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第7話

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 バッグを置いてコートを掛け、手洗いうがいをして、浄水器から出された水をガブガブと飲み干した。
 エルフの部屋は、一体どんな内装なのだろうか。
 玄関を開けた途端、森の中だったらどうしよう。木々が生い茂り、草木の香りが爽やかに漂い、蝶が飛び、鹿が顔を出す。
 (お帰りなさい、ティル。人間社会はどうだった?)
 鹿はやりすぎかもしれない。
 沙彩は頭を振って妄想を追い出した。
 一応お呼ばれするのだからと、引き出しから紅茶味のクレープ生地のお菓子を取り、直に持って部屋を訪ねることにした。

 インターホンを押した瞬間、ドアが開いた。
「いらっしゃい、サーヤ」
「……お邪魔します」
 沙彩の妄想とは全然違った。
 自室と真逆のレイアウトが、柔らかなアースカラーで彩られ、グリーンのカーテン、ダークブラウンのテーブル、同じくダークブラウンのベッド、グリーンとオフホワイトのクッション、球体の間接照明に、壁には写真が飾られていた。
「おしゃれ…」
 電化製品はあまりなく、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジくらいだった。
「今から夕食を作りますので、サーヤはゆっくりしていてください」
 通された部屋で、クッションの上に座る。
「思ったより普通ですね」
「どんなのを想像していたのですか」
 ティルがフフフと笑っている。
「もっと……ネイチャーな感じを」
 解釈的には間違っていない。
「具体的には?」
 まな板の上で何かを刻みながら、ティルが軽やかに話す。
「え……植物があったり、ペットとか」
 鹿がペットは苦しいか。
 妄想の森から鹿がひょこりと顔を出す。
「ペットを飼っていそうに見えますか」
「あー……昼休みに、山の中で育ったとおっしゃってたので」
 緑の中で、エルフの装いをしたティルと鹿が楽しそうに走り回る。
「確かに、ウサギやキツネなどはよく見かけました」
「…鹿は?」
 つい聞いてしまった。
 妄想の中の鹿が、不安そうに見つめている。
「うーん、あ、たまに見かけましたね」
 良かったね、鹿!
 妄想の中の鹿も、喜んで駆け回っている。
 沙彩は満足して頷き、ふと目についた写真を眺めた。
「これって、どこの写真ですか」
 どこかの山の中ではあるが、なんだか見覚えがあるような気がする。
「それは、私にとって大切な場所です」
「山の中がですか」
「山の中…そうですね」
「え、山じゃなかったですか、森ですか」
 ティルが振り向き沙彩をじっと見つめる。
「どちらでもないですよ」
「えー、こんなに木が生えてるのに。植物園とか?」
 一瞬、剣呑な眼差しに見えたが、ティルは柔らかく笑い、首を振った。
「秘密です」
 沙彩はなぜか不安な気持ちになったが、理由が見当たらないのでとっとと忘れることにした。

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