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しおりを挟む中はおしゃれな間接照明が下がっていて、全体的に落ち着いた雰囲気。こんなことで訪れるのがもったいないお店だった。
まあでも、うちのカフェの方が私の好みだよね。
うんうんと頷いていると、スタッフさんに声を掛けられたため、待ち合わせだと伝えて店内を探した。
一番奥、壁を背にした席に、あの男が座っていた。こっちに気付いて笑顔で手を上げる。
とてつもなく面倒くさいけれど、来たのは自分の意思なので向かいの席に座った。
「倫音ちゃん、来てくれてありがとう!」
眩しいくらいのアイドルスマイルに、元要とのキャラの違いを感じた。
うちの弟は、キラキラアイドルというより、スタイリッシュでカッコいい系だ。父親やその他大勢にみっちり仕込まれたから、ダンスも実力派だし。
うーん、やっぱり、ゆうくんの方が断然かっこいい。あと、ゆうくんの方が硬派だし、歌もうまいし、ダンス上手だし、人に無理強いしないし、優しさの塊りだし、あれ?良いところしかないな。さすがゆうくん。
「倫音ちゃん?」
「あ、うん」
うっかり、心が対話を拒否してしまった。
「その、俺ずっと倫音ちゃんのこと好きで…!」
私の顔をね?
「初めて会った時から好きで」
まだ席に着いたばっかりで、注文もしてないのになあ。オリジナルブレンドのコーヒーがおすすめって書いてあるから、それ飲みたいのに。
相手が盛り上がれば盛り上がるほど、私の心は冷静になっていく。
「手紙でも何度も伝えたと思うんだけど、やっぱり諦めきれなくて、俺と付き合ってくれないかな?」
「は?」
諦めるから一度だけ会いたいと言ったのは、貴方では?
びっくりして顔を見ると、期待に満ちた表情をしている。
いやいやいや、無いですから。
「来てくれたってことは、ちょっとは可能性あるってことだよね」
微塵もないです。一切ないし、すごく自分勝手で勘違い系の時点で、話すのすら面倒。
やっぱり、罪悪感に負けないで家にいれば良かった。自分の弱さに負けたのは私か。ああ、もう本当に最悪。
「ごめん、付き合う気ない」
「なんで?俺じゃダメ?倫音ちゃんの隣に立っても恥ずかしくないと思うよ!」
まあ、顔はそこそこ良いかもしれないけど、人として無理。こんなやつと、キスしたりセックスしたりなんて、考えられない!
「ごめん」
「なんで?他に好きな奴でもいるの?!俺より顔がいいの?」
すごい、食い下がってくるな。まだ好きな人がいるかどうかも判明してないのに、自信過剰だし。
私がドン引きしてるの、分かってるんだろうか。
はあ…とため息を吐いて店の入り口に視線を向けると、ちょうど良いタイミングで見覚えのある人物が入ってきた。
天啓だ…!と私は思った。
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