【R18】みだりに近づかないでください!

はこスミレ

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『抱きついてキスの一つや二つ、お見舞いしてやれ!』
「で、できない…そんなの…」
 小さい頃に、ゆうくんのほっぺにしたのとは違うのだ。
『えー、じゃあ抱きついて上目遣いで見つめてから目を閉じてれば、向こうからしてくるよ』
「も、もっと無理…!」
『じゃあ何ならいいのー?』
「手を繋ぐ…」
 電話の向こうで笑いを堪える音がした。
『これ言うの可哀想かなって思ってたんだけど、言うね。日晴くんさぁ、過去に彼女いたと思うよ』
 胸が痛い。あの慣れ方、そうかなとは思ってた。
「だよね…」
『だから、手を繋いだくらいじゃねえ。大したことないんじゃない?』
「うっ…!」
 私の精一杯じゃレベルが低すぎるのだ。
『私が言うのもなんだけど、押し倒すのが一番早いよ。日晴くん、責任感強いから絶対に彼女になれると思う』
 それは、そうかもしれないけれど。
「なんか、それって無理やりじゃん。もっと両思いみたいな感じになりたい」
『そりゃそうだよねえ。初めてちゃんと男の子好きになったんだもんね』
 灯里の言う通りだ。本当に、初めてかもしれない。だから大切にしたいのだ。
「うう…とりあえず、できるところからやる…」
『うんうん、えらいよ!頑張って!』
 通話を切って、シミュレーションしてみる。
 多分、何かできるとしたら大学ではなくて、バイトからの帰りだ。日晴くんの車の中だから、一応は二人きりだし密室だ。
 でも、手を繋いだりできなくない?危ないよ?事故になるし。
 となると、どこかに車を停めるしかなくて…
 家の前は無理。また部屋に上がってもらう?家族が誰もいない日を狙って…?
 どうやって日晴くんを押し倒すのか、先が思い浮かばない。私にはまだ無理だ。
 じゃあ、どうする?
 車に乗って、いつもより長めに一緒にいられるように…どこかドライブしてもらうとか。公園とか…駐車場に停めれば、何か話して手を繋いだり、キス…は無理かもだけど…
 いや、無理とか言ってる場合じゃない。
 手をつなぐくらいじゃ大したことないのだ。そんなので女として見られるんだったら、過去二回抱きしめられたことで付き合うまで行ってるはずだ。
 現状、全くそんな気配もないんだから、やるしかない!無理じゃない、できないじゃない!やるしかないんだよ!他の女の子にされるくらいなら、恥も不安も全部捨てて、体当たりするしかないんだ!
 キスくらいなんだ!女は度胸!日晴くんもメロメロになる、すごいのをお見舞いしてやる!
 私は強く頷いてからシフトを確認し、ついでにスマホでキスの仕方を調べておいた。
 すごいキス、したことないから分かんないし。


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