーツの生地が上質なのがわかるほどのもので、気品と知的な雰囲気を感じさせる。弁護士というより、どちらかというと

〝大学教授のような……〟

「ご紹介が遅れました。こちら、当社の顧問弁護士の大石森五朗先生です」

 紹介された大石森は持っていた黒い革のカバンをソファの足元に置くと立ったまま一礼した。
 汐見と池宮も立ち上がり、一礼すると

「初めまして。ですね、汐見さん。池宮先生は、お久しぶりです」
「お久しぶりです。と言っても、2ヶ月前に法廷でお会いしましたね」

「別件でしたけどね」
「あれも離婚訴訟でしたね」

「縁がありますなぁ」

 そこまで親しいわけではないにしろ、それまで見たことがない池宮の挑むような口調に汐見は驚いていた。
 2人の弁護士のとってつけたような会話に、汐見がちょっと引いていると志弦が

「あら、汐見さん。コーヒーが冷めてしまってますよ。お取り替えしましょう」
「え、あ、だ、大丈夫です!」

〝もしかしなくても……顔見知りで……仲が悪い? のか?〟

「しかし……まだあの事務所に?」
「……」

「池宮先生はもう少し上を目指しても良いと思うんですけどねぇ」
「その話はもう終わったことですので」

「……わかりました。で」

 そう言ってその大石森という弁護士が自分の足元にあるカバンを取って何やら取り出す。

「えー、……春風紗妃さまは本日は来られないんですよね?」
「……あ、あの……」

 池宮が汐見を制して代弁する。

「春風ではありません。現在は汐見紗妃です」
「ああ、そうでしたなぁ」

「……大石森先生も来たことですし、本題に入らせていただきたい」
「まぁ、そうですね。私もそうさせていただきたいですわ」

 志弦も涼しげな声で池宮に同意する。

「わかりました。慰謝料の金額について異議がおありとか」
「そうです」

「なるほど。ではどの程度お支払いする予定ですかな?」

〝どの、程度……〟

 具体的な数字を考えていたわけではない汐見は少し考え込む。
 あくまでも斜めに対面する汐見相手に話を進めようとする大石森に、池宮は鋭い視線を真正面から投げかけて言った。

「そもそも、この慰謝料の金額は吉永隆さんが三浦家への融資として希望して吉永家が出したお金。それを不倫相手だからとはいえ、損害賠償として請求するのはおかしいでしょう。そんなことがまかり通るなら、彼が勝手にギャンブルで費消ひしょうした金額すら不倫相手に請求できることになる」

 一気にまくし立てた池宮に驚きつつ、汐見が双方の弁護士を見やる。

「それに。こちらにいる汐見潮さんも、被害者です。吉永隆氏の。彼にも吉永に慰謝料請求する権利がある」

 その場にいる全員が、ひりついた空気を感じていた。
 池宮の怒りのような気配を感じる主張に大石森も若干怯んでいる様子だ。

「……はー。志弦さん?」
「はい」

「この方達にどこまでお話したんですか?」
「……えーと、ほぼ全部?」

 悪びれた様子もない志弦が素直に答えると、大石森が座った目で威嚇するように志弦をめ付けた。

「……なぜ?」
「うーん……ちょっと誰かに聞いて欲しかった、のかも?」

「……遅れて到着した私も悪いですが、これでは私の職務が全うできないのですが?」
「そうですよねぇ……」

 そう言いながらも志弦の表情には少し楽しげな気配があり、困惑している様子ではない。

「まぁ、でもそこからでも要求していくのが先生のお仕事でしょう?」
「……あ、あの……」

 本来は当事者なのに部外者のように扱われていた汐見が

「その……お支払いするつもりではいるんです」
「汐見さん!」

「いえ、池宮先生。やはり……紗妃の方にも非はありますので」

 そう言って志弦と大石森に向き直る。

「ただ、慰謝料としては金額が現実的じゃないと。それに、他の方も、その金額を払える人はいないんじゃないでしょうか?」

 先ほど、志弦は愛人3人にも同じ内容で慰謝料請求の内容証明を出したと言っていた。ということは4人に3千万の請求をしているということだ。

〝4人に3千万なら、等分するとしたら750万。それくらいなら、先日池宮先生から言われた紗妃の相続した金銭でなんとか……〟

 瞬時にそう計算していたのは汐見だけじゃなかった。

「……おいくらなら支払えるという話なんですか?」

 大石森の質問に汐見が答える寸前、池宮がそれを遮る。

「その前に。3千万とした具体的な根拠をお聞きしたい」
「それは通知書で通達したはずですが?」

「融資額の6千万の半額と書いてありました。ですが、そのうちの5千万は海外での不動産詐欺で溶かしたと。そうすると、不倫に関して本来請求できる金額は1千万程度という話なのでは?」

〝そうか! 不倫関係でということならせいぜい……〟

 だがそれは池宮のはったりだった。
 
 なぜなら不倫の慰謝料は実際の被害額ではない。

 浮気・不倫の慰謝料とは【配偶者とその相手から受けたに対して支払われる金額】だからだ。








しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

処理中です...