10 / 42
ほとり編
(9)滲むキラキラ、溶け合う…
しおりを挟む「か、かわいいいい!!」
アール・ヌーヴォー調の部屋は落ち着いた色合いで居心地が良く、壁紙の柄やベッドの模様にキャラクターモチーフを使用していて、遊び心に溢れていた。
窓の外は遊園地の中の街並みが見渡せ、夕焼けからほんのり闇に飲まれて、灯りが揺らめいる。
「末ちゃん、ありがとう…!なんて素敵なお部屋。お土産の他に何かプレゼントします。」
「俺にも出させて。お礼したい。」
「末ちゃんが一番喜ぶのはお金だから、金券でも渡そう。」
「末さん、そういうところあるね。」
そしてそれで新たなアクティブスポーツを楽しんでもらおう。
「私、お風呂見に行こうっと!」
アール・ヌーヴォー調に縁取られた鏡と蛇口などの金属は金古美で、洗面台や床はベージュ色の大理石でできている。
置いてあるアメニティも充実していて、基礎化粧品はボトル入りで全て揃っていた。
「すごいー!コンビニ行かなくてもいいー!しかも持ち帰れるー!可愛いー!嬉しいー!」
あまりの可愛さにクラクラしてしまう。
「テンション上がってるね。」
「うん、うん!かわいい!」
ドアから灘くんが覗いてキョロキョロしている。
「ボトルのキャップがラビだよ!見て!」
「おお、本当だ。すげー芸が細かい。」
その後、トイレを見たり、クローゼットを開けたり、お部屋探訪でひとしきり盛り上がった。
持っていた荷物を整理して、ふと気づく。今夜、一緒に過ごすことに。
これ、絶対に…3回目あるよね。
レストランバーに行くってことは、お酒を飲むってことだから、二度と同じ失敗したくない。
お酒に飲まれる前に、告白するしかない。
バーとパレードの良い雰囲気で、成功してくれないかな…
平野さんとのことを考えると、
胸がズキズキと痛む。
いや、プラス思考で行こう。
もっと自分に自信持とう。
私は今、灘くんと一番仲が良い女のはず。
頑張れ私。
めちゃくちゃ緊張してきた。
「…み…木実」
温かい手が肩に置かれる。
「わっ!」
「やっと気づいた。そろそろ行かない?」
「うん、そうだね。行こう。」
全面ガラス張りのレストランバーは、パレードや街並みがよく見える高さに立地している。
店内は園内の光を邪魔しない程度の間接照明が置かれ、ゆったりとした空間が広がっていた。
灘くんがカードの入ったケースごとレセプショニストさんに見せる。
「ご提示ありがとうございます。ご予約の灘川様ですね、お席までご案内いたします。」
よ、予約…?!
騒げるような場所ではないので、何も言わずに席まで移動する。
予約されていた場所は、パレード観覧席のようで、ガラスに向かってテーブルが置かれ、ソファがある。
ソファに座ると、ウェイターさんから食前酒のスパークリングワインを注がれる。
小洒落た小さなメニュー表を渡されて、コースの説明が始まった。
ひえー!なんじゃこりゃー!
脳内は軽くパニック。
「それでは、ごゆっくりお過ごしください。」
ウェイターさんがにっこり微笑んで立ち去る。
「な、灘くん、これは?どういうこと?」
「ん、宿泊者限定の予約プランがあったから、木実が好きそうだなって思って。」
すぐ隣に座っている灘くんは、目線を逸らして、照れ隠しにスパークリングワインを飲んだ。
はぁ?なんなのこの人、まじイケなんですけど。
少女漫画か?これは現実なのか?
死んじゃう、こんなの死んじゃう。
「ありがとう、嬉しい。」
「うん」
前菜が運ばれて来る。
何か美味しそうな野菜と、白身魚のお刺身が素敵にクルッとされてるやつと、何かと何かが混ざっているサラダっぽいやつが、オシャレなお皿に盛られていた。
何かは分からないけど、食べなくても美味しいことは分かる。
「はぁ…美味しい…!」
口に広がるオイルと香草と燻製の香り…白身魚のお刺身によく合います。
見る見る口元が緩む。
「美味しそうに食べるね。」
「灘くんも早く食べて!」
白身魚を食む灘くんも素敵です。
「うん、美味しい。」
白身魚になりたーい。
それぞれ食べ終わった頃を見計らい、スープ、魚料理、口直し、肉料理と運ばれて来る。
特に、お肉がとても美味しかった。ジビエで鹿肉と鴨肉が出てきて、赤身が柔らかくジューシー、赤ワインのソースが渋味があるけど爽やかで、まぁお酒に合う。
「美味しいですう。灘くんありがとう。美味しい。」
「うん、良かった。」
灘くんの眉が八の字になってる。目尻の笑い皺が好き。
全てのコース料理が終わり、ひと息ついて、デザートのアイスクリームを味わっていると、お城の向こうからキラキラ輝くフロートが見えてきた。
近づくにつれて、こぼれる光がゆらゆら揺れて床に反射する。
足元に置いてある間接照明は、フロートについているものと同じデザインで、まるで2人で乗っているかのようだった。
光の海に包まれている。
「きれい…」
「うん、きれいだね。」
灘くんの顔にもキラキラが反射していて、見ているだけでドクン、ドクンと鼓動が高鳴った。
「灘くん。今日、一緒に来てくれてありがとう。」
「うん。」
ゆっくり呼吸を整える。
「急に泊まりになって驚いたり、初めてちゃんとショー見たり、ラビと戯れる灘くん見たり。」
「うん。」
震える手をぎゅっと握る。
「レストランの予約までしてくれて、楽しかったし、嬉しかった。」
「うん。」
灘くんと目が合う。
「楽しいこと、嬉しいこと、笑えること、悲しいことだって、何でも…灘くんと、ずっと一緒がいいなって、思ったの。」
「うん。」
キラキラ、キラキラ。
灘くんの瞳の中で、スパンコールのように弾ける。
「灘くんが、好き…」
溢れた気持ちが、光と共に瞳から零れ落ちた。
灘くんの指が、頬を撫でる。
「俺も、ほとりが好きだよ。」
目の前を通り過ぎるキラキラが滲んで、頬の上を流れ星が渡った。
2人の手が絡まり溶け合い、他には何もいらなかった。
パレードの余韻を引きながら、灘くんにエスコートされてレストランバーを後にした。
手を繋いで、部屋まで続くオシャレな絨毯の上を歩く。
足元がフワフワしてる。
嬉しくて、嬉しくて、脳内から幸せの成分がぶわーっと出ている気がする。
灘くんも、好きでいてくれたんだ。
その事実だけで一生、生きていける。
でも、私は欲張りなので、彼女にならなきゃ気が済みません。
「灘くん」
「なに?」
「私、今日から灘くんの彼女ってことで、いいんだよね?」
「ん?2週間前から、俺の彼女じゃなかったっけ?」
「え?」
2週間前とは?
「待って、ちょっとよく分かんないんだけど。どういうこと?」
「俺、木実に言ったよ、付き合おうって。」
嘘でしょ!?知らないけど!
「いつ?」
「処女もらった後。うん!って返事してたよ、その後すぐ寝てたけど。」
繋いだ灘くんの手をブンブン振り回す。
「えー!全然覚えてない。私、眠い時って記憶ないんだよね。」
「あー…通りでね。おかしいなとは思ってたんだよ。彼女になった割には、なんか態度がよそよそしいし、前より変に遠慮がちだし、終いにゃ誰にでも対応が一緒だとか言われるし。」
わざとらしく、はぁーあ、とため息をつかれた。
「それは、褒めてたの!」
ジト目で睨まれる。その顔、好き。
「俺、結構態度に出してたんだけどなぁ。付き合ってないのに、手を繋いだり家まで送ったり、出張先まで電話したりなんてしないよ。」
その節はありがとうございました。
「でもセックスはしたじゃん。」
灘くんを見上げて、唇を尖らせる。
「それは…好きだったから。処女もらってって誘われた時は、びっくりしたけど…木実も俺のこと好きなのかなって思って。もし好きじゃなかったとしても、他の男に渡すなんて無理。」
プイっとそっぽを向いた灘くんは、首まで真っ赤だった。
つられて私も赤くなる。
「ありがとう。」
部屋に戻って、とりあえずベッドに身を投げ出した。
「はー…緊張した。」
「木実は2週間も悩んでた訳ね。」
「そうだよ!…あっ!!待って!まだ解決してないことあった!」
「なに?」
灘くんが、ベッドに広がる私の髪の毛を指で弄びながら、後ろから抱きしめる。
「日曜日、経理の平野さんと一緒にいるところ、見かけたんだけど。デート?」
「は?…あー、見られてたのね。あれ俺と平野の2人に見えた?」
「うん。違うの?」
首に顔を押し付けスリスリされるから、くすぐったい。
「平野の隣には現彼氏がいたよ。しかも俺の大学の先輩で、今度結婚するんだって。あの日はサークルの同窓会だったんだけど、先輩が婚約者って自慢しに連れてきてたから、びっくりした。」
だからデートじゃないよ、と言って首筋にキスをされた。
「元カノだったんでしょ?」
「あー、知ってたんだ。末さんか松田?」
「うん。」
灘くんの手がもぞもぞと動く。
「なんか、外堀から埋められて嵌められたんだよね。好きでもないし、すぐ別れたし、何にもしてないから、安心して。でも、嫉妬してくれていいよ。」
「それは…ちょっとする。」
「可愛いなぁ。」
平野さん問題は、呆気なく解決した。勝手に妄想して落ち込んでた自分が馬鹿みたい。やっぱりうじうじ悩んでないで、当たって砕けてみるべきだった。
「安心したけど、私には何かしようとしてるよね。」
ワンピースの胸元のボタンが器用にプチプチ外されていく。
「そりゃまぁ、好きだし、付き合ってますからね。」
下着の上から、ふにゅふにゅと胸を揉まれた。
「ひゃっ」
「今日、ショルダーバッグを斜めがけしてたじゃん。ずっと気になってたんだよね。俺のなのに他の奴らが見てくるし。」
ムギュッと力を込めて揉みしだかれる。
「あっん、そんなっ、こと言われても」
「でも、俺は見ていたいからショルダーバッグやめてとも言えないし。むしろ続けていただきたい。」
「あぁん、なだく…ん、ムッツリ」
下着の上から、膨らんできた突起を擦られて、声が止まらない。
「ほとりに、2週間も触れなくて辛かった。」
耳を甘噛みされながら、優しくて低い情欲を含んだあの声で囁かれる。急に名前を呼んでくるのずるい。
「はあっん…幸太く…ん?」
強く抱きしめられた。
「今夜、抱き潰すから。」
よろしくね、と死亡宣告されました。
1
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
諦めて身を引いたのに、エリート外交官にお腹の子ごと溺愛で包まれました
桜井 響華
恋愛
旧題:自分から身を引いたはずなのに、見つかってしまいました!~外交官のパパは大好きなママと娘を愛し尽くす
꒰ঌシークレットベビー婚໒꒱
外交官×傷心ヒロイン
海外雑貨店のバイヤーをしている明莉は、いつものようにフィンランドに買い付けに出かける。
買い付けの直前、長年付き合っていて結婚秒読みだと思われていた、彼氏に振られてしまう。
明莉は飛行機の中でも、振られた彼氏のことばかり考えてしまっていた。
目的地の空港に着き、フラフラと歩いていると……急ぎ足の知らない誰かが明莉にぶつかってきた。
明莉はよろめいてしまい、キャリーケースにぶつかって転んでしまう。そして、手提げのバッグの中身が出てしまい、フロアに散らばる。そんな時、高身長のイケメンが「大丈夫ですか?」と声をかけてくれたのだが──
2025/02/06始まり~04/28完結
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる