80 / 108
27-2
しおりを挟む「どうする?座る?」
この差し出された手を逃したら、もう次はないかもしれない。
頷いた俺を見て、彼女はベンチに戻った。足を組み、その上で頬杖をついてじっと俺を見つめる。
あの日の元要くんにそっくりだと思った。
俺は今、試されているのだ。
「初めて倫音さんに会ったのは、まだアメリカに行く前の小学生の頃で」
「えっ?!」
倫音さんの手のひらに乗せていた顎が落ちた。
「父親に連れて行かれたパーティーで、目立つタイプの男子に絡まれてた倫音さんが」
「待って待って、何普通に続けてるの?!」
「倫音さんが話す気ある?って言うから」
「あー、はい。どうぞ続けて」
彼女が手をヒラヒラさせる。
「腕を引っ張られて連れて行かれそうになってたんだけど、その男子にタックルして、ダサいって堂々と言い捨てた後、ベンチに座ってた俺の隣に座ったんだ。さっきみたいに」
自分で言いながら落ち込んだ。俺は、あの時の男子と全く一緒じゃないか。
「あまりの豪胆さに驚いたけど、二人で遊ぶのが楽しくて帰りたくなくて、ずっと一緒にいれたらいいのにって思ってた。それが俺の初恋だった」
記憶はおぼろげでも、心の揺れ動きは覚えている。
「二度と会えないままアメリカに渡ってそれっきりだったけど、帰ってきてまた会えた。そしたら、変な男にばっかり付き纏われてて…心配で…そのうちストーカーに刺されるんじゃないかと思った」
電車、カフェ、道すがら、ありとあらゆる場所で男たちから声を掛けられる。自衛ができるといっても限界はある。
「大袈裟な」
大袈裟でも何でもないけど、それは彼女が知らなくていいことだから言わない。
「俺は、倫音さんを守ることが使命なんだって勝手に決めて、行動してた」
そっと隣に視線を向けると、倫音さんは手で顔を覆っていた。
「どうしたの?」
「すごく複雑な心境」
急にこんな話をされたら、そうなるだろう。
「だから俺は、倫音さんに近付く男と同じ気持ちを持っちゃいけないんだ。嫌でしょう、そういう男。今まで散々嫌な思いをして来たのに、またそんな目で見られるなんて」
突然、バッと顔を上げて俺を見た。
「何?」
「そういうこと?そういうことなの?」
「今話したのが、ほとんどだけど」
隠している部分はあるが、嘘偽りはない。
「私の為ってこと?」
ゆっくりと頷く。
全ては、君のために。
「じゃあ日晴くんは、私が嫌がるだろうって思ったから、自分の気持ちを抑えてたってこと?」
あまり本人の前で認めたくはないけれど、ここでまた失敗したら、二度と取り返しがつかない。
「そう…なるかな…」
「アメリカでも私のこと考えてたの?」
「ずっとじゃないけど、どうしてるかな?って思い出すことはあったよ」
1
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる