転生後、魔王は魔王の子として勇者は魔王の部下として物語は続く

夜月 雪

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第十四・五章…「あなたの隣で」

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暗闇の中で私は泣いていた。
小さな体を強く抱き締めながら泣いていた。目の前にあるモニターに写し出されている一人の少女を見つめていて感じるのは、知っているはずなのに思い出せない違和感のようなもの。
少女の表情は苦しそうで、悲しそうだ。
そんな少女が動き出したとき、空に魔法陣が浮かび上がる。何個の槍が降り始める。まるで雨のよう……私の心のよう。
モニターごしの映像を見ていたとき後ろに誰かがいる感じが伝わってきて、振り向くよりも速く背後をとられてぎゅっと抱き締められる。

「あの子の言葉はこの子には届かない」

彼女がそう呟く。
何でそんな悲しいことを言うの?って言いたいのに声がでなかった。
気づくと私の体に纏わりつく蔦があった。その蔦の所々にバラの花が咲いている。
__何て綺麗なんだろう……まるで、あの子のよう
私はモニターに映っているあの子を見る。名前も思い出せないあの子。

「ねぇエリオ……私の……こと、わかる?」

あの子が問うて来る。
私は何も言わずに自由になった体でそこら辺に転がっている人形で遊ぶ。
彼女が解いてくれた蔦を凝視した後ににっこりと笑う。何がおかしいのか私にはわからなかった……何だかどうでもよくなってきちゃったし……
また彼女の声が聞こえてくる。
懸命にかける声。叫んでいるような声。寂しそうな声……

「あ……あ」

頭の中に一瞬浮かぶ二文字。
その二文字を見た瞬間にあの子の顔が浮かぶ。
痛い痛い痛い痛い痛い!頭が痛い……ああ、痛いのは嫌だな。

「ねぇエリオ……私はあなたを助けに来たの……あなたを連れ戻しに来たの……」

私から感情が消えていく…
彼女に全てが奪われていく……
私の体なのに、私の心なのに、感情なのに!……消えていく。

「ねぇエリオ……私と一緒に、あの学園に帰ろ?」

ぴくぴくと痙攣する体で動く目で彼女を見た。不適な笑みを浮かべて私を見下ろす彼女を見た。

「………っ、助け………て」

かすれた声で、聞こえるか微妙な声で私は呟いた。目に溜まった涙が流れて意識は途絶えた。
次に目を覚ましたとき、歪む視界にモニターが映る。モニターには、美しい少女が映されていた。
太ももくらいまで延びた髪は、白く髪先は黄緑色、瞳は緑と黄緑の二種類に変わっており、ひらひらとしたドレスを身にまとわせている。それを見たとき私はすぐに理解できた。あの子なのだと。

「今から迎えに行くから、一緒に帰ろ?」

あの子がゆっくり歩みながらそう言ってくれる。私は迷わずにあの子の手を取りたかった……でも、体が言うこと聞いてくれない!私は!あの子の手を取りたいのに!

「___大丈夫だよ」

突如として誰かの声が聞こえた。
モニターに映るあの子は口を動かしてはいない……なのに聞こえた。
優しく、柔らかな声。
聞いていて安心する声を。

「さぁ、帰ろ……エリオ……」

「………うん、帰りたい……っ」

やっと言えた。
自分の意思で、口を動かして言えた。
あの子の体温を感じられる……

「【解毒デトックス】………今は眠っていて、【睡魔スリーピー】」

あの子が魔法を使う。
思考が停止していく。
でも、私は怖くなかった……あの子が、私の大切な宝物が側にいてくれるから……
気がつくと彼女は消えていたことを知るのと同時に私は再び意識を自分の意思で手放した。


何も見えない真っ暗な暗闇の中で、突如ちり~んちり~んと鈴の音が聞こえて私は目を覚ます。砂嵐のモニター、散らかった人形、薄暗い私の心。
ちり~んちり~ん。
四回の鈴の音の後に聞こえてくる少年の声。

「後はエリオ、お前次第だ」

「私……次第?」

どこまでも続く頭上を見た。
小さく、小さく今にも消えてしまいそうな光。あの光の先に何があるのだろうか……気になる。だけどそれと同時に臆する。本当にあの綺麗な光に手を伸ばしていいものなのか……あの太陽のように笑い、離れずにいてくれたあの子の元に帰ってもいいのか……私なんて消えた方がいいのかもしれない。
頬を何度も伝って落ちていく雫。
もがけばもがくほどに絡み付いてくる不安。誰かに優しくされたい、甘やかしてほしいと思う気持ちとは裏腹に叱ってほしい、突き放してほしいと矛盾した思いが雨のように降り始める。

「………私は……私…は」

気がつくと溜まるはずのない心に海のように溜まっていて私は沈んでいく。
このまま沈んでいったらどうなるのかなんて最初から知っていた……ただそれを選ぶか選ばないか選択しろと私の心が告げている。私は選ばないといけない。
このまま眠りか目覚めるか___

「私は」

私がいいかけたとき、水の抵抗を受けながら沈んでくるはずもないものが沈んでくる。唯一の仄かな光をともして、1輪の花が。
その花を手で受け取ったときに流れてこんできた…ひな・ルーベの気持ちが。

__私はあなたエリオが帰ってきてくれるならどんなことでもする…例えどんな犠牲が出ても構わない、隣にエリオがいて一緒に笑ってくれるなら……私がどうなったって構わないから、また…また笑いあえる日常に帰りたい__

あの子ひなの気持ちが伝わり終えると、光は消えてただの花となった。
だけど、私の気持ちが固まった瞬間でもあった。
私は頭上にあった光に向かって力強く手を伸ばす。水圧に負けかけても、今私の心の中に気持ちが支えてくれる。

「ほら……やっぱり、支えてくれた」

私がそう呟くのと同時にぎゅっと伸ばしていた手を閉めてから胸元に大切に引き寄せた。
その時に水は消え、その代わりというように綺麗な花畑が広がる。
心地よい風に揺れる様々な色の花。
時々風に乗って旅たつ花びら。
私の心の中。

「さぁ、目覚めよ……あの子のひなの隣に!」

私が力強くてそう告げると、花畑の景色は遠ざかり変わりに扉が目の前に現れる。私は迷うことなくその扉を開けた。

ピクッと指が反応する。

「あれ………私」

「エリオ!?目が覚めたの?」

長い夢を見ていた気分。
目が覚めた私に飛び付くようにひなが振り返る。記憶がよみがえる。
私が心にいたときに表で起きていた出来事を。全てを思い出した私はひなを見て溢れてくる感情に流されながらも何とか言葉を発しようとする。

「ひな……私、わた…し」

上手く言えない自分に嫌気がする。
涙目になっている私を見つめながらひなはゆっくりと口を開く。

「大丈夫だよ、エリオ…は……今も大事な家族で…友達で……親友……何も変わらない、例え変わっても……エリオはエリオだから」

にっこりと笑って見せたひなに私は感謝の気持ちと罪悪感に襲われながらも決意するように涙を拭い、満面の笑みで笑う。

「ありがとう、ひな!
……あなたひなは私が守るよ」

心に刻み込むように口にする。

「ありがとう……エリオ」

うっすらと溜まっていた涙を溢しながらひなはへらっと笑う。それにつられて私も笑う。
少ししてからひなは立ち上がり、私も立ち上がるときに手を差しのべてくれる。私はその手を取って立ち上がり階段を見る。
確か、ユリィとひなそれともう一人いたはず……
上の気配を探ってみても何も感じず、耳を済ましても爆発音や剣撃の音が聞こえない。まだまだ上らしい。
ふぅとひと息ついてから階段を上ろうとしたとき、ぎゅっとひなの手に力が入る。私がそちらを見るとひなは微笑む。

「大丈夫」

そっと呟くように言う。
私は頷いて同意する。
レイトとユリィに視線を向けると、自分の足で階段を上るレイトとそれを助けるユリィの姿が目にはいる。

「私……やっぱり戻ってきて正解だった」

誰にも聞こえない声で呟きながらふっと笑ってみせ、ひなの手を少し強く握る。
ひなも答えるように少し強く握り返してくる。私とひなの目が合うと笑いながら次の階段を上る。
どこかの階にいる仲間のために。
あの学園に帰るために。
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