9 / 29
本編
8・ワンダフルデイズ
しおりを挟む地獄みたいだった私の毎日は、丈治さんと出会ったことで、キラキラ輝く日々に変わった。
思い出だけで生きられると思っていたけど、やっぱり会いたい、月に一回でもいい。丈治さんと一緒にいられる時間が、私を強くする。
スマホがふるっとメールを通知をした。
丈治さんとは、支給されているスマホのメールで連絡を取っている。
『11時に待ち合わせしよう。服装は、この前の夜に会った時みたいな、少しかっちり目がいいかも。』
なんですと?!
かっちり目?!そんな…あれなとこに…行くんですか…
えっ…そんな服、持ってなくない?!
どうしよう…
「亜美ちゃあーん!!」
隣で休憩をしていた亜美ちゃんに泣きつく。
「なぁに?」
「…デートに着て行くかっちり目の服ってどんな感じ…?」
口に入れたチョコレートを噛み砕いて、ニヤッと笑う亜美ちゃんは、言い方が古いけど、小悪魔って感じだった。
「なに、指定されたの?」
「うん。多分、ホテルビュッフェに行くって言ってたから、それだと思う。」
「ふうん、そのままチェックインしちゃったりしてね。フッフッフ…!」
「んなっ!亜美ちゃん!!」
少し思ってたけど、そんな都合よく行くわけないって仕舞ってた気持ちを指摘されて、顔が熱くなった。
そりゃあ…次の日も一緒って承諾したし、お泊まりの準備もしていくけれど。
「ホテルビュッフェねえ…お腹苦しくなって出ちゃったら恥ずかしいし、ワンピース着ていけば?シャツワンピみたいなカジュアルやつじゃなくて、レースとか華やかな生地のお上品なタイプ。」
「それは楽だわ。ワンピースいいね。」
「なんでもワンピースがあれば乗り切れる!」
すごく強いです!さすが亜美ちゃん!
「買いに行ってくる…」
「…前日に泊めてくれるなら、陽梨花もできるヘアアレンジと化粧のやり方、教えてあげるけど。」
不機嫌そうに口を尖らせて、紙パックのジュースを飲んだ。
「亜美ちゃん…!愛してる…!」
「それはどうも。」
なんだかんだ言って、亜美ちゃんは私に激甘なのだ。
週末、ワンピースを買った。
土日の外出は久しぶりで、いつも寝てばっかりだったくせに、今はウキウキしている。
レースって言葉に踊らされて、総レースのワンピースを選んでしまった。白を着る勇気がなくて、グレージュを選ぶ辺りが、私らしい。
透けている二部袖、体のラインをキレイに見せてくれる絞り、甘すぎないデザイン。丈は膝下だけれど、袖と同じように透けているから、膝頭と少し太ももが見える。
可愛いって、思ってくれるだろうか。
丈治さんは絶対に褒めてくれる…本当に思っているのかは分からないけど、あの優しい声できっと「可愛いよ」「似合ってるよ」と言ってくれる。
想像しただけで、私の心は暖かくなった。
丈治さんは、どんな格好でくるんだろう。また、スーツだったりするのかな。あの日…すっごくかっこよかった。
来週、会えるんだ…
ソワソワして指が震える。
「そうだ、パックしよう!」
思い立ち、薬局でプチプラのパックや基礎化粧品を買い込んだ。
週末、金曜日。
亜美ちゃんが仕事帰りに泊まりに来てくれた。
お店に食べに行くと疲れるので、スーパーで食べ物を買って家で食べることにした。
ザクっといい音を立てて、亜美ちゃんが唐揚げを食べている。あのスーパーは、唐揚げに力を入れていて、とても美味しい。
「めっちゃうま!もうひとパック食べられるくらいの美味しさ。胃袋的に無理だけど。」
「美味しいよね!それ!」
そんな私は、ナシゴレン弁当を食べている。お惣菜が美味しいスーパーが近くにあって良かった。
「あれから、連絡来たの?」
「うん、私が待ち合わせに了解メール送ったら、楽しみにしてますって!」
「…それだけって言うんじゃないでしょうね?」
「それだけだよ。」
亜美ちゃんがバリバリと音を立てて唐揚げを噛み砕いた。唐揚げってそんな音したっけ?
「許すまじ、三枝。何なの…本当…陽梨花に好かれてるからって調子に乗りやがって。」
「明日…会ったら、頑張って連絡先、聞いてみるね。」
「陽梨花…!分かった。私が気合入れて可愛くなれる技を教えるから!私は超えられないけど、2ランクくらい上げてやる!」
なにそれー!めっちゃ頼もしいんですけどー!!
亜美ちゃんなら、スパルタでも頑張るよ。
「はい、教官!頑張って覚えるであります!」
「飯を食ったらやるぞー!」
むっしゃむっしゃとお肉を食べて、奮起している亜美ちゃんに、心から感謝した。
いつもありがとう、亜美ちゃん。
テーブルを片付けて、持っている全ての化粧品と、ブラシ、ドライヤー、ゴムを用意した。
「一回、明日着て行く服と、明後日の着替え見せて。」
買ったワンピースと、着替えのシャツとスカートを出した。
亜美ちゃんがじっと見てから、着替えのシャツを手にする。
「このシャツは、明後日バッグから出したらシワだらけになってるよ。」
「えっ!」
「綿シャツはすぐシワになるから、なりにくい化繊とか、カットソーとかがいいんだけど。どうしてもこのシャツがいいなら、シワにならないように畳んで、押しつぶされないようにしまうしかない。」
そんなことまで考えてなかった!
「いい、大丈夫!つるってしたやつあるから、それにする!今出す!」
クローゼットから取り出したのは、とろりとした生地感の棒タイ付きブラウス。
「うん、いいじゃん。今年は棒タイ流行ってるし。」
良かった…まともなのあって…!
ホッとしたのもつかの間、亜美ちゃんが頷いた。
「よし、どっちもキレイ目だから、メイクは両日一緒でいいや。でも、ヘアアレンジは変えるから、覚えてもらう。陽梨花、メイク落としてきて!」
「はい、教官!」
すっぴんになると、亜美ちゃんが首を傾けた。
「化粧映えするのよね、陽梨花って。」
「元が地味目で良かったです!」
「そういう意味じゃないけど、まあいいや。さ、やるよ。まず、化粧水をこれでもかってほどつけて。手のひらにドボドボで!」
言われた通りに溢れるほど出して顔につける。吸収しなくて流れ落ちた。
「びしょびしょ。」
「顔は叩かないで、優しく押し付けるようにね。大切なのは、擦らないこと。肌は水分が命!キレイに見せたいなら化粧水で水分補給!赤ちゃんがツルツル肌なのは、水分量が多いからだ!」
「はい、教官ー!」
「化粧水は安いのでいいから、たくさんつけな。高いのと安いのの差はね、粒子の細かさだから。」
「そうなのか…」
知らないことばっかりだ。
なんとか化粧水を含ませて、美容液と保湿クリームを重ねて塗る。
亜美ちゃんに渡された順で、日焼け止め、下地、コンシーラー、ファンデーションをひたすら塗りたくった。既に7層になっている。
「本当はさ、ファンデは2色使いたいんだけど、一泊の荷物にそんな量を持っていけないから、とりあえずそれで。」
ハイライト、ブラウン系のアイシャドウ、チークを並べて、指示される。
「チークは笑った時に一番上がる頬の部分に入れて、ハイライトはTゾーンと目の下にサラッと。チークの上にものせていいけど、今回は省略。アイシャドウの肌色より少し濃い色で、顎から耳の下にかけてブラシをかけて。最後にフィニッシュパウダー。」
言われた通りにしながら、やり方を覚える。
亜美ちゃん、可愛さを研究しててすごい。
「この化粧は眉毛が大切だから。陽梨花は弓なりがいいと思う。下からラインを少しずつ描いて、調節するんだよ。で、眉の間はアイシャドウでいいから髪色より明るい色でぼかして埋めて。」
片眉だけ、亜美ちゃんが見本をみせてくれたので、その通りに書いて写真を撮る。
「これ見て書けば、泊まりの朝でも書けるでしょ。」
優しさの塊かよ…
「ありがとう…!」
「はい、次アイライナーね。陽梨花の場合は3ミリくらい長めに書いて。」
「はい!」
プルプル手が震えるけれどなんとか書き、アイシャドウを塗る。
「三色グラデーションを縦に塗って。眉頭から眉尻に濃くなるように。で、目の下はベージュ塗ってから薄いブラウン系で撫でて、綿棒か指で馴染ませて。」
言われた通りに塗っては、写真を撮る。
「できた…」
「本当はもっと細かく色々あるんだけど、陽梨花は細かいの苦手だからとりあえずそれでいけ!」
そうなの、あんまり細かいの書けない。絵も書くの苦手だし。
「マスカラがいつもダマになるんだよー!」
「毛先をなぞってから下からと上から塗ると、長くキレイに伸びるから。あと、古いのは使うのやめな。」
「そうなのかー」
でも、手が震える!目の中に入れそうっていうか、入れたことある。痛い。
亜美ちゃんにじっと見つめられて、ちょっと照れる。
「リップどうしようかな…濃いめピンクのグラデがいいかな。服が無地でキレイだから、アクセントが欲しい。」
ガチャガチャと亜美ちゃんのポーチを漁って、小さい黒い円筒を渡された。
「これ試供品のリップなんだけど、あげる。未使用だから!」
「えー!ありがとう!」
「一回全体に塗ってから、半分から内側だけもう一回塗ればグラデになる。」
するっと塗ってみると、ウルっとした唇になった。
「可愛い色、似合う。」
「買います。」
「とりあえず、それを明日と明後日頑張ろう。」
出来上がりを写真に撮って、保存しておく。
「すごい…いつもと全然違う。可愛く見える。ありがとう亜美ちゃん。」
「いや、陽梨花は自分に自信がなさすぎ。私ほど自信持たなくても良いけど、普通に可愛いからね。」
真剣に言われて、純粋に嬉しかった。
「ありがとう…丈治さんに可愛いって思われたら嬉しいな。」
「絶対に言わせる。はい次、ヘアアレンジ!」
「はいっ教官!」
1
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
龍の腕に咲く華
沙夜
恋愛
どうして私ばかり、いつも変な人に絡まれるんだろう。
そんな毎日から抜け出したくて貼った、たった一枚のタトゥーシール。それが、本物の獣を呼び寄せてしまった。
彼の名前は、檜山湊。極道の若頭。
恐怖から始まったのは、200万円の借金のカタとして課せられた「添い寝」という奇妙な契約。
支配的なのに、時折見せる不器用な優しさ。恐怖と安らぎの間で揺れ動く心。これはただの気まぐれか、それとも――。
一度は逃げ出したはずの豪華な鳥籠へ、なぜ私は再び戻ろうとするのか。
偽りの強さを捨てた少女が、自らの意志で愛に生きる覚悟を決めるまでの、危険で甘いラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる