上 下
49 / 193
第二部

上弦の月・2

しおりを挟む




実音々から、最近は事務所所属アイドル達がスクープを狙われているらく、この前も違うグループのメンバーが流出騒ぎを起こしたので、気をつけるようにと注意を受けた。
これは、やばい。
プロ彼女としての意識を常に持ち、改めて身を引き締めて行動しなくては。
と、言うことで私は空気となり、虚無の瞳で移動をすることにした。
虚無の瞳とは、学生時代の友人が学校内のヤンキーやイケイケのパリピに難くせをつけられない為に体得した、隠遁術である。私は友人から免許皆伝を授けられ済みだ。
念には念を入れ、自宅を出た瞬間から虚無の瞳を発動、きいくん宅まで誰かにつけられている気配もなく到着することができた。
部屋番号を押せばすぐに自動ドアが開き、エレベーターに乗る。
きいくんのマンションは真ん中が吹き抜けの中庭になっていて、玄関が全て内側に向いた作りになっている為、写真を撮られることはない。だから、焦って移動する必要がなく、ドジの私には助かるのだ。
玄関のチャイムを鳴らし、鍵が開くのを待つ。
この瞬間は、いつもドキドキする。
ドアが薄く開いて内側の光が漏れた。
「いらっしゃい。待ってたよ。」
少し疲れた顔をしたきいくんが、私の手を引き寄せて中に入れた。
ドアが閉まり、私を抱きしめるようにして、鍵をかける。
きいくんの柔らかい髪が首元に触れる。
「はあ…なかちゃんの匂い…落ち着く。」
頭をよしよし撫でて、背中に手を回す。なんだか、背中がバキバキになっている気がする。
「きいくん、疲れてる?ご飯食べた?」
「んー…現場でお弁当を食べて来た。なかちゃんは?」
「仕事終わりにサクッと食べちゃった。」
「そっか…じゃあさ、しばらくギュってしててもいい?」
こんなに疲弊してるきいくん、初めてだ。仕事が大好きで、どんなに忙しくても楽しそうにしているのに。何か…あったのかな?
「いいよー、いくらでも。」
言うが早いか、そのまま抱っこをされて部屋に連れて行かれた。
ベッドに座ったきいくんの膝の上に座らされる。胸元に顔を埋められ、スーハースーハーと呼吸をされた。
何もない胸でごめんね…おっぱい触る?って言える容量があれば良かったんだけど。
頭を撫でたり、ついでだからツボを押してみたり、髪の感触を楽しみながら地肌マッサージをしてみたりした。
「なにそれ…気持ちいい。」
「気持ちいいよねー。頑張り過ぎて疲れちゃってるきいくんに、マッサージをさせていただきたい。」
「えー、いいのー?」
「もちろーん。」
埋まったままの頭を指で優しく揉みほぐし、可愛いお耳を揉み揉み、耳の下のリンパを流す。
「いててっ!」
「これは、詰まってますねえ!」
「痛いよお、なかちゃん。」
甘えん坊なお声が可愛いー!なんなのー!はあ、たまんないよお。
「もうちょっと我慢ですぞ。」
首の筋を指でゴリゴリっとすれば、きいくんが呻く。ああ、呻き声も可愛いなんて…。
今度は後頭部と首の境目を、ギュッギュッと押す。
「ひっ、それも痛い…!」
「これはね、頭痛の元だからね、痛いと頭も痛くなっちゃうよ。」
「ううう!痛い…!」
もうちょっとだよーと慰めながら、首の後ろと肩の辺りもツボを押す。
「はあ…そこは気持ちいい。」
「お客さん、凝ってますねえ。」
「んふふ、マッサージも気持ち良くて、お姉さんの匂いと胸で癒し効果も抜群ですね。」
手がさわさわと腰からお尻を撫でる。
「あっ、こらこら、お客さん。お触りはダメですよ。」
「えー!触ってる方がもっと癒されるのにい。」
肩をむぎゅむぎゅ押していると、お尻をむにゅむにゅと揉まれる。
「やん、ダメだよ。マッサージちゃんとできなくなっちゃう。」
「んー…俺もなかちゃんのマッサージしたい。」
ううう、この甘えん坊さん!可愛い!苦しい!なにこれ!
いいよ、私の尻肉くらいいくらでも触りなさいよ。
「じゃあ、優しくしてね。肩と背中やってるから、邪魔しちゃダメだぞ。」
「はーい。」
お利口さん、可愛い。
背中に手を回して、肩甲骨を確かめる。おお、肩幅あるから外側にあるねえ…ときめく。周りの筋肉を押すと硬い。きいくんの肩こり!ぐいぐい揉む。
「ううう…気持ちいい。何それ。」
「肩こりのつぼー!かちかちですよー。」
「ダンスしてるし、こらないと思ってたんだけどなー。」
「スマホ見てるから?首からきてる?」
「あー、確かに。」
背骨の隣の硬くなった筋を優しくゴリゴリする。うーん、胃が疲れてるんじゃないかな?
「きいくん、お野菜食べてる?」
「…食べてないかも。」
「そっかー、お野菜とかヨーグルトとか、あとバナナとかお食べね。」
「はーい、おねえちゃーん!」
いきなりの返事に、ブフッと吹き出す。
「待って、みねねの真似?」
「似てた?」
「すごく似てた。笑っちゃう。」
「んふふー!」
嬉しそうに笑っている。きいくんは、事務所の先輩のモノマネもラジオで披露したりするし、そういうの好きなんだろうけど。まさか、うちの妹まで真似すると思わなかった。
「あー、みねねに聞かせてあげたかった。」
「怒られない?」
「喜ぶよ、みねねは。」
「じゃあ今度会った時に、やろっかなー。」
想像しただけで、ニヤける。可愛い。妹が2人に増えるハッピー空間だわ。
一人でニヤニヤしていると、きいくんの指先が背中をするりと撫でた。
「ひゃっ」
「今は俺のこと考えて!」
あらっ、ヤキモチ妬いてます?
お尻と背中を触りながら、鼻先で胸を押してくる。
「きいくん、かわいいー!好きー!めっちゃ好きー!きゃー!死ぬー!」
溢れ出んばかりの愛しさが、思わず口から出る。
きいくんはケラケラ笑いながら、ぎゅーっと抱きついてきた。
「強く生きて!」
「はい!不死鳥のように蘇ります!」
「死ぬの確定なんだ。」
「きいくんのそばにいたら、ばんばんに殺されるし、きいくんにとどめ刺されるし、いくら身があっても足りないよー!」
ふーん、と嬉しそうな雄顔。
クッソー!この人、世界で一番かっこいいのに、可愛さまで兼ね備えて、尚且つエロい!エロい視線で焼かれ死ぬ!もう無理!
「俺、なかちゃんの反応良いところ、だーい好きなんだ。嬉しくなって、いくらでもサービスしたくなっちゃう。」
これからの行動を予測して、ぶるりと体が震えた。
「あっ、大丈夫でーす。きいくん仕事で疲れてるから、ゆっくり休んでくださーい。」
「うんうん、じゃあお言葉に甘えて、ゆっくり楽しもうかなあ。」
無理無理無理、死ぬ死ぬ死ぬ。
舌舐めずりをするように笑って、視線をそらさす口づけられる。
「んっ!」
チュッと音を立てて離れると、きいくんから漏れてくる色気にクラクラした。
「きいくん、明日も仕事あるんでしょ?」
「明日は午後からー!なかちゃんも、明日は休みでしょ。」
だからお泊まりの準備ですよね、分かってはおりましたー。
柔らかい唇がたくさんキスを降らせて、耳を甘噛みした。
「はうっ…!」
「んー…ふふふ…耳で感じちゃう、かわいいなかちゃんは、ここが好きだよねえ。」
ふーっと息を吹き込まれて、溝を舌先でなぞられる。
「んんん、だっだめ…!」
ちゅるちゅると音を立てて耳を舐められると、体の力がどんどん抜けてしまう。姿勢を保っていられないから、きいくんの体にもたれかかる。
「あっ…ああっん…」
きいくんの唾液や舌を動かす音が、脳内に響いて腰がゾワゾワした。
ああ、だめ…それをされると、理性が溶けて消えてしまう。
もう片方の耳にきいくんの唇が移動して、ぐちゅぐちゅとわざと大きな音を立てる。
「あぁっ…きいく…んんあっ…」
直接触られてもいないのに、お腹の奥がキュンとして、胸の先がピリッと疼くのが分かる。
思う存分楽しんだきいくんが離れる頃には、私の体はぐにゃぐにゃにとろけてしまっていた。
「ゆっくり楽しもうねー。」
にこにこ嬉しそうに笑うきいくん。
これは、死亡宣告だ。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで

BL / 連載中 24h.ポイント:20,257pt お気に入り:1,414

淫乱お姉さん♂と甘々セックスするだけ

BL / 完結 24h.ポイント:653pt お気に入り:9

王太子殿下の子を授かりましたが隠していました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,320pt お気に入り:3,198

私を愛して下さい イチャラブしたこと無いんです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:424

王妃となったアンゼリカ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:130,804pt お気に入り:7,870

添い寝屋浅葱

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:35

魔物のお嫁さん

BL / 完結 24h.ポイント:875pt お気に入り:752

処理中です...