67 / 108
23-1
しおりを挟むいつものように、いつもの席で、彼女の仕事姿を眺めつつ本を読む。このカフェの居心地の良さは、常連客の多さに現れている。既に顔見知りとなった客同士で会話を楽しむこともあるが、かと言って新規の客が居づらいということもない。店長の心遣いが滲み入るような、のんびりと時間を楽しむためのカフェだ。
コーヒーのおかわりを頼んでいると、入店のベルが鳴った。倫音さんが席を案内しているのは、海外のお客さんのようで、一生懸命話しかけている。
可愛いなぁ…
言葉を学び、自分を成長させたいと言っていたけれど、倫音さんは将来何をするんだろう。通訳なんか似合いそうだなぁ。でもハリウッドスターの通訳をしていたら、あまりに美人過ぎて注目されてしまうだろう。そうなると、また変な男どもが集まってしまう……ハリウッドスターだって、倫音さんの美しさに夢中になるに違いない。通訳は諦めてもらった方が、いいかもしれない。
いや、倫音さんの人生なのだから俺がとやかく言う権利はない。倫音さんがなりたいなら、好きなものになったらいいのだ。
コーヒーを飲みながら彼女の方を見ると、何やら困っているようだ。
『お姉さん、この後空いてる?』
『俺たち観光中なんだよね。一緒に飲みに行かない?』
完全にナンパだ。
倫音さんは分かっていて困っているのか、分からなくて困っているのか。周りも英語が分からないから、倫音さんに任せたままだ。
『やあ、お兄さん達。観光なんだ?』
二人に話しかけると、こちらを見た。
『そうだけど、何?』
彼女も驚いて俺を見る。
『駅の向こうに、日本文化が楽しめるバーがたくさんあるからオススメだよ』
『は?』
キョトンとしている倫音さんを手招きして呼び寄せると、そっと腰を抱いた。
『この子は俺の彼女だから、ごめんね』
「ひっ、日晴くん?!」
どうやら、今の言葉は分かったらしい。倫音さんの顔が真っ赤だ。
『なんだよ、つまんねえな』
『せっかく可愛い子に会えたのに』
『まあいいか、バーには行ってみるよ』
彼女から手を離すと、ハッとして店長にオーダーを伝えていた。
「日晴くん、英語喋れるんだね」
小田さんがカウンター越しに話しかけてくる。
「あ、はい。十年くらいアメリカに住んでたので」
「そうなんだ!知らなかったよ」
大人の余裕を感じる笑顔で倫音さんにコーヒーを渡した。爽やかさと余裕…彼女がこの人に憧れるのも分かる。
倫音さんは、大人の男の人が好きなのだ。俺みたいに頼り甲斐のない年下は眼中にないだろう。何かあったら連絡して欲しいと伝えていても、連絡が来たこともないし。多分、頼られてはいない。元要くんのように、弟として思われているのだと思う。そもそも、付き合うつもりはないからいいのだけれど。
今日の倫音さんは遅番だから、俺が家まで送っていく日。そばにいられるだけで、幸せだ。
2
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる