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しおりを挟む体の上に乗られた時の重みと、触れた部分がリアルに思い出せるのは、いつまでだろう。今のところはまだまだ鮮明で、強く抱きしめた時の感触も腕の中に残っている。
だから、顔を合わせられない。
元々、卒業できれば良いため単位は最低限にしてあり、彼女のスケジュールに合わせて組んでいただけだったから、毎日行く必要もない。自分が行かなくてもボディガードは常に配置しているし、最近はそばにいることが当たり前になっているため、牽制はできている。
彼女のシフトを確認し、お昼頃にカフェへ向かった。
普段はピークタイムを避けて行くから、混雑している店内は久しぶりだった。それでもゆったりとした時間が流れていて、居心地の良さは変わらない。比較的カウンターは空いているので、いつもの席に座る。
「あれ、日晴くん珍しいね。今日は倫音ちゃんいないよ?」
小田さんが驚いた顔をして、サッと本日のブレンドを出してくれた。受け取って、爽やかで深い香りを楽しむ。
「たまたま近くに寄ったので」
ランチメニューを見てルーロー飯を頼んだ。
バックヤードから戻って来たらしい高倉さんが俺を見つける。
「日晴くん!倫音ちゃん明日だよ?」
「今日はたまたま近くに来たんだって」
「えー!そんなことあるの?!日晴くん、初めから倫音ちゃん目当てじゃん」
聞き捨てならないが、否定はできない。
ただ側にいて守ることしか出来ない俺には、そうやって煩わしさからの物理的な盾になる他無いのだ。
「近くに用があったので」
外面用の笑顔で対応すれば、高倉さんが鼻で笑った。
「大方、倫音ちゃんが煮え切らない日晴くんにキレたとかでしょ。そうやって余裕ぶっこいてると、横から掻っ攫われるんだからね!」
そう言い捨てると、お客さんのテーブルへ水を注ぎに行った。
「小田さんは、奥さんに怒られた時ってどうしてますか」
丼に白飯をよそい肉や高菜を乗せ、最後に卵を落とすと、俺の目の前に完成したルーロー飯を置いた。
「そうだなあ…史乃が怒る時は、俺が史乃の気持ちを無視してしまった時だから、ちゃんと話をするかなあ」
あっちは怒ってるから支離滅裂で理解するのに時間がかかるんだけどね、と笑った。
大人の男は、対応にも余裕がある。
「話し合いですか」
「そうそう、話さなきゃ分からないことばっかりだよ。特に史乃は放っておくと、どこへ行くか何をするか分からないから危ないんだ」
小田さんの奥さんは、彼女と近い部分がある。倫音さんは慎重派だからまだいいが、小田さんの奥さんは行動派だから大変だろうな。少し同情する。
「そうですよね…」
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