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episode2
危険人物
しおりを挟むパーティ戦は、誰もが予想だにしなかった展開により、俺達ゴッドブレスが勝利した。
こんな事で一日の授業を終えるなんて、本当に訳のわからん世界だ。体力も魔力も全く減っていないのに、気力が疲れた。
「君達でも疲れる事ってあるんだね。」
そんな俺達を見て、リアンが面白そうに笑った。さっきまで死にかけてた奴の発言とは思えない。
ティアの魔法はHPを回復したに過ぎないが、リアンが一番戦っているのにピンピンしている。
「一年の時は、Sクラスであろうと基礎授業ばかりだったよ。みんなそれで鍛えられてる。」
なるほど。俺も前世では基礎がどうとか煩く言われたな…。
それでも俺は、こんな命を賭けた授業は認めない。殺されたくないし、殺したくもない。
そこまでしてSクラスになる事が誇らしいのか。
「今日はたまたま勝てたけど、ドラゴンレイアが相手だったらほんとに死んでたかもしれないよ。」
シロナが不貞腐れたように言う。相変わらず殺気に満ちた目をしてるけど、今何かしてくるって事はなさそうだ。
それにしても…リアンが敵わなかった相手をティアが一人で相手して勝ったと言うのに、彼女達はティアの強さを認めない。そこが一番の謎だ。
「ルーク達が相手だったらさすがにオレも降参してたよ。まさか、鬼人があんなに強いなんて…ティアちゃんに感謝だよ。」
リアンが微笑むと、ティアも少し頬を染めた。
確かに、恐らくクラスで一番レベルが高いあの四人がここに居なくて、本当に良かった。
しばらくはそいつらに会いたくない。リアンをパーティから外した理由が気にならなくはないが。
「混沌の眠りに誘え。」
「え?」
今度は急に生徒達が次々と倒れて行く。
さっき声が聞こえたが…この声、聞き覚えがある。
「…俺の魔法が通じないとはな…お前達、何者だ?」
倒れるリアンを受け止めて、俺は声の主を見た。
魔王討伐パーティのメンバー、マークリフ・ツァイト・リーグ。
義理堅く忠実な義賊。という肩書きらしいが、大きな鎌を背負ったその姿は死神にしか見えない。
「ただの生徒ですよ。」
「今クリフが使った魔法は、スキル持ちでないと防げない。Lv.1のただの生徒が、ダンジョンを攻略する事はあり得ない。」
やっぱりこの世界におけるスキルは、特別な力。経験とか訓練で身に付ける技能じゃない。
だけど変だな。確かリアンはスキルを持っていた。どうして眠ってしまったんだ?
「影よ、我の形を創りて敵を滅せよ…幻影人形(ファントムドール)」
マークリフ先生の呪文と共に、巨大な黒い影が姿を現した。
辺りは眠った生徒達共々闇に呑まれて行く。
[幻影人形:影で作られた人形。影は気を感じる者を喰らう。]
「ティア、“気”ってなんだと思う?」
「気?うーん…物事を積極的に立ち向かう心の動き、意欲、とか?」
なるほど。つまり、眠ってる奴は心の動きがないから、この人形には見えていないって事か。
「起きてる限り、気は隠せないか…リアンはわざと眠らせたんだな。」
「…この人形の仕掛けによく気付いたな。」
「リアンは弟同然の存在。傷付ける訳にはいかない。」
やっぱりリアンは、元勇者達の事を知っているんだな。“ユン”という存在も、彼等は知っているのだろう。
だったら聞き出してやろう。レベルを持たなかった、忘れ去られた存在を。
「よそ見をするな。」
そんな事を考えている間に、鎌から影が溢れ出し俺達に襲い掛かる。
俺は魔剣を構えたが、影に隠れた先生にあっさり払われ、腕を掴まれ蹴りを喰らう。
「ゲホッ…。」
なんだこれ、めっちゃ痛いじゃねぇか。この先生、加減てモンを知らないらしい。或いは、本気で殺しにかかってる。
「ゼロ!」
ティアが俺の前に出て防護壁を作る。
しかし、巨大な影がティアの壁をいとも容易く破壊した。
俺は慌ててティアを抱えて飛び退いた。
ティアが作った壁は魔法壁。ただの敵の攻撃なら、神の盾を身に纏っているティアが傷付く事はない。
ただ、この攻撃は確実に俺達の命を狙っている。この二人は、かつての魔王を倒した人間だ。神の力をまだ使いこなせていない俺達には強敵だろう。
そしてティアを下ろしてよく見ると、後ろには見えない壁らしいものがある。前には人形、完全に詰んだ。
「ねぇ、どうするの…?」
腹の痛みを回復してもらい、なんとか考える。ニ対ニなら勝ち目はあるはずなのに、相手は魔王を倒した元勇者。
女神のお墨付きをもらったところで、知識のない俺達に勝ち目があるのか。正直ちょっと焦ってる自分がいた。
「何が目的なんだ?」
「自分の胸に聞いてみろ。」
ティオ先生が聖剣を地面に刺し、その周りに魔法陣が展開される。その反対で、マークリフ先生が武器を構えた。
「ねぇ、なんか大技っぽいよ?」
ティアが俺の服を掴んで背中に隠れる。
右を見ればマークリフ先生の大鎌、左ではティオ先生の魔法剣、壁、人形。
リアンのガンマを構えると、大鎌の柄がそれを振り払う。ゴッと凄い音が響いた。
「っ…いってぇ…。」
カラカラと音を立ててガンマは地面を転がり、また大鎌が襲って来る。
今度はティアの防護壁が俺を守ってくれた。どうやら防げなかったのは、人形の攻撃だけのようだ。
「フンッ、女に守られてばかりだな。」
手がどんどん腫れていき、やがて握る事も痛くてままならなくなる。ティアが回復する隙は与えてもらえず、マークリフ先生の鎌は次々に襲いかかって来る。
「やはり期待外れか…。」
「チッ…。」
俺は舌打ちして、引力で無理矢理ガンマを引き戻した。戻って来たその振動すら顔が歪む。引金を引くのもかなり痛い。
チート級の力は持ってるくせに、なんで痛みは感じるんだ。とか感じながらも、なんとか引金を引いて狙ったのは、ティオ先生だった。
人形はそもそも幻影だからガンマは多分効かない。マークリフ先生の攻撃はティアが通用する。しかし、ティオ先生のあの聖剣は地面に刺した瞬間に魔力量が変わった。恐らく眠ってる生徒から魔力を吸ってるんだろう。
だからマークリフ先生は魔法じゃなくて物理攻撃して来るんだ。
よって、ここに居る誰より危険人物という事だ。
先生の足元に上手く撃たれた弾丸は、小さな魔法陣を作り、ティオ先生の魔法陣を消して行く。
「!リアンのガンマか…。」
「マークリフ先生、確か俺に触ったよな。」
左手で地面に手を付き集中する。
「!?」
マークリフ先生の手が地面に引き寄せられた。ティオ先生は膝から崩れ落ちる。
奪った分の魔力と、先生自身の魔力が、足元にある魔法陣に吸い取られているのがわかる。
「くっ…リアン、いつの間にこんなもの…。」
「先生達の負けですよ。どうしてこんな事するんですか?」
ティアが俺の手を取って回復してくれた。痛みも引いて、安堵の溜息を吐く。
俺が地面に座り込んだと同時に、闇の空間が晴れ眠っている生徒が起き出した。
「ん~?…あれ?なんでみんな寝てるの?」
「俺が疲れを取る魔法をかけた。今日は皆帰って休むと良い。」
ティオ先生が笑顔を向けると、女子生徒が急に言う事を聞くようになった。さっきまで俺達を殺そうとしてた奴なんだぞ…みんな顔だけで判断しすぎだ。
「リアン、早く行こう?」
「先に帰って良いよ。」
リアンがそういうと、シロナとクロエは俺達を睨んで競技場を去った。何がそんなに気に食わないのか。
「俺達としては、リアンにも退場願いたいんだがな。」
「オレ、二人のパーティーのリーダーなんで。」
眠らされた事を怒っているのか、少しだけトゲのある言い方をするリアン。
先生達は仕方ないと溜息を吐いて、「付いて来てくれ。」とその場を移動した。
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