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しおりを挟む観察を続けていると、彼女が全然笑わないことに気がついた。特にあの星野という男が近づくと、表情が硬くなる気がする。
あの時も、彼女は嫌そうな顔をしていた。まだ子どもだから良かったのかもしれないが、成長するにつれて、不快な気持ちにさせられることが多かったに違いない。彼女に不埒なことを考える男ばかり、近づいて行くのだ。うららかな彼女を、あんな表情にさせるなんて許されない。
段々と日が落ち、双眼鏡で彼女を見守ることができなくなった。暗視スコープがついているものもあったが、昼間に使うと目立つサイズのため、今回は断念したのだ。
遠いベンチから少しだけ距離を狭め、視界の隅に彼女を捉えられる位置に移動する。
暗くてきちんと見ることはできないが、なんとなくいることだけは分かる。
どんな表情をしているのだろう。一度でいいから、そばで見たい。
そう思った瞬間、彼女が女子と連れ立って移動して行く。街頭が少ない夜の公園なんて危険だ。女性二人なのに、何かあったらどうする。
不安が勝り、シルエットが分かる距離を保って後をついて行くことにした。
どうやら目的地はお手洗いだったらしい。
そういえば、長時間お手洗いに行ってなかったということを思い出したら、俺自身も催した。
ついでに行っておこうと一つしかない入り口へ向かうと、想定より早く二人が出て来た為、危くぶつかるところだった。
暗くて表情なんてよく見えないはずなのに、彼女の驚いた顔がコマ送りで再生されていく。
もっと、そばで彼女を見たい。一挙手一投足を見逃したくない。
笑った顔が見たい。
会えば諦められるなんて、浅はかな考えだった。
どうしようもなく、惹かれる。
そこからどうやって帰ってきたのか覚えていないけれど、きっと動向は見守っていて、合わせて移動していたのだろう。彼女の帰宅と同じ電車に乗っていた。
少し離れた座席に座り、じっと彼女を見つめる。
近くにいる酔っ払いが彼女に危害を加えそうだったため、慌てて引き離した。
彼女は、いつも危険な世界を生きている。
どうして不躾で不埒な輩ばかりが、彼女に近づくのだろう。彼女の世界を脅かさないで欲しい。
そうだ、せめて見えないところで、俺が守ればいいんじゃないか。
彼女の世界を、彼女の平穏を、いつでも笑って過ごせるように。
うん、そうだ。そうしよう。
決めてからの行動は、速かったと思う。
一応、高校に通っているから、その間は彼女の目に見えないところでボディーガードを配置させた。
彼女のストーカーや、いつも待ち伏せをしている男には、直接出向いて二度と近づかないように念書も用意した。
相手の男はキレて暴れたりもしたけれど、俺よりも弱かったからすぐに制圧もできた。
「彼女の世界を脅かすなんて、許されませんよ。みだりに近づかないでください」
そう笑って伝えれば、大体の人間は了承し、少しずつ彼女の平穏は戻って行った。
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