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第6話

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「サーヤ、夕食のメニューは決まっていますか」
 ガラス越しに映ったティルと目が合った。
「いえ、まだ決めてないです」
 普段から作るのが面倒で、冷凍食品やスーパーの惣菜などで済ませている。
「良かったら、これから一緒にいかがですか」
 別に行くのは構わないが、どこへ行くつもりなのだろうか。ダークエルフの選ぶ店には、多少興味がある。
「良いですけど、どこの駅で降りるんですか」
「サーヤと一緒ですよ」
 どうやら、ティルは自分に合わせるつもりのようだ。
「そうですか、ではあと二駅で着きます」
「はい。サーヤは、何が食べたいですか」
 これと言ってパッと思い浮かばない沙彩は、ぼんやりと首を傾げた。
 エルフは、基本的に野菜しか食べないのではなかっただろうか。
 あまり知識があるわけではない沙彩は、万が一にも肉が食べられなかった時のため、無難な回答をすることにした。
「野菜を……最近食べていないですね」
「食べましょう、ビタミンとミネラルは大切です」
 確かに大切だが、エルフに言われるとは思わなかった。エルフにもビタミンとミネラルという概念があったのか。それともインターネット検索をしたのだろうか。
 降りる駅に着き改札を出ると、ティルがスタスタと迷いなく歩いていく。
 もう行く店を決めているのだろうか。
 しかし、この道は沙彩の帰宅コースである。公園の前を通り、小道を曲がり住宅街へと入る。しばらく歩くと自宅マンションだ。
「え、何でこっちなんですか」
 沙彩は怖くなってきた。
「家に帰るからですよ」
「いや、だからどうして私の家を知ってるんですか」
 今日入社してきたばかりのダークエルフに自宅が把握されているなんて、一体どんな力を使用したのか。
 恐怖で手が震える。
 どんどん歩いていくティルの後ろで、沙彩は体が冷えていく。
「隣ですから」
「は?」
 マンションの入り口にたどり着くと、ティルが郵便受けの番号を指で示した。
「ここ、私の部屋です」
 今度は、その隣の郵便受けの番号を指で叩く。
「ね?」
 確かに、いつも中身を確認している自分の部屋の郵便受けだった。
「な、なんで、隣の部屋?!」
 ティルは嬉しそうに頷いた。
「引っ越してきたのです。一応、ドアノブにご挨拶のタオルを吊るしておきましたが」
 そう言われれば、数週間前に隣の空室が埋まっていたし、ビニール袋に入っていたタオルはありがたく頂戴し、既に使用している。
「あれ、ティルさんだったんですか」
「はい、よろしくお願いします」
 沙彩は大きなため息を吐いて、エレベーターのボタンを押した。
「それならそうと、先に言ってください」
「知ってるかと思ってました」
「知りませんよ」
 都会では、隣人なんて興味もないし、持たないものだ。行き合えば挨拶はするかもしれないが、自分から関わりになどいかない。
 二人でエレベーターに乗り込み、該当階で降りる。
「どうぞ、私の部屋で夕食を食べて行ってください。私の部屋が嫌であれば、サーヤの部屋でも大丈夫です」
 沙彩は自身の部屋を思い浮かべ、人を呼べる状態じゃないことを自覚した。
「ティルさんのところへお邪魔します。一旦、荷物を置いてきます」
「はい、ではお待ちしていますね」
 沙彩はドアの鍵を開け、一礼してから部屋へと帰った。



 
 
 
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