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第四章…「暴露大会」

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コンコンとノックする音がレイトとユリィの部屋に響く。
返事はないが鍵が空いていたので、エリオとひなは小さな声でお邪魔しますと言って中に入った。
中にはイライラしているのが見てとれるユリィと、ビーズクッションで猫の様に丸まって寝ているレイトが目に入る。
普段外にいる時の二人とは全くの別人にエリオとひながおどおどとしていると、二人に気づいたユリィがあっと呟いてはレイトを蹴り起こす。
もちろん、蹴りを交わして起きるレイトにチッと舌打ちをするユリィ。

「いらっしゃい…二人とも」

「え、う…うん」

「………」

あまりの違いに戸惑うエリオに黙り混むひな。そんな二人に髪を縛るゴムを取り、髪を下ろしたレイトはあくびをしながら話したかったことを話始める。
話を聞きながら、エリオとひなはレイトが髪を下ろした姿がどう見ても女の子にしか見えないと思っていることは、本人は知るよしもない。

「あ~、話したかったことは…これからの学園生活で大事になるからチームである二人に話す必要があると判断したからだ」

「それって、二人の秘密?を話してもらえるってこと?」

エリオの問いにレイトは頷いて肯定する。真面目な表情を見せるレイトに、姿勢を正して座り直すエリオとひなにユリィはお茶を出す。お茶を出したユリィは、空いている席に座る。

「信じるかは知らない。だが、これでも事実ということだけは把握しておいてくれ……」

「わかった」

「わかり……ました」

「俺とユリィこいつは、元魔王と元勇者なんだ…転生魔法を使いこの時代に転生した、記憶も力もそのまま引き継いだままだ」

レイトが真剣な顔でそう伝えるが、エリオとひなは首を傾げる。理解はしているが恐らく頭が追い付いていないのだろう。それを理解できるからこそ、真実を告げたレイトとユリィは黙ったまま二人が完全に理解できるまで待った。
10分くらいが経つがやはり理解ができなかったエリオとひなは、小さく手を上げて質問を開始する。
エリオとひなの質問に、レイトとユリィは文句を言わずに答える。

「まず最初に、レイトが元魔王でユリィが元勇者ってことよね?」

「そうだ」

「あの……なぜ、他の人に……言わない…んですか?」

「それはね、元魔王だと知ったら面倒事!になるからってレイトそいつが言っていて、俺の場合は元勇者だから殺されるかもだし」

「まぁ、だしじゃなく…確実に殺されるだろうな」

ユリィの言葉に横槍を入れるレイト。
二人の間に火花がぶつかるのがわかるが、なぜそんな感じなのかは今だと何となくだが理解ができる。
まぁ、そんなことはさておき。
質問を続ける。

「前世?の記憶もあるってことは、レイト……様の方がいいの?」

「普通でいい」

「わかった。で、レイトは小さいときの記憶から死ぬまでの記憶があるのよね?」

エリオの質問。
ああ、そうだと帰ってくる言葉にズキリと胸が痛む。が、それと同時にどうしても聞きたかったこと……レイトが元魔王だと聞いたときから聞きたかったことを聞く。

「ねぇ……2400年前にいた私の両親をご存知ですか?」

「?……どんな姿、名前だ?」

「母は……悪魔の様な小さな翼があって、肩につくくらいの銀髪に青い瞳をしたサキュバスだと聞いていて、父は……癖のある白髪に赤い瞳の吸血鬼だったと聞いてる」

「………」

エリオの言葉を聞いたレイトは、目を閉じてまるで記憶の中を漁っているように見える。それを黙って見守るエリオとひな、ユリィは自分が入れたコーヒーを一口飲んでいた。
暫しの間の沈黙を破ったのは、漁り終わったレイトだった。

「ああ……いたよ確かに……あの二人がエリオの両親か」

「!………な、名前を!名前を教えてください!」

興奮したエリオは、身を乗り出してレイトに迫る。
そんなエリオに驚き身を反りながらも何度も頷いて同意を示せば、少しは落ち着いたのかエリオは静かに座り直してレイトを見つめる。エリオの行動に驚いたのはユリィやひなも同じだったらしく、目を軽く見開いていた。

「確かあいつ等の名前は、サキュバスはリオアディス・ルペア……吸血鬼はエリアベス・ヘアスだ……お前エリオは愛されていたな」

名前を伝え終えたレイトは、最後は小さく微笑んだ。その微笑みの意味に気づいたのはすぐのことだった。
レイトから聞いた大切な両親の名前を紙に書き留めていたからこそすぐに気づくことができたのだ……
意味に気づいたエリオの目には涙が溜まっていた。

「うん、私は愛されていたっ」

紙を大切に抱き締めて涙を流す。
泣き出すエリオを優しく抱き締めて頭を撫でるひなはとても大人びていた。
今まで黙って聞いていたユリィは、小声でレイトに問う。

「……エリオの両親は死んだのか?」

「ああ、死んでいる……エリオを産んでからまだ日が浅かった頃に総集をかけた時の戦いでな……お前の仲間に殺られてる」

レイトの回答に申し訳がないと感じながらも、あの時の戦いは酷いものであったが最終的には仕方がないと言い切ってしまえる………。
話題を明るくさせようとレイトは、エリオの歳について話始めた。

「知っているか?サキュバスや吸血鬼、貴族の一部の悪魔たちは1つの年を取るには150年必要なんだ」

「え、150年!?」

「ああ、だから皆より歳を取るのが遅いし……体の成長も遅い、俺もエリオの年数ではないが他の魔族より歳を取るのは遅いしな」

冷静に話すレイトにユリィはえっえっとした反応見せるが無視をされて、泣き止んだエリオが鼻を啜りながら「すまない」とかえす。レイトは「いや、気にするな」と言ってはユリィが入れたコーヒーに砂糖をどんどん入れていく。
ぽちゃんぽちゃんと投入されていく砂糖の音が部屋に響いていく、レイトの入れる砂糖の量にじと目で見つめるユリィに驚愕するエリオとひな。
そんな三人に気づかないレイトは、スプーンで三回くらい軽く混ぜた後に口に含む。そこでやっと三人の視線に気づいた。

「ん?何だ?」

「レイト……って、結構な甘党?」

エリオの言葉に首を傾げる。
そんなレイトにユリィがフォローする様にエリオの言葉をさらに砕いた。

「砂糖が入っているお菓子やパン他が好きなのかと聞いているんだ……それも理解できないとは元魔王か?レイトお前は」

「うるさいぞユリィ……ふむ、確かに甘いものは好きだ……が?」

むむむ?と首を再び傾げるレイトの姿が可愛いと思いつつも軽く咳払いをしてから、話を元に戻すために今度はひなが質問をぶつける。

「次……は……私から、えっと……ユリィは……勇者だった時の、力を……持っていると聞きました」

「ああ……本当だ」

「なら……その、お母さんスキル・・・・・・・……の高さは、前世のもの……ですか?」

ひなは真剣な表情でそう問う。
だが、ひなの質問がわからないユリィは首を傾げるがすぐに理解した。
それは、無意識のうちにレイトがこぼしてしまっていたお菓子のカスを片付けていたからだった。

「いや、これは別に…今日レイトのめんどくさがり屋だって知った時から何か」

「目覚めたんだ」

ユリィがモゴモゴし始めるのと同時にエリオが代わりに口にする。
悪気のないエリオにユリィはレイトを見つめてはため息を吐く。
そして始まるのだった。質問をぶつけるのではなく、チームを組んで何かの問題にぶつかったときのために話しておいた方が楽だとエリオが言い始める。
そんなエリオの提案にひなは賛成を示す挙手をする。ユリィも挙手をして、残りはビーズクッションに体を預けているレイトに視線が集まる。その事に気づいたレイトも挙手をして、全員の賛同を確認したのちにエリオから口を開き始める。
自分の秘密暴露大会の始まりの鐘が四人の中で鳴り響く。

「最初に私の秘密を暴露するね……私は今ひなの家で養子として預かってもらっているわ、最初は独り暮らしをしていたんだけど……ある組織から異端者は珍しいとか色々な実験をしたいからって私を捕まえようとしていた所にひなの父親が現れて、その場で養子にするって宣言をして奴等が無闇に手を出せなくしたって言うのが私の秘密」

エリオが恥ずかしそうに軽く舌を出しながらテヘッといった表情をする。
それを聞いてユリィとひなの視線がレイトに向けられる。
瞳だけ紫であるエリオよりも瞳と髪が黒が混じっていたとしても紫は入っているレイトの異端者としてのレア度は高い。
二人の視線を無視しながらレイトはエリオと軽く会話をしたのちに次にひなを見る。

「あ、次……は、私ですね」

一瞬ビクッと反応を示したひなは、深呼吸をした後に口を開いた。
二人目の暴露。

「私は……戦闘……中に、人が変わった……様だと……言われています。私は、意識して……いないのですが、強い口調に……なっているらしくて」

ひなの言葉を聞いて確認のため、ひなとは長い付き合いのはずのエリオに視線が向けられる。視線に気づいたエリオは、あっていると軽く頷く。
それを確認すると、再びひなに視線を戻した。

「その事を……最初に、教えて……くれたのは、エリオ…だった………エリオは、私の……大切な、家族で……友達で………心友」

「ひな……私もよ!」

ひなの言葉に再び涙目になっているエリオは、ひなを抱き締める。
それを目の前でおこなわれられれば自然とそれを見てしまうが、これ以上話を脱線されれば夜を迎えてしまうため、ユリィは咳払いを数回した後に口を開き始める。

「次は俺だな……俺の場合はさっき話に出てきたが、俺は元勇者でそのまま力を引き継いでいるために魔族では使えないはずの光の力を使える。後は……そうだな、ないな」

スラスラ言っていき、二点告げて終わる。エリオとひなは、うんうんと頷き最後であるレイトを見る。ユリィもレイトが秘密にしている物が気になり横目で見る。

「最後は俺か……俺の場合は、元魔王でユリィと同じくちからを引き継いでいて、現魔王の息子そして俺は魔王から逃げている・・・・・

「逃げる?」

「何で?父親なんじゃ」

レイトの言葉にいち早く反応するユリィとエリオ。気になった点を予測していたレイトは、誰もいない方へと視線をずらして話始める。

「現魔王は俺を捕まえて、とある部屋に閉じ込めようとしている……理由は簡単だ、なぜなら俺が異端者だからだ」

「異端者が何だって言うの?」

「考えてみろ、現魔王の息子が異端者なんだぞ?その事が民にバレれば反乱は起こるだろう……だから現魔王は俺を隠したがる」

レイトがそう告げる。
確かに異端者は他の魔族より魔力が高く、人間からも魔族からも恐れられる。だからこそ、基本は異端者が生まれればその場で排除される。
だがそれが魔王の子供であれば話は変わってくるのだ。次期魔王となるから。
そんな期待の中で生まれたのは、瞳も髪も紫の異端者。
現魔王は、息子が生まれたとだけ民に告げるがレイトの存在を隠そうとした。
だが、そもそも元魔王であるレイトが大人しく従うはずもなく、反発してこの魔学園に逃げ込んだとレイトは説明した。

「だから、町に行くときは変身魔法をかけなきゃいけないから、ツッコまないでくれ」

全員が秘密を暴露する。
暴露してわかったことがあった。
それは、この四人のチームが問題児であったこと。
何より、ユリィとレイトの秘密は必ず隠さなければならないこともわかった。
なるほどっと小さく呟くユリィであったが、ふと疑問が生まれた。
それは、なぜ紫の瞳や髪が異端者と呼ばれているのか。なぜ、異端者という存在が生まれたのか。ユリィが感じた疑問と同じ疑問がエリオとひなにもあったらしく、この四人の中で一番何でも詳しいはずの人物。レイトに視線が向けられる。
レイトは砂糖がたくさん入ったコーヒーを一口飲んでから口を開く。

「昔話は知っているか?」

「昔話?」

「そう、昔話……『悲しき魔族の子供の末路』という題名の昔話だ」

題名を聞いてからピンと来た。
魔族になってまだ16年のユリィですら聞いたことのある題名だ。だが、題名は知っているが本自体を読んだことがないといった奴で、ひなも同じだったらしく内容は知らないと呟く。
けれど、同じ異端者のエリオは読んだことがあるらしく暗い表情を見せる。

「仕方ないな……昔話でもしてやるか」

めんどくさそうにレイトは、体制を変える。まるで本当にそこに本があるようなポーズで座っている。
そして話始める。昔話を。

「昔々人間が大好きな魔族がおりました。
その魔族には、角もなく、尻尾もなかったのです。目立つと言えば紫の瞳に紫の髪のみで、その時代には異端者という存在はいなかった。
魔族も人間も争うことない、平和な時代でした。
だけど、魔族は人間の子供を蹴飛ばしたり、殴ったりといった暴行をしていました。
そんな人間の子供を庇う形で前に両手を広げて割り込んだ魔族の子供がいたのです。
人間をいじめていた魔族たちは、割り込んできた魔族を無理矢理どかして再び人間の子供に暴行を始めました。
呻く人間の子供に笑い声を出す魔族の子供。それを近くで見ていた人間が大好きな魔族。
パキンと甲高く何かが壊れた音が人間が大好きな魔族だけに聞こえていました。
その時に異変は起こりました。
紫の瞳は強く光、人間が大好きな魔族を中心に回りのもの闇が飲み込んでいきました。次に紫の髪の魔族が姿を見せたとき、その魔族以外その場に何も残ってはいなかったのです。あるのは大きな穴に穴の中心に立つ紫の髪の魔族だけでした。その事を気にやんだ紫の髪の魔族は、自分の体を火で燃やしました。
その魔族の命は助かりましたが、身体中に酷い火傷をおいました。
ですが、その魔族は笑っていたのです。
その事件が引き金となり魔族と人間は争い始めました。
そして紫の髪と瞳は異端者と呼ばれ、魔王が生まれた瞬間でもありました。
魔王を恐れた人間たちは、魔王と同等の光の力を持つ勇者を選出しました。
そしてすべての舞台が整った時、全ての物語は始まるのです。
……と言った内容だ」

語り終わった昔話。
ひなの目には涙がたまっていた。
そんなひなを抱き寄せて優しく頭を撫でる。ユリィは、昔話を聞いて不思議な気持ちになる。
なぜか、話を聞いていて昔見てきた風景が頭に浮かんだことがユリィにとっては不思議なことだった。その事に気づいていたレイトは、ふぅと軽く息を吐いた後に口を開いた。その言葉にユリィはそう言うことだったのかと理解する。

「この昔話は本当にあった出来事で、人間が大好きな魔族は俺のことだ」

『………』

「いや、元魔王である俺か?まぁ、それは置いといて……理解したか?」

レイトがそう訪ねると既にパンクしているエリオとひなが目に入る。
そんな二人を見て、今日はここまでだなと判断する。帰り支度が整い帰ろうとする二人にユリィは、送るよっと言って二人と一緒に部屋を出て行く。
部屋に一人になったレイトは、ビーズクッションに顔を埋めながらも小さく丸まったことは、この後無事二人を送り届けて帰ってきたユリィしか知らない。
疲れが溜まっていたのか、ユリィが帰ってきたことに気づかないまま小さな寝息をたてるレイトすらも知らない。
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