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第五章…「なぜ、こうなった」

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暴露大会をした翌日。
教室でレイト、ユリィそしてエリオ、ひなの四人がいつもの席に座り話していた。と言っても、レイトとひなは聞いているだけで話しているのはエリオとユリィだけである。
内容も他愛もない、昨日の授業で習った事の復習だ。ゴブリンはどこが一番お金になるか、集団で襲われたときどうすればいいのかなど。
他のクラスメイトたちはというと、すでに男女チームに馴染んでいるチームは男女関係なく話しており、まだ馴染めてないチームはちらちらと互いの出方を伺っている。だが、まだ馴染めないのも当たり前と言える。なぜなら、男女チームを決めたのは昨日のことだからだ。
すでに馴染んでいるチームは、メンバーがコミュりょくにたけているのか、それかしゃべるのが好きで話しかけてたら気づいたら馴染んでました的な感じだろう。
レイトたちのチームの場合は、入学式の時の騒動で知り合い、席が前後であり、エリオというコミュ力が高い奴がいたお陰でチームが組めている。
恐らく、エリオからお願いされなければレイトとユリィは余った人とチームを組まされていただろう。
突然のこと。
楽しそうに話しているチームがいきなり悲鳴を上げる。当たり前に誰もが悲鳴を上げたチームを見る。それは、レイトたち四人も混ざっている。

「どうしたの?」

「何が!?」

回りにいた男女が悲鳴を上げた男女に駆け寄る。
悲鳴を上げた男女は、小刻みに震えながら一点を見ている。

「……毒蛇ポイズンスネークだ」

いち早く悲鳴をあげられた原因を見つけたレイトは、回りにいるエリオとひなそして、ユリィに聞こえるように呟く。
毒蛇。名前のまんま、毒を持つ蛇のことだ。
けれど、この魔学園には許可が降りた動物又は虫しか入れないように学園長が結界を張っているのだが、許可が降りていない毒蛇がいるのは不思議なことだ。
平和に慣れすぎている生徒たちは、突然現れた毒蛇ポイズンスネークを見ただけでパニックを起こす。だから見分けることができない。
本物か、偽物かを。
もちろん生徒たちの前に現れた毒蛇ポイズンスネークは偽物だ。恐らく、サクラノが仕掛けたドッキリとかだろう。

「あはは……こんなのでビビってるの?」

入り口の方から聞こえてくる女の声。
さしてビビりもパニックになっていない者たちの視線が集まる。
視線の先にはいかにも偉そうな、まっ平らなものを無理に出しながらツインテールで縛られた髪は左右非対称で黒髪、右目は前髪に隠れているが左目は前髪を避けてあるために赤い瞳だとわかる。
背はサクラノと同じくらいの身長に胸元には赤いバラが付いているがそれ以外は膝くらいの長さの黒色のドレスである。
フリルも黒で腰に巻かれたリボンも黒で統一されている。
パッと見の感想を言えば、とりあえず黒いである。
おそらく、毒蛇ポイズンスネークの偽物を出現させたのも彼女だろう。

「平胸が何か言ってるぞ?」

「平胸のくせに生意気だな」

男たちの視線はとある人物と入り口の前に立つ女と交互に見られ、比較される。
まぁ、その場で比べられる対象は胸がでかいエリオだろう。
比較されていることに気付いた入り口の前に立つ女は自分の胸元を両手で隠しながら涙目で訴えるのだ。

「!…こ、これからでかくなるもん!」

「うわ、男子最低」

「こんな可愛い子を泣かせるなんて」

今にも泣き出しそうな女の子にクラスの女子が加勢し始める。
そして始まる。他愛もない事での争いが。女子と男子が対立する。
それをそっと参加せずに外野であることを示すように端による数人の男女。
その数人の中にはレイト、ユリィ、ひな、エリオそしてレイトを嫌う黄緑の髪に額には2つの鬼の角の男、ダマテ・ミーハグイルグ。
黄緑と緑の2色の瞳を持つミエハネ・ロイバ。
褐色肌に白い髪は後ろで小さく縛られたおだんご、海を写したような澄んだ青い瞳を持つダークエルフであるルイノギ・ノルギッシュと同じくダークエルフであり専属メイドであるルベル。
そして、肩より少し下くらいまで伸びた水色の髪に青い瞳を持つユリノ・ドミニテル。
腰くらいまで伸ばされていると思われる赤い髪は、ツインテールで縛られ、髪と同じ赤い瞳を持つリュカ・テルピアデノの計10人が参加せずに端にいた。
争いが始まってから約10分は過ぎただろうか。いまだに終わらぬ争いにやっと一区切りをつける人物が現れる。
誰もが惚れてしまいそうになる素敵な笑顔の持ち主であり、Aクラスの担任。
サクラノである。

「何の騒ぎかな?」

変わることのない笑顔。
だが、わかる人にはわかるらしい。
サクラノは今怒っているのだと。
騒がしかった教室は静まり、緊張感が生徒を支配する。
けれど、黙ったままだと状況は変わらず、見えてくるものが見えてくるわけがない。誰かがサクラノに説明をしなければならないのだ。
サクラノは説明を待っている。

「あの」

と声を上げたのは参加せずに見ていた一人のリュカだった。

わたくしが説明いたしますわ……まず、あちらのクラスの女子の真ん中にいる彼女が入り口近くにいたチームに悪戯として偽物の毒蛇ポイズンスネークを出現させてパニックを引き起こしました。その後はなぜそういった騒動になったのか、男子が彼女の胸をまっ平らと言い始めて、今にも泣き出しそうになった彼女を助けようと女子たちが参加し始めたと報告させていただきますわ」

リュカの報告を聞き終えたサクラノは、ふむと呟いた後すぐに事の収拾を始める。

「まず、男子は彼女に謝りましょう……彼女を傷つけてしまっているので、そしてそこの君は悪戯したことを謝罪してください……それで全ては収まります」

サクラノの言葉に素直に聞く男子に涙目になっていた女の子は、同時に謝罪をして他愛もない争いに終止符が打たれる。
終止符を打ったところで誰もが気になることが浮かぶ。
彼女は誰だ?っと。
そこでようやく気を取り戻した彼女は、先程の偉そうな態度を取りながらも自己紹介が始まる。

「私は隣のクラスのルア・ペテルよ、Aクラスの奴等の実力を確かめに来た偵察と言っておくわね」

「……偵察って言ったら偵察の意味はなくないか?」

ユリィの指摘にルア・ペテルは固まる。
それを見る限り、偵察をしようと決めたのは独断だったらしく。
単独で行動を起こしたが結局は騒ぎになってしまったために連帯責任が起こる。
この場合の連帯責任はチームとして扱われる。
なぜそうなるのかというと、学力又はテストはパートナー。実力はチーム。
としている。つまりは、二種類の中のどれかに当てはまはれば連帯責任は変わってくるのだ。
今回の場合、ルアは偽物の毒蛇ポイズンスネークを使ったために実力を計り又はどういった反応をするのかを観察するといたことをしたために実力に当てはめられ、チームとしての連帯責任が発令されたのだ。
独断行動だったとしても、この魔学園には独断と言ったことは絶対に無いのだ。
誰かが問題を起こせば、パートナー又はチームが連帯責任を追う。
それを始めて目の当たりにしたのだ。

「これから、ルアのチームに連帯責任の内容を伝えにいってくるね」

サクラノはそう言ってルアと共に隣の教室に向かう。静まり返った教室には、椅子に座る音だけが聞こえてくる。
誰もが気になる連帯責任の内容。
それはレイト、ユリィそしてエリオとひなも例外ではなかった。
レイトは目を瞑ったままある魔法を使い、サクラノの声とルアそしてチームの人達だろうと思われる声だけを拾う。
レイトが使っている魔法は、聴覚の強化という奴で言葉通り、普通の聴覚より倍聞こえがよくなる魔法だ。それをうまくコントロールして、四人の会話を盗み聞きしている。
目を瞑っている理由は、魔法を使うとき又は使ったときに現れる紫の瞳の真ん中に小さく縦に長い明るい赤紫の光が出現するので、それを隠すためである。


「さて、君たちのチームメイトであるルアが連帯責任の鐘を鳴らしましたので、今から連帯責任の内容を伝えるね」

「ちょっ、どういうこと!?」

「何で俺たちも責任を追うんだよ!」

「独断だろ?なら、一人でいいだろう!」

言っていることはごもっともな内容だ。
だが、この魔学園に普通を求めてはいけない。この魔学園は普通ではないのだから。そんな三人を無視すれば良かったものをサクラノは、三人のうち一人の問いに答え始める。

「確かにルア彼女は独断で行動をしたけれど、残念ながらこの学園に独断という言葉は無いの……必ずパートナーかチームが付き物よ」

軽く瞳を細目ながらサクラノは告げる。
例え、この事でチーム、パートナーの中が悪くなっても関係はないし、脱落又は卒業するまではこのままのチームとパートナーで行く。
チームのメンバー三人がルアを睨む。
ルアはさしてその視線を気にするわけでもなく、ただじっとサクラノを見つめて連帯責任の内容を待っていた。
サクラノはいつもの声のトーンではなく、低い声で内容を告げた。

「では告げる……あなたたちに与える連帯責任の内容は、ゴブリンを10体倒しなさい……証拠としてゴブリンの耳を持ってきなさい、期限は明日中」

サクラノはそう告げるとルアのチームのことを担任に説明しにBクラスに入っていく。
連帯責任の内容を聞いたレイトは、聴力強化を解いて、閉じていた目を開けてぼそりと呟く。

「ゴブリン討伐か……」

「ゴブリン討伐?」

隣にいたユリィがレイトの呟きに反応を見せる。
後ろで座っていたエリオとひなも反応を示し、身を乗り出しながら会話に参加してくる。が、それが静かな教室で誰もやっていない行動であり目立ち、誰もが四人に視線をずらしては耳を傾け始める。
その事に気づいているレイトは口を閉じて再びを瞑る。
突然黙るレイトに不思議がるエリオにひなは、辺りを見渡してから理解する。
きちんと席に座り直すのと同時にサクラノが教室に戻ってくる。
教卓に着くとさっそく、点呼もせずに授業を始める。恐らくだが、遅刻又はサボりは置いていく思考なのだろう。

「それじゃあ、授業を始めるね…教室の授業はそうね~、またゴブリン狩りかしら」

何でだした結果が、再びゴブリン狩りだったらしいがそれを聞いて誰かが大声を出して笑う。

「あはは!あなたのクラスはまた狩りですか?私のクラスは戦いで大事な道具や武器を教えるつもりなのに」

「人のクラスで何を言い始めるのかと思いましたら、授業内容の口出しですか」

笑顔でそう言うサクラノは、微かに殺気が混じっていて恐らく、ライバル的な存在なのだろう。
サクラノの授業内容を口出しする女は、言いたい放題言い終わると教室から出て行ってしまう。
残されたのは、笑顔のまま密かにキレているサクラノに状況が全く見えてこない生徒たちのみだった。
教卓の端を強く握るサクラノの表情から笑顔が消えていて、代わりに真顔があった。その真顔を見た生徒たちに戦慄が走る。

「授業内容変更……今から戦闘で何が必要か、自分にあった武器の探し方を教えた後は……隣のクラスをぶちのめすわよ」

「……ぶちのめす?」

「え…」

サクラノの最後の発言に顔を引きつかせるクラスの男女。
だが、今のサクラノに何を言っても変わらないだろうとなぜかそう感じとり、誰も何も言わずにサクラノに従うことにしたのだった。


「じゃあまずは、戦闘で何が必要かをおしえるわ……ダマテ・ミーハグイルグ答えて」

指名されたダマテは、はいと言ってその場に立ち上り答える。

「まず、戦闘で必要なのは…チームワークです。次に前衛・後衛を決めての戦闘だと思われます」

ダマテはそう言い終わると、席に着席する。ダマテの回答を聞いたサクラノは、うんうんと頷いた後に再び当てる。

「じゃあ、なぜチームワークが必要?なぜ前衛・後衛を決めて戦闘する?」

キョロキョロと教室内を見渡してからある人物を見て当てる。

「じゃあ次にルイノギ・ノルギッシュ答えて」

「はい、チームワークが必要なのは連携がとれていた方が敵を倒しやすいからです。前衛・後衛を決めておくのも、チームワークの連携をとりやすくする理由でもあり、何も決めずに敵に挑んでも最終的には決めなければならないからです」

そこまで言い終わるとルイノギは着席する。ダマテもルイノギの答えを聞きながら鼻でふんと言ったままそっぽうを向く。他の生徒も言い残しがないと何度も頷いていた。エリオとひなも頷いている。レイトとユリィは、へ~と思いながら頷きもせず、首も振らずにいるとそのことがサクラノに目を付けられてしまう。

「無反応をしている…ユリィ・マルバデア何か言い残しているかい?」

「え、俺!?」

ガタガタと慌ただしく立ち上がるユリィをチラ見したレイトは、小さくクスッと笑う。その事に気づいているユリィは、今すぐにでもゲンコツを食らわせてやりたいが我慢をしてサクラノに答える。

「はい、確かに最終的には決めなければならないけど、元々の自分が得意とする場所かあるのに戦闘中にその事がわかり、チームが全滅する可能性を事前に決めておくことによって防ぐっというのも付け足した方がいいと思います」

ユリィがそう答えると、サクラノはうんうんと頷く。
エリオとひなは、あ~、確かにと言った反応を示し、クラスの人達も同じ反応を示す。一人は除いて。
答え終わったユリィは席に座るなり、レイトの方を見てから机の横にぶら下げていた鞄から紙とペンを取り出し、何かを書いた後に横にずらし、レイトに見えるようにする。紙に気づいたレイトは、右肘を机の上に顔は右の手の平に乗っけたまま紙を見る。

<何でさっき笑いやがった>

「………」

レイトはポーズを変えずに左手でペンを軽く走らせて、横に飛ばしてやる。
軽く中に浮く紙がバレないか不安だったが、きちんとユリィの元で止り、サクラノにバレなかったことに一人ホッとするユリィを見て再びレイトは鼻で笑う。
ムカッとするが、ここは落ち着いて紙に何て書かれているか見ようじゃないか的な意気込みで紙を見ると一言だけ書かれていた。

<前>

(……前?)

紙に書かれた“前”が気になり前を見ると、教卓の前でユリィを見たまま笑顔でいるサクラノを見た瞬間に嫌な予感を感じる。黒板には模擬戦の順番か1、2、3と数字が書かれており、3には既にミエハネ・ロイバの名前が書かれており、どうやら1と2を決めている途中だったらしく。

「決めた、1はユリィ・マルバデアで2はレイト・アルディアデにしましょ」

サクラノははい、けって~いと言ってユリィとレイトの反対を聞き入れないとした素早い行動をとる。
何も言えずに決定される模擬戦の順番と選抜。だが、どうしても諦めきれないレイトはガタッと椅子から立ち上りサクラノに問う。

「すみません、なぜ俺まで選抜されてるんですか?」

「え~、なぜって……ユリィ・マルバテアは君のパートナーでしょ?なら、連帯責任が起こるに決まっているでしょ?」

「………」

そう答えるとサクラノは教室から出て行き、隣のクラスに乗り込んでいく。
模擬戦をしようと言いに言ったのだろう。レイトは無言のままユリィを見ると、ユリィはざまぁと言った表情をした後、席をたちどこかに行ってしまう。
それを見届けてからレイトは小さく舌打ちをした後、ユリィを追うのではなく、ユリィとは反対の方へと歩いて行く。
その後すぐ、サクラノは教室に戻ってくるや否やうきうきわくわくといった雰囲気を出しまくりながらも模擬戦の時間を伝えてくるのをユリィ、レイト二人の変わりに聞いていたエリオとひなは、サクラノが教室を出た後にそれぞれユリィとレイトを探しに教室を飛び出したのだった。
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