9 / 42
ほとり編
(8) 気の周り過ぎる友人を持つということ後編
しおりを挟む「木実ちゃんや、お腹空いてないかい?」
しゃがれ声で話しかけて来る灘くんに、笑いながら返す。
「おじいちゃーん、お腹空いたー!」
「いいところに連れて行ってあげようねえ」
「待って、いいところって言い方怖くない?太らされて食べられちゃいそう。」
「ヒィッヒッヒィ!」
「悪い魔女だ!!」
「お前を蝋人形にしてやろうか!」
「違う、閣下だったー!」
「はい、着きました。」
グリーンに覆われた可愛らしい外観、中に入るとキャラクターのモチーフをあしらった、ポップでキュートな内装だった。
食事も、キャラクターのモチーフがメニューになっていて、どれも可愛い。
「迷うー!可愛いー!これにするー!」
「迷ってない!」
自分で選んでトレーに載せてお会計。空いている席に座った。
「ん!美味しい!」
ハート型のハンバーグがジューシーです。
「ほーとりちゃん、一口ちょうだい」
急に名前を呼ぶからドキッとした。可愛いから一口でも二口でもあげるわ。
ハンバーグをフォークに刺して、灘くんのお皿に載せようとすると、その手を取ってそのまま口に運ばれた。要するに、あーんをしたことになる。
「うまい。肉汁がジュワーってする。」
私、今確実に顔が赤いと思われます。足をジタバタしてしまいそう。
「はい」
灘くんがエビフライを口元に持ってきた。
「エビフライだよ?!いいの?」
「好きでしょ。」
「ありがとう」
顔赤いままパクっといただいた。えびプリプリで美味しいです。思わずニヤける。
灘くんも満足そう。
「木実、楽しい?」
「うん、ハッピーって感じ。」
「そっか、俺も。」
どちらともなく、エヘヘと笑い合った。
レストランを出ると、目的地があるのか一直線にどこかへ向かう。
移動中、ずっと手を繋いでいる。
荷物を出したり、アトラクションに乗ったりして手が離れちゃったけど、どのタイミングで繋ごう…とか考える前に、灘くんがごく自然に手を取ってくれていた。
あーもう、好き。好きが止まらない。今日よ終わらないでって感じ。
「木実、ベンチ座って。」
「あ、うん。どしたの?休憩?」
「ここね、並ばなくてもパレード見られる穴場。ちょっと距離あるけど。」
「さすが、灘くん。博士じゃん。」
「いや、嗜んでるだけ。本気の人と比べたら大したことない。本気の人は、何時間も前に並んで良い席で見るからね。」
ライトに楽しむタイプの私に、合わせてコース選んでくれてるんだなぁと思って、じんわり嬉しくなった。
「ほら、来たよ。」
灘くんの指先を見ると、ちょうどキャラクターがフロートに乗って、ファンサービスをしている。
「可愛いー!あ、そういえば、キャラクターに逢いに行かなくていいの?」
「これ見たら行こうか。」
「うん。」
そよ風に吹かれながら、咲き乱れる花壇に囲まれたベンチで、のんびりパレードを眺めていた。
キャラクターに逢いに、その子のお家に遊びに来た。
一つ一つの家具や小物が凝っていて、見ているだけで楽しい。
スタッフさんに呼ばれてお部屋の中に入ると、ピョンピョン跳ねて迎え入れてくれるウサギのラビがいた。
ここ、ラビの家だったんだ。
通りでニンジンやウサ耳モチーフの小物が多かったわけだ。
「ラビ、お友達が遊びに来てくれたよ!」
スタッフさんが紹介してくれると、ラビは嬉しくてたまらないと、抱きしめてくれた。
灘くんもラビとハグして、肩を組んで、なぜか左右に揺れ始めた。
待って、2人が可愛い。可愛すぎる。
「お姉さん、写真撮影できますよ。」
スタッフさんがニコニコ教えてくれたので、灘くんとラビをバッシャバシャ撮った。
最終的に、3人で肩を組んで写真撮影して退室した。
「可愛すぎた…なにこれ」
「思ったより良かったでしょ」
「うん、楽しかった。あと灘くんが可愛かった。」
「俺のことはいいよ。写真撮りすぎだし。」
「あとで送ってあげるね!うん、グループメッセージに送るわ。見せびらかそう。」
「やめろ。」
時間になったので、ミニショーを見にシアターへやってきた。
15分くらいの上映時間でも、エンターテイメントが凝縮された内容で、思わず涙していた。
歌やダンス、ラビ達の友情、夢、希望、そういう純粋でキラキラしたものがたくさん詰まっていた。
「すごく良かったー感動したー。ショーって良いね。」
ハンカチで涙を拭きながら、灘くんを見上げた。
眩しそうな顔をしている。
「俺、小学生の時に、このショー見て、ここが大好きになったんだよね。で、一緒にダンスしたいって憧れてたんだ。」
まぁ、ダンサーにはならなかったんだけどね、と照れ笑い。
「みんながハッピーになれる、素敵な場所だね。」
「うん、だから誘ってくれて嬉しかった。末さんにもお礼しなきゃ。」
「そうだね、末ちゃんに良いお土産買って帰ろっと。」
あと、お母様には菓子折りお渡ししよう。
ふと、携帯電話の画面を見ると。
「あ、末ちゃんからメッセージ来てる。」
「タイミング良いね。」
『ほとり、灘川と楽しんでるかーい?
末ちゃんサプライズ、喜んでもらえたかな?もちろん、下着持参してるよね。
夜は存分にイチャイチャしてくれたまえよ。
こっちは、天候も良くて良い登山が出来たよ。写真送ります。
告白、頑張れ!』
添付画像は松田くんが頂上でグッタリしている写真だった。
そうだったわ…告白するために誘ったんだったわ。
楽しすぎて忘れておった。
「木実、変な顔してるけど、末さん炸裂してんの?」
「あーうん、山登り楽しかったみたい。松田くんの写真送られてきた。」
「そういえば、松田に登山行くって言われた気がする。仲良いよね、あの2人。」
「んね。」
私達も、負けじと仲良いと思うんですけど、どうですかね?灘川くん。
とは言えず、ニコニコ笑っておいた。
「あのさ、明日の着替え、買いに行かない?遅くなるとお店混むからさ。」
「うん、そうだね。行こう!」
ショップが集まっているエリアの一角に、アパレル専門店がある。サイズもデザインも様々あり、アイテムも各種揃っている。
「俺は…インナーとパンツと靴下があればいいかな。」
「私は、上下セパレートでもいいけど、ワンピースがあるといいなー。灘くんのは、私が選んで進ぜよう。」
「じゃあ、木実のは俺が選ぶ。それぞれ選んで、10分後に集合ね。」
「任せて。」
なんにしよっかな。
総柄シャツとかいいよね。灘くん、ラビが好きみたいだし、全部ラビで合わせても可愛いかも。アメリカンサイズだから、灘くんはMサイズが丁度いいのかな。
パンツと靴下売り場もウロウロ。
灘くんが私の服選んでくれるなんて思わなかったから、どんなのになるか楽しみだしワクワクする。
3アイテム持って行くと、既に灘くんが待っていた。
「お待たせー。」
「もっと時間かけてて良かったのに。ピョコピョコ探してる姿が面白かったから眺めてたかった。」
「悪趣味!」
灘くんは楽しそうに笑った。
ちょっといじわるなとこが、グッと来ちゃうんだけど。私はMなのかもしれない。
「木実セレクト見せて。」
「はーい、私はこれでーす。」
ラビのコミカルなイラストが散りばめられている総柄の黒地Yシャツ。ラビの足跡がついている黒地のボクサーパンツ。ラビの顔のシルエットがワンポイント入った白いソックス。
「おー、これはこれは。…俺がボクサー派ってよく分かったね。」
一気に顔に血が集まる。
「それは…灘くん家で見たから…」
「木実のえっち!」
いたたまれなくて、ポスポスと灘くんの腕を叩く。
イテテ、と言いながら笑っている。
「灘くんセレクト見せてよ!」
「はいはい。俺たち気が合うね。」
灘くんが背中から出したのは、私が選んだのと同じシャツだった。
ただし、Lサイズ。
「オーバーサイズだから、木実ならワンピース丈になると思って。まぁ……いわゆる彼シャツってやつ。」
照れて目線をそらしてる。
ときめき過ぎて胸が苦しい…灘くんの願望を委ねられたってことですよね、着ます。
「うへへ、ありがとう。」
鏡を見ながらYシャツを体に当てると、丁度裾が膝丈だった。
「似合う?」
「うん」
長いペチコートも持って来ているから大丈夫だけど、ちょっとセクシーになるかも。
「それ貸して」
木実セレクトと灘川セレクトをスッと手に取って、そのままレジに行ってしまう。
「えっ、私買おうと思ってたのに!」
「俺のだからいいの。」
どんどん精算されてしまい、あっという間にショッパーに包まれた。
「自分の分は自分で買うのに。」
「俺が選んだからいいの。」
「なんなのー!何にも買えない!」
「まぁ、俺の願望を着てもらうわけなんで、そこはお金出させてもらわないと。」
「はい…」
願望って…言うなら性癖ってことですよね。
お互い照れて、しばらく無言になった。
「クマの歌、聞きに行こっか。」
「うん。」
クマは混雑しておらず、好きな位置の4人掛けに2人で座れた。
椅子に余裕があるのに、お互いピタッと寄り添うように隣合って、手も繋いだまま。
灘くんの体温が伝わってくる。
クマがあちこちから登場して歌い出す、優しい音色を聴きながら、そっと灘くんを見つめた。
やっぱり好きだなぁ。
今日こそちゃんと思いを伝えよう。
シアターを出て、のんびり連れ歩く。
「灘くん、分かったよ。クマの歌は、ゆっくりできるから、両親は休憩してたのかも。」
「俺もそう思う。ちょっと眠くなったし。」
「癒されるよね。」
ふふふ、と笑い合いながら、ストリートを散歩しているみたいな雰囲気。
アトラクションでキャッキャするのもいいけど、こうやって歩くのも楽しい。
「夕飯のリクエストある?なければ、ホテルのレストランバーは、オシャレという情報を得ています。」
「そこにしましょう。」
「バーから、夜のパレードも見られるみたいだよ。」
「見るー!」
「じゃあ、ホテルチェックインしに行こうか。」
ギュッと手をつなぎ直して、ホテルへ向かうことにした。
1
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
諦めて身を引いたのに、エリート外交官にお腹の子ごと溺愛で包まれました
桜井 響華
恋愛
旧題:自分から身を引いたはずなのに、見つかってしまいました!~外交官のパパは大好きなママと娘を愛し尽くす
꒰ঌシークレットベビー婚໒꒱
外交官×傷心ヒロイン
海外雑貨店のバイヤーをしている明莉は、いつものようにフィンランドに買い付けに出かける。
買い付けの直前、長年付き合っていて結婚秒読みだと思われていた、彼氏に振られてしまう。
明莉は飛行機の中でも、振られた彼氏のことばかり考えてしまっていた。
目的地の空港に着き、フラフラと歩いていると……急ぎ足の知らない誰かが明莉にぶつかってきた。
明莉はよろめいてしまい、キャリーケースにぶつかって転んでしまう。そして、手提げのバッグの中身が出てしまい、フロアに散らばる。そんな時、高身長のイケメンが「大丈夫ですか?」と声をかけてくれたのだが──
2025/02/06始まり~04/28完結
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる