【R18】みだりに近づかないでください!

はこスミレ

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「どうする?座る?」
 この差し出された手を逃したら、もう次はないかもしれない。
 頷いた俺を見て、彼女はベンチに戻った。足を組み、その上で頬杖をついてじっと俺を見つめる。
 あの日の元要くんにそっくりだと思った。
 俺は今、試されているのだ。
「初めて倫音さんに会ったのは、まだアメリカに行く前の小学生の頃で」
「えっ?!」
 倫音さんの手のひらに乗せていた顎が落ちた。
「父親に連れて行かれたパーティーで、目立つタイプの男子に絡まれてた倫音さんが」
「待って待って、何普通に続けてるの?!」
「倫音さんが話す気ある?って言うから」
「あー、はい。どうぞ続けて」
 彼女が手をヒラヒラさせる。
「腕を引っ張られて連れて行かれそうになってたんだけど、その男子にタックルして、ダサいって堂々と言い捨てた後、ベンチに座ってた俺の隣に座ったんだ。さっきみたいに」
 自分で言いながら落ち込んだ。俺は、あの時の男子と全く一緒じゃないか。
「あまりの豪胆さに驚いたけど、二人で遊ぶのが楽しくて帰りたくなくて、ずっと一緒にいれたらいいのにって思ってた。それが俺の初恋だった」
 記憶はおぼろげでも、心の揺れ動きは覚えている。
「二度と会えないままアメリカに渡ってそれっきりだったけど、帰ってきてまた会えた。そしたら、変な男にばっかり付き纏われてて…心配で…そのうちストーカーに刺されるんじゃないかと思った」
 電車、カフェ、道すがら、ありとあらゆる場所で男たちから声を掛けられる。自衛ができるといっても限界はある。
「大袈裟な」
 大袈裟でも何でもないけど、それは彼女が知らなくていいことだから言わない。
「俺は、倫音さんを守ることが使命なんだって勝手に決めて、行動してた」
 そっと隣に視線を向けると、倫音さんは手で顔を覆っていた。
「どうしたの?」
「すごく複雑な心境」
 急にこんな話をされたら、そうなるだろう。
「だから俺は、倫音さんに近付く男と同じ気持ちを持っちゃいけないんだ。嫌でしょう、そういう男。今まで散々嫌な思いをして来たのに、またそんな目で見られるなんて」
 突然、バッと顔を上げて俺を見た。
「何?」
「そういうこと?そういうことなの?」
「今話したのが、ほとんどだけど」
 隠している部分はあるが、嘘偽りはない。
「私の為ってこと?」
 ゆっくりと頷く。
 全ては、君のために。
「じゃあ日晴くんは、私が嫌がるだろうって思ったから、自分の気持ちを抑えてたってこと?」
 あまり本人の前で認めたくはないけれど、ここでまた失敗したら、二度と取り返しがつかない。
「そう…なるかな…」
「アメリカでも私のこと考えてたの?」
「ずっとじゃないけど、どうしてるかな?って思い出すことはあったよ」

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