新月神話伝 第六世代

鴉月語り部

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黄泉少女ヒガンバナちゃん

薊と彼岸花

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【前書き】
執筆日 2021/01/05
黄泉少女ヒガンバナちゃん シリーズ第一話
後半は罪火門 虚(ざいかもん とみて)と薊との出会い

登場人物は新月神話伝・第六世代
ギャグ寄りラブコメ?
ノベルゲームにしようとして諦めた作品です。


第六世代

とある黄泉 (いわゆる冥界)での日常
第一層・地獄道で橋を守護する橋姫こと一条橋彼岸花(いちじょうばし ひがんばな)は姉・八十禍津薊(やそまがつ あざみ)と今日も元気に怨み屋を経営していた。

アナタノウラミハラシマス……

どこかで聞いたことのあるフレーズではないだろうか

 カンカンカンカン……と業火埋めく地獄道(じごくどう)に金槌の音が打ち響く
鼻歌交じりに白髪と赤毛混じりの少女が藁人形を打っている

「~♪」

 隣で鬱々と藁人形を作る赤い和服の女性は薊(あざみ)と云う名を持つ
薄気味悪い美しさを持ち、死者の間でも人気がある

「ごめんなさい……妹が黄泉で騒音問題を起こしてるのも、姉である私の罪……」

「姉様、手が止まってますわ
もっと!!熱く!!情熱的に怨んで!!もっと熱くなれよ!!!」

「ごめんなさい……妹が熱血なのも、某テニスプレイヤーのせい……
違う、私のせい……」


「はーい、もしもーしこちら怨み屋【黄泉少女】です
はい?『金槌の音が近所迷惑だ』?
姉様~また現世からクソ陰陽師からクレーム来ましたよ、追加で呪っておきましょうか」

 次の電話担当は手が開いていた薊が引き受けた
彼岸花はカンカンカンと相変わらず楽し気に金槌を振るった

クレームの相手は恐らく二柱・天一神心(なかがみ なかご)であろうか
読みは『ココロ』では無い、『ナカゴ』だ。
「もしもし、八十禍津(やそまがつ)です……ごめんなさい……
はい……はい……私の好きなもの?毒のある花が好きです……午後のスケジュールは詰まっております……
交際は全て断れと……父と妹から申し付けられておりますので……」

「姉様、お待ちくださいまし」
電話を金槌で壊す彼岸花、なんというか切り方が強引だ

「姉様、そいつは多分いつもの【すとーかー】という輩ですわ
無視するも良し呪うも良し、逆探知で第二層・餓鬼道(がきどう)から掛けてきたものと見なしました」

彼女たちは父親単独で生まれ、母親から生まれなかった姉妹は共依存関係でもある
意外と彼岸花も姉に依存し束縛しているのだ
まあ、相手がなぁ……
――――第二層・餓鬼道(がきどう)

 先程のいたずら電話の犯人、暗殺者の羅刹(らsつ)少年・虚(とみて)は今日も薊を想う
「アザミ……汝(なれ)は女神か?
今日も勇気を振り絞って連絡してみたがあの橋姫に邪魔された」

「アハハ! トミーまたシゴトサボってる
お兄ちゃんに怒られて焼き殺されても知らないよ?
アタシ今日は助けてあげないよ☆」

それを見た姉・危(うみやめ)は弟を茶化した。
「うるさい!パー子は黙っててください!」

いつもは従順な彼が珍しく姉に怒鳴った。
「それ【すとーかー】ってやつでしょ?
キャハハハ♪ 相手が人間だったら陰陽師に退治されてたかもね!
トミーはカワイソウだね……」

 虚は薊にずっと焦がれていた。

――――過去の話になる
この死者達の世界である黄泉では恋愛など無縁だったが、ある時一人の少女が静かに泣いていた
黄泉で迷い、その場でシクシク泣いていたのだ

そのような者はどこにでもいたが、彼女は黄泉では珍しい生者
陰陽師でも無さそうだ

虚は少女に声を掛けてみた

「汝、どこの者であろうか
迷い込んだのか?」

「……お母様を探しているの」

「死人(しびと)なのか?」

「ううん、お母様はいないの
でも欲しいから……誰かお母様になってくれるヒトを探しているの
サンタさんに書いてもくれなかった……お母様、品薄なのかもしれない」

「何やら複雑な家庭環境とお見受けする……
母親なんて無くても生きてはいけるぞ」

なんということであろう……この少女は、サンタクロースを信じておるのか……
黄泉では宗教が違うから来ないと、吾は兄から聞いた

昔、兄がやってくれたように少女の手を引こうと思ったら露骨に嫌がられ、やや傷つくぞ……

「ダメ……! わたしの手に触れるとみんな死んじゃうの 」

「そ、そうなのか? とりあえず汝を送ってやろう
黄泉比良坂まで行けば現世に出られるかもしれぬ」

長い長い坂を目指し、第二層から第一層の地獄道へ
何を話して良いか分からず、少女と無言でただ歩いた

「貴様ぁ!!!私の娘に何をする……!
さては流行りの幼女誘拐犯だな!?
何と罪深き者であろう……私のダークエターナルブレイドが疼いて堪らない」

いきなり中二病を患う白髪の男に斬りかかられそうになり、少女が男を制止した

「駄目…… この鬼さんは良い鬼さん



「何!? それは失礼いたした……
そなた、よく見れば……いや、やめておこう
私の生き別れの弟なのかもしれない」

「ごめんね、鬼さん無視してね
お父様は幻想の世界で生きている痛い電波なの……」

「吾の兄も大体あんな感じだ、気にするな
……そなた、名は?」

「貴様あああ!!! 葦原で名を尋ねるという事は、即ち求婚や夜這(よば)いを意味する……
貴様やはり流行りの光源氏という奴だな」

「ごめんね、被害妄想も凄いの
またね鬼さん……」

あれが少女との出会いだった
黄泉は広いしすることが無い
吾は強き者になるべく第四層・修羅道(しゅらどう)で修業を重ねた

いつしかあの少女によく似た美しい女が花を摘んでいて、めそめそ泣いていた

「そこの者……汝は、あの少女の母親では無いのか?」

「……だれ?
あなたは、あの時の鬼さん
全く変わらないのね」

「?
……汝は、あの時の少女なのか?」

「そう」

月日なんて感覚が無かった
あの可愛らしい少女が、こんなにも美しく成長したのか
吾は全く変わっていない、15歳の肉体のまま
彼女はとても大きく、紅の長い髪を揺らす

沈黙が続き、気まずい
互いに何を話して良いかわからん

「名は」

「……この黄泉で、意味なんてあるの?」

「汝の名が知りたい、吾は虚(とみて)
さあ、教えよ」

「……薊(あざみ)」

伏し目がちに悲し気に花を愛で続ける薊

「汝に、似合う名だな
薊、良ければ吾とトモダチにな……」

勢いに任せて彼女と握手しようと触れると、猛毒に苦しんだ

熱い! 手のひらが焼けるような苦しみ……
火傷には慣れていたとはいえ、やや苦しんだぞ

「ご、ごめんなさい……!!! 
本当にごめんなさい……
これ、使ってね……」

謝ると薬草を置き彼女は去ってしまった


あれから彼女にどうしても近付きたくて、でも彼女を困らせてしまいそうで
すとーかーという者に転職しようかと考えている

「いや、なってるからストーカー呼ばわりされてんだろ」

珍しくパッパラパーのパー子姉者にツッコミを入れられた

「……愚弟(ぐてい)よ、またあの毒女(どくじょ)を見ていたのか」

中二病を患う、吾の兄者ウルミヤ
パワハラで有名だ

「見ていただけです」

「私にこれ以上恥をかかせないでくださいね虚……
折角囚獄(ひとや)と蘇芳(すおう)を蹴落とし、私達が初の黄泉比良坂以外の番人となったのですよ……」

薊の父はリストラされ、現在黄泉でプータローをしている
可哀想に薊……
吾もこの恥ずかしい兄を抱え苦しんで

「虚、お前さっきからブツブツブツブツと……口に出しておるぞこの愚か者!!!」

また兄は吾を燃やす

「ラメ男さん、相変わらずヒステリックですねー」

遠目で第一層と第二層の間の橋からヒガンバナがその光景を眺めている

「……あの恥ずかしい衣装のラメ男、嫌い……」

薊は妹の後ろでぼそぼそ囁く

彼女の目に留まったならそれで満足だ
嗚呼なんと黄泉は楽しいのであろうか、生きていた頃よりずっと楽しい!!!
いつの日か、兄姉を交えて薊と交換日記がしたいぞ……
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